情勢の特徴 - 2010年6月前半
●「経済産業省は、日本の経済と産業の再生に向けた今後の産業政策の基本となる『産業構造ビジョン2010』案をまとめ、1日に開いた産業構造審議会(経産相の諮問機関)の産業競争力部会に示した。『国を挙げて産業競争力強化に乗り出す』ため、政府と民間を通じて、▽産業構造▽企業のビジネスモデル▽『グローバル化』と『国内雇用』の二者択一からの脱却▽政府の役割――の4つについて転換を推進する。特に産業構造の転換では、インフラ関連・システム輸出や環境・エネルギー課題解決産業など『戦略5分野』を強化するために予算を重点配分して、2007年から20年までに149兆円の生産額を新たに増加させ、257万9000人の雇用を生み出す目標を掲げた。」(『建設通信新聞』2010.06.02)
●「国内銀行の中小企業向け貸出残高が減少している。日銀によると2009年度末の同残高は1年前に比べて2%減って178兆3166億円と、調査を始めた1993年以降で年度末ベースの最低水準だった。景気の停滞で業績が振るわず、設備投資など資金需要が乏しいのが主因。緊急保証制度の利用余地が乏しくなり、銀行側が融資に慎重になっている面も大きい。政府が昨年末に導入した中小企業向けの返済猶予制度が残高を減らす要因との指摘もある。」(『日本経済新聞』2010.06.04)
●「政府が月内に閣議決定する新成長戦略の骨格が11日、明らかになった。大都市のインフラ整備を進めるため『大都市圏戦略基本法』を制定、2020年までに最大5兆〜8兆円の民間投資を促す。PFI(民間資本を活用した社会資本整備)は20年までに事業規模を10兆円以上にする。規制緩和と税制優遇を併せた新しい特区制度の創設も明記した。…同戦略は菅政権が目指す経済成長の指針。@環境・エネルギー大国A健康大国Bアジア経済C観光・地域活性化D科学・技術立国E雇用・人材F金融――の7分野で構成する。」(『日本経済新聞』2010.06.12)
●「国土交通省が実施した不動産証券化の実態調査によると、09年度に証券化された不動産の資産総額は約1.7兆円で、前年度実績(約3.1兆円)を大幅に下回り、件数も前年度実績(456件)を大きく割り込む275件にとどまった。総額、件数とも2年連続の減少で、総額はJリート(不動産投資信託)が始まった01年度以降では最低。ただ、Jリートの保有物件数は09年度下期に増加に転じるなど復調の兆しも見える。…国交省がJリートや私募ファンドの運用機関、不動産会社、建設会社、金融機関などを対象に実施した不動産投融資姿勢に関するアンケート(10年版土地白書、09年2月調査、回答数234件)によると、今後1年間で『不動産投融資を拡大する』との回答が前回調査(08年2月)の4.2%から12.7%へと増加。投資意欲の上向きをうかがわせている。」(『建設工業新聞』2010.06.15)
●「全容が明らかになった『財政運営戦略』で、政府は5年後、10年後に達成を目指す財政再建目標を明記した。社会保障費が毎年1兆円超のペースで膨らみ続ける中で、どの分野の予算に切り込むかが財政再建の焦点となる。しかし『中期財政フレーム』では分野ごとの歳出枠の設定を見送るなど、歳出を抑えるための具体的な工程表は見えず、踏み込み不足の面も目立つ。」(『日本経済新聞』2010.06.15)
●「高速道路会社の発注工事で低価格入札が急増している。日刊建設通信新聞社が東日本、中日本、西日本、首都、阪神の高速道路5社の状況を調査したところ、契約件数に対する低入札の発生率は2007年度が19%、08年度が24%だったが、09年度は44%と大幅に増加した。特にNEXCO3社での低入札が顕著で、大型案件のWTO(世界貿易機関)対象工事では7−9割に達している。調査基準価格の引き上げなど低入札に対する厳格な対策や、公共事業の大幅削減に伴う過当競争が原因とみられる。低入札調査に一定期間を要することにより、『発注者・受注者双方に不利益が発生している場合がある』などの声もあり、発注業務や工事施行への影響も懸念される。工事品質については今のところ、大きな問題は発生していないとの見方が大半だが、『一部で粗雑工事を確認した』との回答もあった。」(『建設工業新聞』2010.06.04)
●「地方自治体がこれまで行ってきた業務・事業を民間開放する動きが加速している。民主党政権が打ち出す『新しい公共』『公民連携(PPP)』の推進、地域主権議論は、多くの自治体が直面している県債・市債発行に伴う債務残高に加え、公共インフラの維持・管理・更新投資といういわば隠れ負債の、『双子の赤字』解消の追い風になっていることが大きな理由。…そのため、加西市のほか青森県は、道路公社に対して行っている債務保証解除を目的に、公民連携によって新たな資金調達手法の検討を米国証券会社に委託することを決めた。…建設業界では、コンサル、全国ゼネコン、道路会社、橋梁メーカーなどのほか地方建設業も、単年度の業務委託・工事受注ではなく、長期にわたる包括委託業務への対応を急いでいる。ただ公民連携という新たな業務受託において、ハード・ソフトを含め発注者と企業双方にシナジー(相乗)効果を生み出す提案の実現には、個別業務・工事受注とはまったく違う発想が必要で、公民連携事業に参入する企業と参入できない企業とに分かれる可能性も出てきそうだ。」(『建設通信新聞』2010.06.10)
●「前原国交相は、今後の公共事業に対する考え方として『民主党のマニフェストでは政権担当の4年間で1.3兆円の公共事業予算を削減するといったが、既に10年度予算で実現した』と述べ、これ以上の公共事業費の削減を行わない方針を表明した。公共事業へのPPP(公民連携)やPFI手法などの導入促進に関しては『ゼネコンはドバイやアルジェリアで損失を出している』と指摘。その上で、今後は建設コンサルタントの育成と国内で海外と同様の仕組みを経験できるような仕組みの検討が必要だとの見解を示した。入札契約制度のさらなる改善に取り組む方針も表明。今年3月に公表したペーパーカンパニーの排除などを柱とした改善策に加え、『今後はできるだけ評価に(発注者の)恣意的な判断が入らないような仕組みを構築したい』と述べ、『評価を受けた企業が、なぜその評価なのかが納得できるよう、評価点の透明化と事後の説明責任をどのようにやるかを検討する』と述べた。」(『建設工業新聞』2010.06.10)
●「国土交通省は、都市再生特別措置法の前倒し延長と拡充に向けた本格的な検討に入った。大都市圏で『国際戦略総合特区』と呼ぶ新たな特区を設定する制度を創設し、開発事業者や特区内の企業に対し、建築物の容積率など都市計画規制の大幅緩和や、手厚い税制優遇や金融支援を講じるのが大きな柱。現行の都市再生特区については、税制優遇の適用期限や認定申請の期限を延長する。11年度予算の概算要求を行う8月末までに内容を固め、来年の通常国会に改正案を提出する考えだ。」(『建設工業新聞』2010.06.11)
●「民主党は11日、党本部で政権公約会議を開き、参院選公約をまとめた。経済成長戦略では国際的に高い水準の法人税の引き下げを明記し、企業の競争力強化を図る。超党派の国会議員による『財政健全化検討会議』の設置も提案。消費税議論に消極的だった衆院選マニフェスト(政権公約)の方針を転換する。菅直人首相が掲げる『強い経済、強い財政、強い社会保障』を実現する狙いだ。…公約は『無駄遣い・行政刷新』『政治改革』『外交・安保』『子育て・教育』『年金・医療』『雇用』『農林水産』『郵政改革』『地域主権』『交通政策・公共事業』の10本の柱で構成。・・・法人税の引き下げは成長戦略の柱となる。…経済財政運営では2020年までの年平均の経済成長率の目標を名目3%、実質2%に設定。財政規律を守るため、11年度の新規国債発行額を『10年度の44.3兆円以下にする』目標を提示する。15年までに基礎的財政収支の赤字幅を10年度と比べて半減し、20年までに黒字化を目指す財政再建目標も掲げる。」(『日本経済新聞』2010.06.12)
●「首都圏の自治体で、公共施設の現状を把握する作業や今後の維持更新費の推計作業がほとんど進んでいない実態が国土交通省が行った調査で明らかになった。調査に回答した221の都県・市区町村のうち、公共施設の築年数など施設横断的に整理したデータを保有している自治体は2割に満たず、維持更新費用の将来推計を行っている自治体も1割強にとどまった。高度経済成長時代に集中的に整備された膨大なインフラの更新時期が迫る中更新計画策定の基礎データとなる施設状況の把握が大きな課題になりそうだ。…調査では、施設データの保有状況や更新費用の推計状況に加え、今後の公共施設の維持更新でPPP(公民連携)・PFIの導入など民間資金の活用を考えているかどうかも質問。その結果、『特に検討していない』との回答が66%を占め、『導入困難』との回答もl%あった。『既に導入済み』(15%)、『導入に向けて検討中』(16%)、『今後導入予定』(1%)を合わせても3割強にとどまった。」(『建設工業新聞』2010.06.14)
●「政府は3日、政労使などで構成する雇用戦略対話で、企業が従業員に支払う義務を負う最低賃金について、2020年までに全国平均で時給1000円を目指すとの目標を正式に決めた。都道府県ごとに異なる最低賃金の下限を、できる限り早期に800円まで引き上げることでも合意した。ただ、平均で名目3%を上回る経済成長や中小企業支援に取り組むことを実現の前提とした。」(『日本経済新聞』2010.06.04)
●「厚生労働省は、所管事業の無駄を自ら洗い出す『行政事業レビュー』を実施した結果、建設事業主などが実施する教育訓練や雇用管理改善のための事業などに助成金を支給している『建設雇用改善助成金』(2010年度予算は33億5800万円)について、『一定期間経過後に事業の廃止』と判定した。『仕分け人』の有識者からは、『建設業界の状況把握や予測が不十分』『効果があるのか疑問』『産業構造が変化する中で事業を廃止し、有効な税金の使い方を検討すべき』『建設業の助成は出口戦略に重点を置くべき』『建設業の助成金の経過措置は思い切った産業構造変化を誘導する施策に』などと厳しい意見が相次いだ。判定結果を受け厚労省では、現行制度での事業存続は極めて厳しいと受け止めている。このため、今後は国土交通省と調整しながら、建設業の将来像を描いた上で、必要があれば別の形での支援策のあり方を探ることになりそうだ。」(『建設通信新聞』2010.06.14)
●「住宅大手各社が太陽光発電システムなどを搭載した環境配慮型住宅の販売を拡大する。国からの補助金のほかにメーカー独自の値引きも実施し、顧客の負担を減らすことで設置を促進。大手7社の2010年度の新築に占める太陽光搭載率は初めて5割を超える見通しだ。10年度は家庭用燃料電池の搭載も増える見通しで、家庭部門の二酸化炭素(CO2)排出量削減にも貢献しそうだ。」(『日本経済新聞』2010.06.02)
●「国土交通省は1日、今年1〜2月に実施した09年建設業活動実態調査の結果を発表した。大手建設業55社の直近事業年度の国内売上高総額は15兆0074億円(前年比6.3%減)で、2年連続の減少となった。内訳は、土木建築工事11兆6037億円(4.1%減)、設備工事2兆8189億円(7.6%減)、建設関連業1366億円(6.6%減)、不動産業や設備機器・建設資材の製造・販売などが4482億円(37.1%減)といずれも低調だった。…海外展開をしている企業は45社で、契約金額は総額1兆3107億円(28.9%減)。発注者別の内訳は、日系企業3477億円(32.3%減)、そのほかの民間企業4849億円(34.8%減)、公共機関4781億円(18.5%減)。プロジェクト別では、建築・建築設備工事が8933億円(22.1%減)、土木工事が3116億円(46.4%減)、プラント関連が1057億円(8.8%減)だった。 今後の展開では『拡大』と回答した企業が20社(前回調査11社)。将来受注を伸ばしたい国はべトナム、中国、タイ、シンガポール、台湾の順で多かった。」(『建設工業新聞』2010.06.02)
●「日刊建設通信新聞社は、建設コンサルタントの総合評価落札方式への対応状況を調査した。2009年度も受注金額、落札件数ともに前年度比4倍前後と高い伸びを示し、総合評価方式が普及していることが表れていた。指名業者数は現状維持と減らすべきに意見が二分していた。価格競争が常態化しているため、防止策として技術の評価ウエートを高めるべきという意見のほか、低価格入札の防止策や調査基準価格の引き上げを求める声もあった。」(『建設通信新聞』2010.06.02)
●「ゼネコン(総合建設会社)大手の財務悪化に歯止めがかかってきた。2010年3月期末の大手4社合計の連結有利子負債は前の期末比175億円減の1兆9846億円と4期ぶりに減少。11年3月期末はさらに5%減る見通し。工事代金回収が順調に進んだぼか、仕掛かり中の工事の支払い条件も良くなっており、資金繰りの改善が債務圧縮の原動力となった。」(『日本経済新聞』2010.06.04)
●「建設経済研究所は9日、09年度の『主要建設会社決算分析』を発表した。対象は大手から中堅までのゼネコン40社で、単体受注高の総額は前年度比15.8%減の9兆5509億5600万円と10兆円を割り込み、過去10年で最低となった。連結の売上総利益率は前期と同じ6.7%だったが、海外工事で巨額の損失を計上した大手が悪化した一方、資材価格の下落などにより準大手・中堅クラスは回復基調と明暗が分かれた。全体的には、厳しい経営環境下で収益改善が思うように進まない状況になっている。」(『建設工業新聞』2010.06.10)
●「中国各地で拡大する労働争議を巡り、中国当局が労働運動の監視強化に乗り出した。共産党指導下の労組全国組織、中華全国総工会は、外資や民営企業に労組を設立するよう緊急通知。スト参加者の多数を占める出稼ぎ労働者(農民工)の加入も指示した。長引く労働現場の混乱は深刻な社会不安につながりかねず、最低賃金の引き上げ策と合わせ、事態の収拾を急ぎたい考えだ。」(『日本経済新聞』2010.06.15)