情勢の特徴 - 2010年8月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「菅直人首相は地方疲弊の解消へ『林業再生が雇用拡大につながる』として、林業再生へ向けた事業を今後の柱にする考えを示した。7月30日、菅首相は、『国土の7割が森林にもかかわらず、使われている材木の8割が輸入材』とした上で、『作業道がないゆえに効率性が上がっていない』と指摘した。さらに、『林業再生は地方の(これまでのような)公共事業に代わる事業につながる』との考えを示した。地方の公共事業減少による地域経済疲弊の打開と雇用確保策として林業再生を打ち出した形。」(『建設通信新聞』2010.08.03)
●「建設用鋼材メーカーの価格政策がばらついてきた。H形鋼では鉄スクラップを主原料とする電炉の東京製鉄が値下げする一方、鉄鉱石を主原料とする新日本製鉄など高炉は価格維持姿勢を強めている。電炉でも東鉄と違い、棒鋼を専業とするメーカーは値下げに消極的だ。原料事情や需要環境の違いが背景にある。」(『日本経済新聞』2010.08.15)
●「政府・与党が2011年度導入を目指している地方自治体向け『一括交付金』の実現に不透明さが増している。自治体が自由に使途を決められる同交付金制度の創設は、民主党が昨夏の衆院選や今夏の参院選で掲げた政権公約の柱のひとつ。だが、肝心の制度設計が進まず、政府は今夏の来年度予算の概算要求に反映するのを断念した。…これまで道路や施設の整備など国が個別の使い道を指定してきた補助金の仕組みを変え、自治体の裁量を増す新しい補助金制度の具体的な設計は遅れている。このため、省庁はひとまず、従来の補助金制度を前提に要求額を出さざるを得ない。政府の地域主権戦略会議(議長・菅直人首相)は9月中に制度設計に着手する。だが、個別の補助金について、従来の補助金とするか、一括化するか省庁の意向を聞きながら決めていくという。」(『日本経済新聞』2010.08.13)

行政・公共事業・民営化

●「前原誠司国土交通相が打ち出した入札契約制度の改善策の検討を進めてきた中央建設業審議会(中建審、国交相の諮問機関)が7月末、国交省が提示した『経営事項審査(経審)の審査基準』などの見直し事項を了承するとともに、『建設工事標準請負契約約款』の改正内容を固めた。経審の審査基準見直しは、債務免除などを受けた再生企業に対する減点措置の導入や、ぺ−パーカンパニーの高得点防止策などが柱。工事請負約款では発・受注者間の契約・取引の対等化を図る規定などが整備される。改正内容を整理した。…前原国交相が現行の入札契約制度で問題視してきたのは、公共工事を受注する建設業者に義務付けられている経審で、法的整理で債務免除を受けた再生企業が負債を減らして高評価を受けたり、工事の違法な丸投げなどを行うペーパーカンパニーが高得点を獲得したりする審査基準のあり方。さらに元請の受注額争が激化している影響で経営環境が厳しい下請業者を保護するため、標準約款を見直して元・下請間の契約・取引の対等化・明確化を図る必要もあると判断した。経審と標準約款の改正は中建審による審議が建設業法に定められていることから、前原国交相は4月22日、2年7カ月ぶりに中建審の会合を招集。3回の会合を経て、7月26日に経審の審査基準と工事標準約款の改正内容の審議を終えた。経審の新たな審査基準は、今秋をめどに省令、告示などを見直して来年度からの施行を目指す一方、改正標準約款は秋までに順次地方自治体などに勧告する予定だ。」(『建設工業新聞』2010.08.03)
●「建設企業がODA(政府開発援助)対象国で業務展開を促進するにあたり、国土交通省は、その活動を促進するため建設市場の現状調査(仮称)に着手する。建設企業などが海外ビジネスを展開する際に必要な進出先国の建設関連制度や法律などの情報を収集する。あわせて、ビジネスを行う上での課題や対応策も検討する。調査対象国は、ODA対象国の中から今月上旬までに1、2カ国を絞り込む考えだ。」(『建設通信新聞』2010.08.04)
●「国土交通省は、2010年度の公共事業労務費調査で、従来の10月だけでなく、9月分も調査対象とすることを決めた。10月調査では標本数が少なくなると予想されるトンネル作業員や橋梁特殊工など38職種が対象となる。標本数を確保し、賃金支払いの実態により合った標本を集めることで設計労務単価の適正化を図る。…調査の適正化のため、08年度からは免許など資格保有が義務付けられている職種で調査時に免許証などの提示を求め始めた。09年度からは、60歳を超えても工事に従事している労働者が、年金受給を継続するため日当たり賃金を下げて調整している事例があるため、高年齢雇用継続給付や在職老齢年金を受給して日当たり賃金を調整している労働者の標本を棄却するなど、より賃金支払いの実態に合うような取り組みを進めてきた。」(『建設通信新聞』2010.08.06)
●「通路、空港、港湾、治水など9事業分野を一本化した『社会資本整備重点計画(2012年度までの5カ年計画)』の見直しがスタートした。地域・経済社会、住民の生活に欠かせない社会資本の整備・維持のあり方については、国・地方の財政悪化や人口減少と急速な少子高齢化の中で、今後急激な増加が確実視される高齢化社会資本への対応が進んでいないことに対する問題指摘が相次いでいた。今回の見直し議論は、国と地方の役割が変わる地域主権、分野別融合と省庁横断的政策にまで議論が発展する可能性は高い。そのため社会資本整備重点計画の見直しが、国・地方の将来像だけでなく国内建設市場の未来も提示することになりそうだ。」(『建設通信新聞』2010.08.06)
●「アジアのハブ港湾を目指して重点整備する『国際コンテナ戦略港湾』に、阪神特(神戸港、大阪港)と京浜港(東京港、川崎港、横浜港)が選定された。公募に応じた4港の中から、国土交通省が両港を選定。今後、直轄事業の国費負担率の引き上げや、港湾経営会社への固定資産税の減免といった優遇措置が導入される見通しだ。ただ、選定に漏れた港湾の地元自治体からは不満の声も上がっており、落選した伊勢湾(名古屋港、四日市港)については現行並み支援を継続する方針だ。『3年後をめどに中間評価を行い、提案内容が着実に実施されていない場合には、取り消しや入れ替えもある』(前原誠司国交相)という。」(『建設工業新聞』2010.08.10)
●「国土交通省が来年度から計画している組織の再編案が12日、明らかになった。新幹線や道路など公共インフラの海外への売り込み部門を統合した『国際局』の新設を検討。河川局など4局を政策目的別に『水管理・防災局』などに再編する。2011年度の組織・定員要求に盛り込む方針だ。本省の13局を統廃合するのは、01年1月の中央省庁再編で国交省が発足して以来初めて。民主党は09年衆院選のマニフェスト(政権公約)に『省庁編成を機動的に行える体制を構築』と明記している。まず局レベルの再編で実績を作り、政権交代による霞が関改革を印象づける狙いもある。国際局の新設には、別の局の廃止が必要。」(『日本経済新聞』2010.08.12)

労働・福祉

●「6月の建設業就業者数が、前年同月比19万人減少し、487万人にとどまったことが、7月30日公表された総務省の6月労働力調査で分かった。建設業就業者数の500万人割れはことし3月から4カ月連続。建設市場縮小に伴って建設労働力の減少に依然として歯止めがかからない状況だ。2005年6月の建設業就業者数は580万人、わずか5年で100万人の労働力が建設業界から移動した形。建設業界で企業に雇われている雇用者数も前年同月比21万人減少し、394万人となった。…全体の就業者数も前年同月と比較して、20万人減少し6280万人で29カ月連続の減少となった。また完全失業者は、前年同月比4万人減の344万人と20カ月ぶりに減少した。ただ完全失業率(季節調整値)は、5.3%と前月から0.1ポイント上昇した。」(『建設通信新聞』2010.08.02)
●厚生労働省は3日、2010年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を公表した。非正規雇用者の増加によって雇用者間の格差が拡大したと強調した。その背景には大企業の人件費抑制戦略があると指摘した。さらに、労働者派遣事業の規制緩和が、人件費抑制戦略を後押しした、とした。非正規雇用比率が増加した原因として白書は「大企業による非正規雇用の増加が主要因」とした上で、その背景に「相対的に賃金の低い者を活用しようとする人件費コストの抑制志向が強かった」と指摘した。さらに白書は、「労働者派遣事業の規制緩和が、こうした傾向を後押しした面があったものと考えられる」とした。非正規雇用の増加は平均賃金の低下をもたらし、年収の低い層の増加が雇用者の賃金格差拡大の原因となった。白書は、「平均賃金の低下や格差の拡大により、所得、消費の成長力が損なわれ、内需停滞の一因になったものと考えられる」と分析。また、「大企業中心に取り組まれた賃金・処遇制度の改革も、賃金格差を拡大させ、人々の生きがい、働きがいを損なった面もある」としている。この白書の分析は、大企業による身勝手な賃金抑制戦略と、それを後押しした政府の規制緩和が日本経済を大きくゆがめたことを示している。(『しんぶん赤旗』2010.08.04より抜粋。)

建設産業・経営

●「国土交通省は7月30日、産学官による『新たな下請代金債権保全策検討委員会』の会合を開き、元請業者の倒産に備えて金融機関などが下請代金の支払いを保証する『支払いボンド方式』の仕組みや検討事項を提示した。ボンドの保証範囲を契約書面などが明確な1次下請とする仕組みを提案。ボンドの引き受け機関には既存の民間金融機関がなる場合と、新たな引き受け機関がボンドを引き受けて民間金融機関が補完する場合の2案を示し、引き受け機関のリスクを軽減・分散するための再保証システムの検討も要請した。」(『建設工業新聞』2010.08.02)
●「ゼネコン大手が工事受注で苦戦を続けている。鹿島、清水建設、大成建設、大林組の上場ゼネコン大手4社が5日発表した10年4〜6月期の単体受注高は合計で前年同期比約15%減となった。急減した前年同期は各社とも3〜6割の落ち込みとなったが、反転できたのは12.0%増になった鹿島だけで、大成と大林の2社の単体受注高は1000億円を割り込んだ。景気の回復傾向考背景に、企業が延期していた設備投資を再開する動きも出始めているが、建設投資にまではまだ本格的に波及しておらず、新規の設備投資計画も依然として少ないため、民間部門の受注低迷が目立つ形になっている。」(『建設工業新聞』2010.08.06)
●「民間信用調査機関の東京商工リサーチは9日、2010年7月の建設業倒産(負債1000万円以上)状況を公表した。7月の建設業倒産は前年同月比26.4%減の287件にとどまった。13カ月連続して前年同月を下回り、倒産抑制傾向が依然として継続している。平均負債総額も22.4%減の1億5200万円で、7月としては1994年以来の低水準となった。7月の建設業倒産は、都道府県別では30都道県で前年同月比減少となったほか、地区別は9地区すべてで前年同月を下回った。」(『建設通信新聞』2010.08.10)
●「道路舗装上場大手6社の10年4〜6月期連結決算が9日までに出そろった。公共工事費の大幅削減で市場が一段と縮小する中、価格競争の激化と材料の仕入れ価格の上昇により、建設事業、製品事業ともに採算が悪化し、前年同期に3社が黒字だった営業損益は、全社が赤字となる結果となった。各社の業績を左石する舗装原材料のストレートアスファルト(ストアス)の価格は、今後も値上げが続くと見られる。そのため、原価率の上昇で採算がさらに悪化していくのは必至の情勢だが、値上げ分を吸収するためにも、コストダウンへの取り組みとあわせて、製品事業での価格転嫁活動などを従来以上に推し進める必要がありそうだ。」(『建設工業新聞』2010.08.10)
●「準大手ゼネコン(総合建設会社)の2010年4〜6月期連結決算が10日出そろった。前期の連結売上高が2000億円以上だった8社のうち、最終損益は6社が前年同期比で改善。売上高では4社で減収となったが、建設部門の粗利益率に当たる完成工事総利益率(単独)が全社で向上し、業績を押し上げた。公共工事削減などで国内建設市場が縮小するなかで、各社は低採算工事を削減し利益率の改善を進めてきた。改善幅が最大だったのは2.9ポイント上昇した長谷工コーポレーション。売上高は2%増だったが、経費節減に加え好採算工事の計上が相次ぎ、純利益は59%増の25億円になった。また、西松建設は減収だったが利益率は1.9ポイント改善するなどして最終黒字に転換。三井住友建設も利益率が1.8ポイント上昇し最終赤字幅が縮小。熊谷組は利益率は改善したが為替差損などを補えず、最終赤字に転落。4〜9月期の利益予想を上方修正したのは戸田建設だけ。4〜6月期に大幅増益だった東急建設も『民間設備投資の回復のめどが立たず経営環境は厳しい』として予想を据え置くなど先行きの厳しさもにじんだ。」(『日本経済新聞』2010.08.11)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「住宅や事務所・店舗、工場・倉庫などを合わせた国内の建築物ストックは、10年1月時点で延べ74億3249万平方メートルあることが国土交通省の推計で明らかになった。ストックの量はこれまで、『住宅のみ』『法人所有の建物のみ』など断片的にしか把握できなかったが、今回、初めて同一の基準ですべての建築物ストックの床面積を試算した。今後も『建築物ストック統計』として、毎年1回公表していく。…それによると、建築物の総ストック量74億3249万平方メートルのうち、住宅は約73パーセントを占める53億9403万平方メートルで、非住宅は20億3846万平方メートルだった。新耐震基準が制定された81年以降に建設された比較的安全な建物の床面積が約65%を占めていた。空き家は約8%だった。…フロー重視からストック活用型社会への転換が進む中、『建築物ストック統計』を公表することで国交省は、日本全体の建築物に要する維持修繕費や、取り壊しに伴う廃棄物の予測などが可能になるとみている。ただ、現時点では、個人所有の非住宅建築物や、自治体病院、ガス・電気・鉄道業の事業用地にある建築物などのデータは不十分なため統計から除外されている。国交省は今後、対象建築物の拡大と精度向上に努めていく考えだ。」(『建設工業新聞』2010.08.02)
●「住宅の省エネ性能向上に向け、国土交通省と経済産業省はこのほど、『既存住宅・建築物に関する共同プロジェクト』を立ち上げる方針を固めた。改修技術の構築、見える化の推進、設備更新の推進といった既存住宅・建築物の省エネ性能向上を図ることが狙い。3年程度を目途に成果が得られるよう、両省が連携した支援策の強化などを検討する。…住宅の省エネ化の取り組みに関しては、両省に環境省を加えた3省で、『低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議』を6月に設置。ライフスタイルも含め、2−30年後の住宅像など、これからの住まいの在り方などを検討している。本年度中に成案を得て来年度以降に具体化する方針。さらに、国交、経産両省は『住宅・建築物の省エネ基準の適合義務化に関する検討会』もスタート。義務化の対象や時期、支援策、基準の強化等について検討中で、断熱構造化が難しい伝統構法による住宅の省エネに関する評価方法も整備するとしており、本年度中に成案を得る予定。」(『日本住宅新聞』2010.08.05・15)
●「林野庁は6日、国などの公共建築物に国産木材の積極的な利用を求める公共建築物木材利用促進法の施行令案をまとめた。木材利用を求める公共建築物を、学校、社会福祉施設、運動施設、社会教育施設、公共交通機関の休憩所などと定めた。意見募集を経て正式決定し、10月1日の施行を目指す。…施行令案では、対象となる公共建築物を、▽学校▽老人ホーム、保育所、福祉ホームやこれらに類する社会福祉施設▽病院、診療所▽体育館、水泳場とこれらに類する運動施設▽図書館、青年の家とこれらに類する社会教育施設▽車両の停車場または船舶、航空機の発着場を構成する建築物で旅客の乗降、待ち合いの用に供するもの▽高速道路の通行者、利用者の利便に供するための休憩所−と規定した。新たに開発された木製部材の強度試験などを行う試験研究機関には『消防庁消防大学校』を指定。自治体や民間事業者が消防大学校で試験を行う場合には使用料金を通常の5割に減額することも定めた。同法では、民間事業者が公共建築物に適した木材を供給するための施設整備計画(木材製造高度化計画)を策定して農林水産相が認定。制度融資(林業・木材産業改善資金助成法の特例)でこれを支援することを定めており、施行令案には林業・木材産業改善資金の償還期間を現行の10年以内から12年以内に延長することも盛り込んだ。」(『建設工業新聞』2010.08.09)

その他

●国際労働機関(ILO)は12日からの国連国際ユース(若者)年に当たって報告書を発表し、世界の若者の失業率が経済・金融危機を受けて再び増加し、最悪水準に達していることを明らかにした。…ILOのソマビア事務局長は、「若者は経済発展の推進力であり、この可能性を損なうことは経済的な損失であり、社会の安定性を破壊することになる」と警告した。報告書『世界の若者の失業動向』によると、2009年末時点で15〜24歳の世界の若者6億2000万人の13%に当たる8100万人が仕事に就いていない。この数字は07年末の11.9%から1.1ポイント増。世界の若者の失業率は、02年から05年にかけて13%台を記録した後、改善を見せていた。10年は13.1%にまで達するが、11年は12.7%に改善する見通し。報告書は、若者の失業率が成年の失業率と比べ経済後退の影響により敏感であると指摘。労働市場回復があっても、若者の雇用には遅れがあると指摘している。若者の失業率は、08年に成人失業率(4.3%)の2.6倍、09年は2.8倍に達している。(『しんぶん赤旗』2010.08.13より抜粋。)