情勢の特徴 - 2010年11月前半
●「丸紅はチリの水事業大手を買収する。買収対象会社が持つチリ国内の約70の浄水場、下水処理場を引き取り、その運営から利用料金の徴収までの一連の事業を手がける。買収総額は約400億円で、日本企業による水事業の買収案件で過去最大となる。水事業は国内外の企業が参入を加速している成長事業。積極投資で、先行する欧州勢を追いあげる。」(『日本経済新聞』2010.11.01)
●政府は「経済の好循環」「『デフレ』脱却」とうたう。しかし、そのために必要な肝心の内需・家計を底上げするまともな政策はなく、従来の自民・公明政権時代の政策の延長にとどまっている。目立つのは「イノベーション(技術革新)拠点」支援の名で大企業の設備投資に補助金を出すなど大企業支援策が中心になっていることだ。社会資本整備では「国土ミッシング(未整備区間)の解消」を名目にした高速道路建設や国際港湾(スーパー中枢港湾)・空港の整備など不要不急の大型公共事業を盛り込んでいる。(『しんぶん赤旗』2010.11.03より抜粋。)
●「政府が国会に提出した2010年度補正予算案の一般会計のうち、公共事業費は特定財源分も含め7451億円であることが分かった。土木分野の『公共事業関係費』は特定財源分36億円も含めて5857億円、建築分野の公共事業費に当たる『その他施設費』が1594億円となっている。その他施設費のうち、公立小中学校の耐震化予算となる『公立文教施設整備費』は1177億円を計上、施設費の73.8%を占めている。公共工事発注の息切れに強い懸念を抱く地方中小建設業界にとって、学校耐震など受注可能性の高い分野が、前倒しの形とはいえ補正で確保されることは朗報と言えそうだ。」(『建設通信新聞』2010.11.05)
●「政府は9日、環太平洋経済連携協定(TPP)について『関係国との協議を開始』する基本方針を閣謙決定した。産業界は対米輸出の拡大などにつながるTPP参加を支持している。自動車や鉄鋼業界には、すでに欧米と自由貿易協定(FTA)を結んだ韓国の企業との競争上、一刻も早い参加を望む声が多い。『平成の開国』(管直人首相)に向け、農業の強化策が待ったなしとなる。」(『日本経済新聞』2010.11.10)
●「日本経団連は9日、政府に対する11年度の規制改革要望の一つとして、民主党の総合特区・規制改革小委員会に都市再開発法の改正を求める要望を提出した。老朽化した再開発ビルを再び建て替える『再々開発』を行う場合も都市再開発法に基づく事業として認め、財政支援などの公的支援の適用を可能にするよう求めている。都市再開発法は、都市の再開発などを加速するために1969年に制定され、権利変換を円滑に行うための手続きとともに、対象事業への公的助成や所得税、不動産取得税、登録免許税などの課税の特例措置を定めている。同法に基づく都市開発事業で出来た再開発ビルのうち、30年以上前に事業が完了した初期再開発事業(全国的300地区・約860ビル)の中には、既にリニューアルや耐震補強の費用がかさみ、建て替えを選択せざるを得ないビルが少なくないとされる。しかし、現行の都市再開発法は、再開発事業の施行区域の要件を『対象域内の土地利用が細分化され、著しく不健全な状態にある』と定めているため、既に再開発で敷地が共有化されている区域で再度の再開発を実施しようとしても同法は適用されない。」(『建設工業新聞』2010.11.10)
●「政府で議論が活発化している環太平洋連携協定(TPP)を含む包括的経済連携や経済連携協定(EPA)が、海外進出促進と国内での政府調達の両面で建設業界に影響を与える可能性がある。TPPやEPAによる政府調達、外資規制といった非関税障壁の引き下げが、海外展開を目指す企業を後押しすると期待される一方で、国内の政府調達基準の引き下げを求められる可能性も否定できない。今後の相手国や参加国との交渉次第であるため具体的な影響は不透明なものの、建設業界にとって一つの関心事として浮上する可能性がある。」(『建設通信新聞』2010.11.15)
●「府県をまたぐ全国初の行政組織『関西広域連合』が12月にも誕生する。滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、鳥取、徳島の7府県が参加する。救急医療や観光などの事業の一部を共同で取り組み、住民サービスの向上と行政運営の効率化を狙う。…広域連合は7府県の資産や人材、得意分野を関西全体に役立てる。大阪市内に本部事務局を設置し、医療や防災、産業振興、観光・文化振興など7つの分野ごとに府県が仕事を分担する予定だ。…地元企業の競争力向上も狙う。7府県の試験研究機関の技術などを活用しやすくしたり、合同展示会で製品を売り込んだりしてもらう予定だ。経費の節約も狙う。府県別に実施している調理師や准看護師らの資格試験を共同にすれば年間3000万円程度の経費が減る試算もある。発足が決まったとはいえ、課題はある。利点が少ないとして、奈良県が参加しなかったことだ。…広域連合の本部事務局に各府県が職員を派遣し、府県議会議員でつくる連合議会もできる。府県の負担に見合った効果が得られるか、疑問視する意見がある。…参加自治体の中には、道州制への警戒感が強い。道州制は府県の廃止が前提。実現すれば大阪に権限や人材が集中し、周辺県の過疎化に拍車がかかる恐れもある。このため、広域連合の設立案に道州制に移行しないことを盛り込んでいる。経済団体は府県と広域連合を一緒に検討してきた。関西経済連合会が府県を廃止し、国の出先機関として道州を設けるよう提案したのは1955年。今も道州制への第一歩として広域連合を位置付けており、近い将来、議論が再燃する可能性がありそうだ。」(『日本経済新聞』2010.11.01)
●「政府の行政刷新会議が第3弾の事業仕分けで、空港整備勘定を除く社会資本整備事業特別会計を審議した結果、『廃止』との結論を出した。社会資本整備特会の廃止によってスーパー堤防事業の廃止や道路整備事業の削減などという結論につながったと思われがちだが、社会資本整備特会を一般会計化することが事業費の削減につながるわけではない。特会という経理上の観点と個別事業の執行における事業費削減が混同されるため、誤解を生んでいると見られる。社会資本整備特会を廃止するには、法改正が必要なため、2011年の通常国会に法律を提出しても、実施は12年度予算からになる。社会資本整備特会は、道路、治水、空港整備、港湾、業務の5勘定に分け、各事業で使用する一般会計からの繰り入れ金や地方自治体などによる事業の負担金、貸付先からの償還金などを歳入として、事業ごとに必要な額を歳出としている。地方公共団体の負担金など特定目的に使われるべきものが、実際、何に使われているのかを分かりやすくしているのが社会資本整備特会であるというのが国交省の認識だ。簡単に言えば、歳入がほぼそのまま歳出に流れている。」(『建設通信新聞』2010.11.01)
●「国土交通省は、既存の住宅・建築物や土木構造物のリフォーム・リニューアル需要の増加を見据え、新たな技術者・技能者資格制度や人材育成方策の調査・検討に入る。ストック市場の動向や各企業の先進的な取り組み、既存の資格制度などを調査・分析した上で、ストック市場に対応する新たな建設業のあり方を検討するとともに、専門の人材育成策や資格制度などの検討も行う。検討結果は本年度末までに報告書としてまとめる考えだ。」(『建設工業新聞』2010.11.02)
●「国民共通の資本である社会資本のあるべき姿と、その推進方策を示す『社会資本整備重点計画』の見直し議論が本格化し始めた。見直し議論に参加する委員からも、『今までのパラダイム(枠組み)でしかできなかったものを、どう変えていけるのかということが求められている』(家田仁東大大学院教授)と、縦割り行政排除、規制緩和、予算裏付けまでを視野に入れた壮大な取り組みに強い決意を示す声が相次ぐ。順当にいけば、建設業界に対しても今後の公共工事市場の行方を提示することになる。ただ果たして、パラダイムシフトした、社会資本整備が目指す姿を提示できるのかどうかは、今のところ未知数だ。」(『建設通信新聞』2010.11.05)
●「東京都福祉保健局は、政府が掲げる地域主権改革の推進を受けて、特別養護老人ホームなどにおける都独自の施設基準の検討に乗り出した。9日、学識経験者らを交えた「東京都特別養護老人ホーム施設整備等のあり方に関する検討委員会」を設置。地域主権改革に基づく都独自の条例制定に向けて、検討をスタートさせた。年内をめどに都道府県単位で自由化が認められる施設、設備、運営面での施設基準の検討を進める。」(『建設通信新聞』2010.11.11)
●「国土交通省が、09年度に発注された同省直轄工事(8地方整備局の契約分)と47都道府県工事の平均落札率(速報値)をまとめたところ、都道府県発注工事の平均落札率は前年度より1.2ポイント高い89.4%となり、少なくとも8年ぶりに上昇したことが明らかになった。ダンピング受注の防止と工事品質の確保を図るため、国交省が地方自治体に対し、低入札価格調査制度の調査基準価格の引き上げなどを要請してきたことが効果を上げたとみられる。」(『建設工業新聞』2010.11.11)
●「国土交通省は、官民連携による地域戦略の制度創設を検討している国土審議会政策部会国土政策検討委員会地域戦略検討グループ(取りまとめ役・辻琢也一橋大大学院法学研究科教授)の第3回会合を開き、内発的地域戦略づくりの促進に向けた論点整理などを議論した。従来のように個別具体の地方計画や事業に国が関与する姿勢を転換し、地域活性の推進力として自治体と民間といった官民で組織する『地域連携主体』を国が認定し、地域戦略の策定・推進を委ねる。国は、社会資本整備総合交付金の交付や、地域戦略推進のための予算支援などを想定している。」(『建設通信新聞』2010.11.12)
●「埼玉県が、入札参加者の見積もりを活用する積算方式として導入する『見積提案型競争入札』の詳細が明らかになった。同方式では、入札参加者から見積もり(入札参加者見積書)を徴取した上で、再積算した設計金額に基づいて予定価格を設定、入札を執行する。同方式をすでに運用している国土交通省は不調・不落対策を狙いとしているのに対し、県は同対策に加え、極端な低入札の発生につながるおそれがある工事にも適用する。WTO(世界貿易機関)対象案件で極端な低入札が相次ぎ、県議会でも問題となる中、適用対象の幅を広げて、運用することにした。」(『建設通信新聞』2010.11.15)
●「建設業に従事する労働力が減少し産業規模が縮小する中で、特に若年・中堅層の大幅減少が顕著になっている。建設業全体の雇用者数に占める若手社員の割合は10年前の半分近くまで減少している。裏返せば、建設業界の高齢化が今後さらに進む可能性があることを物語っている。総務省が10月29日に公表した、7−9月の労働力調査で、2010年度第2四半期(7−9月)平均の建設業雇用者(役員を除いた正規・非正規職員、従業員の合算)数は、403万人にとどまった。前年同期比で4.0%減(17万人減)。10年前の00年7−9月との比較では25・9%減(141万人減)となった。…建設業雇用者数の激減以上に深刻なのは、若年・中堅年齢層が極端に少なくなる年齢階層のアンバランスが急速に進んでいることだ。具体的には、10年7−9月の15−24歳階層の雇用者数は、10年前の00年同期と比較して33万人減の22万人。建設業雇用者数に占める割合は10年前から4.7ポイント下落し5.4%にとどまった。また若手社員層に該当する25−34歳階層も10年前から48万人減少し79万人、割合も3.7ポイント下落し19.6%となった。つまり、建設業雇用者数の大幅減少の大半は、34歳までの若年・若手層減少が理由。」(『建設通信新聞』2010.11.01)
●「中小企業資金繰り支援の大きな柱である『緊急保証制度』活用の需要がいまだ衰えていないことが、政府答弁書で明らかになった。制度最終年度の2010年度は8月累計(4−8月末)の保証承諾額が2兆7247億円に上った。同制度の最大活用業種である建設業を含め中小企業の資金繰り環境が、いまだ改善されていないことを示した形。さらに特例で認められてきた元本返済猶予が今秋以降に切れることもあって金融機関から元本返済を迫られる可能性もある。地域経済は足踏み状態から悪化に向かいつつある地区も出始めており、今後、中小企業の環境は一段と厳しくなりそうだ。」(『建設通信新聞』2010.11.02)
●「東京商工リサーチがまとめた10月の建設業の倒産は294件(前年同月比l4.0%減)と16カ月連続で前年同月を下回った。負債総額は350億3100万円(42.4%減)だった。倒産の減少傾向が続いているが、同社は国の景気対応緊急保証制度や中小企業金融円滑法などの政策の期限切れが迫り、民需低迷と公共工事の落ち込みの影響も深刻なため、今後の業界動向を注視する必要があると指摘している。」(『建設工業新聞』2010.11.10)
●「大和ハウス工業は9日、2011年3月期の連結純利益が前期比88%増の360億円になる見通しだと発表した。従来予想を120億円上回る。住宅版エコポイントなど政府の住宅需要刺激策を受け、戸建て住宅やマンションめ販売が好調なためだ。グループ内で建材の共同購入に取り組むなど原価低減策も貢献し、採算が大幅に改善する。」(『日本経済新聞』2010.11.10)
●「国土交通省が10日発表した建設工事受注動態統計によると、10年度上期(4〜9月)の建設業者の工事受注高は前年同期比0.7%減の20兆3398億円にとどまり、00年度の調査開始以来、最低となった。下期には政府の追加経済対策で公共投資が底上げされる可能性もあるが、景気の先行きは依然不透明で、民間投資の本格復調は期待薄。通年で最低記録となった09年度を下回る水準で推移しており、今後の市場動向次第では前年度よりさらに落ち込むことになりそうだ。」(『建設工業新聞』2010.11.11)
●「住友林業が10日発表した2010年4〜9月期決算は、連結最終損益が15億円の黒字(前年同期は15億円の赤字)に転換した。住宅エコポイント制度による新規住宅着工の持ち直しやリフォーム需要の伸びを受け、2本柱である木材建材事業と住宅事業が伸びた。売上高は前年同期比11%増の3739億円だった。木材建材事業は販売数量、単価ともに回復し15%の増収。住宅事業も戸建て注文住宅やアパートの完成棟数増などで売り上げが3%増えた。営業損益は48億円の黒字(同11億円の赤字)。不動産売買や賃貸を手がける不動産事業の経常損益が5億円強の黒字(同2億円強の赤字)に浮上したことも寄与した。住友林はもともと収益が下期に偏る傾向がある。11年3月期適期は、純利益が前期比3.2倍の75億円に増えるとする従来見通しを据え置いた。」(『日本経済新聞』2010.11.11)
●「清水建設が10日発表した2010年4〜9月期連結決算は、純利益が前年同期比14%減の17億円だった。工事の採算性向上が寄与して営業利益は増加したが、子会社で発生した設備の減損損失などが重荷になった。売上高は2.3%減の5449億円だった。前期の受注不振が響き手持ち工事が少なく、完成工事高が想定を下回った。営業利益は69%増の86億円。低採算工事の削減に加え、資材価格の低下が寄与し建設事業全体の採算性が向上した。完成工事総利益率(単独)は7%と前年同期から2ポイント近く改善。円高の影響で営業外費用に為替差損を約11億円計上したが、経常利益も27%増の70億円だった。」(『日本経済新聞』2010.11.11)
●「鹿島、大成建設、清水建設、大林組の上場大手ゼネコン4社の10年4〜9月期連結決算が11日までに出そろった。建設投資低迷で手持ち工事の不足感が強い中、4社とも完成工事高が減少し、そろって減収。公共投資の削減に、民間の住宅・不動産投資や設備投資の回復遅れも加わり、各社とも受注活動は難航。国内の民間建築で大型工事を受注した鹿島だけが前年同期の受注高(単体)を上回った。工事採算の改善が進んだことなどで、4社とも営業利益は40%以上増やした。11年3月期の営業損益は大成と清水が増益、鹿島と大林も黒字転換を見込む。今期の受注の量と質が来期以降の業績を大きく左石するだけに、各社の受注戦略が注目される。国土交通省の統計によると、4〜9月の建設業の工事受注高は00年度の統計開始以降、最低の水準。受注競争は一段と激しさを増しており、土木の受注高は大成を除いて減少。建築の受注高は、大林と大成が減らした。鹿島と清水は教育・研究・文化施設や店舗の建築の受注を増やし、明暗が分かれた。」(『建設工業新聞』2010.11.12)
●「道路舗装会社の2011年3月期第2四半期(中間)決算が12日に出そろった。大手8社を見ると、受注高は8社中6社が前年同期よりも減り、全体では8.8%減となった。大きな変化があったのは売上総利益率で、前年同期に比べて1.9ポイント下落した。製品事業が原材料価格の上昇に対し、価格転嫁が遅れたことなどが響いた。前年同期は全社が営業利益を確保したが、今期は5社が営業損失に転落した。」(『建設通信新聞』2010.11.15)
●「ゼネコンの工事採算が回復基調に入った。12日までに出そろった大手・準大手26社の2011年度3月期第2四半期(中間)決算では、20社の完成工事総利益(工事粗利)率が前年同期を上回っている。選別受注や厳格なコスト管理が功を奏した形で、中には2桁台の粗利率を達成したゼネコンも複数ある。一方、通期の粗利率は26社全体で、前期比1.7ポイント増の7.1%となる見通し。しかし、各社の受注減少に伴い競争激化が予想されるなど、揺り戻しの懸念もぬぐいきれない。」(『建設通信新聞』2010.11.15)
●「港湾物流プロジェクトの案件形成が世界各国で活発化していることが、国土交通省のまとめで分かった。ケニアのモンバサ港やべトナムのラックフェン港では今後、岸壁整備や航路漢深、コンテナターミナル運営の入札が見込まれるほか、インド最大の都市ムンバイを含む同国西部地区でも、大規模な港湾物流インフラの整備が見込まれるという。国交省は調査・設計から建設・整備、管理・運営段階まで、日本企業による港湾物流プロジェクトの獲得を幅広く支援する方針で、トップセールスや政府間対話、早期の案件形成調査などに一段と力を注ぐ。」(『建設工業新聞』2010.11.09)