情勢の特徴 - 2011年8月前半
●「日立製作所と三菱重工業は将来の経営統合を視野に、社会インフラなど主力事業の統合に向けた協議を始める。2013年春に折半出資で新会社を設立し、社会インフラのほか環境、エネルギー、IT(情報技術)の計4分野を中心に事業を統合する方針。近く統合準備委員会を設立する。経営統合が実現すれば、日本の産業構造を大きく変える巨大再編につながる。」(『日本経済新聞』2011.08.04)
●「国内の建設資材市場に東日本大震災の復旧・復興需要が及び始めた。被災地で動き出した土木工事への引き合いが増加。セメントの卸価格は今月に入り2年ぶりに上昇し、代表的な建設鋼材であるH形鋼の在庫は7カ月ぶりに減少に転じた。首都圏を中心とした民間の再開発も需要拡大を甘ん引しており、資材の値上がりが今後進みそうだ。」(『日本経済新聞』2011.08.11)
●「東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方の太平洋沿岸部。この沿岸部を南北に貫く縦軸と、沿岸部と内陸部とを東西につなぐ横軸の高速道路整備が本格化する。国土交通省は、着工済み区間を早期に供用。さらに事業未着手区間も8日中にルートを確定させ、10年以内の全線開通を目指す方針を打ち出した。…縦貫・横断とも計画ルートは山間部を通る区間が多く、高架や橋梁、トンネルなど建設費用がかさむ構造物が増える見込みだ。さらに、復興まちづくり計画の立案を進めている沿岸部の被災市町村の多くは、津波に備えて高速道路に二線堤の機能を持たせたり、道路に階段を取り付けて避難場所にしたりすること検討。これによっても費用が大きく膨れ上がる可能性がある。東北横断道釜石秋田線花巻市〜釜石市間のうち、既に供用している仙人峠道路18.6キロ区間の整備に投入された事業費は約700億円で、1キロ当たり38億円。この金額を6路線の未着手区間(267キロ)に当てはめて単純計算すると、必要な事業費は1兆円を超える。」(『建設工業新聞』2011.08.01)
●「国土交通省は、2日に開いた社会資本整備審議会(社整審、国交相の諮問機関)と交通政策審議会(交政審、同)の計画部会合同会議に、社会資本整備重点計画の見直しに向けた中間まとめ(たたき台)を提示した。新たな計画は『国土』『生活』『地域・産業』の三つの政策目標に照らして社会資本整備の目標(事業の効果や必要量など)を明確化。たたき台では事業・施策の効果と政策目標との関連性を分かりやすく示すプログラムの提示方法、重点計画期間内に優先的に実施する『選択と集中』の基準などが示された。」(『建設工業新聞』2011.08.03)
●「8月1日までに47都道府県の6割に上る29都道県が、4月に中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)が改正したモデル算定式以上の水準に低入札価格調査基準価格を引き上げた。国土交通省が、2011年度上半期監理課長等会議で調査した結果、明らかになった。ただ、17府県は、改正前の中央公契連モデルを採用していたり、独自算定式で新しいモデル以下の水準に設定している。国交省は、近く閣議決定する予定の入札契約適正化指針還踏まえ、未改正の自治体に対して調査基準価格・最低制限価格の算定式の改正を求める。」(『建設通信新聞』2011.08.09)
●「国土交通省は8日、PPP・PFI事業の普及拡大に向けて地方自治体から募集していた『先導的官民連携支援事業』について、11件の補助対象事業を採択したと発表した。5〜6月に公募したところ34件の応募が寄せられ、外部の有識者で構成する官民連携事業推進検討委員会が審査していた。」(『建設工業新聞』2011.08.09)
●「政府は9日の閣議で、公共工事入札契約適正化法に基づく入札契約適正化指針の改正を決定した。災害対応などの地域維持事業を担う地域建設業の疲弊や、建設市場の縮小に伴うダンピング受注の激化などを踏まえ、改正指針には地域維持事業への『包括発注』や『地域維持型JV』と呼ぶ新たな契約方式の導入や、予定価格の事後公表の徹底などを盛り込んだ。国土交通省は閣議決定を受け、8月末に改正指針の内容を官報告示するとともに、国や地方の行政機関などに改正指針に基づく取り組み強化を要請する。…改正指針で新たに加わった主な項目は、▽『地域維持事業』(災害対応、除雪、インフラの維持管理など)の担い手確保が困難となる恐れがある場合の新たな契約方式の導入(包括発注、地域維持型JV)▽受・発注者双方の負担軽減のため入札参加者を段階的に審査して落札者を決める方式の活用▽予定価格の設定時に設計金額からの歩切りを行わない▽予定価格、低入札価格調査基準価格、最低制限価格の事後公表▽不正防止強化策として、入札職員に外部から不当な働き掛けがあった場合の『記録・報告・公表の仕組み』の導入▽調査基準価格の見直しと、調査基準価格を下回った場合の価格による失格基準の導入によるダンピング対策の強化▽暴力団排除条項の整備・活用、暴力団等による不当介入時の通報−などとなっている。」(『建設工業新聞』2011.08.10)
●東日本大震災で発生した大量のがれき処理を国の責任で行う特別措置法案が9日、衆院復興特別委員会で全会一致で可決された。同案では、がれき処理を「喫緊の課題」と位置づけ、国の責務と明記。焦点となっていた処理費用の国庫負担率については平均95%(現在同86.5%)へ引き上げることを委員会決議に盛り込んだ。財政力が弱く、がれきの量が多い地方自治体には考慮し、最大99%も可能とする。地方負担分は交付税で手当てするため、実質的にはぜロとなる。また、東日本大震災発生日までさかのぽって適用となる。条文には、処理作業に従事する労働者の適正な賃金確保などに関する統一的な指針の策定を明記。海のがれきについても早期に処理するよう定めている。自治体への概算払いの遅れについては委員会決議で「速やかな事務処理の下、迅速に支払う」とした。(『しんぶん赤旗』2011.08.10より抜粋。)
●「被災地域における工事の前金払いの割合を4割から5割に引き上げる特例措置を導入する動きが広がっている。国土交通省が、国、県、市町村の発注機関における7月末までの適用状況をまとめたところ、適用可能な219機関の4割強に当たる94機関が導入した。引き上げを適用した工事件数は2482件に上り、総請負金額が994億3200万円で、保証額は495億2600万円となっている。国交省は、建設各社の資金繰り改善や労働者への早期支払いなどに寄与すると考えており、今後も各発注者に導入を働き掛ける。」(『建設通信新聞』2011.08.11)
●「国土交通省は2010年度の国土交通白書の原案をまとめた。東日本大震災を受け、住宅やインフラの耐震化が不十分と指摘した。全国の下水道施設で十分な耐震化を実施していたのは14%にすぎず、住宅も79%にとどまった。災害に強いインフラや国土づくりを重点的に進める必要があるとしている。8月末の閣議に提出する予定だ。原案によると、十分な耐震化を行っている空港は40%、港湾も65%にすぎなかった。一方、新幹線は100%、道路は74%で、比較的耐震化が進んでいるという。津波時の避難に役立つハザードマップを整備している自治体は53%、津波から避難するためのビルの指定率は21%だった。」(『日本経済新聞』2011.08.12)
●「土木学会(山本卓朗会長)は11日、公共事業の入札・契約について会計法や地方自治法よりも優先させる特別法として、公共事業調達法の制定を提案した。予定価格を廃止して審査基準となる価格を設定、総合評価落札方式で最高評価値の入札価格が異常に低いあるいは高い場合、審査して無効にできる仕組みを盛り込んでいる。」(『建設通信新聞』2011.08.12)
●「国土交通省は、建設技能労働者の就労支援策の一環で、既存施設のリフォーム・メンテナンスや、太陽光発電設備設置工事など今後の需要拡大が見込める成長分野への参入を後押しする。環境・エネルギーやリフォーム関連工事に対応できる技能を習得してもらうための講習カリキュラムやテキストを作成する計画で、学識経験者や専門工事業者で構成する検討会を設け、詳細を詰める。本年度中に対象分野の講習会を開催したい考えだ。」(『建設工業新聞』2011.08.04)
●「国家公務員の定年延長に向け、人事院がまとめた新人事制度の素案が6日、明らかになった。公的年金の支給開始年齢引き上げに合わせ、現在は60歳の定年を2013年度から3年ごとに1歳ずつ上げ、25年度に65歳にする。人件費の膨張を防ぐため、60歳超の給与は年収ベースで50歳代後半より約3割削滅し、60歳になると管理職を外れる役職定年制も導入する。人事院によると、60歳超の職員の給与は同様の制度を導入している民間企業の事例を踏まえて設定した。事務次官級を除いて『50歳代後半層職員の7割水準に設定する』と明記、60歳超は昇給しないことにした。60歳超を対象とする週15時間30分〜31時間の短時間勤務制も導入する。」(『日本経済新聞』2011.08.07)
●「国土交通省は、2011年度公共事業労務費調査の一環で、保険加入状況の詳細調査を実施する。これまで加入の有無程度にとどめていた内容を改め、事務所・保険番号の記入欄などの項目を新設し、関係資料も確認する方針だ。労働者単位で製造業並みの加入率を目指す同省では、今回の調査を重要視し『(今回は)行政指導が目的ではなく、正確に把握することが目的』(土地・建設産業局)と強調している。」(『建設通信新聞』2011.08.08)
●「技能者の業界離れによる職人不足が、顕著になってきた。型枠大工と鉄筋工の不足によって、工期に間に合わないケースや着工できない現場が出てきている。仕上げの技能者も足りなくなっている。型枠と鉄筋の技能者不足は全国的だが、特に首都圏での不足が目立っている。」(『建設通信新聞』2011.08.08)
●東京商工リサーチは10日、東日本大震災で甚大な津波被害を受けた青森、岩手、宮城、福島の4県沿岸部の企業の実態調査結果を発表した。それによると、対象地域の企業のほぼ4分の1に当たる7734社が、津波による浸水や設備損壊などに見舞われた。それらの企業が1年間、事業を停止した場合、合計で最大2兆円の損失が発生し、9万人以上が職を失う恐れがあると分析している。調査は、津波に被災した企業の大半が依然として事業を再開できないと指摘。被災地で取られている建築規制なども、経営立て直しを阻んでいる要因として、雇用維持のためには政府の適切な政策が不可欠と示唆している。商工リサーチは、4県の沿岸44市町村に本社を置く企業2万8928社(農水産業は除く)を対象に調査した。(『しんぶん赤旗』2011.08.12より抜粋。)
●「旭化成が2日発表した2011年4〜6月期の連結決算は純利益が193億円と前年同期比ほぼ倍増した。四半期決算の開示を始めて以来、4〜6月期としては最高だった。新興国向けを中心に自動車や家電に使う樹脂製品の需要が伸び、価格も上昇した。住宅部門の採算好転も寄与した。足元の好調を受け、4〜9月期の業績予想を上方修正した。」(『日本経済新聞』2011.08.03)
●「大成建設の2011年4〜6月期の連結経常利益は40億円前後と、前年同期の約3倍になったもようだ。工事原価の見直しや低採算工事の削減で利益率が高まったほか、海外工事関連の為替差損が縮小。最終損益も4〜6月期としては3年ぶりの黒字(前年同期は6億円の赤字)に転換したとみられる。」(『日本経済新聞』2011.08.04)
●「不動産大手5社の2011年4〜6月期連結決算が4日、出そろった。マンションの引き渡し戸数が伸びた三井不動産、野村不動産ホールディングスの経常利益が前年同期比で増えたが、戸数の減った三菱地所は減益だった。今期からSPC(特別目的会社)を連結対象に加えた住友不動産と東急不動産は支払利息の増加などが収益を圧迫した。」(『日本経済新聞』2011.08.05)
●「大和ハウス工業が5日発表した2011年4〜6月期連結決算は、純利益が前年同期比79%増の136億円だった。4〜6月期として過去最高を更新した。住宅版エコポイントや住宅ローン減税の拡充などの政策が追い風となり、環境配慮型住宅の販売が好調だった。受注の平準化や工場の効率化などコスト削減策も利益を押し上げた。」(『日本経済新聞』2011.08.06)
●「マリコン(海洋土木会社)の東洋建設はケニア政府の港湾公社から大規模なコンテナターミナルの建設工事を受注した。受注額は209億円で、今秋に着工する。日本のマリコンがアフリカで大型の海洋土木工事を手掛けるのは36年ぶり。海外での建設工事は大手が中心だったが、中堅もグローバル化を加速する。」(『日本経済新聞』2011.08.08)
●「東京商工リサーチがまとめた11年7月の建設業の倒産は315件(前年同月比9.7%増)と3カ月連続で前年を上回った。同社は金融機関に借入金の返済猶予を促す『中小企業金融円滑化法』などの各種金融支援策で倒産が抑制されていたが、政策効果が一巡したのに加え、東日本大震災後の資材調達困難による工期延長や受注減少から息切れするケースが出ているとみている。負債総額は、420億0800万円(4.2%減)で、金額としては今年最大となったが、平均負債額は1億3300万円(12.5%減)にとどまり、7月としては過去20年間で最小規模だったとしている。」(『建設工業新聞』2011.08.09)
●「上場大手ゼネコン4社の2011年度第1四半期(4−6月)決算が9日までに出そろった。単体受注高は、鹿島を除く3社が前年同期実績を上回った。受注2000億円を超えたのは清水建設だけ。4社の受注総額は前年同期実績に比べ約1500億円の増加となったものの、今四半期の達成率は平均16%にとどまった。震災復興の需要は受注の押し上げ要因になっていない。受注のペースは回復しつつあるものの、リーマンショック以前の水準にはほど遠い状況だ。」(『建設通信新聞』2011.08.10)
●「鹿島、清水建設、大成建設、大林組の上場ゼネコン大手4社の11年4〜6月期連結決算が9日、出そろった。鹿島と大成建設は減収、清水建設と大林組は増収で、鹿島を除く3社が損益を改善させた。業績の先行指標となる受注高は各社とも順調な滑り出しで、4社合計の単体受注高は前年同期比12.7%増となった。ただ、東日本大震災や電力不足の影響はまだ、業績に大きくは反映してきておらず、先行きは依然として不透明だ。」(『建設工業新聞』2011.08.10)
●「大手・準大手ゼネコンの2011年度第1四半期(4−6月)受注高は、26社中18社が増加に転じた。市場は『底を打った』との見方が広がり、準大手クラスでは、リーマンショック以前の受注水準を超えた社もある。26社合計は前年同期比27.2%増となり、達成率20%を超えたのは10社に達した。一方で各社には震災復興関連工事への期待があるものの、現時点では受注業績への寄与は限定的な状況だ。」(『建設通信新聞』2011.08.12)
●「国土交通省の建設工事受注動態統計調査報告(速報)によると、2011年度第1四半期(4−6月累計)の元請受注高は前年同期比2.0%減の5兆8140億円だった。一方、日本建設業連合会が調査した受注総額は29.3%増の1兆9300億円と大幅に上向き、主要前払保証3社がまとめた公共工事前払金保証統計の請負金額は9.3%減の2兆8136億円と国交省統計に比べて厳しい結果となった。」(『建設通信新聞』2011.08.12)
●「家電量販店最大手のヤマダ電機は12日、中堅住宅メーカーのエス・バイ・エルを買収して子会社にすると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、第三者割当増資も引き受ける。ヤマダは全国の店舗を通じて太陽光発電装置や蓄電池などに住宅を組み合わせて顧客に提案。節電意識の高まりで関心が集まる省エネ住宅『スマートハウス』事業の拡大を狙う。」(『日本経済新聞』2011.08.13)
●「東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、政府はエネルギー政策の見直しに着手している。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及拡大が打ち出されているが、今後のエネルギー基本計画の見直し過程では『未利用エネルギー』の利用拡大も不可欠になってくるとみられる。特に、都市や工場での排熱や河川など自然からの熱といった『熱エネルギー』の利用促進が重要になる。この熱エネルギー利用促進に向けた施策の方向性やあり方を、経済産業省の『まちづくりと一体となった熱エネルギーの有効利用に関する研究会』(座長・柏木孝夫東工大教授)が中間報告案としてまとめた。」(『建設通信新聞』2011.08.01)
●東日本大震災発生から11日で5カ月を迎えた。死者・行方不明者は計2万人以上に上っている。被災者の暮らしの場は仮設住宅へと移りつつあるが、いまなお全国各地で約8万7000人が避難生活を強いられている。さらに東京電力福島第1原発事故による放射能汚染被害が、福島県はもとより岩手、宮城両県にも広がり、被災地に二重三重の苦しみとなってのしかかっている。それだけに生活再建・復興のための国の支援を求める声は、いっそう切実だ。(『しんぶん赤旗』2011.08.11より抜粋。)