情勢の特徴 - 2016年10月後半
●「政府による下請中小企業の賃上げに向けた環境づくりの動きが強まっている。野上浩太郎内閣官房副長官は、18日に開いた『下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省庁等連絡会議』で、自動車産業などと同様、建設業やトラック運送業の下請ガイドライン改定、サプライチェーン(供給網)全体での取引適正化と付加価値向上に向けた自主行動計画策定要請ができないかといった取引条件改善対策の充実を国土交通省に指示した。「(対策として)何ができるのか球が投げられた形」(国交省)になったことから、建設産業界でも自主行動計画の策定が求められる現実味が帯びてきたといえる。」(『建設通信新聞』2016.10.20)
●「財務省は、17年度予算の編成をにらみ、社会資本整備に充てる公共投資の『選択と集中』をより徹底する方針を打ち出した。柱は、新規投資を民間投資の誘発効果や運用効率の高い事業に重点化することと、PPP・PFⅠのさらなる導入拡大。大部分のインフラを所管する国土交通省に対し、新規事業採択時に算出する費用対効果の高い事業に投資を集中することや、すべての国管理空港に公共施設等運営権(コンセッション)を導入することなどを求めた。20日に開いた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で、今後の公共投資の方向性を示した。国交省にさらなる選択と集中を求めた背景には、財政状況が厳しい中で公共事業費の増額が難しい事情がある。今後の新規投資では、国交省が新規事業採択時に算出する費用対効果(B/C)の比較的高い事業を厳選し、低下傾向にある費用対効果の底上げも図る。」(『建設工業新聞』2016.10.24)
●「国土交通省は、国税庁から法人に指定・通知される13桁の『法人番号』(企業版マイナンバー)の活用を始める。建設業許可申請書などに法人番号の記入欄を新設する改正建設業法施行規則(省令)を11月1日に施行。法人番号の記載で、許可行政庁による建設業者の社会保険加入状況などの確認が容易・正確に行えるようになる。17・18年度の建設工事などの競争参加資格審査に関する申請書にも記入欄を追加。1日に受け付け専用ホームページを開設する。法人番号は、個人に付される12桁の『マイナンバー』と併せて昨秋以降、各企業に書面で通知されている。個人のマイナンバーとは異なり、利用に制限はなく、国税庁の法人番号公表サイトから『法人番号』『商号または名称』『本店または主たる事務所の所在地』といった情報を誰でも検索できる。今回の省令改正では、▽建設業許可の申請書(新規・更新)▽建設業許可の変更届出書▽経営事項審査(経審)の申請書▽許可事務ガイドラインに基づく変更届出書―の4様式に法人番号を記載する欄が新設される。法人番号は企業だけでなく、法人番号が付与される事業協同組合や協業組合なども記載が必要になる。法人番号が指定されない個人事業者が許可を取得する場合には記載の必要はない。」(『建設工業新聞』2016.10.27)
●「経済産業省は、下請中小企業振興法に基づく『振興基準』の改正案をまとめた。親事業者が下請事業者の生産性向上に協力することや手形の支払期日を将来的に60日以内とすること、サプライチェーン(供給網)全体での取引適正化に向けた業界団体による自主行動計画の策定などを明記することが改正のポイント。11月に改正案に対する一般意見を募った上で、12月中に改正振興基準を告示する。あわせて、関係業界団体に改正内容を周知し、下請中小企業の賃上げに向け環境を整備する。」(『建設通信新聞』2016.10.28)
●「11日に成立した2016年度第2次補正予算の成立を受けて、国土交通省と総務省は、都道府県や政令市といった各発注者に、今後の公共工事における円滑な施工確保を要請した。最新の単価を使った予定価格の適正な設定、人材・資機材の効率的な活用や担い手の処遇改善にもつながる施工時期の平準化など、各種の施策をパッケージとして通知する。」(『建設通信新聞』2016.10.17)
●「国土交通省は、公共土木工事にピュア型のコンストラクション・マネジメント(CM)方式を導入する方策を検討する。熊本地震の災害復旧で増大する業務に対応するため同省は、設計者や施工者とは異なる第三者の立場で事業全体を管理運営するCM業務を複数発注。これらの業務や東日本大震災の復興道路で始めた事業促進PPPから契約上の課題などを洗い出し、改善方策を検討。一時的な業務量増大や自治体の技術職員不足に対応してCM業務を円滑に導入できる環境を整える。」(『建設工業新聞』2016.10.20)
●「国土交通省の各地方整備局、内閣府沖縄総合事務局開発建設部による2016年度第2次補正予算分の発注予定工事のうち、一般土木工事の大半が地域企業向けのC・D等級となっていることが分かった。6機関ですべての工事がC・D等級となっているほか、残る3つの整備局でもC・D等級の割合は96-97%に達している。工事発注量の地域間格差を懸念する声が高まっていた中、格差是正に向けて一定の役割を果たしそうだ。」(『建設通信新聞』2016.10.24)
●「一般道路にある橋十数カ所が、耐震補強工事を実施した後も耐震基準を満たしていないことが26日までに国や地方自治体への取材で分かった。国や自治体が設計の誤りに気づかないまま補強工事を発注したのが原因。交通量が多いなど重要度が高く、国が直接管理する『直轄国道』に整備された橋4カ所も含まれている。問題の橋は九州地方と北陸地方の直轄国道と、群馬、東京、山梨、佐賀、大分の各都県と高知市が管理する道路にある。いずれの橋も国費を使って整備された。設計に誤りがあった部分の工事費だけで1億数千万円に上るという。橋が直ちに崩落するなどの危険はないとみられる。」(『日本経済新聞』2016.10.26)
●「政府が11月に実施する国の予算検証『行政事業レビュー』で、インフラのPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業を取り上げることが26日、分かった。上下水道事業の民間開放を目指す大阪市の幹部らを招き、インフラ事業への民間参入の障壁や国の支援のあり方を議論する。28日に開く行政改革推進会議(議長・安倍晋三首相)で正式に決める。安倍政権はPFIの活用を重要政策と位置づけ空港などの民間開放を進めている。一方、水道事業は料金収入の減少や設備の更新費用の負担が重く、企業の参入実績はない。レビューでは内閣府PFI推進室の事業などを取り上げ、大阪市の幹部や担当官庁の担当者らが予算の中身を検証する。予算を削る目的ではなく『国としてPFIを推進するための方策を話し合う場』(関係者)としたい考え。」(『日本経済新聞』2016.10.27)
●「国土交通省は、15年4月に始まった『外国人建設就労者受け入れ事業』で、特定監理団体と受け入れ企業を対象とした実態把握調査の最終報告をまとめた。15年11月時点(受け入れ人数140人)で、外国人の賃金形態は『月給制』が60.5%と最も多く、次いで『日給制(日給月給制)』が25.9%。所定内賃金の平均額は日給制の『22万0416.4円』が最も高かった。就労意欲を高めるため、資格や技能などさまざまな手当を導入していることも分かった。実態把握調査は受け入れ状況を分析し、優れた取り組みや問題点、制度の改善に関する意見などを収集するのが目的。15年12月に特定監理団体88団体、受け入れ企業121社にアンケートを実施。その結果に基づき特定監理団体5団体、受け入れ企業15社、外国人建設就労者15人を対象にヒアリング(16年1~3月)を行った。」(『建設工業新聞』2016.10.20)
●「経済産業省は、働き方改革の一環として、柔軟な働き方を広げることや中小企業の人材不足への対応などに関する3つの研究会を設置した。このうち『中小企業・小規模事業者の人手不足対応研究会』(委員長・今野浩一郎学習院大教授)の初会合を21日に開き、人材不足に対応する今後の方向性についての検討に着手した。多様な人材別、建設業や製造業などの業種別、企業の規模別、企業の成長ステージ別、都市部と地方の地域別に、▽働き手が能力を最大限発揮できる職場づくり▽ソフト面、ハード面からの生産性向上への取り組み――の2本柱を論点に、企業の事例を収集・分析し、人材不足対応への考え方を整理する。」(『建設通信新聞』2016.10.24)
●「西松建設は、社員の就労環境改善とワークライフバランス確保に向け、全社員の年間総労働時間抑制に向けた取り組みを10月から始めた。内外勤含め、残業を月60時間以内、最大で80時間以内とする計画を一人ひとり作成し、毎月の実績を確認、計画を達成できない場合には原因を把握して人員配置見直しなどで改善するPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す。8-9月にかけて近藤晴貞社長が全国の支店を回り、取り組む意思を幹部に直接伝えた。対象は、現場社員や設計部署なども含めた内外勤の全社員。現場社員の場合、工期内での繁閑があるため、『全工期を通じて残業を月平均60時間以内』とする毎月の計画を作成する。繁忙期でも、月最大80時間以内という上限を設けた。各現場が社員の計画を作成した上、責任者を配置し、実績を記入する。3カ月ごとに本社が実績を確認し、計画を達成できていない場合、実態を把握して人員配置なども含めて改善する。現場社員の残業時間増加に直結する土曜日の出勤については、振替休日の取得を促進する考え。」(『建設通信新聞』2016.10.24)
●「2013年3月卒業者で建設業に就職した3万5600人のうち、就職後3年以内に仕事を辞めたのは1万4067人おり、卒業後3年以内離職率が39.5%となったことが、厚生労働省が25日にまとめた新卒者離職状況から明らかになった。前年(12年3月)の卒業者と比べ離職率はわずかだが0.2ポイント低下した。大卒者は1万7491人が就職し、3年以内に5317人が離職、離職率は0.3ポイント増の30.4%だった。全産業の大卒離職率31.9%と比べ、建設業の離職率は1.5ポイント低い。高卒者は1万4102人の就職に対し、6812人が仕事を辞めたことから、3年以内離職率は1.7ポイント減の48.3%。前年と比べ離職率は下がったものの、ほぼ2人に1人が離職している状況は変わっていないといえる。全産業の高卒離職率40.9%と比べ、建設業の離職率は7.4ポイントも高く、担い手を確保しても、定着が困難であることを浮き彫りにしている。」(『建設通信新聞』2016.10.26)
●「政府は28日の閣議で、国土交通省が進めている建設業の社会保険(雇用、健康、厚生年金)未加入対策をめぐり、作業員の現場入場制限について国会議員から提出された質問趣意書への答弁書を決定した。健康保険の適用除外承認を受けて国民健康保険組合が運営する建設国保に加入し、雇用と厚生年金の両保険に加入している作業員は現場入場が可能。個人事業主(常用労働者数5人未満)に雇用されている作業員は雇用保険に加入していれば現場に入場できるとした。国交省がこれらの見解を示した。」(『建設工業新聞』2016.10.31)
●「国土交通省は28日、監理技術者制度の運用マニュアルの改正案をまとめた。建設業法で明確に区別されていない元・下請の技術者の職務(役割)の違いを新たに明示。『元請の監理技術者等』と『下請の主任技術者』に分け、施工計画の作成や工程管理といった事項別にそれぞれの役割示した。統括安全衛生責任者を監理技術者が兼ねる場合に職務を適切に行う必要性や、監理技術者に近い役割を担う下請の主任技術者の職務を元・下請双方の合意の上で明確にしておくことも求めた。」(『建設工業新聞』2016.10.31)
●「国土交通省は、建設工事で実質的に施工に携わらない企業を施工体制から排除し、下請の不要な重層化を回避するため、一括下請負の判断基準を策定した。元請と下請それぞれが果たすべき役割を具体的に設定し、一括下請負禁止のさらなる徹底を図る。1992年に通知した『一括下請負の禁止』に判断基準を盛り込み、土地・建設産業局長名で建設業105団体や都道府県・政令市、主要発注機関に14日付で通知した。一括下請負に関するQ&Aなども添付している。」(『建設工業新聞』2016.10.17)
●「日本建設業連合会(中村満義会長)の労働委員会(今井雅則委員長)は18日、『「技能労働者不足」に対する考え方』をレポートとしてまとめた。20年前と現在の建設需要、建設技能労働者数の推移などを比較した上で、地域的、職種的に部分的なミスマッチは生じているものの、『当面、処遇改善すれば全体的な供給力に不安はない』と結論付けている。マスコミ報道などで建設業が“人手不足の代名詞”として扱われ、公共事業予算の削減論や安易な外国人労働者導入論が無用に高まりかねない状況に一石を投じた格好だ。」(『建設通信新聞』2016.10.19)
●「日本建設業連合会加盟企業(97社)の今年度上期(4-9月)国内受注額が7兆2320億円と過去20年間で2番目に高い水準に達した。日建連が27日、公表した受注統計で明らかになった。4年連続で、海外受注(本邦法人受注)分を加え7兆円台(15年度上期は6兆9900億円)を維持しているのは、過去20年間で初めて。日建連加盟企業の受注環境が本格的に好転していることと、建設投資全体に占める受注シェア拡大も鮮明にした形だ。 上期の受注総額は前年同期比4.2%増の7兆2840億円、国内計は同6.2%増の7兆2320億円となった。内訳は、製造業が工場受注などが相次いだ前年度の反動減で15.2%減の8120億円となったものの、これを補う形で非製造業が3.2%増の4兆0720億円となり、民間受注は0.4%減と前年度とほぼ同水準を維持した。また、官公庁は道路、鉄道、中間貯蔵施設関連、新競技場、上下水道など国、独立行政法人、政府関連企業、地方公営などからの受注が下支えし、23.5%増の2兆3320億円と上期受注総額を押し上げた。」(『建設通信新聞』2016.10.28)
●「東京の建築設計の職能3団休(東京建築士会、東京都建築士事務露会、日本建築家協会関東甲信越支部)で組織する『東京三会建築会議』はこのほど、東京オリンピック・パラリンピック以降の東京の都市構想に関する提言『東京構想POST2020』をまとめ、東京都に提出した。構想では、東京の防災上の大きな課題となっている“木密地域”について、すべてを建て替えずに安全性を高める効果的な延焼遮断方法を提案。その上で、『下町の風情や路地文化を保全しつつ、新しい安全な建物との融合を図り、「懐かしいけど新しい未来のまちなみ」を創出』するため、『準・伝統的建造物群保存地区制度』の創設を提言した。構想は、首都直下地震への備えが急務とする一方、木密エリアには、『ヒューマンスケールで人にやさしい木質系の環境の魅力に加え、そうした環境と一体化したコミュニティの魅力』があると強調。『世界に発信すべき、細やかに人の手の入ったもっとも東京らしい都市像』だと指摘し、更新するべきものと継承するべきものを明確にすることの必要性を訴えた。また、東京都が進める『木密地域不燃化10年プロジェクト』が掲げる不燃領域率70%という目標に関して、『空地率が25%確保できた地域では、準耐火以上の建物が60%以上になるように建て替えなければ』ならないと試算。建て替えを阻害する理由がさまざまある中では現実的ではないと指摘した。」(『日本住宅新聞』2016.10.25)