情勢の特徴 - 2020年8月前半
●「国土交通省と中小企業庁は3日、2020年度の下請取引等実態調査を始めた。無作為抽出した全国の建設業者1万8000業者が対象。下請取引を巡る質問に回答してもらう。公共工事設計労務単価の引き上げが技能労働者の賃金水準に反映されているかどうかを聞くほか、建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録状況も把握する。建設業法違反が疑われる業者には指導票を送り、改善を促す。調査対象の内訳は、大臣許可2250業者、知事許可1万5750業者の計1万8000業者。昨年6月公布の改正建設業法の周知を強化するため、昨年度調査と比べ4000業者増やした。…前回の調査項目をほぼ踏襲しつつ、CCUSと建設業退職金共済(建退共)制度に関する設問を新設した。元請負人の立場で回答する質問では、CCUSのカードリーダーを各現場に設置するとともに工事現場登録を実施しているかどうか回答を求める。建退共制度の加入の有無を回答してもらい、加入している場合には証紙の交付割合も調べる。技能労働者を雇用している業者が回答する質問では、CCUSの登録(申請)状況を聞く。現在申請中も含め事業者登録、技能者登録しているかどうかの回答を求める。雇用する技能労働者の登録割合も聞く。『今後登録を検討している』『登録するつもりはない』といった選択肢も設け、CCUSがどの程度理解・浸透しているのかを把握する。新型コロナウイルスの影響で契約締結や請負代金の支払いなどでしわ寄せを受けた具体的な内容を、元請負人、下請負人それぞれに聞く。社会保険加入の原資となる法定福利費と、引き上げられた設計労務単価に関する質問も設定。法定福利費を内訳明示した見積書の交付、請負代金内訳書を提出しているかどうかを聞く。設計労務単価の上昇に基づき、元請負人と請負代金について変更交渉を行うかも答えてもらう。賃金に関する質問では、技能労働者の賃金設定で引き上げられた公共工事設計労務単価が実際の賃金に反映されているかどうか回答を求める。賃金水準を引き上げない理由も聞く。雇用する技能労働者の休暇形態に関する質問も設け、週休2日制がどの程度普及しているのかを把握する。」(『建設工業新聞』2020.08.04)
●「国土交通省は7月に策定した2020年度版の『インフラシステム海外展開行動計画』で、分野別のインフラ輸出方針を示した。世界の市場動向と日本の強みや課題を整理。戦略的に取り組む施策の方向性を定めた。競合国との競争の激化や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)など著しく環境が変化する中、行動計画を羅針盤に日本企業のインフラ輸出をより促進する。行動計画では、分野横断の方針として、日本が強みとする『質の高いインフラシステム』を引き続き柱に据えた。相手国のニーズに合わせて工事や製品の品質とコストをカスタマイズするなど提案力の柔軟性を高める。マスタープランの作成など案件形成前の川上段階からの関与を強め、日本企業が受注機会を得やすい環境を整える。分野別では▽都市・不動産開発▽水▽防災▽道路▽建設産業▽鉄道▽港湾▽航空▽海事―の9分野で需要や課題を分析。それぞれ有効な施策方針を立てた。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進が世界的な潮流となっている。都市・不動産開発分野では人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術を組み合わせたスマートシティーの海外展開を加速する。昨年10月に発足した『日ASEANスマートシティー・ネットワーク官民連絡協議会(JASCA)』などを起点に東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に普及を促進する。世界で猛威を振るう新型コロナの影響による公衆衛生や水資源確保へのニーズの高まりを想定し、水インフラの輸出にも力を注ぐ。事業単体ではなく、下水道と浄化槽の適正配置や総合的な水資源管理など幅広い領域をパッケージ化し提案力を高めていく。」(『建設工業新聞』2020.08.05)
●「国土交通省は7月31日、下請企業に対して適正な代金の支払いなどを求める要請文書を建設業団体に送付した。改正建設業法で新設・変更された規定を周知し、10月1日の改正法施行前から留意するよう、通達に盛り込んだ。著しく短い工期による請負契約締結禁止は、発注者と受注者だけでなく、元請負人と下請負人の間でも適用されることなどを新たに明記している。下請企業の新型コロナウイルス感染防止に配慮する必要性も示した。」(『建設通信新聞』2020.08.03)
●「東日本建設業保証は、前払金保証実績からみた公共工事動向をまとめた。2020年度累計(4-7月)は件数が前年同期比0.8%増の4万9748件、請負金額が2.7%減の3兆8294億円だった。件数が横ばいで推移しているため、一部地域を除き新型コロナウイルス感染症の影響は限定的とみられる。発注機関別の請負金額は、国が4.0%増の5618億円、独立行政法人などが10.8%減の5769億円、都道府県が6.5%増の1兆525億円、市区町村が8.9%減の1兆3834億円、地方公社が2.6%増の365億円、その他が5.8%増の2178億円だった。」(『建設通信新聞』2020.08.11)
●「新型コロナウイルスの感染拡大による厳しい雇用情勢が続いている。企業は5月の緊急事態宣言解除後も人員削減の手を緩めていない。特に非正規の雇用者数は6月に前年同月比100万人超の減少と、比較可能な2014年以降で最大の落ち込みになった。回復にほど遠い経営環境と先行きへの警戒が雇用意欲を冷え込ませている。…6月の就業者数は1年前に比べて77万人減の6670万人だった。正社員は2カ月ぶりの増加に転じた一方、非正規の雇用者数は104万人減の2044万人になった。失業者のうち、勤め先の都合などリストラによる失業者は41万人。前年から19万人増えた。業種別の就業者数をみると、外出の自粛などで消費が盛り上がらず、宿泊・飲食サービス業では38万人減、生活関連サービス・娯楽業では22万人減となった。製造業や建設業も雇用が減った。教育・学習支援は学校の休校が長引いた影響で20万人増、医療・福祉は8万人増だった。こうした新型コロナが押し上げた業種もあるが、就業者全体は4月の80万人減、5月の76万人減に続く大幅な前年割れになった。失業には至っていないものの、仕事を休んでいる人も236万人となお高水準だ。5月に423万人いた休業者のうち45%は6月も引き続き休んだ。7%は失業したり、職探しを諦めたりした。経済の復調が遅れれば仕事を失う人がさらに増える可能性がある。」(『日本経済新聞』2020.08.01)
●「建設業が積極的に雇用の受け皿となっている構図が鮮明になりつつある。6月に11業種のうち新規求人数が前年同月比で増加したのは唯一『建設業』だけ。新型コロナウイルス感染拡大が続く中、国内各産業・業種で採用抑制など雇用環境の悪化が拡大する中、建設業が防波堤となっている形だ。厚生労働省が公表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は前月を0.09ポイント下回る1.11倍にとどまった。6カ月連続の低下で2014年10月以来、5年8カ月ぶりの低水準となる。また主要産業別の新規求人数(原数値、新規学卒者除く)は産業合計で前年同月比、18.3%減の75万6004人となった。『生活関連サービス業、娯楽業』の34.8%減、『製造業』34.2%減など11業種中10業種が減少。唯一、『建設業』が2.6%増と増加に転じた。」(『建設通信新聞』2020.08.04)
●「全国建設労働組合総連合(全建総連)は、2020年7月豪雨で甚大な被害を受けた熊本県人吉市の応急仮設木造住宅の建設現場で建設キャリアアップシステム(CCUS)のモデル事業に乗りだす。熊本県の要請に応じ応急仮設木造住宅の仮設団地を建設する工事で、地元の熊本県建築労働組合に加入する建築大工約100人を対象に実施する。全員がカードを保有し、蓄積した就労実績を賃金の支払いに活用する。工事終了後にはCCUSの周知に向けた研修会を予定している。国土交通省住宅局の補助事業を活用して現場にカードリーダーを設置するほか、スマホアプリも活用する。利用するのは大工工事の部分で、全建総連の本部から担当者を現地に派遣し、CCUSの技能者登録を代行している。カードの到着後、15日前後にも就労を開始する。元請の工務店は既に事業者登録を完了しているという。全建総連の幹部は『CCUSを活用することで、誰がいつ就労し、何日働いたかを効率よく把握できる。今まで出面でチェックしていたものが必要なくなる』とメリットを話す。全建総連は、JBN(全国工務店協会)と11年9月に全国木造建設事業協会を設立。同協会が37都道府県7政令指定都市と災害協定を締結している。今回は熊本県からの要請に応じ、厚生労働相の許可事業である労働者供給事業を活用して建築大工を手配した。人吉市内では現在382戸、12の仮設団地が建設中でモデル事業は2団地が対象となる。工期は1カ月。うち大工工事は20日程度を見込む。近年の仮設住宅は、プレハブより木造が過ごしやすく、木のぬくもりを感じられると評価を得ている。金額、工期ともプレハブとほぼ変わらないという。従事者の賃金は建築大工の設計労務単価の最高水準に設定され、1日2万6000円が支払われる。実際に就労してみると人によってレベルが異なり、同一賃金を疑問視する意見が出ている。全建総連はこのため、CCUSの能力評価制度を活用。レベル2に『2万6000円』を当てはめ、レベル1を『2万3000円程度』、レベル3は『2万9000円程度』、レベル4は『3万2000円程度』と、技能に応じて賃金に差を設けることを検討している。来年度以降、災害が発生した際の応急仮設木造住宅の建設工事で適用する方針だ。」(『建設工業新聞』2020.08.06)
●「建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者登録数が7月末時点で、32万4390人(6月末時点29万3562人)となった。昨年4月に運用が始まり、1年4カ月で30万人に達した。総務省の労働力調査データを基に国土交通省が分析した19年の技能労働者総数は324万人。キャリアアップカードがすべての技能者の約1割に発行されたことになる。事業者登録数は7月末時点で、5万9132社(5万5337社)。現場運用の状況では、現場IDの登録数が2万1109件(1万9557件)、就業履歴の蓄積数が379万3714件(319万427件)となった。」(『建設工業新聞』2020.08.06)
●「2020年度の最低賃金額を決める議論が最終局面に入った。7日までに決定した都道府県の9割は1~3円の引き上げを決めた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国は引き上げの目安の提示を断念し、事実上、据え置く方針を示していた。地方の多くの県は人材をつなぎ留めることを意識し、小幅でも引き上げることにこだわった。…7日までに41都道府県が決めており、このうち賃上げは38に及んだ。島根県は19年度より2円高い792円にする。若者の県外流出の抑制や人手不足の解消のために全会一致で決めた。19年度に最低水準だった熊本県や長崎県はそれぞれ3円上げ、793円にする。これにより20年度は最下位グループから脱出する。…19年度は最高額の東京都(1013円)と最低水準の県(790円)の差が223円に達した。賃金格差は地方の若者が東京に流失し、地方経済の活力が弱まる原因になっている。東京の地方最低賃金審議会は現状維持を東京労働局長に答申した。据え置きは03年以来、17年ぶりとなる。コロナの感染者が全国最多で、現在も都が居酒屋などに午後10時までの営業時間の短縮を要請している。『経済情勢は厳しい』と訴える経営者ら使用者側に配慮し、雇用の維持や事業の継続性を重視した。議論のなかで使用者側と労働者側の意見は激しく割れた。据え置きを求める使用者側に対して、労働者側は『近年の賃上げの流れを止めたくない』と1円でも上げることを目指して反論。答申をまとめた5日の審議会では『とてもじゃないが納得できない』と労働者側の委員3人が採決時に退席した。『委員が退席するなんて覚えがない』(東京労働局の担当者)という異例の決着となった。…今週、結論を出せなかった県は新しい金額の適用が10月1日から遅れることになりそうだ。第2次安倍政権は年3%程度のペースで引き上げ、早期に1000円にする目標を掲げてきた。コロナ禍による企業業績の厳しさが『官製引き上げ』の流れを変えた。全国の平均額は901円から小幅に上がる見通しだが、直近の16~19年度は毎年20円を超える引き上げを続けてきただけに足踏み感は鮮明になっている。」(『日本経済新聞』2020.08.08)
●「国土交通省は、建設キャリアアップシステムの財源対策で、建設業団体側に提示していた料金改定最終案を修正し、2段階登録方式(技能者登録)の詳細型登録料を4900円に、ID利用料を月額換算950円に引き上げる案をまとめた。さらに、コールセンターの廃止などにより今後10年で70億円の経費削減を目指すとともに、開発費の追加負担は20億円から16億円に圧縮する方針だ。」(『建設通信新聞』2020.08.11)
●「全国中小建設業協会(土志田領司会長)は、建設キャリアアップシステムに使用料金の引き上げに関する方向性を固めた。自治体を含む公共工事へのシステムの普及促進などを条件に賛成する方針で、7日に開かれる建設キャリアアップシステム運営委員会の総会で報告する。全中建の執行部は、建設技能者の処遇改善を担う建設キャリアアップシステムの意義と将来性を考慮し、『料金の値上げはやむを得ない』との認識で一致している。ただ、傘下団体の大半が自治体などの公共工事を受注の主軸とすることから、システムメリットを全中建全体で共有できるように『システム利用が自治体発注工事で早期に義務化されるよう要望していきたい』考えだ。」(『建設通信新聞』2020.08.05)
●「ゼネコン大手4社の2021年3月期の連結純利益の合計は、前期比33%減の2910億円と5年ぶりの低水準になる見通しだ。今期は初期段階の大型工事案件が多く、売り上げが立ちにくい。コロナ禍の影響による案件の契約延期や海外の工事中断なども響く。…4社の21年3月期の純利益合計は、震災復興や五輪関連の需要で業績が拡大し始めた16年3月期以来の低水準となりそう。国内では建築工事やビルのリニューアル工事などの受注が遅れ、売り上げの計上が来期以降にずれる。海外では東南アジアや北米などで現場閉鎖が長引き、中断中の人件費や機材のリース費などが損失になる。現場は順次再開しているが、一部の地域では感染拡大で人手確保が難しいという。業績は上振れる可能性もある。ゼネコンはもともと、追加工事獲得など不確定な要素が多く、保守的な業績予想を示す傾向がある。過去5年の各社の純利益について期初予想と実績をそれぞれ合計して比べると上振れ幅は3割を超える。今期の4社合計の建設受注高の予想(単体)は1%減の5兆950億円と底堅い、ただ足元では『ホテルや商業施設で延期や中止案件が出てきている』(大手ゼネコン幹部)といい、不透明感が増している。国土交通省が7月に発表した統計によると、6月の大手50社の宿泊施設の受注高は前年同月と比べ6割強減った。中期的に企業の設備投資意欲が減退する可能性もあり、公共インフラ更新や首都圏の再開発案件が下支えするかが焦点。各社が投資を進める風力発電建設や物流施設の開発など、コロナ禍の影響を受けにくい分野の重要性も増しそうだ。」(『日本経済新聞』2020.08.07)
●「上場ゼネコン大手4社の2020年4~6月期決算が6日に出そろった。前年同期の業績が好調だった反動減に加え、大型案件が本格化する端境期に入ったことなどが影響。3社が連結ベースで減収営業減益となった。新型コロナウイルスの業績への影響は現時点では限定的と見るものの、民間設備投資の減速で受注環境は厳しさを増すとの見方が強い。第2波に対する危機感が高まる状況で、各社は景気動向を注視しながら攻めと守りのバランスを取る必要がありそうだ。」(『建設工業新聞』2020.08.07)
●「大手・準大手ゼネコン25社の2021年3月期第1四半期決算が7日までに出そろった。連結で16社が減収、17社が営業減益となった。フジタは、9億2300万円の営業損失となった。単体受注高は13社が前年同期を下回った。需要の端境期にさしかかったところで新型コロナウイルス感染拡大による計画見直しや受注・着工の遅れといった影響を強く受けた企業もあり、今後の状況次第で今期の業績の明暗が分かれそうだ。連結で過去最高を記録したのは、売上高が4社、営業利益が3社、経常利益が4社、純利益が4社だった。…単体の売上高は17社が前年同期を下回った。緊急事態宣言によって現場を閉所した企業が多く、出来高計上で多少の影響があったとみられるものの、ほとんどの企業が第1四半期決算への大きな影響は『なかった』と回答している。需要が端境期にさしかったことによる手持ち工事の減少が主要因となっている。単体受注高では、土木の13社、建築の13社が前年同期を下回った。多くの企業が新型コロナによる影響は『限定的』とする。ただ、『事業計画の見直しや受注・着工時期の遅れで完成工事高が減少する』と通期の見直しを修正する企業もある。ホテルや商業施設などの業種は新型コロナの影響を強く受けており、建設投資を手控える動きが出ている。一方で、物流施設などの投資需要は増加している。住宅は、複数回の打ち合わせが必要なリフォームの需要は落ち込んでいるものの、打ち合わせ回数が比較的少なくて済む新築住宅は6月以降、需要が回復しているとの声もある。21年3月期は、期初から『需要の端境期になる』との見方が大勢を占めている。産業や分野ごとの需要の増減にあわせて、受注案件を乗り換えられた企業と対応できなかった企業で、今期の業績の落ち込み幅に明暗が出てくる可能性が高い。」(『建設通信新聞』2020.08.11)
●「九州などを襲った7月の豪雨災害発生から4日で1カ月。甚大な豪雨災害が全国で相次ぐ中、危険が及ぶときに住民が身を寄せる指定避難所の27%が、浸水や土砂崩れの恐れのある場所に立地していることがわかった。浸水の深さ想定が2メートルを超す場所もある。自治体や住民は施設の被災リスクを点検し、被害の軽減策や代替避難先の確保を急ぐ必要がある。ここ数年に発生した豪雨や河川氾濫では、浸水した避難所を閉鎖する事態が相次ぎ、7月の豪雨でも避難所が孤立するケースがあった。日本経済新聞はこうしたリスクが全国にどれほど潜んでいるのかを探った。国土交通省が集約している市区町村指定の緊急避難場所の地理データーベースから住民が滞在できる指定避難所を兼ねた約4万8200施設を抽出。洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域(特別警戒区域を含む)の地理データと照合した。近隣の河川氾濫で浸水の恐れがある避難所は全体の19%にあたる9255施設。土砂災害を警戒すべき場所には8%の3954施設が立地していた。両方のリスクがある施設は0.4%だった。上階への垂直避難が必要になる2メートル以上の浸水が想定されるのは全体の2.4%、1146施設だった。浸水リスクがある避難所の割合を都道府県別でみると、埼玉は49%と最も高く、佐賀の46%、富山の45%が続く。…今回照合したのは全国で比較できる『50~150年に1回の大雨』を基準にした浸水想定区域。15年の水防法改正で『1000年に1回の豪雨』が新たな基準となったが、未更新の自治体は多く、実際のリスクは悪化する恐れがある。新基準のデータがある国管理河川の浸水想定区域だけを抽出すると、3メートル超の深さで水につかる恐れがある避難所は約2120カ所もあった。土砂災害警戒区域も自治体指定は道半ばのため、危険な場所は増えそうだ。」(『日本経済新聞』2020.08.03)
●「自然が備える貯水機能を防災に生かす取り組みが進む。環境省は台風や集中豪雨といった異常気象に対応するため、貯水池や緑地などの整備に向けた調査を始める。堤防やダムといった既存のインフラを補う手法として、海外で先行して導入が進んでいる。災害時に効果のあった事例などを調べて全国への普及を目指す。推進するのは『グリーンインフラ』といわれる土地利用の考えだ。緑地や遊水地、森や農地などの機能や状態を活用し、減災につなげる。近年の異常気象の増加などへの備えを強化しつつ、自然景観や生物多様性に配慮した地域づくりができると注目を集める。グリーンインフラが注目を集めた例としては、渡良瀬遊水地(栃木、群馬、埼玉、茨城)がある。国内最大級の湿地で明治時代に整備が始まった。2019年の台風19号による豪雨の際に、下流にある利根川の氾濫を防ぐのに貢献したという。国の調査では約1.6億立方メートルの雨水をためたと推定されている。環境省は国内数カ所の湿地や緑地などについて、植生や土壌などを文献や現地調査などで調べ、保水力を示した地図を作る。湿地の貯水量などを定量的に出し周辺地域の防災計画に加える。20年度予算に調査費として8千万円を計上した。この事例を他の地域にも展開することを目指す。地球温暖化などによる気候変動の影響で、特別警報が出るほどの集中豪雨といった異常気象が増えている。貯水機能のある緑地などを整備することで、豪雨時の浸水被害を減らす。コンクリートを使う堤防やダムといった従来の『グレーインフラ』を補う手法として検証や導入を進める。堤防やダムは想定規模ならば災害を抑えられるが、維持管理にコストがかかる。グリーンインフラとして既存の自然を活用すればコストを抑えて防災機能を高められる。国は15年に閣議決定した国土形成計画でグリーンインフラの推進を掲げており、今後の都市計画に盛り込む考えだ。小泉進次郎環境相と武田良太防災相は6月、気候変動に対応した今後の防災のあり方について共同声明を出した。グリーンインフラは小規模なものでは、ビル周辺の緑化のような取り組みからある。環境省は規模の大きい、河川の周辺の低地などを利用する想定だ。居住地も多い地域だが、日本の人口減少が進めば空き地や放棄された農地が増えると予想されており、候補地の探索が進んでいる。」(『日本経済新聞』2020.08.05)
●「東京都心のオフィスの空室率が大幅に上昇した。仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が6日に発表した都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の7月の空室率は2.77%となり、前月から0.8ポイント上がった。上昇は5カ月連続で、2%台は2018年10月以来21カ月ぶり。上げ幅は単月のデータを取り始めた02年1月以降最大となった。調査対象の既存のビル(2576棟)の空室率は2.79%。前月から0.84ポイント上がった。従来のオフィス市場をけん引してきた渋谷区などで小規模なスペースの解約が続いている。新型コロナウイルスに伴う業績悪化の懸念や、在宅勤務の拡大など働き方の変化が背景にある。また、新築ビルへの移転に伴う『2次空室』も目立ってきた。…コロナ禍の前は『主要ビルに空きが出ると分かれば水面下で次の入居企業がすぐ決まるような状況』(仲介各社)だった。コロナ禍は長引きそうだとの認識が広まり、景況感や業績の悪化見通しが強まってきた。旺盛だったオフィス拡張の動きは影を潜め、既存ビルの入居者を中心に需要が弱まり始めた。一方、新築ビル(28棟)の空室率は2.13%となり、前月比0.38ポイント下がった。」(『日本経済新聞』2020.08.07)