情勢の特徴 - 2021年5月前半
●財務省は東京都内で4月30日に開いた財政制度等審議会(財政審、財務相の諮問機関)財政制度分科会歳出改革部会の会合で、建設国債の増加抑制と事業評価の徹底に向けた方向性を示した。建設国債の発行が赤字国債残高の増加につながっていると指摘した上で、将来世代の人口減を踏まえ『真に必要なインフラを見極めて債務残高の抑制に努めるべきだ』と強調。公共事業の事業評価で用いる費用便益分析(B/C)の運用を改善するよう求めた。」(『建設工業新聞』2021.05.07)
●「先進国による法人税引き下げ競争の潮目が変わってきた。米国と英国が相次ぎ増税を打ち出し、国際的な最低税率を設ける議論も詰めに入る。ここに来て『減税による企業の投資拡大の効果は限定的』『むしろ企業に貯蓄拡大を促した』といった過去の検証・分析も目立っており、税制のゆがみを是正する国際的な機運が高まる。」(『日本経済新聞』2021.05.08)
●「総務省が11日に発表した2020年度の家計調査によると、2人以上の世帯の消費支出は27万6167円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年度から4.9%減った。落ち込み幅は比較可能な01年度以降で、消費増税後の14年度(5.1%減)に次いで2番目に大きかった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で外出関連の消費が落ち込んだ。」(『日本経済新聞』2021.05.11)
●「菅政権の看板政策『行政のデジタル化』を推進する関連6法が12日、成立した。公的な給付金の円滑な受け取りや行政手続の押印廃止につながる。政府と地方のシステムは5年かけて統一する。新型コロナウイルス対応でデジタル化の遅れに直面する政府は背水の陣で立て直しをめざす。」(『日本経済新聞』2021.05.13)
●「総務省消防庁は、東京都新宿区内のマンション地下駐車場で先月発生した消火用二酸化炭素(CO₂)が原因の死亡事故を踏まえ、再発防止策の検討を開始した。CO₂消火設備の設置状況や工事・メンテナンス時の安全管理体制の実態調査、事故要因の分析を経て、技術基準や管理体制の見直しなどを議論。年内に安全対策を打ち出す方針だ。」(『建設工業新聞』2021.05.13)
●「国土交通省は、『災害復旧における入札契約方式の適用ガイドライン』を改正した。工事・業務双方で随時契約や指名競争入札などの適用条件を明確化するとともに、地方自治体での活用を念頭に、直轄との相違点や留意点を示しながら、入札契約方式の適用・体制確保などの記載を充実した。同省では4月に発災時の入札・契約関係の対応全般をまとめたマニュアルを作成しており、今回改正したガイドラインとあわせて、出水期に備えて災害復旧のさらなる迅速化・円滑化を図る。」(『建設通信新聞』2021.05.14)
●「関東地方整備局は2021年度、受注者の働き方改革につながる取り組みを強化する。通年維持工事や閉所困難工事などを除き、原則、全工事で発注者指定方式の週休2日工事として発注する。20年度まで本局発注工事は全工事で実施していたが、事務所発注工事は受注者希望方式を併用していた。改正労働基準法や実施状況を踏まえ、本省が示す取組方針よりも高い目標を定める。工事検査時に工事書類を限定する『工事検査書類限定型工事』についても全工事で受発注者協議の上、実施する。」(『建設通信新聞』2021.05.14)
●「2020年(1-12月)の建設業での労働災害による死亡者数は、3年連続して減り、休業4日以上の死傷者数も2年連続減少したことが、厚生労働省が4月30日にまとめた20年の労働災害発生状況(確定値)でわかった。死亡者数は前年比4.1%減(11人減)の258人と過去最少になった。死傷者数は1.4%減(206人減)の1万4977人で、初めて1万4000人台となった。外国人労働者の労災が急増するなどの問題も顕在化している。」(『建設通信新聞』2021.05.06)
●「建設経済研究所は、高度経済成長期から現在までの技能者の就業構造と労働条件の変遷に関する調査・分析結果をまとめた。高卒新卒の入職者数は全体と比例して減り続けている一方で、建設業のシェアでみると過去60年間で高水準にあることが分かった。労働条件は長期的には改善傾向にあるものの、いまだ他産業に見劣りする部分が多く、同研究所は『短期的な業況に左右されずに長期的な姿勢で業界を挙げて賃金・労働条件の改善に取り組むことが必要だ』と結論づけている。男性の高校新規卒業就職者(1976年までは中学を含む)のうち、建設業に就職した人数の推移は、66年には6万人以上の中学・高校卒業者が建設業に入職していたが、2020年には78.7%減となる1万3498人まで減少した。平成に入ってからの最高数だった96年の3万4600人を基準としても38%減で、高校新卒者の建設業への就職者数は大きく減少している。ただ、これは建設業だけのトレンドではない。全産業の高校新卒就職者は63年の72万1397人から10年の9万9421人へと86.2%減少している。建設業の減少度合いは全体と同程度だと言える。他方、高卒新卒者の就職先の産業別シェアをみると、20年の建設業は12.1%で、過去60年の中でも高い水準にある。この数字は、GDP(国内総生産)に占める建設業のシェアや就業人口に占める建設業のシェアよりも高く、高校新卒者の入職は建設業が他産業に比べて低調ではないと分析する。離職の状況はどうか。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(17年3月卒業者)によると、高校新卒就職者の3年以内離職率は全産業39.5%、製造業29.2%に対して、建設業は45.8%と大幅に上回っている。大学新卒就職者の離職率は建設業が29.5%で、全産業の32.8%は下回っているものの製造業の20.4%よりも高い水準にある。同研究所は『高校新卒就職者という母集団の規模の急激な縮小の下で、むしろ健闘しているとさえ言えそうだ』と指摘する。一方で、高い離職率から『新卒就職者の定着を図ることが重要な課題である』と提起している。」(『建設通信新聞』2021.05.06)
●「『特定技能』の在留資格で働く外国人が急増している。2月末時点で2万人超と前年同期の約7倍となった。新型コロナウイルスによる渡航制限で帰国できない技能実習生が、特定技能の資格を取得。外国人労働者の来日減による人手不足を補おうと企業が採用を増やしている。技能実習は最長5年の期間限定だが、特定技能に移って長く働く外国人が増えつつある。…特定技能は出入国管理法改正で2019年4月に導入された。人手不足が深刻な介護、建設、宿泊など14分野で即戦力の外国人を受け入れるためだ。特定技能の資格を得るには主に▽技能実習を修了▽国内外の試験に合格――の2通りがある。政府は特定技能(1号)の受け入れで『5年間で最大34万5150人』を想定したが、伸び悩んでいた。外国人にとって、各分野の技能や日本語能力の試験への合格が必要などハードルが高いためだ。企業にとっても、特定技能よりも、原則として転職できず人材流出の可能性が低い技能実習生の採用を優先してきた実情がある。ところが特定技能の人数は、この1年余りで急増している。出入国在留管理庁によると、2月末時点で2万386人。政府の目標にはほど遠いものの、前年同期(2994人)の約7倍となった。背景にあるのが、コロナ禍による渡航制限だ。20年に新規入国した実習生は前年の44%の約8万3千人にとどまった。21年1月には実習生ら中長期滞在者向けに入国を認める『レジデンストラック』の運用が停止し来日はいっそう困難になった。一方でベトナム行きなどの航空便は運休が相次ぎ、技能実習を終えても帰国できない実習生は少なくない。こうした人が特定技能に移行し、20年12月時点で特定技能の85%を技能実習からの移行組が占めた。」(『日本経済新聞』2021.05.08)
●「厚生労働省は2020年の労働災害の発生状況をまとめた。新型コロナウイルス感染が原因の労災で死亡したり、4日以上休業したりした死傷者数は6041人だった。医療機関や介護施設などでの発生が8割弱に達した。労災死傷者の総数は13万1156人で前年比4.4%増。コロナ関連が4.6%を占め、全体を押し上げた。…業種別では保健衛生業が4578人で最も多く、このうち医療機関などの医療保健業が2961人、介護施設などの社会福祉施設が1600人に上った。製造業は345人、建設業は187人、小売業は84人、飲食店は79人だった。コロナ患者の対応などで医療従事者らが感染するリスクが改めて浮き彫りになった。」(『日本経済新聞』2021.05.11)
●デジタル関連法案が参院内閣委員会で採決が狙われる中、建設現場の労働者の個人情報を登録する「建設キャリアアップシステム」とマイナンバーを連携させようという議論が進められている。国による個人情報の一元管理は、国民監視と統制強化へ道を開くものだと懸念の声が上がっている。「建設キャリアアップシステム」は建設労働者の資格や就業履歴、社会保険加入状況などを登録・蓄積して適正な賃金や処遇、業者の負担軽減などに役立てようとするものだ。建設業では、経験技能の蓄積が賃金に結びつきにくい実情がある。労働組合では、技能に見合った賃金の実現に役立つとして、普及を呼びかけている。ところが、政府は2019年にデジタル・ガバメント閣僚会議で、「マイナンバーカードでも建設キャリアアップシステムを利用できるようにし、同システムとマイナポータルとの連携を推進する」という方針を打ち出した。キャリアアップシステムに外国人労働者の在留資格情報の登録も導入する計画だ。東京土建一般労働組合は、建設労働者の就労履歴、保有資格や社会保険加入状況など、さまざまな情報とマイナンバーがひもづけられれば、「税情報への反映による負担強化など、さまざまな不利益を被る恐れがある」と指摘している。(『しんぶん赤旗』2021.05.11より抜粋。)
●「日本建設産業職員労働組合協議会(鈴木誠一議長)は13日、『2020時短アンケート』の結果を公表した。1カ月の平均所定外労働時間は、41.4時間で前年に比べ2.3時間減少した。目標である月平均30時間以内を目指し。引き続き改善に向けた取り組みが必要とした。建設産業に魅力を感じる割合は62.6%で3.1ポイント増加した。」(『建設通信新聞』2021.05.14)
●「建設現場でのアスベスト(石綿)による健康被害を巡る集団訴訟に関し、与党プロジェクトチーム(PT)は15日までに、救済策の骨子をまとめた。国が原告へ症状に応じた和解金や訴訟の負担に配慮した解決金を支払う。訴訟に参加していない被害者に給付金を支給するための法整備も検討する。」(『日本経済新聞』2021.05.15)
●「前田建設工業の2021年3月期の連結営業利益は、前の期比35%増の460億円程度と過去最高になったことが分かった。従来予想は414億円だった。関係者によると、新型コロナウイルスの影響で商業施設などの工事が伸び悩んだが、官公庁向けの土木工事が想定を上回った。増益に伴い配当も増やす見通し。売上高は前の期比39%増の約6780億円と、従来予想を10億円程度上回った。新型コロナウイルスの影響で、前期はホテルや商業施設などの建築需要は冷え込んだが、官公庁主体の土木工事の受注に軸足を切り替え、国土強靭化による旺盛なインフラ投資などを背景に業績を拡大した。大型工事の設計変更が利益を押し上げたとみられる。純利益は従来見通し(166億円)を大幅に上回り、過去最高だった19年3月期の239億円に並ぶ水準となったようだ。配当性向は30%水準を維持するため、業績好調を受けて増配する見通し。」(『日本経済新聞』2021.05.07)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)が会員企業を対象に実施した2020年度の円滑な施工の確保に関するアンケートによると、発注機関によって若干のばらつきはあるものの、全体では『工期が短すぎた』との回答が5割を占めた。その不足分を補うために、現場の土曜日稼働や時間外労働、発注者承諾によるプレキャスト(PCa)化、施工班数の増加といった施工者の自助努力で対応しているケースが少なくなく、不適正な工期設定が生産性向上の阻害要因となっている。」(『建設通信新聞』2021.05.07)
●「住友不動産の2022年3月期の連結経常利益が前期比1割増の2200億円強になる見通しであることがわかった。新型コロナウイルスがまん延する前の20年3月期の水準を上回り、最高益を見込む。主力のオフィスビル賃貸で収益貢献の大きい大型ビルなど新規物件の稼働が好調に推移する。都心の高層マンションの採算改善も寄与する。」(『日本経済新聞』2021.05.08)
●「日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)が2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)実現に向けた対応に本腰を入れる。環境委員会(櫻野泰則委員長)にワーキンググループ(WG)を設置。施工中や供用後の二酸化炭素(CO₂)排出量のさらなる削減に必要な対策を検討する。宮本会長が7日に日刊建設工業新聞などとのインタビューに応じ、『業界独自にできること、他産業と連携することの道筋を年度内に付け、来年度から実施に移していきたい』との考えを示した。」(『建設工業新聞』2021.05.11)
●「日本建設業連合会(日建連)の押味至一副会長土木本部長は、国土交通省関東地方整備局らと12日に開いた意見交換会で、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及に向け、公共工事でのCCUS義務化が必要と強く訴えた。CCUSは、建設技能者の技能と経験に応じ適正な評価や処遇を受けるためのインフラとして2019年4月に運用が始まった。押味副会長は『システムの魅力が技能者にきちんと伝わっておらず、なかなか普及していかない』と課題を指摘。『これまで働いてきた技能者からすれば、カードを持ったところで急に給料が上がるわけでもなく、メリットが見えにくいという声が多く挙がっている』と述べた。」(『建設工業新聞』2021.05.14)
●「鹿島と大成建設が14日発表した2021年3月期の連結決算は純利益がともに減益だった。大型案件の端境期だったことに加え、国内外で新型コロナウイルスによる着工延期や工事の中断が響いた。今期は民間工事の受注が回復する見通しだが、収益貢献は遅れるため両社とも最終減益を見込む。」(『日本経済新聞』2021.05.15)
●「資源エネルギー庁は、2050年カーボンニュートラルを見据えたエネルギー基本計画の見直しに当たり、省エネルギー対策を深堀するための制度的対応について、方向性の案をまとめた。民生部門は、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及拡大と、既存住宅の断熱改修推進に向け、建築物省エネ法の規制強化などに取り組む。4月30日に開いた総合資源エネルギー調査会の省エネルギー小委員会に、産業、民生、運輸の各部門の方向性を事務局案として提示した。民生部門の方向性案を見ると、ZEB・ZEHの普及拡大と既存住宅の断熱改修推進に向け、省エネ法に基づく建材トップランナー制度の強化や、ZEB・ZEHなどの実証・導入支援も必要な対応に挙げた。特定の建材で国が製品の性能基準を定め、目標年度のメーカー達成状況を確認する建材トップランナー制度は現在、断熱材、サッシ、複層ガラスの3建材を対象としている。」(『建設通信新聞』2021.05.06)
●「台風や集中豪雨などの災害時に自治体が発表する避難情報について、政府は20日から運用を見直す。災害の恐れが高い時に出す情報を『避難指示』に一本化し、『避難勧告』を廃止する。差し迫った状況を分かりやすく伝え、住民の迅速な避難行動につなげる。内閣府が10日、自治体向けに新たな避難情報のガイドラインを公表した。避難情報は警戒レベルに応じて5段階で発表しており、土砂崩れや河川氾濫などの恐れが高まっている警戒レベル4の時に避難指示を出す。避難指示の対象となった地域の住民は、小中学校や公民館など指定緊急避難場所などへの退避が求められる。」(『日本経済新聞』2021.05.10)
●「米国で品不足が原因で木材価格が高騰している。超低金利に新型コロナウイルス禍での在宅勤務普及が重なり米国で住宅ブームが発生。木材需要が膨れ上がり、価格は約1年で6倍に高騰した。米国では資材高で新築住宅の価格や家賃が上昇し始めており、日本にも輸入木材の価格高騰や調達困難の形で『ショック』が波及している。」(『日本経済新聞』2021.05.11)
●「住宅向け木材の流通に変化が起きている。オープンハウスなど複数の関東の戸建て分譲会社が国産材を製材会社から直接共同で購入する仕組みを作った、商社や問屋を経由していた従来の流通とは一線を画し、出回りが少ない国産材の安定調達につなげる。同社と三栄建築設計、ケイアイスター不動産の3社は4月13日、日本木造分譲住宅協会(東京・新宿)を設立した。国産材の利用を増やすため、協会を通じ製材会社から国産材の直接購入を進める。安定調達に加え、まとまった量を長期間購入することで価格を抑える狙いもある。」(『日本経済新聞』2021.05.14)
●「国土交通省は、2020年6月公布の改正マンション建替等円滑化法で、老朽化の進行によって維持管理が困難なマンションの再生に向け、対象を拡大した要除却認定の具体的な基準を8月にまとめる。新たな要除却認定基準を省令と告示に落とし込む手続きを秋に進め、12月に改正した省令・告示を施行する。法改正でマンション再生の措置として、区分所有者の多数決で実施可能な『マンション敷地売却事業』と『容積率緩和特例』の対象を拡大するとともに、敷地共有者5分の4以上の合意で団地型マンションの敷地を分割して一部街区の建て替えや敷地売却を実施できる『団地敷地分割制度』を創設した。これらの適用に当たっては、要除却認定を特定行政庁から受ける必要があり、法改正で要除却認定に▽外壁などの剥落によって周辺に危害を生ずる恐れがあるマンション▽火災の安全性が不足するマンション▽給排水管の腐食などによって著しく衛生上有害となる恐れがあるマンション▽バリアフリー基準に不適合のマンション――を加えた。」(『建設通信新聞』2021.05.14)