情勢の特徴 - 2021年6月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、先進国の経済活動が活発になる中、物流の渋滞が深刻化している。米国で製造業が注文したモノの入荷の遅れを示す指標は5月、1970年代以来の高水準を更新した。急激な需要拡大に供給が追いつかない状況が続けば、インフレ圧力を過度に高め、コロナ禍から回復へ向かう世界経済の足かせになる。…物流の目詰まりは部品や原材料の供給を遅らせる。1日発表された米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況指数によると、5月の入荷遅延指数は前月に比べ3.8ポイント高い78.8となり、第1次石油危機があった1974年以降で最高水準を更新した。物流渋滞は世界に広がる。中国・青島沖で待機するコンテナ船は2019年以降で最多に。海運調査会社シーインテリジェンスによると4月時点で世界の貨物船のうち予定通りに港に到着できたのは約4割で、平均5日超の遅れが起きている。…ワクチン接種が進む米欧では消費者心理が大きく改善し、需要の回復をもたらしている。米国の実質個人消費は3月に前月比4.1%増と大きく伸び、コロナ禍で落ち込む前の前年2月の水準を上回った。4月も0.1%減とほぼ横ばいだ。英欧の小売りの売上高も3~4月にかけて持ち直しの動きが出ている。景気回復で各国の個人消費が拡大すれば、モノの需給はより引き締まる。足元の強い需要により、世界的に積み上がっていた在庫は記録的な低水準に転じている。米国の3月の小売業の在庫率は1992年以来で最低になった。夏の休暇シーズンを前にした在庫確保が物流の逼迫に拍車をかける。在庫減の影響は輸出の影響を強く受ける日本にも及ぶ。鉱工業生産でみた4月の在庫率指数は消費増税前の2019年5月以来の低さになった。」(『日本経済新聞』2021.06.03)
●「主要7カ国(G7)は5日に閉幕した財務相会合で、法人税の国際的な最低税率について『少なくとも15%』とする米国案を支持することで一致した。国際協議の中心となる20カ国・地域(G20)や決定の場である経済協力開発機構(OECD)での議論へ前進となる。約30年続いた国際的な法人税の引き下げ競争は大きな転機を迎えた。」(『日本経済新聞』2021.06.06)
●「国土交通省は『インフラシステム海外展開行動計画2021』を策定した。デジタルと脱炭素に重点を置き、『質の高いインフラ』の付加価値をさらに高める。外務省などと連携した積極的なセールスで、中国など価格競争力で勝る競合国に対抗する。『自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)』を背景に、アジア、アフリカ両地域で案件受注を強力に支援する。」(『建設工業新聞』2021.06.14)
●「政府が新型コロナウイルス対策で中小企業に支給する一次支援金が余っている。10日までに給付したのは約31万件、1259億円で予算額の2割にとどまる。当初5月31日だった期限を2週間程度延長した後も申請の伸びは鈍い。売上高が半分以上減るなどの要件が厳しいとの声もある。制度の使い勝手や予算の無駄の有無を丁寧に検証する必要がある。一時支援金は1月に出した2度目の緊急事態宣言を受けた措置。中小企業や個人事業主に最大60万円を給付する。時短営業などの影響を受け、1~3月のいずれかの月の売上高が2019年か20年と比べて50%以上減っていることが要件だ。地方自治体の時短営業要請に応じて協力金をもらっている飲食店は除く。6月10日時点で申請は約55万件きている。所管する経済産業省によると、期限を延長した6月以降の申請は1日数千件程度で、全体の枠は6550億円あり、全ての申請を受けても余りそうだ。」(『日本経済新聞』2021.06.15)

行政・公共事業・民営化

●「国土交通省は5月31日、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)の運用指針に基づく測量・調査・設計業務の2020年度実態調査の結果を公表した。ダンピング対策(低入札価格調査制度か最低制限価格制度)が未導入の市区町村が依然として全体の約半数に上るなど、前年度と変わらずほぼ横ばいの傾向となった。適正な履行期間の設定状況や設計変更ガイドラインの策定状況も新たに調査。各団体と結果を共有し、発注関係事務の改善を促す。」(『建設工業新聞』2021.06.01)
●「地方自治体による中小河川の維持管理に課題があることが、復建技術コンサルタント(仙台市青葉区、菅原稔郎社長)の調査で明らかになった。都道府県や政令指定都市の約3割が河川維持管理計画を策定していなかった。地球温暖化の影響とみられる河川氾濫が全国で頻発している。同社は地域の関係者が連携し中小河川の適正な維持管理に取り組むよう求めている。調査は東北大学災害科学国際研究所やサーベイリサーチセンター(東京都荒川区、藤澤士朗代表取締役)と協力し、1月25日~2月12日に中小河川を管理している都道府県と政令市を対象に実施。73.1%に当たる49団体(36都道府県、13政令市)から回答を得た。結果によると、河川維持管理計画を策定している割合は67.4%にとどまり28.6%が未策定だった。河川管理施設の基本情報をまとめた河川台帳の整備・保有状況も低調だった。管理延長の『9割以上、ほぼ全て』を対象に台帳を整備・保有しているのは63.3%で、無回答を除く30.6%は『9割未満~1割未満』と答えた。さらに『全てで保有していない』という回答も2.0%あった。堤防点検マニュアルの整備状況は67.4%が『未整備』あるいは『整備を検討中』と答えた。整備しているのは30.6%にとどまる。堤防点検の実施状況は管理延長の9割以上が点検できているのは半分に満たない44.9%だった。」(『建設工業新聞』2021.06.02)
●「国土交通省は建設業の法令順守体制の充実に向けた2021年度の取り組み方針を決めた。建設会社の施工不良に端を発する問題が相次いでいることから、不良・不適格業者への厳格対応で都道府県と連携を強化。問題発覚後の継続的な営業状況の把握などで新たに協力する。立ち入り検査の重点事項には▽技能労働者への適切な水準の賃金支払い▽著しく短い工期の禁止―の2項目を追加し、情報収集や調査を強化する。」(『建設工業新聞』2021.06.08)

労働・福祉

●全労連の小畑雅子議長らが31日、最低賃金の大幅引き上げ・全国一律制を求めた記者会見では、コロナ禍の経済悪化と最賃制度の問題点を指摘した。第1は、コロナ禍が終結するまで労働者への賃金・収入の補償が必要だという点だ。中小企業や個人事業主が営業を継続できる固定費の補償や、社会保険料や消費税などの減税を求めた。…第2は、賃金引き上げによる内需拡大こそが景気回復への道だということ。日本商工会議所などは最賃引き上げで「失業者が発生」と主張しているが、「最賃と失業率に相関関係はない」と指摘。労働運動総合研究所の試算で、1500円への引き上げは国内生産を26.7兆円、付加価値を13兆円増やし、169.5万人の新たな雇用を生み出すと強調した。第3は、生計費にもとづく最賃制度が必要だという点だ。最低賃金は全国47都道府県を4ランクに分けているが、全労連が各地で実施した最低生計費試算調査では全国どこでもほとんど変わらないと指摘。「全国一律制に転換して地域間格差を解消し、全国どこでも最低生計費を保障する時給1500円以上に引き上げることが必要だ」と強調した。(『しんぶん赤旗』2021.06.01より抜粋。)
●「建設産業専門団体連合会は、登録基幹技能者、職長、それ以外の技能者の能力評価と処遇に関する調査結果をまとめた。平均給与は、登録基幹技能者が42万6000円、職長が37万9000円、技能労働者が29万8000円となり、技能の熟練に応じて水準が高くなっている。ただ登録基幹技能者の認知度は依然として低く、建専連は『対外的な評価がついてきていない』と指摘した。建専連による登録基幹技能者、職長、それ以外の技能者を区分して比較する調査は19年度から開始し、今回で3回目となる。建専連の正会員(33団体)に所属する会員企業とその下請企業を対象に2020年10月5日-11月10日にかけて調査した。有効回答数は1081だった。給与の増減状況は、登録基幹技能者、職長、日本人技能者は前年に比べて増加が3割、横ばいが6割で、減少は数%にとどまった。許可業種別にみると、『土木工事業』の登録基幹技能者や『造園工事業』の職長などで増加とした割合が高かった。外国人材の平均給与は、技能実習生が19万6000円、外国人就労者(特定技能など)が27万7000円。給与の増減状況はいずれも4割超が増加、5割が横ばいとしており、日本人技能者より、1割程度給与を増やしている企業が多い。給与の支払い形態は、月給(固定給)が62.0%、日給月給が51.1%となった。元請けに近い、または社員数が多くなるほど月給(固定給)の割合が高くなる反面、3次以下の下請けでは日給月給の方が多い。業種別では鉄筋工事業で日給月給の割合が高かった。」(『建設通信新聞』2021.06.03)
●「国家公務員の定年を65歳へ引き上げる改正国家公務員法が4日、参院本会議で可決、成立した。現在の60歳を2023年度から31年度まで2年ごとに1歳ずつ上げる。若年人口が減る状況で知識や経験を持つ職員により長く現役で働いてもらう。社会保障制度の維持や消費の担い手の確保に役立てる狙いがある。…60歳で原則として管理職から外す『役職定年制』を導入する。若い世代のポストが限られ、管理職の年齢層が上がれば組織の活力が失われかねないとの判断がある。公務の運営に大きな支障が生じる場合は引き続き管理職を担える特例を設ける。フルタイムでなく短時間勤務を選べる仕組みも取り入れる。多様な働き方を認め、継続して勤務しやすい環境を整える。60歳を超えた職員の給与は当面、直前の7割程度に抑える。31年度までに給与制度を改定し、賃金の急激な落ち込みを緩和する。人事評価の仕組みも改定する。より能力や実績に基づいて評価し、給与に反映する。」(『日本経済新聞』2021.06.04)
●「建設作業でアスベスト(石綿)を吸い込み健康被害を受けた人たちへの救済が来春から始まる見通しになった。参院で9日、被害者への給付金制度を創設する法律が成立。未提訴の被害者も救済するよう訴えてきた訴訟原告らは、政府に制度の周知徹底を求めるが、実態把握は容易ではない。厚生労働者は支給対象が最大約3万1千人に上ると推計。建材メーカーによる補償は未決着で、なお課題が残る。…新法では、国が規制を怠ったとの司法判断が確定した1972年から2004年にかけ、石綿の吹きつけ作業や、屋内作業に従事し石綿肺や中皮腫、肺がんなどになった人を給付の対象にする。政府は06年になって石綿を含む建材の使用や製造を全面的に禁止したが、石綿は『静かな時限爆弾』と呼ばれ、30~50年の潜伏期間があるとされる。厚労省は、建設作業に従事した人のうち、これまでに石綿関連で労災認定を受けた約1万人が給付金の対象となると分析。毎年600人程度が新たに認定を受けており、今後30年間で対象者は総計約3万1千人にまでなると見込む。…ただ、被害者の実態をつかむのは難しい。建設アスベスト訴訟弁護団が5月に行った電話相談には3日間で761件が寄せられ、労災などの認定を受けていない人からの相談が全体の76%を占めた。担当者は『建設業は中小零細の会社を渡り歩く人が圧倒的に多く、労災にたどり着けない人が大半だ』と指摘する。国は相談窓口を設け周知に努める考えだが、どこまで被害を掘り起こせるかは不透明だ。最高裁が国とともに一定の賠償責任を認めた建材メーカーが給付金制度に加わっていないことも残された課題だ。新法は付則でメーカーの補償に関し引き続き『検討を加える』としているが、各社は司法判断の枠を超えた費用負担には後ろ向きの姿勢を崩さない。」(『日本経済新聞』2021.06.10)

建設産業・経営

●「ゼネコン大手4社の建設工事の収益性が低下する。採算性を示す完成工事総利益率(単体)は2022年3月期、6年ぶりの低水準となる見通しだ。民間工事は新型コロナウイルス禍で落ち込んだ受注が回復するが、東京五輪関連や東日本大震災の復興需要がなくなり競争が激化する。株式市場では各社の取り組みをもとに選別投資が広がりつつあり、株価に明暗が分かれる可能性がある。」(『日本経済新聞』2021.06.02)
●「長期化する新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が建設関連企業の海外受注活動-に大打撃を与えている。海外建設協会(海建協、蓮輪賢治会長)がまとめた会員51社の2020年度の海外建設受注実績は、前年度比46.0%減の1兆1136億円となった。リーマンショック後の09年度(43社、6969億円)ほどの落ち込みではなかったものの、19年度に初めて2兆円を突破してからの急落となった。」(『建設工業新聞』2021.06.03)
●「建設産業専門団体連合会は9日、東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で第20回通常総会と理事会を開いた。任期満了に伴う役員改選で、新会長に岩田正吾全国鉄筋工事業協会会長を選任した。才賀清二郎前会長は顧問に就いた。所掌業務の増加に対応するため副会長職を1人増員し、横山忠則全国建設室内工事業協会会長、三野輪賢二日本型枠工事業協会会長、長谷川員典全国コンクリート圧送事業団体連合会会長、大木勇雄日本建設躯体工事業団体連合会会長の4人が副会長に就任した。…総会後の記者会見で岩田会長は、職人の給与が技量でなく繁閑に左右されていることを挙げ、『市場の構造を変える必要がある』と指摘。ダンピング(過度な安値受注)対策など個別の業種団体ごとの対応には限界があるとし、『建専連を政策提言できる団体にする必要がある。そのためには安定的な運営を目指す必要がある』と就任あいさつの意図を説明した。」(『建設通信新聞』2021.06.10)
●「全国建設業協会(全建)の奥村太加典会長ら首脳が、東京・大手町の経団連会館で8日に開いた2021年度定時総会後に会見した。奥村会長は本年度の注力事業として『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』(21~25年度)に関連する工事の円滑施工と次年度以降の予算確保を挙げ、積極的に要望活動を展開し『(関連予算を)次年度以降の当初予算に盛り込んでもらう。5か年の計画にきちっとした流れをつくる』と意気込みを示した。…奥村会長は技能労働者の賃金を引き上げるため『何らかの形で(支払い状況を)チェックすることが必要』との考えも示した。3月末に開かれた国土交通省と建設業主要4団体の意見交換会では、21年に『おおむね2%以上』の賃金上昇率の実現を申し合わせた。重層下請構造で末端の支払い状況まで把握することは難しいが、『(1次、2次下請までの)上の流れだけでも確認しないと、下に行き着かない』と話し、調査実施の必要性を強調した。」(『建設工業新聞』2021.06.10)
●「国土交通省は10日、2020年度の建築物リフォーム・リニューアル調査報告を公表した。受注高は前年度比16.5%減となる10兆6355億円。総計、住宅、非住宅建築物いずれも直近5年間で最低となった。同省建設経済統計調査室は『新型コロナウイルスの影響で工事を発注しづらい状況にあるのではないか。状況が落ち着けば、計画されていた発注が実行される可能性があり、第2四半期以降注視していきたい』との認識を示した。」(『建設通信新聞』2021.06.11)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「国土交通省が発表した4月の建築着工統計調査報告によると、新設住宅着工戸数は前年同月比7.1%増の7万4521戸となり、2カ月連続で増加した。前年同月は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が初めて発令され、現場が止まるなどの影響が出ていたことから、『前年の落ち込みが大きかった。事業者からのヒアリングでは、数年前の水準に戻った』(同省建設経済統計調査室)と分析している。」(『建設通信新聞』2021.06.01)
●「国土交通省の有識者検討会は台風や豪雨で下水道から水があふれる『内水氾濫』について、自治体向けの対策指針の改定案をまとめた。地球温暖化などで豪雨の増加が見込まれ、下水道を整備する際の想定降雨量を従来の1.1~1.15倍に増やすことを求める。内水氾濫のハザードマップの基となる浸水想定区域図の作製も促す。」(『日本経済新聞』2021.06.10)
●「オフィスビル仲介大手町三鬼商事(東京・中央)が10日発表した5月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は5.9%と、4月に比べ0.25ポイント高くなった。供給過剰の目安である5%を4カ月続けて上回り、2014年8月以来の水準だった。新型コロナウイルス禍でオフィスの需要縮小が続く。」(『日本経済新聞』2021.06.11)
●「政府は、地域主体の脱炭素化と地方創生の取り組みを両輪で推進するための行程表を9日決定した。今後5年間を集中期間に位置付け、2030年度までの脱炭素化を目指す先行地域を100カ所以上創出する。すべての公共施設に太陽光発電設備を設置するなど、全国展開する重点対策も整理した。国が地方に対し継続的に資金支援する仕組みを構築。対策に必要な人材の確保や技術開発などを後押しする。」(『建設工業新聞』2021.06.11)
●「技術政策の方向性を議論してきた国土交通省の有識者会議が『防災・減災、国土強靭化』や『カーボンニュートラル』に着目した提言をまとめた。政策の方向性としてコロナ禍を踏まえた分散型の国土づくりや地球温暖化対策の強化を新たに設定し、国土強靭化に感染症など自然災害以外の外力を想定する考え方も盛り込んだ。年度内に策定する国交省の次期技術基本計画(2022~26年度)の検討に生かす。」(『建設工業新聞』2021.06.11)

その他