情勢の特徴 - 2021年10月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「2023年10月の『適格請求書等保存方式(インボイス制度)』の導入に向け、10月1日から適格請求書の発行事業者(=課税事業者)になるための登録申請の受け付けが始まった。小規模事業者やその事業者と取り引きのある企業にとっては影響の大きい同制度だが、十分に浸透しているとは言える状況にはない。野党からは新型コロナウイルス感染症による景況悪化を背景に導入延期や改善を求められている。インボイス制度は登録した事業者のみが適格請求書(インボイス)を交付可能にするもので、インボイスの発行を受けることによって取引相手は現状と同じく消費税の仕入税額控除が活用できる。裏を返せば、売り手が発行(課税)事業者でないと、その売り手から仕入れた買い手は税額控除ができなくなるというデメリットが生じる。その意味で、同制度がターゲットとしているのは売上高1000万円未満で消費税の納税が免除されている免税事業者だ。免税事業者はインボイス制度の登録申請によって課税事業者となるからだ。…免税事業者にとっては、課税事業者に転換することで、現在の売上高にかかる消費税分だけのコスト増加となる。本来は納めるべき消費税を“益税”として免れている部分に課すという趣旨ではあるものの、価格交渉力の弱い小規模事業者側に対する10%もの負担増加となるだけに導入には慎重を期すべきだとの声が上がっている。」(『建設通信新聞』2021.10.07)
●「東京商工リサーチが8日発表した2021年度上半期(4~9月)の企業倒産件数は前年同期比24%減の2937件だった。上半期としては1964年度以来、57年ぶりの低水準。政府や金融機関による新型コロナウイルス対応の融贅が資金繰りを下支えしている。…業種別では飲食業が22%減だった。営業時間短縮などの要請に対する協力金が下支えした。宿泊業や飲食料品製造業などの食品関連も減少した。一方、県境を越えた移動の自粛が響き、旅行業は2.7倍に増えた。」(『日本経済新聞』2021.10.09)
●「衆院が14日の本会議で解散し19日公示、31日投開票に向け選挙戦が事実上スタートした。コロナ下での総選挙は、建設産業に関連する視点で国土強靭化やインフラの老朽化に対処するための予算確保、地域の守り手である建設会社を含めた産業政策、経済活性化につながる公共投資などが焦点になりそうだ。各党のマニフェストや政策提言などを見ると、自民、公明両党は防災・減災も含め安定的な投資で安全と成長の両立を訴える。防災・減災やインフラ老朽化対策以外は公共投資に消極姿勢の党もある。」(『建設工業新聞』2021.10.15)

行政・公共事業・民営化

●「内閣府は7月に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流被害を踏まえ、盛り土が原因の土砂災害を対象に防止対策をまとめる。都道府県が実施している総点検の結果を踏まえ、崩落リスクが高いなど『危険な盛り土』で、迅速に安全を確保するための方策を具体化する。現行法令を見直し開発規制の空白を解消。廃棄物混じりの土砂も含め建設発生土の適正処理の在り方も探る。12月ごろに対策をまとめる考えだ。」(『建設工業新聞』2021.10.01)
●「土木学会(谷口博昭会長)は6日、全国約1500市区町村が管理する道路橋の劣化を3段階の色分けで評価した『道路橋の健康状態に関する市町村別評価』を公表した。地域別・県単位ごとに確認が可能。県単位では管内市区町村別の劣化度合いが確認できる。これまで土木学会は2016年から健全状況を評価する『インフラ健康診断』、さらに『インフラ能力診断』、国際比較を行う『インフラ体力診断』を相次ぎ公表してきた。今回の市町村別評価は、『健康診断』を市区町村ごとに見える化させ、インフラの現状とあり方を国民や各自治体に訴求するのが狙い。」(『建設通信新聞』2021.10.07)
●「東京都中野区は、公契約条例案を2022年2月議会に上程することを決めた。24日に予定する事業者との意見交換会を踏まえ、12月議会に条例案のたたき台を示す。中長期的な労働者の確保、災害時の担い手となる区内事業者の経営安定化につなげる考え。元請け・下請け・派遣の労働者や一人親方などの職人を対象に労働報酬下限額を設定する。対象工事は予定価格1億8000万円以上とする見通しだ。新型コロナウイルスの影響により景気が厳しく不透明な状況にあるため、労働環境整備につながる条例制定が必要と判断した。 条例は、工事・委託・指定管理委託を対象とする。委託は予定価格1000万円以上で人件費が大半を占める案件、指定管理委託はすべてを対象範囲とする予定。対象の契約では、労働報酬下限額以上の報酬の支払いを求め、違反した場合には立ち入り調査や不足分の支払いなどの是正措置を求める。是正措置に応じない場合を想定し、契約解除などの罰則措置も規定する考え。労働報酬下限額は公契約審議会を設置して協議する。審議会の構成は事業者・労働者の代表と学識経験者とし、条例制定後、22年7月か8月ごろに設置する予定。労働報酬下限額のほか、条例の運用状況を審議する。」(『建設通信新聞』2021.10.11)
●「国土交通省は13日、市区町村におけるダンピング(過度な安値受注)対策の取り組み状況をまとめ、公表した。前年度と比較すると調査基準価格または最低制限価格の算定式を国基準の最新モデルに改善する動きが進捗した一方、いまだ低い水準の算定式を使用する地方自治体や非公表としている自治体もー定数確認された。同省は一定の発注量がある人口10万人以上で対策に遅れのみられる54団体を対象に個別にヒアリングを実施する。ダンピング対策の実効性を高めるため、市区町村への働き掛けを加速する。」(『建設通信新聞』2021.10.14)

労働・福祉

●「建設キャリアアップシステム(CCUS)登録技能者の就業履歴を現場で蓄積する新たな手法として、携帯電話の発信や顔認証を活用した入退場システムが10月に本格供用を開始する。カードリーダーの設置が難しい中小現場に適したシステムとして国土交通省が現場実証を実施し、CCUS登録拡大につながる効果を確認。実証事業の調査・検討業務を受託したコムテックス(富山県高岡市、後藤敏郎社長)が『キャリアリンク』の名称で1日から展開している。」(『建設工業新聞』2021.10.04)
●「建設産業の労働組合で構成する建設産実労働組合懇話会(建設産労懇、会長・角真也日本建設産業職員労働組合協議会〈日建協〉議長)は9月28日、6月に行った『土曜閉所運動』の取り組み状況と11月に実施する活動の概要を発表した。部門別に変動はあるものの、全体では週休2日の実現に向け着実に前進している。構成団体の取り組み状況を見ると、日建協は2018年度から『4週8閉所ステップアップ運動』を展開。6月は1カ月の総閉所数を作業所数で割った『平均閉所』と、月ごとに異なる土日祝日の日数を補正した『4週8閉所指数』はいずれも6.00。指数は調査開始以来、最高数値となった。…日本基幹産業労働組合連合会(基幹労連)建設部会が6月に実施した土曜閉所運動では8閉所以上が27.0%、6閉所以上は73.9%となり、前回調査(20年11月)から前進した。6月に続きポスターの作製や配布、閉所状況調査による経年変化と閉所状況のチェックを行う。」(『建設工業新聞』2021.10.04)
●「全国建設業協会(奥村太加典会長)は、都道府県建設業協会員の建設キャリアアップシスム(CCUS)の普及に向け、『CCUSモデル工事現場』に関するアンケートを行った。2021年度の調査結果によると、国土交通省を始め、多くの発注機関でモデル工事が試行されていることを背景に、事業者、技能者登録率とも20年度調査から約20ポイント上昇した。一方、カードタッチは低調で、技能者を雇用する企業側のメリットも明確化すべきとの意見が聞かれる。」(『建設通信新聞』2021.10.05)
●「厚生労働省は11日、建設アスベスト(石綿)訴訟の判決で、国の責任を認める司法判断が確定したことを受けた対応の検討に着手した。最高裁判決で規制が不十分と判断され、国が敗訴した争点などを踏まえ、▽一人親方などの安全衛生対策▽有害性の警告表示の義務付け▽集じん機付電動工具の使用義務付け――の3項目について、関係安全衛生法令規定の見直しなどを進める。厚労省は同日、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の安全衛生分科会を開き、安衛法令などの見直しに向けた議論を始めた。今後、分科会で検討を進め、見直し内容を固める。」(『建設通信新聞』2021.10.12)

建設産業・経営

●「『(採算、人材面で)いまの状況が続くと、5年後には除雪作業を辞退せざるを得ない』。全国建設業協会(奥村太加典会長)が地方協会員を対象に行ったアンケートから漏れ聞こえてくる地域建設業者の声は、応急復旧を含む有事対応の弱体化に対する切実さを表す。調査結果でも『5年後には緊急対応に伴う人員が不足している』との見方が4割に達し、気候変動により自然災害が多発・激甚化する中、地域の守り手としての体制維持は切迫感が年々強まっている。全建は各都道府県建設業協会が選定した会員企業(993社)に対し、有事対応の現状と今後の見通しをアンケートした(調査期間7-8月)。発災時の緊急対応に伴う人員は『十分確保している』が8.4%、『必要最低限は確保している』が73.5%で、『不足している』の18.1%を大きく上回る。ただ、5年後については『不足している』が39.4%まで上昇し、その分『必要最低限は確保している』(54.2%)、『十分確保している』(6.4%)が減少する。2020年度に実施したアンケートと集計方法が若干異なるため、単純比較はできないものの、5年後に『不足している』は前年度比で1.3ポイント増加し、危機感が高まっているとみられる。」(『建設通信新聞』2021.10.01)
●「群馬県建設業協会(青柳剛会長)が4日発表したICT施工に関する内製化(自社調達)調査結果によると、ICT施工の実施経験がある企業の約4割は、3次元の起工測量や設計データ作成などの関連業務を全て外注していた。政府は『2025年度までに建設現場の生産性2割向上』という目標を揚げ、i-ConstructionやインフラDX(デジタルトランスフォーメーション)などを推進しているが、現場の大多数を占める地域建設業では、生産性向上の肝となる業務を外注先に頼る構図が鮮明になっている。さらには、利益面のi-Conの“果実”が外注先に流れているとも言える。」(『建設通信新聞』2021.10.05)
●「建設資材の価格上昇が鮮明になっている。セメント最大手の太平洋セメントが6日に値上げ方針を発表。同業他社が追随し、生コン価格に影響する可能性がある。全国鉄構工業協会(全構協、米森昭夫会長)も同日、鉄鋼材料の価格高騰などを踏まえた価格見直しで要請活動を検討すると表明した。世界的な需給逼迫(ひっぱく)による『ウッドショック』の影響を受ける木材関連など、さまざまな建設資材が原燃料や輸送のコスト増を理由に価格を引き上げつつある。受注競争が激化する状況で、建設各社の対応力が問われそうだ。」(『建設工業新聞』2021.10.07)
●「大口径シールドマシンメーカーの再編が10月1日で節目を迎えた。川崎重工業と日立造船がシールド関連事業を統合して『地中空間開発』を設立。20年以上前に6社あった大口径シールドマシンメーカーは2社にまで寡占化した。国内需要が中長期的に減少することが間違いない中、寡占化を余儀なくされた格好で、一足先にグローバル競争に挑んでいたJIMテクノロジーに続き、地中空間開発もグローバル競争に打って出ることになる。」(『建設通信新聞』2021.10.08)
●「全国建設業協会(奥村太加典会長)は、47都道府県建設業協会の会員企業を対象としたSDGs(持続可能な開発目標)に関するアンケートを実施した。約80%がSDGsの趣旨を理解しているものの、その大半が実際の貢献、行動への移行に苦慮している。そのため、2021年内にも大筋の内容を固める『地域建設業SDGs経営指針(仮称)』で、目標達成に向けた企業活動などを明確化。業界だけでなく、地域自体の持続性向上を後押しする。」(『建設通信新聞』2021.10.11)
●「清水建設は13日、日本環境衛生センター(南川秀樹理事長)主催による建築物石綿含有建材調査者講習を、東京都中央区の本社などで開いた。アスベスト(石綿)を巡る法制度改正を踏まえ、より高いレベルで対応できる人材を確保する狙い。2日間の講習後に修了考査を通過すると『一般建築物石綿含有建材調査者』の資格が得られる。今回が初弾で今後も講習を開き約1000人の資格取得を目指す。」(『建設工業新聞』2021.10.14)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「和歌山市は4日、紀の川に架かる『水管橋』と称される上水道用の送水管が崩落したことを受け、川より北の市内約6万戸で断水になったと明らかにした。約13万8千人に影響しているが、市は『復旧の見通しは立っていない』(広報広聴課)としている。尾花正啓市長は同日午前の記者会見で、早期復旧策の具体案を説明。崩落した部分をつなげる方法か、東隣に並行して架かる県道の橋の上に仮の送水管を設ける方法を検討しているとした。壊れた送水管は、市が1975年3月に設置したもので、川の南岸近くにある浄水場から北岸の同市六十谷まで延びる直径約90センチの2本。全長546メートルのうち、川のほぼ中央で約60メートルが落ちた。市によると、法律に基づく耐用年数は48年で、2023年3月に到達することになっていた。市は目視点検を1カ月おきに実施しており、9月の点検で送水管に異常は見当たらなかった。今月3日午後4時すぎ、崩落を確認した。」(『日本経済新聞』2021.10.04)
●「製材や燃料などに使う木材のうち国産材の割合を示す『木材自給率』が2020年は大幅に上昇した。19年比4ポイント増の41.8%と、1972年以来48年ぶりの高水準となった。伸び率も過去最大だ。新型コロナウイルス禍で住宅着工は落ち込み、国が拡大を目指す建築向け製材品の需要は振るわない。異例の伸びの背景には、脱炭素への取り組みの加速に伴うバイオマス発電燃料の需要の増加がある。20年の木材全体の国内生産量は3114万9千立方メートルと0.5%増えた。このうち、製材や合板に使う建築用材の供給量は1581万立方メートルと10.3%減った。『自給率の上昇はイレギュラーな現象。数値ほど、需要の伸びは感じない』。製材品を扱う問屋の営業担当者はこう指摘する。20年の新設住宅着工戸数が81万5340戸と、新型コロナの影響で前の年を9.9%下回った影響が大きい。輸入品の供給量も4329万立方メートルと同15%減った。商社やハウスメーカーが輸入量を大幅に抑えたほかパルプなど製紙原料の需要減も響いた。自給率を押し上げたのは、建設関連とは別の用途だ。バイオマス発電向けなど燃料材の国内生産量が892万7千立方メートルと、同28.8%増えた。国が目指す、国産製材品の供給増によるものではない。」(『日本経済新聞』2021.10.08)

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