情勢の特徴 - 2022年6月後半
●「国土交通省は2022年度のインフラシステム海外展開行動計画を決定した。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきている状況を受け、国交相らによる対面でのトップセールスを本格的に再開。日本企業が持つ高品質なO&M(運営・維持管理)技術を付加価値として前面に出し、中国など価格競争力で勝る競争国に対抗する方針も打ち出した。質の高いインフラ輸出を経済成長のエンジンに位置付け、日本企業向けの支援策を積極展開する。」(『建設工業新聞』2022.06.21)
●「中小企業庁は、3月の『価格交渉促進月間』に関するフォローアップ調査の結果をまとめた。全産業の中小企業の状況をみると、価格交渉は10.0%、価格転嫁が22.6%で未実施だった。前回の同月間(2021年9月)後の調査と比較すると、価格交渉(前回未実施は13.1%)の状況は少し改善したが、価格転嫁(17.3%)の実現状況はやや悪化した。今後内容を精査し、価格交渉・転嫁に後ろ向きな発注側企業への指導・助言を行う方針だ。」(『建設工業新聞』2022.06.24)
●「円預金が『出口』を探り始めた。日銀が27日発表した資金循環統計によると、2021年度末の個人(家計部門)の金融資産は前年度末比2.4%増の2005兆円と年度末で最高だった。過半を占める預金の伸び率が鈍化する一方、投資信託が10%強増えた。物価高と止まらぬ円安進行を背景に、円預金に資金を置き続ければ、実質的に資産価値が目減りする。個人マネーは外貨建ての預金や投資信託に流れ、『貯蓄から投資へ』の山が動く兆しが強まっている。」(『日本経済新聞』2022.06.28)
●「日銀による国債の保有割合が5割を超えて過去最大となった。海外発の金利上昇圧力を受け、長期金利を抑え込むための日銀の国債購入が急増したためだ。中央銀行が発行済みの国債の過半を買い占める異常事態となっている。金利の逆転などゆがみは深まり、市場本来の機能が働きにくい。日銀の政策が歴史的な円安を誘い、それが物価高を呼ぶ矛盾にも直面、緩和長期化の副作用が広がりつつある。」(『日本経済新聞』2022.06.28)
●「国土交通省の外部有識者会議は2021年に中央自動車道で発生した笹子トンネル天井板落下事故から12月で10年を迎えるのを前に、今後のインフラメンテナンスの在り方に関する提言の原案を示した。今後の政策テーマとして『地域インフラ群再生戦略マネジメント』への転換を掲げている。一定のエリア内で多分野のインフラの維持管理を民間委託する『包括的民間委託』の導入などで人的コストを抑え、予防保全型への転換を急ぐ方向性を示した。」(『建設工業新聞』2022.06.17)
●「財務省は、公共工事など政府調達における総合評価方式の入札時に賃上げを表明した企業を加点する取り組みで、加点を得ながら大企業3%以上、中小企業等1.5%以上の賃上げを達成できなかった落札者への減点措置について、取り扱いを明確化する事務連絡を各省庁に通知した。特定非常災害の特別措置を適用する地域の企業や、リーマン・ショック級の経済状況悪化が生じた場合は、未達成でも減点措置を課さない。」(『建設通信新聞』2022.06.27)
●「土木系の技術職員が不足する自治体での災害復旧事業を支援するため、国土交通省は小規模自治体などへの支援内容をガイドラインとしてまとめた。集中豪雨や地震で被災した道路や橋梁などの復旧では、専門知識や経験に基づく対応が求められる。全国的に『土木系職員ゼロ』の町や村は多く、日ごろから制度を周知し早期復旧につなげる。…ガイドライン策定の背景には、深刻な自治体の職員不足がある。総務省の調査によると、土木系の技術職員は00年は18万人を超えていたが、20年は13万人台に落ち込んだ。ゼロの自治体は全国の町の36%、村の76%を占めた。自治体職員は全体でも減っている。00~20年の減少率は総職員数が14%だった。一方、土木系に限ると24%にのぼる。国が近年、行政のスリム化を促しており、各自治体が人員削減を進めてきたことなどが影響している。土木系では『毎年十数人程度募集しているが、待遇のよいゼネコンなど民間に流れ、採用が年々難しくなっている』(近畿地方の県担当者)との声が上がる。」(『日本経済新聞』2022.06.30)
●「国土交通省は、15日に結果を発表した『適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査』の中で、建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録状況も調べた。有効回答だった建設企業1471社のうち、事業者登録をしているのは6割、申請中を含めて自社の技能者を登録しているのは4割となっている。」(『建設通信新聞』2022.06.16)
●「国土交通省は民間工事に特化した工期の実態調査結果を公表した。約1500社の建設企業へのアンケートで、注文者から提案された工期が『(著しく)短い工期の工事が多かった』との回答は30.8%、平均的な休日取得が『4週8休以上』は8.6%にとどまり、工期の厳しさが指摘されながら明るみに出てこなかった民間工事の実情を数字で裏付ける結果となった。工期不足を生産性向上の努力でしのぐ現場も一部あるが、単純な人員増や長時間労働で対応するケースが圧倒的に多かった。」(『建設工業新聞』2022.06.16)
●「登録基幹技能者制度推進協議会(会長・大木勇雄日本建設躯体工事業団体連合会会長)は、登録基幹技能者資格保有者に建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価(レベル判定)申請を促す。登録基幹技能者はCCUSで最高位の『レベル4』の資格要件だが、約8万人の資格保有者のうちレベル4取得者は約4万人にとどまる。レベル別の手当支給など元請会社でCCUSを活用した技能者評価の動きが広まる中、能力評価制度を普及させる重要性を指摘する声が関係者から出ている。同協議会の事務局を務める建設業振興基金の佐々木基理事長が17日にウェブで開かれた2022年度総会で、登録基幹技能者に能力評価申請を働き掛けるよう構成団体らに要請した。」(『建設工業新聞』2022.06.20)
●「国土交通省の『建設工事における安全衛生経費の確保に関する実務者検討会』は27日、安全衛生経費の適切な支払いに向け、実効性ある施策の提言をまとめた。『安全衛生対策項目の確認表と安全衛生経費の内訳明示のための標準見積書の作成・普及』など3点を示している。ワーキンググループ(WG)を設置して確認表の作成から具体の作業に着手し、まずは元下間における安全衛生対策の認識のずれ解消と安全衛生意識の共有を図る。」(『建設通信新聞』2022.06.28)
●「2021年(1—12月)の建設業の労働災害による死亡者数は4年ぶりに増え、休業4日以上の死傷者数も3年ぶりに増加したことが、厚生労働省がまとめた21年の労働災害発生状況(確定値)で分かった。死亡者数は前年比11.6%増(30人増)の288人となった。4年ぶりに増加に転じたものの、3年連続して300人未満は維持した。死傷者数は7.4%増(1102人増)の1万6079人だった。15年から6年続いた1万6000人未満が途切れた。建設業の労災発生数は、中長期的に減少傾向が続いていたものの、その減少傾向に歯止めがかかったといえる。」(『建設通信新聞』2022.06.29)
●「国土交通省は建設キャリアアップシステム(CCUS)登録技能者の賃金実態を調査し、CCUSの能力評価制度で最上位となる『レベル4』の技能者の賃金が相対的に上昇していることが分かった。『レベル1~3』の技能者の平均賃金と比べると、2021年10月時点でレベル4の平均賃金は13.85%高かった。賃金差は1年前より2.67ポイント広がっており、能力や経験に応じた賃金支払いが着実に浸透してきたとの見方ができそうだ。」(『建設工業新聞』2022.06.29)
●「建設産業専門団体連合会(岩田正吾会長)は16日、東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で第21回通常総会を開き、2022年度事業計画・予算などを審議、承認した。外国人技能実習生の共同受入事業と、それに関連する職業紹介事業を新規実施するために定款を改正。会員の海外進出基礎を作り、職場の活性化や国際親善の発展などにつなげる。」(『建設通信新聞』2022.06.17)
●「中央建設業審議会は、21日に開いた総会で、公共工事標準請負契約約款と民間建設工事標準請負契約約款(甲)の改正を決定した。危険な盛土の発生を防ぐため、公共と民間の両工事を対象に、建設発生土の搬出先を仕様書で明確化することを公共約款と民間約款(甲)に追加した。公共約款では、発注者が契約を解除できる暴力団排除規定の対象も拡大した。同日付の施行を勧告している。」(『建設通信新聞』2022.06.22)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)は、建設業界として取り組むべきカーボンニュートラル(CN)対策を先導するため、いつまでに何をすべきかを示す『ロードマップ』を作る。国や建機業界などの議論の進ちょくにもよるが、日建連としては2022年度内の作成を目指す。温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的基準『GHGプロトコル』の排出量区分のうち、各社が主体的に取り組めるスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)と、スコープ2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)については数値目標も設定する方針だ。また、発注者側からの要求の高まりも踏まえ、建設時CO₂排出量の標準的な算定方法の検討にも乗り出す。」(『建設通信新聞』2022.06.23)
●「建設資材の価格高騰を契機に、受発注者間の適切な価格転嫁に向けた議論が熱を帯びてきた。21日の中央建設業審議会(中建審)総会で、受注者側の元請団体が請負金額の変更が認められないケースが多い民間工事契約の改善を求めると、発注者側の不動産業関係者からはビル賃料などが伸び悩む中で価格転嫁の難しさを指摘する声が挙がった。価格高騰リスクを受発注者間で分担する在り方が必要とされており、国土交通省は中建審での継続的な議論を呼び掛けた。」(『建設工業新聞』2022.06.23)
●「土木学会は、建設マネジメント委員会(加藤和彦委員長)の中に『地域建設業調査研究小委員会』を設置した。地域建設業の役割と技術者教育について調査研究する。小委員長には今西肇和合館工学舎学舎長が就いた。これを受け、『地域建設業の役割と今後の方向性について』をテーマとした第1回の『和合館東京フォーラム2022』を7月7日に東京都文京区の同工学舎東京事務所で開く。土木学会では公共政策や大手ゼネコンが関わる分野の研究が進められることが多く、地域建設業に焦点を当てて、研究した事例は少ない。今回、小委員会を設置して、地域建設業の役割と技術者教育について本格的に研究を始める。地方自治体とともに地域の建設企業の経営的視点から調査研究を進め、10年後の地域社会に根付く建設業の在り方を探る。地域建設業の生産性向上と働き方改革や官民連携によるまちの経営、産・官・学・金融を含む地域連携の国内外の事例調査、リカレント教育を中心とした技術者教育などについて研究する。」(『建設通信新聞』2022.06.24)
●「2021年夏に開催された東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会は21日、最終的な大会経費の総額が1兆4238億円になったと発表した。うち東京都と国による公費負担は総額の55%を占め、計画段階から2倍近くの7834億円に上った。経費が膨らむ五輪の構図が改めて鮮明になった。大会組織委員会は6月末に解散となり、東京五輪はすべて幕を下ろす。…理事会で最終報告された経費は、スポンサーや国際オリンピック委員会(IOC)などからの出資を受ける組織委と、東京都、国の3者で負担した。招致決定前の12年に示された経費は計7340億円。それが最終決算では1兆4238億円と2倍になった。うち公費による負担は4327億円から7834億円と1.8倍になった。公費以外は組織委が拠出している。費用が膨らんだ要因は主に2つ。1つは競技会場の整備費が大幅に上振れしたことにある。例えば、1569億円を投じた国立競技場は計画段階で実際の建設費より約270億円低く見積もられていた。そのほかの新規施設も計画段階から建設費が増大している。…2つ目は想定外の環境変化による負担の増加だ。資材価格の高騰や新型コロナウイルスの感染対策などの費用が生じた。特に感染対策費は選手への検査など353億円にのぼったという。新型コロナ感染拡大による大会の1年延期で組織委は会場の賃貸料や人件費などが追加で発生すると予測し、20年12月時点で経費は1兆6440億円になる見通しを示した。大会で訪日する関係者の見直しなどを進めた結果、閉会後の21年12月時点の経費の見通しは1兆4530億円となり、最終経費はそこからさらに292億円が圧縮された。借りていた会場の原状回復工事が想定より安く済んだことが主な理由という。組織委の解散後、大会に関する資料などは東京都が引き継ぐ。東京都立大の舛本直文客員教授(オリンピック研究)は『都は支出の妥当性を精査して、都民や国民への説明をしていくことが、今後必要になってくる』と指摘する。また、収入面では新型コロナの感染拡大の影響でほぼ無観客開催となり、見込んでいたチケット収入の900億円が得られなかった。」(『日本経済新聞』2022.06.22)
●「改正建築物省エネ法は13日の参院本会議で可決、成立した。同法に加え▽建築基準法▽建築工法▽住宅金融支援機構法―なども一体改正。一部規定を除き公布後3年以内に施行する。建築物の省エネ基準は『1次エネルギー消費量基準』と『外皮基準』の二つで構成する。…現在の適合義務対象は延べ300平方メートル以上の非住宅。25年度以降は一戸建て住宅やマンションなども含む、原則全ての新築に拡大する。ただ▽仮設建築物▽延べ10平方メートル以下の建物▽居室を持たない建物▽文化財―の四つは適用除外。仮設建築物には建設現場に設置する仮設事務所や応急仮設住宅などが含まれる。国土交通省によると、前回の建築物省エネ法改正に伴い、20年度に省エネ基準適合義務対象になったのは新築着工棟数ベースで約1万4000棟だった。25年度以降に広げる適合義務対象を20年度の新築着工に当てはめた場合、適合義務対象は約45万9000棟となり30倍以上に急拡大する。…省エネ基準適合義務対象の拡大に伴い、多くの中小建設事業者や設計会社が新たな対応を迫られる。国交省によると、省エネ基準への適合可否を自ら判断できる建築士事務所の割合は昨年2~3月時点で5~6割程度だった。9割以上の建築士事務所が義務対象の拡大を受け何らかの対応を準備しているという。省エネ基準の適合審査は建築基準法で定める建築確認と併せて実施することになる。そのため審査を担当する地方自治体や指定確認検査機関の側の体制整備も必要。国交省は審査事務を合理化し円滑な運用を後押しする。具体的には断熱性能や開口部比率などで設計上の数値を確認すれば、適合可否を判断できるようにする。複雑な計算を伴う『省エネ基準適合性判定』の書類作成は求めない。同省は25年度からの義務対象拡大に先立ち、本年度から国の補助金を使う全ての新築物件に省エネ基準適合を義務化した。住宅金融支援機構の住宅ローン『フラット35』を活用する場合の要件にも基準適合を加えた。」(『建設工業新聞』2022.06.24)
●「マンションの区分所有者で、所在不明の人が増えている。空室の割合さえ確認できない管理組合もあり、管理費の滞納で建物の維持や保全が難しくなるほか、建て替えといったマンションの重要な決議に必要な賛成が集められなくなる。国は対策として不明な所有者を決議から除外する『強硬策』の検討を始めた。…マンションの空室に関する全国調査は18年度の国土交通省のものが最新だが、この時点で既に約30%に空室があり、4%弱は所有者の所在なども不明だ。…通常、マンションは新築から時間が経過するほど所有者が高齢化し、介護施設への入所や別居する子供らへの相談などで空室が生じやすくなる。管理組合は非居住所有者との接触に十分な人手を割けず、所在が把握できなくなる例が多い。不明な所有者が増えると、まず管理費や修繕積立金の滞納で組合の財政が悪化する。重要項目を決める決議にも支障が生じる。マンションの意思決定は区分所有者の多数決によると定められている。決議は重要事項ほど『4分の3以上』『5分の4以上』など高い賛成割合が求められる。現行ルールでは不明所有者も賛成割合を判断する分母に含まれる。コンドミニアム・アセットマネジメント(東京・中央)の渕ノ上弘和代表は『共用部の変更や建て替えなど賛否が拮抗する重大決定では、不明な所有者がある程度の規模に達すると、決議はほぼ不可能な状態に陥る』と話す。…対策は法務省、国交省も加わる有識者研究会で議論が進む。不明な所有者をマンションの決議の分母から除外する内容だ。実現すれば、所在がわかっている所有者の間だけで一定の賛成を集めることで意思決定が進む。不明の所有者の権利保護にも配慮し、裁判所など公的機関の関与の下で除外する方向だ。」(『日本経済新聞』2022.06.29)