情勢の特徴 - 2022年9月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「財務省が1日発表した4~6月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比17.6%増の28兆3181億円だった。前年を上回るのは6期連続で、利益額は過去最高となった。原材料高や部品などの供給制約が事業の重荷となっているが、新型コロナウイルス禍からの経済・社会活動の正常化で業績回復が進んだ。」(『日本経済新聞』2022.09.01)
●「円安が止まらない。1日のニューヨーク外国為替市場で一時、1998年8月以来24年ぶりに1ドル=140円台を付けた。米連邦準備理事会(FRB)が歴史的なペースで利上げを進めるなか、日米金利差の拡大を受け、今年に入って25円も円安が進んだ。日本の経済構造は変化し円安の景気浮揚力は衰えた。円安と向き合い、日本経済をどう活性化させるかが問われる。…今年の円の下落率は18%に迫った。下落率の大きさは1979年(19%)以来、43年ぶりで73年の変動相場制移行の後では2番目だ。インフレ退治のために景気後退を覚悟の上で利上げを進めるFEBに対し、日本は日銀が金利を低く抑え込んでいる。日米金利差を受け円売り・ドル買いが勢いを増す。円安は企業収益の増加や日本経済の活性化につながりにくくなっている。大和証券によると、対ドルで1円円安が進んだ場合、22年度の主要上場企業の経常利益を0.4%押し上げる。約20年前は0.7%程度の押し上げ効果だった。大和の阿部健児氏は『08年の金融危機後の円高への対策で、輸出から海外生産に切り替える企業が増えた』と指摘する。…円安が輸出を促進する効果の弱まりは足元で顕著だ。円相場と輸入・輸出の関係を調べたところ、1ドル=80円台の円高局面から140円台まで円安が進んだ1995~98年は1円の円安が貿易黒字を年換算で970億円拡大させた。テレビや自動車などの輸出数量が増えたためだ。だが11~15年の円安局面では約160億円、赤字方向に傾くようになった。企業の海外生産が進み円安でも輸出は増えにくくなった。東日本大震災後にエネルギー輸入が増えたことも影響した。16年の円高局面から足元の期間では、1円の円安が約7000億円の赤字拡大につながる計算だ。幅広く資源価格が上昇した分を輸出価格に転嫁できず交易条件は悪化している。新型コロナウイルスによる制限で円安でも訪日外国人(インバウンド)が増えないのも日本経済にはマイナスだ。国内の設備投資を増やす効果も減った。ゴールドマン・サックス証券によると、20年前には10%の円安が設備投資を1.7%押し上げていたが、足元では1.1%まで低下した。」(『日本経済新聞』2022.09.02)
●「政府の2023年度予算の概算要求で、一般会計の公共事業関係費を計上している6府省が、合計で7兆2722億7300万円を要求・要望していることが分かった。『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』関係経費は、要求額を示さず予算編成過程で検討する『事項要求』とした。府省ごとの要求・要望額は、内閣府が1211億9000万円、農林水産省が8213億円、厚生労働省が168億4900万円、経済産業省が34億8000万円、国土交通省が6兆2442億6900万円、環境省が651億8500万円となっている。」(『建設通信新聞』2022.09.02)

行政・公共事業・民営化

●「政府は2日、厚生労働省が所管する水道行政の大部分を国土交通省、一部を環境省に移管させることを決めた。新型コロナウイルスの影響で増え続ける厚労省の業務負担を減らす。受け入れる国交省では新たに専門の部局を設けるのではなく、現在の水管理・国土保全局下水道部を改組し対応する案が浮上している。厚労ら3省は2023年の通常国会に各省の設置法改正案や水道法改正案などを提出。24年4月からの新体制移行を目指す。」(『建設工業新聞』2022.09.05)
●「加速度的に老朽化が進むインフラのメンテナンスに高い関心を持つ市区町村長が集まり、4月に設立したインフラメンテナンス市区町村長会議(代表幹事・高橋勝浩東京都稲城市長)の活動が、一部のブロックで始まっている。ブロック単位の活動を基本とし、2022年度内に全9ブロックで具体的な取り組が開始する見通し。トップダウンによるインフラメンテナンスの推進に向け、まずは知見の共有や意識の向上などを図る。」(『建設通信新聞』2022.09.06)
●「国土交通省は先月設置した有識者会議『持続可能な建設業に向けた環境整備検討会』で、建設業者や不動産業者など受発注者双方のヒアリングを始めた。建設資材の価格変動や重層下請構造の弊害是正、技能労働者の処遇改善といった課題で異なる立場から意見を聴取し、打開策を探る糸口にする。深刻化する資材高騰を巡っては多くの建設会社が民間工事の問題点に言及。受注後は価格交渉のテーブルにも着けず、一部の下請は材料高騰分を労務費の圧縮で対処しているとの実情も寄せられた。」(『建設工業新聞』2022.09.06)

労働・福祉

●新型コロナウイルス禍の中で2021年、外国人技能実習生の失踪者が3年ぶりに増加に転じた。出入国在留管理庁の資料で明らかになった。外国人技能実習生の在留者数は19年の41万972人から20年の37万8200人、21年の27万6123人へ2年連続で減少。一方、失踪者は18年の9052人から19年の8796人、20年の5885人へ2年連続で減少したものの、21年には7167人と3年ぶりに増加へ転じた。在留者が減少する一方、失踪者が増加して、在留者に対する失踪者の割合が20年の1.56%から21年の2.60%へ急増した。(『しんぶん赤旗』2022.09.01より抜粋。)
●「政府は組織に属さずフリーランスとして働く人を下請法の保護対象に加える調整に入った。一方的な契約変更や買いたたきといった不公正は取引から守る。2023年の通常国会への関連法案の提出を目指す。下請法は発注者が優越的な立場を利用して不利な取引を迫らないように取り締まる法律だ。禁止行為が明らかになれば、公正取引委員会が発注者に是正するよう勧告、指導ができる。現行法では発注者側が資本金1000万円超の企業であることが要件だ。資本金1000万円以下の小規模な事業者は取り締まり対象にならない。法を改正し、下請けが個人事業主の場合は『資本金1000万円以下』の発注者も対象に加える方針だ。フリーランスの定義を明示することも検討する。」(『日本経済新聞』2022.09.05)
●「4月に入社した新卒社員のうち、約半数が10年以内の退職を考えていることがマイナビの調査で分かった。今後の勤続予定年数を働きがいの有無でみると、働きがいが『ない』と回答した人は『1年未満』や『3年以内』での退職を考える傾向が強い。働きがいが入社後の勤続年数に影響を与えるようだ。調査はインターネットで6月17~20日に実施した。有効回答数は800人で、年齢は22~23歳。内訳は男性が400人、女性が400人だった。入社後の勤続予定年数に関する質問では『3年以内(で退職予定)』が28.3%で最も多く、次いで『わからない』(22.6%)、『定年まで』(18.5%)と続いた。『3年以内』から『4~5年くらい』『6~10年くらい』までを合計した10年以内の割合は51.0%と半数を示した。」(『建設工業新聞』2022.09.06)
●「国土交通省は、直轄土木工事における週休2日(4週8休)の2021年度実施状況をまとめた。週休2日対象工事の公告件数は7492件で、その97.4%に当たる7300件で週休2日の取り組みが受注者によって実施された。実施率が9割を超えるのは初めてで、前年度に比べて8.9ポイント上昇した。発注類型別では、発注者指定方式の割合が受注者希望方式を上回った。」(『建設通信新聞』2022.09.09)

建設産業・経営

●全建総連は、コロナ禍における建材・設備の価格高騰・納期遅延について、今年2回目の工務店アンケート調査の結果をまとめた。資金繰りへの不安が4割から6割に増加するなど深刻さが増している。調査は、1回目の3月11日~4月15日に続き、6月23日~7月31日に実施。36都道府県1075社(従業員4人以下が87.7%)が回答した。工事原価が1年前より「上がった」「かなり上がった」とする回答の合計が、97.4%となり、1回目の96%から増加。見積価格への影響は、97.8%で1回目97.6から高止まりだが、さらに「大きな影響」との回答内訳が66.8%となり、1回目58.8%から8ポイントも増加した。値上がり率20%以上は、新築で47.1%(1回目44.2%)、リフォーム37.4%(同33.1%)にのぼり、価格転嫁できず一部または全部を自社負担としたのが57.8%(同59.7%)だった。住宅設備の納期遅延は、給湯器の納品まで平均62.3日(同66.7日)、最大日数270日(同240日)で改善されていない。「資金繰りが心配」との回答は、60.5%(同41.3%)、「すでに資金繰りがひっ迫」は17%(同16.7%)となった。制度・政策要望では、国産木材の安定供給・利用支援が68.1%、税負担の軽減が57.6%、消費者向け補助金が46.6%と続いた。(『しんぶん赤旗』2022.09.07より抜粋。)
●「斉藤鉄夫国土交通相と建設業4団体のトップは7日、公共事業の予算や建設業の賃金引き上げなどをテーマに意見交換した。公共事業の担い手である建設業の施工余力に問題がないことを確かめるとともに、前回(2月)の意見交換で申し合わせた『2022年はおおむね3%の技能者の賃金上昇を目指す』とする目標の実現に向けて官民一体で取り組むことを再確認した。」(『建設通信新聞』2022.09.08)
●「国土交通省の『持続可能な建設業に向けた環境整備検討会』(座長・楠茂樹上智大法学部教授)は8日、資材価格の変動に対応しやすい請負契約の在り方などをテーマに、民間工事の発注者をヒアリングした。国交省によると、不動産業界の発注者は、民間工事と公共工事で請負金額設定の考え方が異なるため、資材価格の変動に応じた請負金額の変更は現行の契約方法で困難との見解を示した。不動産協会の会員であるデベロッパー2社と、運営しているECサイトの商品を保管する倉庫の内装工事などを分離発注している外資企業1社を招き、ヒアリングを実施した同日の第3回会合は、冒頭部分以外を非公開で開いた。国交省によると、デベロッパーからは、民間工事が総価請負契約を前提としているため、公共工事で実施しているスライド条項の導入は『制度上、整合しない』との発言があった。元請けが物価変動などのリスクを負うことを織り込んで総価請負契約になっていることと、民間工事が公共工事のように実勢価格から設定した単価を積み上げて請負金額を決める方法ではないことの2点を発言の根拠に挙げたという。」(『建設通信新聞』2022.09.12)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「全国の大規模な建築物の耐震化の遅れが目立っている。2021年4月時点で約1100棟が震度6強以上の地震で倒壊する恐れがある。いずれも40年以上前の旧耐震基準に基づいて建てられ、商業ビルや宿泊施設などでは改修費用の捻出や営業・利用との両立が壁となっている。関東大震災から1日で99年。100年の節目が近づく中、大地震への備えが求められている。旧耐震基準は震度5強程度の想定で、1981年に震度6強~7程度でも倒壊・崩壊しないよう規定が強化された。2013年に施行した改正耐震改修促進法は不特定多数が利用する旧基準に基づく大きな建築物を『要緊急安全確認大規模建築物』と定義。所有者に耐震診断を求め、自治体は結果を公表している。改修工事は義務づけていない。都道府県を通じて国土交通省がまとめた資料によると、21年4月時点で、要緊急安全確認大規模建築物1万1026棟のうち、震度6強以上で倒壊や崩落の危険性が『高い』または『ある』と診断された建物は1109棟あった。18年4月時点の約1700棟と比べて減ったが、なお1割を占める。国交省への取材によると、1109棟は多い順に『店舗・宿泊施設等』、『医療・福祉施設』、学校などの『文教施設・体育館』、保健所など行政の『庁舎等』の4区分に分けられ、店舗・宿泊施設等が約6割を占める。…耐震化が進まない主な要因は費用だ。国などは大規模建築物への耐震改修の補助制度を設けているが、割合は最大の場合で約3分の2。補助を受けても事業者側の負担額は多くの場合で億単位に上り、大きな負担となっている。」(『日本経済新聞』2022.09.02)
●「2023年、住宅総数が世帯数に対し、約1000万戸も余る時代が到来する。かつての住宅不足の解消を目指す政策が人口減少社会でも維持されてきたことで、家余りがさらに深刻になる。すでに約849万戸ある空き家問題が一段と拡大しかねない危機に直面している。総務省の住宅・土地統計調査によると日本の住宅総数は18年時点で約6241万戸で、野村総合研究所は23年に最大6546万戸へ増えると見込む。13~17年度は住宅の取り壊し(除却)が速いペースで進んだとみられるが、『除却が08~12年度水準に低下すると住宅過剰は一気に顕在化する』(同社の大道亮氏)。国立社会保障・人口問題研究所は、23年は日本の世帯数が5419万とピークを迎え、減少が始まる節目とみる。人口が減っても長寿化や生涯未婚率の上昇から一人暮らしが広がり、世帯数だけでは増えてきたが、転機が訪れる。京都大学建築学専攻の三浦研教授は『2000万、3000万と住宅の余剰が積み上がりかねない』と警鐘を鳴らす。戦後から1960年代まで深刻な住宅不足に悩んだ日本は、立法措置まで講じて住宅新築を進めた。その結果、73年には全都道府県で住宅不足が数字上は解消したが、年百数十万戸の高水準の新築が2000年代まで続いた。三浦氏は『高度成長の残滓(ざんし)だ。人口減が推計されても新築中心の住宅産業を育成する経済政策は大きくは変わらなかった』と指摘する。野村総合研究所は23年を境に空き家も急増すると見込む。除却水準が低下した場合、2038年に空き家は約2303万戸に達する。需給が緩むうえ、『質より量の供給』を続けたツケも大きい。…では、人口減時代の家余りにどう対応すればいいのか。解は大きく2つある。ひとつは既存住宅の有効活用だ。京大の三浦氏は『既存住宅を評価する意識が根付いている欧米と異なり、日本では既存住宅中心の流通に急転換することは簡単ではない』とする一方で、『日本では一部の高齢者や一人親世帯が住宅確保に苦労する例がある』と指摘。『行政の内部で住宅と福祉など各分野で情報が共有されない。縦割りの解消が進めば既存住宅の活用の余地はまだある』と分析する。もうひとつは解体だ。野村総合研究所の大道氏は『解体など新分野でも産業育成を進めるべきだ』と話す。例えば、解体工事会社と空き家の所有者をマッチングするクラッソーネ(名古屋市)は1万件以上の成約実績を持つ。21年には蓄積データを分析し、解体費用を算出するシミュレーターの自治体への提供も始めた。国土交通省の支援事業に2年連続で選ばれ、約30の自治体が導入している。」(『日本経済新聞』2022.09.04)
●「国土交通省は、新たな国土形成計画(全国計画)の中間取りまとめで示した重点取り組みの推進に向けて2023年度から調査に乗り出す。地域生活圏など4分野についてモデルケース策定や実現可能性に関する調査を実施する。23年度予算の概算要求に関連事業の費用を盛り込んだ。7月に公表した中間取りまとめでは、持続可能な国土形成に向けた課題解決への重点取り組み分野として、▽地域生活圏▽新たな大都市圏▽産業再配置▽国土の適正な利用・管理――の四つを示した。官民共創やデジタル活用などで人々の安心した暮らしを目指す地域生活圏の形成に向けてはモデルケース策定のための調査を実施する。地域の人流データを基に活動範囲を可視化した上で地域特性ごとにパターン化し、医療・介護、買い物など機能ごとの活動範囲の傾向やデジタル活用による対応策などを整理してモデルケースをまとめる。」(『建設通信新聞』2022.09.08)
●「東京都は2025年4月から、都内で新築する戸建て住宅に太陽光パネル設置を義務化する方針を固めた。12月の都議会に関連条例の改正案を提出。条例可決後、2年間の周知期間を経て施行する。事業所や工場など一定規模の新築物件に設置を義務付ける例はあるが、戸建て住宅を対象とするのは全国初となる。9日に条例改正に向けた基本方針を発表する。開始時期のほか、設置義務を負う住宅メーカーや工務店への支援方針を盛り込む。設置ノウハウの蓄積や技術者の確保などの面で支援を検討する。太陽光パネルの設置義務化は小池百合子知事が21年秋に表明し、有識者らの検討を経て詳細な制度設計を詰めている。都の制度案では、義務化の対象は住宅を購入する都民ではなく、住宅を販売する戸建て住宅メーカーとしている。都は都内で事業展開する戸建て事業者のうち、供給棟数の多い上位50社程度が対象になると想定している。」(『日本経済新聞』2022.09.09)

その他