情勢の特徴 - 2022年10月後半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「円が1ドル=150円台と32年前の水準に下落した。バブル経済崩壊後の日本経済の地盤沈下を映す。金融緩和に依存し、問題を先送りしてきた現状に円安が警告を発している。…ゴールドマン・サックス証券は、1982年から20年度までおよそ40年間のデータを使い、労働者の給与全体の8割弱を占める所定内給与がどのような要因で決まるかを分析した。企業が今後5年間の日本経済の成長率をどうみているかについての内閣府のアンケート調査やインフレ率、企業の経常利益伸び率など5項目について調べた。最も寄与度が大きいのは今後5年間の期待成長率で、1ポイント上がると給与が0.6%増える関係がみられた。物価上昇率は1ポイント上がっても給与は0.1%強しか増えない。『所定内給与は固定費となるため、企業は将来の成長に自信がないと賃上げをしない』(ゴールドマンの馬場直彦チーフ・エコノミスト)」(『日本経済新聞』2022.10.22)
●日本経済の構造は過去20年ほどの間に大きく変わった。国内生産が衰退し、貿易赤字が拡大した。とりわけ深刻なのが、かつて輸出産業の花形だった電気機器製造業の落ち込みだ。…低賃金・低税率を求めて世界を飛び回る多国籍企業の競争の中で、日本の製造業は空洞化した。国内の賃金は低迷して内需が冷え込み、内需産業も縮小再生産を余儀なくされた。(『しんぶん赤旗』2022.10.27より抜粋。)

行政・公共事業・民営化

●「緊急をうたう政府の経済対策が恒例行事になり、通常の当初予算で計画する事業の付け替えなどで規模を積み上げる動きが繰り返されている。背景には予算を消化できずに翌年度に繰り越し、経済効果を求めて予算を上積みする慣行がある。新型コロナウイルス禍で政府の裁量で使える予備費が兆円単位と巨額になり、財政規律の緩みに拍車がかかりかねない。…事業の中身よりも支出額を優先する『規模ありき』経済対策になれば、緊急性がなく、効果が見込みにくい事業が紛れ込みかねない。この数年、コロナ対策などとして巨額の経済対策が常態化したが、狙った通りの経済効果が出たかは疑わしい。…繰越額はいまも執行し切れずに滞留している可能性がある。日銀の資金循環統計によると、政府預金は6月末時点で44.7兆円と、コロナ感染拡大前の20年3月末より16兆円多い。地方公共団体も51.1兆円と10兆円以上多い。巨額の経済対策のために補正予算を組むものの、使い切れずに通常予算の財源となり、本来、継続的に実施すべき事業の付け替えが相次ぐ。そんな連鎖の一因が規模優先で膨張しがちな経済対策といえる。」(『日本経済新聞』2022.10.19)
●「政府が28日に決めた経済対策はまた雪だるま式に規模が進んだ。財務省が26日に25兆円強の対策を示すと自民党から『国難に耐えられない』との声が上がった。党幹部から増額を求められ、財務省内では『積み上げリスト』が出回った。土壇場で『ウクライナ情勢のための予備費』を創設するなどし、一晩で4兆円もの予算をあっさりと積み上げた。低金利のもとで国債を増発して年度内に使いきれない規模の経済対策をまとめ、予算や事業を繰り越すケースが続く。実効性のある対策をピンポイントに講じられていない裏返しといえ、低金利の恩恵を政府が最も受けているかのように映る。野村総合研究所の木内登英氏は『低所得者対策や「人への投資」など重要で緊急の項目に絞るべきで、規模ありきの対策は通貨安やインフレをむしろ助長させる』と話す。…危機時の公的支援は重要だ。ただ、厳しい財政状況の中でひねり出すわずかな財源は一律のばらまきではなく、本当に支援が必要な家庭や中小企業に向けたり、成長につながる投資を企業に促したりする必要がある。先進国で唯一、低金利依存から抜け出せず、見かけの対策規模への固執が続く日本。リスキリング(学び直し)支援などによる労働市場の流動化や生産性向上、脱炭素促進といった実効性のある成長策を進めることが求められている。」(『日本経済新聞』2022.10.29)

労働・福祉

●「厚生労働省が検討している医療保険制度改革案の概要が分かった。75歳以上の後期高齢者について高所得層を中心に保険料を引き上げ、現役世代からの拠出金負担を抑える。支払い能力に応じて負担を求める観点から、大企業の健康保険組合にも負担増を求める。高齢化で医療費の増加が見込まれており、制度の持続性を高める。…改革案の柱は主に3つある。1つ目が75歳以上の後期高齢者の保険料引き上げだ。後期高齢者の医療費は患者の窓口負担を除くと、1割が自身が払う保険料、残りの4割を現役世代の拠出金、5割を公費で賄っている。年収およそ900万~1000万円より多い人が対象になっている保険料の年間上限額を現在の66万円から引き上げる。その水準以下の中・高所得層の保険料引き上げも検討し、現役世代の負担割合を抑える。2つ目の現役世代の負担のあり方の見直しだ。現役世代は65~74歳前期高齢者医療を支えるため健康保険組合などから3.6兆円を拠出している。その算定を加入者の給与水準を加味した方法に変える。後期高齢者への拠出は既に似たような算定に見直している。平均収入が高い大企業の健保は負担増となり、給与水準が低い健保組合や、中小企業が主な加入対象の全国健康保険協会(協会けんぽ)は負担が減る。」(『日本経済新聞』2022.10.16)
●「リクルートが17日発表した三大都市圏(首都圏、東海、関西)の9月のアルバイト・パート募集時平均時給は、前年同月比31円(2.8%)高い1414円だった。過去最高は2カ月連続。新型コロナウイルス禍からのリオープン(経済再開)や10月からの最低賃金の引き上げといった制度変更に対応する動きが平均時給の上昇につながった。」(『日本経済新聞』2022.10.18)
●「関東地方整備局や関東1都8県の自治体らで構成する関東ブロック発注者協議会は18日、改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)を踏まえた2021年度の数値指標調査結果を公表した。…21年度調査では、週休2日対象工事の実施が、前年度調査と比べ34ポイント上昇し78%となった。地域平準化率は1ポイント改善して72%、低入札価格調査基準または最低制限価格を設定している機関は2ポイント上昇し90%といずれも若干改善した。」(『建設工業新聞』2022.10.19)
●「派遣社員の需要が一段と強まっている。人材サービス大手のエン・ジャパンがまとめた9月の平均時給は、全7職種のうち営業・サービスやIT(情報技術)など4職種で過去最高となった。慢性的なデジタル人材の不足に新型コロナウイルス禍からのリオープン(経済再開)に伴う全国旅行支援の対応業務などの人材需要が重なり、専門スタッフを求める動きが活発だ。エン・ジャパンが19日発表した9月の派遣社員の募集時平均時給は、三大都市圏(関東・東海・関西)で前年同月比4円(0.2%)高い1627円だった。同社の求人情報サイト『エン派遣』の情報をまとめた。平均時給は8カ月連続して全7職種で前年同月を上回った。『営業・販売・サービス系』『IT系』『クリエイティブ系』『医療・介護系』の4職種で最高となった。」(『日本経済新聞』2022.10.20)
●「厚生労働省が20日にまとめた2022年1-9月の労働災害発生状況(速報、10月7日時点)によると、建設業の死亡者数は、前年同期比(前年同時点比)4.9%増(9人増)の192人となった。また、建設業の休業4日以上の死傷者数は1万1299人で6.9%増(725人増)だった。死亡者数、死傷者数とも前年同期比を上回っている。…建設業の死傷者事故別人数は『墜落・転落』が26.8%を占める3024人、『その他』が1849人、『転倒』が1132人、『はさまれ・巻き込まれ』が1130人、『飛来・落下』が856人、『切れ・こすれ』が844人などとなっている。前年同期と比べ、『その他』が983人、『転倒』が48人、『はさまれ・巻き込まれ』が46人それぞれ増えた。一方で、『墜落・転落』は191人減った。『その他』のほとんどは新型コロナウイルス感染者で、厚労省によると95.9%の1773人が業務中での感染者という。建設業での新型コロナ感染者数は、死傷者数のうち15.7%を占めている。」(『建設通信新聞』2022.10.21)
●「働く人の賃金への分配が滞っている。財務省の法人企業統計をもとにした民間試算で、2021年度の労働分配率は62.6%と前年度から5.7ポイント低下した。バブル景気で企業の利益が伸びた1990年度以来の低水準だった。利益を内部留保や配当に回る企業の姿勢が影響している。物価高が続く中、賃金への十分な還元がなければ個人消費を下振れさせかねない。…分配率はSMBC日興証券の丸山義正氏が法人企業統計の年次調査をもとに推計した。…21年度の労働分配率は1990年度(61.9%)以来の低さだった。税引き前利益は2020年度比で58%増の78兆円と過去最高を更新したが、人件費は206兆円と6%増にとどまり、低下につながった。丸山氏は『労働者への分配は増加の方向にはない。企業は賃金引き上げも進めていく必要がある』と話す。分配率はバブル崩壊後の1990年代に上昇し、2001年度に78.6%とピークをつけた。その後は増減を繰り返しながら低下傾向にある。バブル後の『雇用、設備、債務』の3つの過剰に苦しんだ企業は00年代に入って債務圧縮にメドをつけ、収益力を回復させてきた。21年度に税引き前利益は00年度の3.8倍に増え、内部留保にあたる利益余剰金は480兆円(持ち株会社を除く)と2.5倍に膨らんだ。この間、人件費は1%しか増えていない。」(『日本経済新聞』2022.10.30)
●「東京労働局の辻田博局長が28日に東京都内で記者会見し、2021年度に実施した長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表した。建設業は206事業場が指導対象となった。うち159カ所で、長時間労働などの労働基準関係法の違反があった。経済活動が再開し、全体の指導件数は20年度から増えたが、建設業は指導件数、違反数ともに20年度を下回った。」(『建設工業新聞』2022.10.31)

建設産業・経営

●「資材価格高騰に対応した請負金額の変更が難しい民間工事の現状に対し、国土交通省が関連法令を踏まえた見解をまとめた。実際の契約書に価格変動を理由とする請負金額変更や受発注者協議を認めないと記載していても、『明示的に協議しない場合』などには『優越的地位の乱用として問題になる恐れがある』と公正取引委員会の判断を引用して説明。民間工事の標準請負契約約款の一部規定が発注者の意向で削除・修正されている実態にくぎを刺した格好だ。」(『建設工業新聞』2022.10.27)

まちづくり・住宅・不動産・環境

その他