情勢の特徴 - 2023年6月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「政府は6日、『新しい資本主義』の実行計画改定案を公表した。転職しやすい労働市場改革やスタートアップ支援に重点を置いた。賃上げを持続しつつ、成長産業へ移動を促して成長力を底上げする狙いだ。…新しい資本主義は岸田文雄政権の経済政策で、実行計画には複数年度にわたる具体策を盛り込む。経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)とともに6月中に閣議決定する見通しだ。…今回示した改定案は賃上げ持続のカギとなる改革に目配りした。リスキリング(学び直し)による能力向上と市場の円滑化、職務給の導入を三位一体で進める。」(『日本経済新聞』2023.06.07)
●「政府は7日、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表した。賃上げ促進と少子化対策を軸とする『分厚い中間層』の再構築を掲げた。家庭の資産運用を後押しするのと併せ、成長と分配の好循環を実現する狙い。脱炭素やデジタルなどの成長投資は新味に乏しく、経済の底上げには力強さを欠く。」(『日本経済新聞』2023.06.08)
●「公正取引委員会は、労務費などのコスト上昇分や適切に価格転嫁されているかを把握するため、全国11万社以上を対象に調査を始めた。コスト構造で労務費の占める割合が高い業種に対し、重点的に調査票を発送した。2022年の緊急調査で注意喚起文書を送付した事業者のその後の取り組み状況も確認する。」(『建設通信新聞』2023.06.08)
●「日本企業が株主への分配を強化する。2024年3月期企業の予想配当額は合計15.2兆円と、3年連続で最高記録の更新を見込む。自社株買い計画の公表も過去最高に迫るペースだ。株主価値を損なう『PBR(株価純資産倍率)1倍割れ状態』の是正に向けて、人材や設備への投資と株主還元の両立がカギとなる。」(『日本経済新聞』2023.06.09)
●「政府は13日、少子化対策の拡充に向けた『こども未来戦略方針』を決定した。岸田文雄首相は記者会見で、出生率の低下を反転させるため若者の所得増が必要だと強調した。戦略方針は子育て世代への給付策を並べたが、安定財源の確保に向けた道筋は描けていない。」(『日本経済新聞』2023.06.14)

行政・公共事業・民営化

●「行政のデジタル化を進めるためのマイナンバー法改正案が2日の参院本会議で可決、成立する。2024年秋に予定する現行の健康保険証の廃止に向けた制度をそろえた。誤登録などが相次いでおり、なお制度改善に必要な余地はある。政府はマイナンバーカードと保険証を一体にする『マイナ保険証』の普及をめざす。今の保険証は来年秋以降、1年の猶予期間を経て使えなくなる。法改正によりカードを持たない人でも保険診療を受けられるようにする『資格確認書』の発行が健康保険組合などで可能になる。確認書の期限は1年とする方針で、カードの利用者よりも受信時の窓口負担を割高にする検討も進める。カードへの移行を促す狙いだ。」(『日本経済新聞』2023.06.02)
●「公共工事の積算に使用する資材単価の設定状況が都道府県で大幅に改善している。国土交通省が4月1日時点で実施した調査によると、全資材単価を毎月更新している都道府県は全体の9割近い42団体に上り、約1年前の初調査に比べて27団体増えた。適切な請負代金を設定する観点から地方自治体に対し、全資材単価の毎月更新など資材価格高騰への対応を22年4月に求めた国交省の要請が、都道府県に浸透してきたと言えそうだ。」(『建設通信新聞』2023.06.09)
●「改正出入国管理法が9日、参院本会議で可決、成立した。最大のポイントは難民認定申請中であっても強制送還できるようにすること。国はかねて申請の乱用・誤用が多いと問題視してきた。新型コロナウイルス禍を経て外国人の来日や申請の増加が見込まれ、対応を急いだ。そもそも難民認定が適切に行われていないとのの不信感は強い。慎重な運用が求められそうだ。」(『日本経済新聞』2023.06.10)
●「国土交通省は、直轄工事・業務を含む全公共調達で入札参加企業に対し、サプライチェーンを含むビジネス上の人権尊重を新たに求める。入札説明書に『人権尊重に取り組むよう努めること』と記載する運用を決め、地方整備局などの省内発注機関に6日付で事務連絡を通知した。政府の取り組みに併せたもので、準備が整った発注機関から記載を順次始める。政府は2022年9月、企業における人権尊重の取り組みを後押しするため、『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』を策定した。日本で事業活動を行う全ての企業は国内外で、グループ会社やサプライヤーなどを含めて人権尊重の取り組みに最大限努めるべきとした。自社が人権への負の影響を引き起こしているまたは助長している場合は、その活動を停止するなど、必要な措置を示している。」(『建設通信新聞』2023.06.13)

労働・福祉

●「民間工事に焦点を当てて工期設定や休日取得の実態を約2000社の建設会社に聴取した国土交通省の調査で、現場従事者の残業時間が技能者よりも技術者で長い傾向にあることが分かった。2024年4月に適用する時間外労働の罰則付き上限規制で原則となる月45時間を目安に、工事に携わる技術者の平均残業時間がそれを超過すると回答した企業は13%、技能者の場合は5%だった。現場管理だけでなく事務作業の負担も大きい技術者の業務特性に応じた急速な対応が求められる。」(『建設工業新聞』2023.06.01)
●「政府は労働時間規制の強化に伴いトラック運転手の不足が懸念される『2024年問題』を巡り、物流業務の依頼側である荷主への規制を強化する。運転手の待機時間や荷物の積み下ろしなどにかかる時間の削減などに取り組むよう義務付ける。改善状況の国への定期的な報告も求め、不十分な場合は勧告や措置命令を出す。…24年4月からトラック運転手の時間外労働に年間960時間の上限が課せられる。インターネット通販の拡大で荷物は増加しているものの、トラック業界は担い手不足が指摘されている。国土交通省などは一定以上の物流量を抱える荷主企業に対し、トラック運転手の負担軽減に向けた計画の策定を義務とする。同省によると作業開始前の現地周辺での待機と荷物の積み下ろしに、1回の運行で合わせて平均で3時間かかる。これらの削減を求める。国への定期報告も要請する。荷主企業の経営者層の意識改革も促す。物流に関する管理責任者を任命し、計画づくりや具体的な取り組みを進めてもらう。物流の効率化に向けた企業の自主的な取り組みを後押しするための企業向けの指針もまとめる。デジタル技術を活用し、トラック運転手の負担を軽減しつつ運送効率を上げる取り組みなどを盛り込む。」(『日本経済新聞』2023.06.02)
●「国土交通省は、技能者が一人親方と労働者のどちらに該当する働き方をしているかを確認できる『働き方自己診断チェックリスト』の周知強化に乗り出す。国交省の調査で、2022年4月に作成したチェックリストが浸透していないことが分かったため、7月から全国10会場で説明会を開き、一人親方や建設企業に活用を呼び掛ける。一人親方本人に対する働き方の実態調査も23年度に行う。雇用契約を結ばないで建設工事に従事する一人親方や、一人親方と請負契約を直接結ぶ建設企業を主な使用者として想定するチェックリストは、▽依頼に対する許諾▽指揮監督▽拘束性▽代替性▽報酬の労務対償性▽資機材などの負担▽報酬の額▽専属性――の8項目で構成する。項目ごとにAとBの二つの働き方が示され、どちらか一方にチェックを入れる仕組み。Bに多く当てはまる技能者は、一人親方でありながら労働者の働き方をしていると考えられるため、雇用契約の締結を検討する必要がある。請負契約を結んでいても、厚生労働省の労働基準監督署によって働き方が労働者と同様であると判断された場合は、法的に労働者として取り扱うことになっていることから、国交省は労基署へ相談するよう呼び掛けている。」(『建設通信新聞』2023.06.06)
●「国は期間限定型だった外国人労働者の受け入れを、永住に道を開く長期就労型に転換する。政府は9日、在留資格『特定技能』で期間に上限がない業種に、食品製造や外食など9分野を追加すると決定。全12分野で定住への道が制度化される。課題の多い技能実習は『発展的に解消』して新制度に移行する。企業の人手不足が加速する中、現場の中核を担う外国人材の育成を急ぐ。9日の閣議決定で、製造業や農業、外食など9分野で何度も資格を更新できる『2号』を追加した。別資格で長く働ける介護も含め12分野すべてで長期就労を可能とした。法務省令などを改正し、秋ごろから2号取得に必要な分野別試験を始める方針だ。技能実習を入り口に特定技能1号、2号へとステップアップすれば、家族帯同や定住・永住が可能となる。年金など社会保障を支える担い手にもなる。技能実習と特定技能を合わせると50万人近い。ドイツの看護師向け制度など同種事例はあるが、世界でも異例の規模での取り組みとなる。」(『日本経済新聞』2023.06.10)
●「政府は13日の閣議で、建設職人基本法に基づく建設職人基本計画の変更を決定した。建設工事従事者の安全・健康確保に向けて政府が講ずべき施策に、『安全衛生対策項目の確認表』と、安全衛生経費を内訳明示するための『標準見積書』の作成・普及を新たに位置付けた。安全衛生経費が工事で適切かつ明確に積算され、下請負人まで確実に支払われる環境を整備する。2017年に策定した基本計画の変更は初めて。」(『建設通信新聞』2023.06.14)

建設産業・経営

●「国土交通省は、民間発注者と建設企業の双方に対し、資材・原油価格高騰への対応状況を調査した結果をまとめた。2022年1月以降に施工された民間工事で、資材・原油価格高騰の影響を受けたと回答した民間発注者は91%を占め、このうち42%が契約変更を実施している。建設企業も76%が民間工事で影響を受けており、発注者や元請けなどの注文者によって契約変更が行われたのは46%だった。」(『建設通信新聞』2023.06.01)
●「10月に導入される消費税の仕入税額控除の新方式『適格請求書等保存方式(インボイス制度)』を巡り、建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)は一人親方などの免税事業者との取引の機会が多いとみられる専門工事会社の準備状況を調査した。制度導入を1年後に控える時点で、免税事業者との取引に関する今後の対応方針が未定だったのは4割程度を占める。…建専連の調査によると、取引先に占める免税事業者の割合は▽8割以上=10.1%▽5~7割=5.9%▽2~4割=13.7%▽1割以下=22.3%―で、半数以上は免税事業者と取引関係を持っていた。主要な許可業種が『内装仕上げ』や『大工』の企業は、他業種よりも免税事業者との取引が多い傾向がある。免税事業者との取引に関する今後の対応方針は、一人親方の場合▽課税事業者に転換してもらい取引を続ける=34.6%▽免税事業者のまま取引を続ける=19.7%▽社員として雇用する=0.9%▽取引をやめる=0.9%▽分からない=41.2%。一人親方ではない免税事業者の場合は▽課税事業者に転換してもらい取引を続ける=44.8%▽免税事業者のまま取引を続ける=15.4%▽取引をやめる=0.9%▽分からない=37.7%―だった。今後の対応方針で2割程度だった『免税事業者のまま取引を続ける』と回答した企業のうち、控除できない消費税相当額の自社で負担する形で『従来通りの価格で取引する』との回答は59.3%で半数を超えた。」(『建設工業新聞』2023.06.02)
●「建設経済研究所は、全国的に業務展開している主要な建設会社40社を対象に、2023年3月期(22年度)の連結決算を分析した結果をまとめた。売上高は大手、準大手、中堅の全階層で増加した一方、売上総利益と営業利益は大手で増加、準大手と中堅で減少と、階層で明暗が分かれた。売上高は、大手が前年同期比12.5%増、準大手が7.7%増、中堅が5.2%増だった。40社の総計では9.9%増の17兆0890億円となり、直近5年間で最も高い。受注高も好調だった。大手は8.3%増、準大手は9.0%増、中堅は14.2%増。総計は9.6%増の13兆9219億円で、直近5年間では18年度に次ぐ高い水準となっている。建築、土木ともに総計が伸び、特に土木は直近5年間で最も高かった。」(『建設通信新聞』2023.06.05)
●「ゼネコン大手4社の工事採算が悪化している。赤字が見込まれる際に計上する工事損失引当金は、2023年3月期に1700億円超と過去10年で最大だった。資材高で原価が想定より膨らんだ。これらの案件では工事完了時の利益がゼロになるため、今後の採算悪化を招く。人件費も上昇傾向にある中、新規受注時の価格の引き上げが焦点になる。」(『日本経済新聞』2023.06.08)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「改正道路整備特別措置法(特措法)が5月31日の参院本会議で可決、成立した。高速道路の有料期間を最長2115年まで延長。老朽化する設備の更新や維持管理にかかる費用を確保する。高速道路の4車線化の整備にも充てる。公布から3ヵ月以内に施行する。」(『建設工業新聞』2023.06.01)
●「改正福島復興再生特別措置法が2日の参院本会議で可決、成立した。福島第1原発事故で被災した帰還困難区域のうち、先行的に街づくりが進む特定復興再生拠点区域(復興拠点)以外の地域への住民帰還を促す制度が柱。市町村長が拠点区域外で帰還後の生活再建を目指す『特定帰還居住区域(仮称)』を設定できるようにする。同区域では国が国費負担での除染、道路などインフラ整備の代行といった特例措置を講じる。」(『建設工業新聞』2023.06.05)
●「空き家の発生を抑えて活用を促す空き家対策特別措置法などの改正案が7日の参院本会議で可決、成立した。窓や壁の一部が壊れるなど管理状態が悪い空き家について税優遇の対象から外す。住宅相続の増加を見据え、空き家が生じないよう対策を強化する。住宅用地には固定資産税を減税する特例がある。現行制度では倒壊する危険がある『特定空き家』について改善勧告に従わない場合、特例から除くことができる。法改正ではその予備軍となる『管理不全空き家』を除外対象に加える。空き家が放置される前に所有者に適切な管理を求める。」(『日本経済新聞』2023.06.08)
●「法制審議会(法相の諮問機関)は8日、分譲マンションの修繕などを住人が決議する際の要件を緩和する中間試案をまとめた。住人集会の決議を出席者の過半数の賛成で成立できるようにする案を盛った。老朽マンションの増加を見据え、地域の安全や景観に配慮した街づくりを促す。…法制審の中間試案はマンションの管理と再生の2つに焦点を当てた。管理を巡っては修繕などの決議を『出席者過半数』に変更する。欠席の場合は委任状や決議権行使書による賛意表明がなければ反対として扱われているため、現状のままでは必要な決定ができない懸念がある。エレベーターの設置など建物の構造を変えるような大規模改修に必要な要件も緩める。現在は所有者の4分の3以上の同意が必要だ。多数決割合を引き下げたり、出席者の4分の3で決めたりする案を記載した。…再生に関してはマンションの建て替えを決める際の要件を緩める。現在は所有者の5分の4の同意を得なければ決定できない。所在不明者を決議の母数から除外するとともに多数決割合の緩和で2案を用意した。①4分の3に引き下げ客観的な理由がある場合は3分の2②現行の5分の4を維持し客観的な理由がある場合は4分の3――とした。客観的な理由には耐震性の不足や火災への安全性、外壁はげ落ちのおそれ、給排水管の腐食などを挙げた。どれを採用するかで複数案を設けた。」(『日本経済新聞』2023.06.09)

その他