情勢の特徴 - 2023年7月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「投資用不動産ローン(アパートローン)が増えている。2023年1~3月期の国内銀行による新規貸出額は8843億円と前年同期比4%増え、四半期の金額としては5年ぶりの高水準だった。地方銀行に加え楽天銀行などネット専業銀行が拡大している。物件の販売価格は最高値を更新し、過熱感から危うさを指摘する声もある。日銀によると、『個人による貸家業』向けの設備資金新規貸出額は1~3月期まで8四半期連続で増えた。四半期別の新規貸出額は16年7~9月期の1兆2415億円をピークに減少し続けたが、21年ごろを境に増加に転じた。…投資用不動産ローンは日銀が異次元緩和に踏み切った13年ごろから増え始めた。値上がり期待に加え、相続時などに節税効果が見込めるためだ。だが16年以降、日銀や金融庁が地銀のアパートローン増加を指摘し始めたことで減少基調に転じた。18年にスルガ銀行がシェアハウス物件を巡る不適切融資で業務改善命令を受けたのをきっかけに、各行は融資姿勢を一段と厳しくしていた。13~16年ごろと比べると、最近はアパートよりも区分マンション向け融資の拡大が目立つ。アパートの単価が数千万円規模なのに対し、区分マンションは1000万円台で購入できるため、年収が低い人も参入できる。アパートローンが細るなか、販売会社がまだ見込みのある区分マンション市場に軸足を移し、一部の金融機関も区分マンション向けを中心に貸し出しを増やしている。区分マンションは貸し倒れが発生した場合の1件あたりの損害額が小さく、融資しやすい。不動産投資情報サイト『健美家』によると、同サイトに登録された区分マンションの販売価格の全国平均は23年1~3月期に1629万円となり、集計開始以来の最高値を更新した。10年間で価格は2倍になった。アパートや一棟マンションも最高値となった。」(『日本経済新聞』2023.07.04)
●「中小企業に淘汰の波が訪れている。東京商工リサーチが10日発表した2023年上期(1~6月)の倒産件数は前年同期に比べ3割増え、上期としては20年以来、3年ぶりに4000件台となった。新型コロナウイルス禍での手厚い資金繰り支援で延命してきた企業も多い。人手不足や物価高の逆風下でも、事業を継続できる強さが問われる環境に入った。東京商工リサーチによると1~6月期の倒産件数は4042件。産業別では、資材費高騰が続く建設業が前年同期比36%増の785件、円安による輸入物価高が響く製造業が37%増の459件と多かった。小売業は燃料代が膨らみ、25%増の434件だった。倒産企業に共通するのが人手不足や物価高だ。経済活動が正常化するなかで人手を確保できなかったり、給与水準が上がって採用できなかったりする例が増えた。中小はエネルギーや資材費高騰の転嫁も不十分だ。…コロナ禍前の年間倒産件数はおおむね8000件前後だった。21、22年は手厚い資金支援により2000件ほど倒産が抑えられていた。資金繰り支援として政府が導入した、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などが企業を支えた。支援の期限切れとともに倒産件数が増えている。ゼロゼロ融資の元本返済猶予期間が終わり、返済が本格化する時期は7月から24年4月とされ、今後も高水準の倒産件数が続くとみられる。」(『日本経済新聞』2023.07.11)

行政・公共事業・民営化

●「6月29日に開かれた中央建設業審議会と社会資本整備審議会の2023年度第2回基本問題小委員会は、建設業の持続可能性確保に向けて国土交通省が提案した制度改正の方向性とそれに沿った具体策に対し、受発注者や学識者などの委員が意見を表明した。『請負契約の透明化による適切なリスク分担』『賃金引き上げ』『働き方改革』の三つの論点は、具体策にさまざまな意見が上がったものの、目指す方向性については明確な反対意見がなく、大筋で賛同された。三つある論点の中で、複数の委員が国交省提案の方向性に対して賛同する意見を明確に表明したのは、『賃金引き上げ』と『働き方改革』の二つ。…方向性自体に明確な反対意見は上がらなかったが、具体策に対してさまざまな声があったのは、『請負契約の透明化による適切なリスク分担』の論点。民間工事を念頭に、▽契約における情報の非対称性の解消▽価格変動などへの対応の契約上での明確化(契約の透明性)▽当事者間のコミュニケーション――の三つを制度的に担保・推進することでパートナーシップの構築を目指し、急激な資材価格高騰などのリスクに取引事業者全体で対応することを方向性としている。」(『建設通信新聞』2023.07.03)
●「国土交通省は、元請け・下請け間と受発注者間の二つの建設業法令順守ガイドラインを改訂した。原材料価格などのコストが上昇する局面で発注者が取引価格を据え置くことは独占禁止法の問題になる恐れがあるとの考え方を公正取引委員会が示したことを受け、両ガイドラインに盛り込んだ。適正な請負代金の設定に向けて、建設工事の発注者や注文者が留意すべき事項に位置付けている。元請け・下請け間の請負契約を対象にした『建設業法令順守ガイドライン』と、『発注者・受注者間における建設業法令順守ガイドライン』の二つを6月30日付で改訂した。改訂内容は両ガイドライン共通で、2点ある。まず、労務費、原材料価格、エネルギーコストなどのコスト上昇分を反映しないで従来どおり取引価格を据え置くことは、独禁法が禁止する『優越的地位の乱用』の要件の一つに該当する恐れがあるとする公取委の考え方を盛り込んだ。…二つ目の改訂部分は、建設工事を含む全ての取引が対象となる下請振興法の記述を追加した点だ。受発注者間や元請け・下請け間だけでなく、資材業者、建設機械・仮設機材の賃貸業者、警備業者、運送事業者、建設関連業者などとの取引でも同法の振興基準を順守することが重要とし、具体的には▽対価決定方法の改善▽下請け代金支払い方法の改善▽働き方改革の促進を阻害する取引慣行の改善▽業種別ガイドライン、自主行動計画▽パートナーシップ構築宣言――の5項目への配慮を徹底する必要性を示した。」(『建設通信新聞』2023.07.05)
●「国土交通省の全国8地方整備局と北海道開発局が、2022年度に発注した工事(港湾空港関連除く)は7606件で、総額は1兆4633億3514万1494円(税別、以下同)となった。随意契約192件を除いた7414件の平均落札率は93.2%。1工事当たりの最高額は錢高組が落札した『R4霞ヶ浦導水石岡トンネル(第4工区)新設工事』の82億5812万円だった。JV受注分を除く単体企業による受注額は清水建設、件数は世紀東急工業とIHIインフラ建設がそれぞれ首位となった。」(『建設通信新聞』2023.07.10)
●「東日本建設業保証がまとめた、前払金保証工事から見た東日本地区の2023年度第1四半期(4-6月累計)の公共工事動向によると、件数は前年同期比4.4%増の3万4704件、請負金額は2.9%増の2兆7866億円となり、件数・金額ともに増加した。発注者別でも国、地方自治体ともにプラスで推移しており、23年度の滑り出しは順調と言えそうだ。」(『建設通信新聞』2023.07.13)

労働・福祉

●「厚生労働省の中央最低賃金審議会(厚労相の諮問機関)は30日、2023年度の最低賃金引き上げに向けた議論を始めた。政府が掲げる『全国平均1000円』を実現するには初の4%台の引き上げ幅が必要となる。物価上昇が続き、企業の賃上げ機運は高まっている。議論は大台の達成を視野に進む見込みだ。…現在の最低賃金は961円だ。22年度の改定時に前年度から31円増やし、3.3%引き上げた。このときの上げ幅も過去最大だったが、23年度に1000円を達成するには39円以上、上げ幅にして4%以上の引き上げが求められる。引き上げ幅は都道府県をランク分けしてそれぞれ示す。現在は最高の東京都(1072円)と最低の沖縄県など(853円)で200円以上の開きがある。これまで4つの区分に分けていたが、今回からA~Cの3つにするため、都市部と地方の賃金格差は小さくなる。 政府は16年から『全国平均1000円』を掲げてきた。これまで明確な達成時期は示しておらず『より早期に』などと表現していた。首相は13日の記者会見で『今年達成することを含めて、議論してほしい』と述べ、早期に実現させる意向を示した。足元で物価高は進む。22年度の議論開始時は消費者物価指数(CPI)上昇率が2.5%だったが、23年度は5月時点で3.2%となった。家計への影響は大きく、企業への賃上げ圧力となっている。経団連の中間集計によると、23年の春季労使交捗で大手企業の賃上げ率は3.91%と30年ぶりの水準になった。日本が時給1000円を達成しても各国との開きは残る。英国は22年1月時点で1400円、フランスは1385円だ。米国は州ごとに異なるものの、ワシントン州では23年1月時点で2000円を超える。」(『日本経済新聞』2023.07.01)
●「厚生労働省は6月30日、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患と、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害などの2022年度労災補償状況をまとめた。建設業の『過労死』など脳・心臓疾患の労災補償請求数は、前年度と比べ12人減の93人だった。22年度に業務上か業務外かを決めた『決定件数』は、22年度以前の請求も含めて69人で、うち業務上の疾病と認定して労災保険給付を決定した労災認定は30人だった。労災認定数は前年度比13人増となっている。また、建設業で働き過ぎや上司らとのトラブルで、うつ病などの精神障害にかかり、自殺などによって労災補償を請求したのは、前年度から36人増の158人。22年度の『決定件数』は、22年度以前の請求も含め98人、うち労災認定は16人増の53人だった。」(『建設通信新聞』2023.07.03)
●「6日午前3時10分ごろ、静岡市清水区の工事現場付近で、作業員から『上で作業をしていた人がけがをした。橋桁が崩れた』と119番があった。静岡県警や消防によると、静清バイパスの立体化工事で橋桁が落下し30~70代の男性7人が救急搬送され、作業員2人が死亡した。2人が重傷を負った。清水署によると、作業員約20人が夜間作業をしていた。落下したのは高架道路の橋桁の土台となる鉄骨で、長さ約65メートルで重さ約140トン。約9メートルの高さから落ちたとみられる。国土交通省静岡国道事務所によると、橋脚に載せた鉄骨を水平方向にずらす作業をしていた。署が詳しい状況を調べている。」(『日本経済新聞』2023.07.06)
●「主要建設コンサルタント17社のうち10社で、新卒社員の3年以内離職率が悪化していることが分かった。日刊建設工業新聞社が2019年4月に入社した新卒社員が入社3年目を迎える22年3月末時点の離職率を調査したところ、18年4月入社との比較で離職率が上昇した。転職活動が旺盛な売り手市場の中、各社ともエンゲージメント向上やワーク・ライフ・バランス(WLB)のとれた職場づくりなどで人材の確保と定着に腐心している。…年度別3年以内離職率の平均は17年度入社が12.3%、18年度入社が8.3%、19年度入社が11.4%だった。17社のうち10社は、19年度入社の離職率が18年度と比較して悪化し、うち1社は17年度から2年連続で悪化した。19年度入社を離職率別で見ると、10~20%未満が最も多い8社、次いで0~10%未満が7社、20%以上が2社だった。」(『建設工業新聞』2023.07.10)
●「外国人材の受け入れに関する政府の有識者会議の議論が佳境を迎えている。技能実習制度の代わる新制度の創設を前提に、同制度で定めている転籍制限の緩和や、受け入れ見込み数の設定可否などを検討。有識者からは『分野内の転職は原則として自由であるべき』などの意見が出ている。建設分野では特定技能外国人の在留者数が1.7万人を超えた。現場を支える外国人材の存在感が急速に高まっており、会議の結論次第で業界全体に大きな影響を与える。」(『建設工業新聞』2023.07.12)
●「日本企業の男女の賃金格差が全業種平均で3割だったことガ分かった。日本経済新聞が政府のデータベースに公表された約7100社の開示を分析したところ、主要32業種では金融・保険の格差が最大だった。背景として女性管理職の少なさを指摘する声があり、資生堂や双日は女性の管理職登用に力を入れている。2022年7月の女性活躍推進法の省令改正で、常用労働者数301人以上の企業に①全労働者②正規労働者③非正規労働者のそれぞれで賃金格差の開示が義務付けられた。開示を行わないことに対する罰則はない。10日までに厚生労働省のデータベースに開示した企業は約7100社(300人以下の企業含む)。男性の平均賃金を100として女性の平均賃金の割合を計算し、両者を比較すると、全労働者の格差は30.4%だった。格差を雇用形態でみると、正規労働者は25.2%、非正規労働者は22.3%だった。主要32業種で全労働者の格差を分析すると金融・保険(39.9%)が最大で、小売・卸売(35.9%)も大きかった。いずれも相対的に賃金が低い『一般職』や『地域限定職』、非正規雇用の女性比率が高い業種だ。医療・福祉(22.2%)や情報・通信(23.2%)など、男女の仕事内容の差が大きくない業種は格差が小さかった。」(『日本経済新聞』2023.07.14)

建設産業・経営

●「海外建設協会(海建協、佐々木正人会長)が6月に発表した会員企業51社の2022年度の海外建設受注実績によると、前年度14.6%増の2兆0485億円となった。コロナ禍で低迷した経済活動が回復傾向にあり、ゼネコン各社が発表した23年3月期決算の海外受注高も増加が目立った。『今後も旺盛な受注環境が続く』(大手ゼネコン)との見方が多い一方、先行き不透明なウクライナ情勢、資材価格やエネルギー価格の高騰など市場動向を的確に見極めながら新規獲得を狙う。」(『建設工業新聞』2023.07.05)
●「下請けが法定福利費を内訳明示した見積書を注文者に提出した割合が、上昇傾向から低下に転じたことが国土交通省の調査で分かった。注文者から求められなかったことを未提出の理由に挙げる下請けが多い。提出によって見積金額の全額が支払われたと答える下請けも多いことから、適切な法定福利費の確保に当たっては、元請けによる働き掛けの徹底で提出状況を改善することが特に重要と、国交省は指摘する。国交省の調査結果を踏まえ、受発注者双方の団体などが参画する建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会が、適切な法定福利費の確保に向けた活動を新たに展開する。」(『建設通信新聞』2023.07.07)
●「中小企業庁は下請の中小企業が原材料費やエネルギー価格、労務費などの上昇分を適切に価格転嫁するのを後押しするため、体制を強化した。価格交渉に関する基礎知識や原価計算手法の習得を支援する『価格転嫁サポート窓口』を新設。下請の中小企業がコスト増加分を定量的に把握し、原価を割り出して、交渉の場に提示できるようにする。」(『建設工業新聞』2023.07.12)
●「住宅用建材や設備の価格高騰による工務店経営への影響がやや改善している。全建総連(中西孝司中央執行委員長)が全国の工務店に実施した最新の調査結果(7月時点)によると、『大きな影響が出ている』と答えたのは5割弱。前年同月の調査に比べ2割程度減少した。工務店からは国に対し、中小建設業への減税や補助金といった支援策の要望が出ている。調査は4月17日~5月31日に実施。33都道府県にある工務店の877社が回答した。年間売上高1000万円以上5000万円未満の工務店が全体の半数弱を占める。建材や設備の価格高騰や納期遅延が工務店の受注や住宅工事の動向にどのような影響を及ぼしているか調べた。建材価格が高止まりしたまま推移してきている中、建築主に提示する見積額に『大きな影響が出ている』と答えたのは回答847社の47.2%。前年同月に比べ19.6ポイント下回り改善した。前年同月との比較で工事費に対する値上がり率も確認した。新築工事は同583社のうち20%以上が23.3%(前年同月比23.8ポイント上昇)、10~19%が57.1%(16.9ポイント上昇)。リフォーム工事は同777社のうち20%以上が19.0%(18.4ポイント上昇)、10~19%が60.5%(15.2ポイント上昇)となっている。値上がり分の価格転嫁状況も調査。同850社のうち『全て自社で負担』が5.0%(5.4ポイント低下)、『一部を自社で負担』が38.0%(9.4ポイント低下)、『お客様に負担してもらった』が57.0%(14.8ポイント上昇)となり、いずれも着実に改善したことをうかがわせる結果となった。価格転嫁できなかった理由に関しては、同530社のうち複数回答で『既に見積書を提出していた』が78.0%、『同業他社との競争があるため』が47.1%、『価格交渉・契約変更に応じてもらえなかった』が18.5%の順に続いている。」(『建設工業新聞』2023.07.14)
●「建設資材であるセメントの市中価格が上がった。東京ではセメント会社から特約店などへ販売する指標品が6月に比べて2割高くなった。セメントの製造時に燃料とする石炭の価格上昇分を転嫁した。セメントを原料に使う生コンクリートもメーカーが連動して1割値上げした。指標となる普通セメントの7月の特約店卸値(東京地区)は1トンあたり約1万6300円(中心値)。6月に比べ3000円(23%)上昇し、過去最高値を更新した。」(『日本経済新聞』2023.07.15)
●「積水ハウスは14日、水素をつくって発電する住宅を2025年夏にも発売すると発表した。昼間に太陽光発電で余った電力を使って水素をつくり、夜に燃料電池で水素を反応させて発電する。水素を本格的に活用するのは住宅メーカーでは初めてという。住宅のエネルギー消費による二酸化炭素(CO₂)排出量をゼロにするZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の新たな方式として提案する。」(『日本経済新聞』2023.07.15)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「未利用の建設残土が山中に不法投棄され、危険な盛り土になっている。未利用残土は年間で東京ドーム47杯分に上るとされるが、行方が不透明なケースも少なくない。盛り土が崩壊し、関連死を含め28人が犠牲になった静岡県熱海市の土石流災害から3日で2年。安全確保に向け、国は残土の削減と追跡システムの構築を急いでいる。静岡市中心部から車で約1時間の山間部に2つの巨大な盛り土がある。1つは約37万5千立方メートル。2021年7月3日に熱海市で起きた土石流で起点となった盛り土の5倍を超す。ある会社が工事現場で出た残土を使い無許可で造成した。『熱海のような事態が再び起こりかねない』。県は崩壊リスクがあると判断。元に戻すよう求めても会社が応じないため5月、行政代執行による撤去作業に入ることを決めた。国の直近調査によると、全国の工事現場から18年度に出た残土は2億8998万立方メートルに上る。造成や埋め立てなどに使われた一方、5873万立方メートル(東京ドームを器にして47杯分強)は利用されず山中などに運び込まれた。未利用残土の最終的な行き先は国もつかみ切れていない。建設残土を県境をまたいで山林などへ持ち込み、不法に盛り土したとして摘発される事業者も相次ぐ。建設業界関係者は『残土は工事現場では邪魔な存在。どこかに早く移したいという思いが関係者の中にある』と明かす。総務省は21年12月に公表した残土対策の報告書で『(不法投棄が)崩落被害発生の原因となっている場合がある』とした。同年3月時点で全国で不適切な処理事案が120件あり、うち約4割で土砂流出などの被害が生じていた。」(『日本経済新聞』2023.07.03)
●「国土交通省の国土審議会は4日、新たな国土形成計画と第6次国土利用計画の案を審議し、妥当と了承した。おおむね10年先を見据えた総合的かつ長期的な今後の国土づくりの方向性が定まった。近く閣議決定する見通し。新たな国土形成計画案では、地方に軸足を置き地域を支える国土づくりを目指す。基本構想に『シームレスな拠点連結型国土』を掲げ、リニア中央新幹線を軸に三大都市圏を結ぶ『日本中央回廊』をはじめ、太平洋側と日本海側の二面活用や内陸部も含めた『全国的な回廊ネットワーク』の形成により国土の連結を強化する。重点テーマには地域生活圏の形成、持続可能な産業への構造転換、グリーン国土の創造、人口減少下の国土利用・管理の四つを位置付けたほか、横断テーマとして国土基盤の高質化、地域を支える人材の確保・育成の二つを設定した。地域生活圏の形成では、デジタルライフラインの整備や先端技術サービスの社会実装などデジタル技術の徹底活用により生活サービス提供機能を高め、地域空間の生活の質の向上につなげる。持続可能な産業への転換に向けては、半導体や蓄電池など成長産業の国内生産拠点の形成・強化を進めるとともに、データセンターなどの分散立地を促進する。国土基盤の高質化については、地域の安全・安心を確保するため、防災・減災、国土強靭化の取り組みを進める。そのほか、『地域の整備』『産業』『交通体系、情報通信体系、エネルギーインフラの高質化』『防災・減災、国土強靭化』などの各分野について施策の方向性を整理した。」(『建設通信新聞』2023.07.05)
●「東京電力福島第1原子力発電所から出る処理水について、海洋放出に必要な条件が週内に整う見通しになった。4日に国際原子力機関(IAEA)は放出の安全性を認め、7日には日本政府の安全性の評価作業も完了する。政府は8月にも放出する調整に入る構えで地元への説明を続ける。原子力規制委員会は5日、処理水を放出する設備の使用前検査について『合格』に相当する終了証を7月に東電に交付する方針を示した。山中伸介委員長は記者会見で『特段大きな問題はないと評価できた』と述べた。IAEAは4日の報告書で『処理水の放出が人と環境に及ぼす放射線の影響は無視できる程度』として海洋放出の計画が『国際的な安全基準に合致する』と結論付けた。放出前に必要な設備面の手続きにめどが立ち、IAEAという国際機関の『後方支援』も得た。福島第1原発を訪れたグロッシ事務局長は5日、『日本政府の決定を受けて速やかに放出できる』と表明。政府はIAEAと協力して地元自治体や近隣国の理解獲得へラストスパートをかける。経済産業省は5日、処理水の海洋放出を巡り福島県内で地元関係者との意見交換会を開いた。IAEAも参加し、原発内に現地事務所を設けて放出前後の数週間は担当者が常駐することや、透明性の高い情報発信をすることなどを説明した。処理水を放出すれば風評被害が広がるとの不安が漁業関係者には根強い。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は5日『我々が反対している中で放出計画が進んでいるという緊張感を持ってほしい』と、改めて政府に慎重な対応を求めた。」(『日本経済新聞』2023.07.06)
●「2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の参加国・地域が出展するパビリオンに対し、運営主体の日本国際博覧会協会(万博協会)は建設を一部代行する検討に入った。自前の施設を建設予定の約50ヵ国・地域はいずれも着工に必要な手続きが完了しておらず、日本側主導で準備作業を加速する。複数の関係者が明らかにした。万博施設をめぐっては国内勢のパビリオンを含め、資材費や人件費の高騰で整備が遅れる例が目立っていた。…パビリオンの建設が後ろ倒しになれば開幕準備にも支障が出るおそれがある。日本側は各国・地域の状況を踏まえ、特に準備が遅れている施設について建設を代行する方向だ。万博協会幹部は『タイプAの6割程度が対象になるのではないか』とみる。代行する場合の費用分担など詳細は今後詰める。」(『日本経済新聞』2023.07.09)
●「活発化した梅雨前線の影響で10日、九州を中心に激しい雨が降った。各地で土砂災害や河川の氾濫、車の水没などが相次ぎ、5人が死亡し、3人と連絡が取れていない。今回の大雨では福岡、佐賀、大分の3県で線状降水帯が発生したが、気象庁が昨年運用を始めた発生予測の発表はなく、備えの難しさが改めて浮き彫りとなった。気象庁は同日午前、福岡県と大分県に今年初となる大雨特別警報を発表した。10日午前にかけての24時間降水量は福岡県添田町で423ミリ、同県久留米市で402ミリと観測史上最多を記録。10日夕に警報に切り替えたが、土砂災害や河川の氾濫に引き続き警戒を呼びかけた。久留米市によると、同市田主丸町では土砂災害が発生。複数の家屋に土砂が流入し、70代男性の死亡を確認した。一時6人の安否が不明となったが、救助活動が終了し不明者はいなくなった。添田町では住宅が土砂に埋もれた。男女2人が巻き込まれ、女性の死亡が確認された。夫とみられる男性の命に別条はない。佐賀県唐津市では住宅2棟に土砂が流入し、70代の女性1人が死亡。男性2人と連絡がついていない。久留米市と同県広川町では、車に乗っていて流されたとみられる計2人が死亡した。大分県中津市耶馬渓町では50代女性が川に流されたとの通報があった。福岡県と佐賀県は陸上自衛隊に災害派遣を要請。岸田文雄首相は10日、首相官邸で『人命第一で対応に万全を期していく』と述べ、早急に被害状況を把握し住民の遭難支援に当たるよう谷公一防災相らに指示したことを明らかにした。政府は同日、大雨被害に対応する官邸連絡室を設置した。」(『日本経済新聞』2023.07.11)
●「九州北部を襲った大雨では、自治体による『避難指示』発令の判断の難しさが浮き彫りになった。事前に大雨となる恐れが予想されていたものの、夜間に避難する危険性を考慮し、多くの市町村で発令が未明以降となった。発令前に土砂災害が起きた事例もある。より適切な判断につなげるため、専門家は防災の専門人材を増やしていく必要性を指摘する。九州北部の大雨では10日未明から朝にかけて、佐賀県唐津市と福岡県久留米市、同県添田町で土砂災害が発生した。避難指示は気象庁の防災情報などをもとに市区町村が判断して発令する。気象庁と都道府県が出す『土砂災害警戒情報』などは、全員に安全な場所への避難を促す『警戒レベル4』に当たる。10日の大雨では、レベル4相当の情報が出てから、避難指示までに時間がかかった自治体が相次いだ。唐津市では午前0時40分ごろに土砂災害警戒情報が発表され、市が午前6時に全域に避難指示を出した。約10分後に『山が崩れた』と119番があり、避難指示の直後に土砂崩れが起きたとみられる。担当者は『夜間の避難は危険だと判断し、夜明けを待って発令した』と説明する。…自治体は夜間の避難指宗の対応に苦慮する。添田町の防災担当者は『高齢の住民が多く、夜でも避難指示を出すべきか見極めるのは難しい』と話す。局地的な豪雨をもたらす線状降水帯の発生が予測しにくい点も判断を困難にしているという。」(『日本経済新聞』2023.07.12)

その他