情勢の特徴 - 2023年8月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「経済産業省は、準備が遅れている2025年大阪・関西万博の海外パビリオン建設について、代金未払いなどのリスクを減らすため『万博貿易保険』を創設した。海外の参加者が日本の企業を使って自らパビリオンを建設する『タイプA』が対象。企業が支払う保険料を通常の3分の1程度に抑え、参加者から建設代金が支払われない場合に代金の9割以上を補償する。パビリオン整備の加速策として期待されるが、建設業界からは『代金未払いよりも、工期が限られる中で工事が間に合わなかった場合の損害賠償リスクの方が大きい』といった声も上がっている。」(『建設通信新聞』2023.08.03)
●「世界のインフレ対策の転機が近づいている。新興国では政策金利の引き下げが始まったほか、米欧では今秋の利上げ打ち止め観測が強まる。昨年からの急ピッチな利上げで平均政策金利は約3年半ぶりに物価上昇率を逆転した。インフレ抑制の兆しが見えてきた。」(『日本経済新聞』2023.08.07)
●「中小企業の倒産予備軍が増えている。保証付き融資の返済を信用保証協会が肩代わりする『代位弁済』は、4~6月に9720件と前年同期を70%上回る水準となった。前年同期超えは7四半期連続。3年ぶりに3万件を超えた2022年度を上回るペースだ。新型コロナウイルス禍の資金支援で借金が膨らんだところに物価高や人手不足が重なり、資金繰りが厳しくなっている。代位弁済は倒産の先行指標とされ警戒が広がる。全国信用保証協会連合会によると、22年度の全国の代位弁済数は3万148件と前年度比45%増え、3年ぶりに3万件を超えた。足元で増加ペースは上がり、6月の代位弁済数は前年同月比8割超の伸びだった。コロナ禍の手厚い資金繰り支援もあって、民間と政府系金融機関の中小企業向け貸出金残高は22年12月末で335兆円とコロナ禍前の19年12月末比で45兆円増加した。経済再開で飲食や観光などサービス業を中心に売り上げは戻ってきたが、調達費や人件費がかさんで思うように利益を出せず、膨らんだ借金の返済に追われて資金が回らなくなるケースが目立つ。」(『日本経済新聞』2023.08.08)
●「内閣府が15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比1.5%増、年率換算で6.0%増だった。プラス成長は3四半期連続となる。個人消費が弱含む一方で、輸出の復調が全体を押し上げた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率3.1%増で、大幅に上回った。前期比で内需がマイナス0.3ポイント、外需がプラス1.8ポイントの寄与度だった。年率の成長率が6.0%を超えるのは、新型コロナウイルス禍の落ち込みから一時的に回復していた20年10~12月期(7.9%増)以来となる。GDPの実額は実質年換算で560.7兆円と、過去最高となった。コロナ前のピークの19年7~9月期の557.4兆円を上回った。」(『日本経済新聞』2023.08.15)

行政・公共事業・民営化

●「国土交通省は1日付で、下請け契約・代金支払いの適正化や施工管理の徹底などを要請する通達を建設業116団体に送付した。前回送付した2022年冬の通達と比べた変更点は、独占禁止法で禁止する『優越的地位の乱用』の要件の一つに該当する恐れがある行為として、公正取引委員会が示した二つの具体例に留意することを新たに求めている。」(『建設通信新聞』2023.08.02)
●「岸田文雄首相は4日の記者会見で、2024年秋に予定する現行の健康保険証の廃止を当面維持する方針を示した。『日本に必要不可欠なデジタル改革を本格的に進めていく』と語った。行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)やマイナンバーの活用を前進させる考えを強調した。」(『日本経済新聞』2023.08.05)
●「内閣官房は地方自治体が取り組む強靭化対策を一段と後押しする。都道府県や市区町村が作成する『国土強靭化地域計画』の策定や見直しに関するガイドラインを今夏~秋に改定。新たなガイドラインでは対策の実効性向上を目指し、さまざまな主体との連携や協働を重視する。モデル自治体での取り組みなど先行的な好事例を反映し、都道府県や市区町村による地域計画の内容充実を促す。」(『建設工業新聞』2023.08.09)

労働・福祉

●「厚生労働省は7月31日、建設業での一人親方など個人事業者の業務上災害報告で、報告義務を課す報告主体について、『被災者である個人事業者など自身』などとする新たな案をまとめた。個人事業者自身に報告義務を課す案を示したのは、今回が初めて。個人事業者自らを報告主体とすべきと訴え続けていた、建設産業界の主張が反映された形だ。また、報告対象は、これまでの『死亡災害と休業1カ月以上』から、労働者死傷病報告の報告対象を踏まえ『休業4日以上の死傷災害』に変更した。個人事業者自身は、業務上災害を労働基準監督署に直接報告する義務はない。報告先は、個人事業者の仕事の注文者であり、災害発生場所(事業場など)で業務を行っている者のうち、個人事業者などから見て直近上位の『特定注文者』と、注文者が災害発生場所に来ることが一切ないなど、特定注文者が存在しない場合は、災害発生場所(事業場など)を管理する『災害発生場所管理事業者』とする。このため、特定注文者、災害発生場所管理事業者の両者が実際に労基署へ報告することから、個人事業者自身に加え、両者にも報告義務を課す。建設現場では、元請けでなく、一人親方に仕事を注文する下請け事業者の専門工事事業者が『特定注文者』に該当する。特定注文者と災害発生場所管理事業者を報告主体に含めたのは、災害発生事実や報告内容を把握しやすい立場にあることを踏まえた。ただ、報告対象の業務上災害全てについて、災害防止上の責任を負うものではない点は、通知で明確化する方針だ。個人事業者が死亡した場合や入院中など、災害発生事実を伝達・報告することが不可能な場合は、特定注文者が把握した場合に報告する。注文者が災害発生場所に来ることが一切ない場合などは、災害発生場所管理事業者が報告主体となる。建設業では、個人事業者が一般消費者から住宅建築を元請けとして請け負う場合がある。こうした特定注文者や災害発生場所管理事業者のいずれもが存在しないときは、報告義務は生じない。厚労省は、業務上災害を幅広く把握するため、個人事業者が業種・職種別団体に加入している場合、その団体が労基署に情報提供できるとした。個人事業者が中小企業経営者や役員の場合は、所属企業に報告を義務付ける。個人事業者、特定注文者、災害発生場所管理事業者のいずれも、『罰則なしの義務規定』とする。」(『建設通信新聞』2023.08.01)
●「建設業振興基金は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録技能者がスマートフォンを使い、自身の就業履歴蓄積状況や資格情報を把握できるウェブアプリ『技能者パスポート』の実証実験を9月から2カ月間行う。8日にモニターの募集を始める。4段階あるレベルのアップに必要な目安を表示する機能もアプリ内で提供する。日々の就業履歴蓄積状況を容易に把握できるようにすることで、登録技能者がCCUSを『わが事』と捉え、CCUSの積極利用や能力評価の申請につなげることが狙いだ。実験結果を11月まで検証し、その後実用化を検討する。」(『建設通信新聞』2023.08.07)
●「東京地方最低賃金審議会は7日、東京都の最低賃金を現行(1時間あたり1072円)から41円(3.82%)引き上げ、1113円とするよう東京労働局の辻田博局長に答申した。引き上げは3年連続で、現行制度では過去最大の引き上げ額となる。10月1日から、都内の職場で適用される見通し。」(『日本経済新聞』2023.08.08)
●「日本型枠工事業協会(三野輪賢二会長)は4日、作成した『型枠大工賃金モデル算出作業手順』を基に、協会内に今後設置するワーキンググループ(WG)で、国土交通省が公表したレベル別年収に対応した『モデル型枠単価』を作成・公表すると発表した。公表のめどは年内から年度内。基礎型枠や地下型枠といった工事科目ごとに、材料費や労務費、経費などを加算した複合単価に数量を掛けた請負金額のアップを元請けから理解してもらうのが狙い。いわばモデル型枠単価には、発注者や元請けに理解を促すためのエビデンス(証拠)としての役割を期待する。」(『建設通信新聞』2023.08.08)
●「日本型枠工事業協会(日本型枠、三野輪賢二会長)が行った2022年度の『型枠大工雇用実態調査』で、調査対象の型枠工事会社131社の就労工数が前年調査時(130社)の8132人から35.4%減の5254人と大きく落ち込んだ。1社当たりの平均就労工数も17、18年調査時の49.6人程度から40.1人と激減し、10年の調査開始以降で過去最低を更新。調査企業数が前年からほぼ変わらない中、離職者の増加、新規入職者の減少が一段と進んでいる。」(『建設工業新聞』2023.08.08)
●「国土交通省は、建設工事の安全衛生経費が適切に支払われるための実効性ある施策の初弾として、『安全衛生対策項目の確認表』の参考ひな形と説明書を作成した。注文者と下請けが見積時に、対策項目の実施主体と、その費用を負担する主体を明確化するツールとして、確認表を使用する。参考ひな形に沿った工種ごとの確認表作成を専門工事業団体に要請するとともに、作成された確認表の活用を全建設業団体に求める文書を9日付で通知した。」(『建設通信新聞』2023.08.10)

建設産業・経営

●「国土交通省と建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)の定例意見交換会が7月31日、東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で行われた。持続可能な建設産業の実現を目指し、受発注者が連携し建設現場の働き方改革や生産性向上、技能者の処遇改善に取り組んで行く方針を確認。当面は2024年4月に迫る時間外労働の罰則付き上限規制適用に対応するため、建専連が現場への完全週休2日制導入や、作業の制約に配慮した適切な工期設定などを求めた。」(『建設工業新聞』2023.08.01)
●「建設経済研究所と経済調査会は2日、2024年度建設投資見通しを発表した。新型コロナウイルス感染症の5類移行などで持ち直している国内景気が堅調に推移し、民間非住宅建設投資がけん引して全体的に伸びるとみて、物価変動を含む名目値は前年度見通しに比べて1.2%増の72兆6600億円と推計した。資材価格など上昇する建設コストは高止まりすると予測し、物価変動を含まない実質値でも1.3%増とプラスを見込んだ。名目値の内訳は、国や地方自治体などの政府建設投資が0.5%増の23兆7700億円、民間建設投資が1.6%増の48兆8900億円。民間建設投資のうち、住宅投資は0.8%増の16兆9500億円、倉庫や事務所など住宅以外の建築と土木を合わせた非住宅投資は1.5%増の23兆0400億円、建築補修(改装・改修)投資は3.1%増の8900億円としている。」(『建設通信新聞』2023.08.03)
●「大成建設が7日発表した2023年4~6月期連結決算は、最終損益が22億円の赤字(前年同期は63億円の黒字)だった。4~6月期での最終赤字は12年4~6月期以来11年ぶり。資材高騰などによる工事採算の悪化に加え、首都圏の大型建築工事で工程遅延が起きたことで費用が積み重なった。売上高は微減の3289億円だった。首都圏で手がける大型建築プロジェクトのうち、東京都世田谷区の新庁舎施工などで工程の遅延があった。人員増などコストが膨らむことに備えて工事損失引当金を計上した。研究開発費や賃上げが響いて販管費も増え、営業損益は80億円の赤字(前年同期は60億円の黒字)と14年ぶりの営業赤字だった。」(『日本経済新聞』2023.08.08)
●「国土交通省は8日、2023年度建設投資見通しを発表した。物価変動を含む名目値の総額は70兆3200億円で、前年度見込みに比べて2.2%増と推計した。公共工事の出来高と手持ち工事高の増加が続いていることから、政府建設投資の土木がけん引して全体を押し上げると見通す。民間建設投資のうち非住宅建築投資はマイナスに転じると予測し、建設経済研究所と経済調査会が2日に発表した23年度建設投資見通しと異なる見方を示した。」(『建設通信新聞』2023.08.09)
●「上場大手ゼネコン4社の2024年3月期第1四半期決算が9日までに出そろった。連結の売上高は鹿島、大林組、清水建設の3社が同期比で過去最高を記録。減収の大成建設も主要因は開発事業などの減少によるもので、建設事業は各社の豊富な手持ち工事を背景に順調に進捗(しんちょく)している。一方、損益は資材価格が依然として影響を及ぼしている。各社とも高止まりが継続すると予測しており、回復局面はいまだ遠い。」(『建設通信新聞』2023.08.10)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「市街地再開発に民間資金が集まらなくなっている。日本経済新聞の調査によると、過去5年間の再開発事業の約3割で、国と自治体が補助金を投じたうえ、建物の一部フロアを買い取っていた。人口減で民需が低迷する中、事業を成立させるためだ。公的資金の二重投入による『官製再開発』は地方財政を圧迫する。採算性を見極め建設費を抑える発想が要る。市街地再開発は本来、民間主導で古い住宅や商店が密集する地域などを商業施設やマンション、オフィスビルなどに刷新する事業だ。国や自治体が整備費の一部を補助し、事業者は新たに生み出される床(保留床)を販売し収益を得る。東京都港区の六本木ヒルズなどが成功例とされる。問題はこの手法が時代に合わなくなっていることだ。人口減で保留床がさばけず、自治体が買い取って市民会館や図書館を整備する例が相次ぐ。2018~22年度に国の社会資本整備総合交付金などを使った106市区町の198の再開発事業を調べたところ、27%にあたる54事業(47自治体)で、国と自治体の補助金と自治体の保留床取得による『公的資金の二重投入』が確認された。54事業に投じた公的資金の総額は少なくとも7641億円。このうち自治体の保留床取得費は2526億円に上った。」(『日本経済新聞』2023.08.03)
●「一定の省エネ基準を満たさない新築住宅が2024年1月から住宅ローン減税の対象から外れるのを受け、建設業者などが対応を急いでいる。過去の傾向に照らすと新築住宅の2割近くが基準を満たさない可能性がある。住宅ローン減税を使う予定の購入者も注意が必要になる。住宅ローン減税は、住宅を取得するか、中古住宅を増改築した場合に最大13年間にわたり各年末の住宅ローン残高の0.7%を所得税などから差し引く仕組みだ。今は省エネ基準を満たさなくても3000万円を限度に控除対象になっている。国土交通省は24年度の税制改正要望でこうした措置を続けることを求めない方針だ。そのため24年1月以降に入居する新築住宅は、断熱性能などの省エネ基準に適合しないと住宅ローン減税の適用を受けられなくなる。既に減税対象となっている住宅ローンには影響しない。国交省の調査では20年度時点では新築住宅のうち16%が省エネ基準を満たしていなかった。マンションと戸建てで計8万戸ほどが該当するとみられる。規模別にみるとマンションなど大規模な住宅が27%、中規模で25%が基準に届いていない。」(『日本経済新聞』2023.08.07)
●「2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の海外パビリオンを独自に建てる予定の国が60あり、そのうち建設事業者が決定したのは6カ国と全体の1割にとどまることが分かった。運営主体・日本国際博覧会協会(万博協会)が各国に聞き取って準備状況をまとめた。自国での予算の承認がまだの国もあり、準備遅れの実態が改めて浮き彫りになった。大阪・関西万博には150を超える国・地域が参加を表明している。このうち独自にパビリオンを建てる『タイプA』について、万博協会はこれまで出展者は『約50カ国・地域』と公式の場で説明してきた。タイプAのパビリオンとして60カ国が全56施設の出展を計画していることが明らかになった。55カ国が単独で出展し、スウェーデンなど北欧5カ国は共同で1つのパビリオンを出す予定だ。このうち建設事業者が『決定』、あるいは『選定済み』と答えたのは米国とカナダ、ベルギー、オーストラリア、オマーン、シンガポールの6カ国だった。『交渉中』は5カ国で、具体的な準備が進んでいる国は全体の2割程度にとどまった。自国で予算の承認待ちと回答した国も複数あり、約1年8カ月後の開幕までに完成が間に合わないとの懸念が強まっている。」(『日本経済新聞』2023.08.09)

その他