情勢の特徴 - 2023年9月後半
●「消費税の仕入税額控除の新方式『適格請求書等保存方式(インボイス制度)』が10月にスタートする。今後は納税義務が原則免除される『免税事業者』との取引で控除を行えなくなり、一人親方を中心に免税事業者が多い建設業界にも大きな影響を与える。取引関係にある課税、免税事業者間で税負担の在り方を決める必要があるが、どのような判断が適切か見極めが難しい面もある。これを機に一人親方の廃業が増える懸念もあり、業界を挙げて働き手に寄り添った対応が求められていると言えそうだ。」(『建設工業新聞』2023.09.29)
●全日本建設交運一般労働組合(建交労)は15日、ダンプ労働者の賃金が公共工事受注業者の“ピンはね”で低く抑えられ、事故の危険があるダンプの違法運行につながっているとして、沖縄県に対策を要請した。建交労沖縄ダンプ協議会の東江勇議長は、▽県の公契約条例を「規制型」に改定し、設計労務単価(労働者が受け取るべき賃金)の80%の支払い義務付け▽国、県発注工事の「使用促進団体」(ダンプ規制法第12条団体等)に認定されている建交労全国ダンプ部会の加入者を使用促進するよう受注者への指導徹底―などを求めた要請書を提出した。(『しんぶん赤旗』2023.09.18より抜粋。)
●「東京都中央区八重洲のビル工事現場で19日、7階部分から鉄骨が落下する事故があり、男性作業員2人が死亡した。警視庁は現場の安全管理に問題がなかったかを含め、業務上過失致死傷容疑を視野に調べている。同庁や工事に関わる大林組によると、事故は午前9時15分ごろに発生した。ビルの7階部分で設置作業中だった鉄骨1本をクレーンのワイヤでつり上げていたところ、何らかの原因でワイヤが外れ、約20メートル下の3階部分の床まで落下した。この際、すでに設置済みだった鉄骨4本も併せて嵐落した。鉄骨の重量は5本で計約48トンに上るという。」(『日本経済新聞』2023.09.20)
●「厚生労働省は21日、『個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会』(座長・土橋律東大大学院工学系研究科教授)を開き、報告書案を示した。建設業の個人事業者に休業4日以上の業務上災害が発生した際の報告主体は、一人親方の場合、『特定注文者』や『災害発生場所管理事業者』に対して災害報告を義務付け、このどちらかが労働基準監督署へ報告する仕組みとしている。これに対し、建設産業界の委員は、報告書案の仕組みに加え、一人親方の権利として自らも労基署に直接情報提供できる仕組みを整備すべきと訴えた。」(『建設通信新聞』2023.09.22)
●「厚生労働省は21日に東京都内で有識者会議を開き、建設業の一人親方など個人事業者の安全衛生対策の一環で、労働災害の実態把握を目的に新設する報告制度の大枠を示した。休業4日以上の死傷災害について、被災した一人親方自身が直近上位の特定 注文者や現場管理事業者への伝達を義務化。特定注文者らには、必要事項を補足した上で労働基準監督署に報告する義務を課す。2段階による報告スキームについて、会議に参加した建設業界の関係者らは、義務化による特定注文者らの負担増や現場の混乱が懸念されるとし、スキームの見直しを訴えている。」(『建設工業新聞』2023.09.22)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)は、7月の理事会で決議した『適正工期確保宣言』を本格実施のステージに移す。発注者に対する説明用パンフレットが完成したことに加え、宣言から2カ月が経過して会員各社の準備も整ったと判断。民間発注の建築工事を対象に、4週8閉所・週40時間稼働を原則とした見積書を提出するという日建連決定内容について、各社で一斉に足並みをそろえ、建築業界の標準化に向けたうねりを起こす。」(『建設通信新聞』2023.09.25)
●「建設業振興基金は22日、働き方改革などをテーマに、東京都江東区の木材会館で第28回建設業経営者研修を開いた。社会保険労務士らが講師を務め、全国から参加した建設業経営者約160人に対し、2024年4月から建設業に適用される時間外労働上限規制への対応策を解説した。櫻井好美アスミル代表が『働き方改革は経営戦略』、荒井恭子建設ディレククー協会理事長が『建設ディレクターが建設業界の働き方を変える』と題して講演した。上限規制の内容とその対応策を社会保険労務士の立場から解説した櫻井代表は、労働時間の定義について、使用者の指揮命令下に置かれた時間と説明。その上で、使用者が午前8時を始業時間と定めていても、仕事の準備をするために労働者が午前7時に出勤する場合は準備を始めた時間から労働時間がスタートすることを例示し、時間外労働の削減に向けた最初のステップに適正な時間管理を挙げた。『建設業の場合、移動時間が非常に大きな問題』と指摘し、『現場への直行が認められている場合は、通勤と同じ扱いで、労働時間と扱わなくていい。ただ、会社に1回来て積み込みをする場合は、積み込みした時間から労働時間になる』と解説した。労働者が1カ所に集まり、1台の車に乗り合って現場へ向かうケースでは、使用者が現場到着時間と乗車する労働者を指示すると労働時間に当たるとした。」(『建設通信新聞』2023.09.26)
●「全国建設業協会(全建、奥村太加典会長)は会員企業を対象に、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)運用指針を踏まえ発注手続きが適切に行われているか調べた。最新の公共工事設計労務単価や高騰する資材など実勢価格が予定価格に適切に反映されているか確認したところ、『あまり反映していない』と答えた割合は市区町村発注工事で5割超を占めた。受注の減少や工事原価の上昇などを理由に利益が『悪い』または『悪くなってきた』企業の割合は公共発注者全体で前年度調査を上回る4割超に上った。」(『建設工業新聞』2023.09.19)
●「結果的に経営のマイナスに働く場面も――。総合評価方式を採用する国の公共調達で2022年度にスタートした賃上げ実施企業の加点措置について、地域建設業の多くが不安や不満を持っている実態が明らかになった。全国建設業協会(全建、奥村太加典会長)の調査結果によると、会員企業の約4割が『不満がある』または『一部不満がある』と回答。10月4日の関東甲信越を皮切りに全国9地区で開く国土交通省との23年度地域懇談会・ブロック会議で話題に上がる見通しだ。公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)に基づく直近の発注手続きの対応状況を調べた。6~7月に実施し、前年度の倍となる1183社増の2524社が答えた。国の工事や業務などを対象にした賃上げ表明企業に対する総合評価方式の入札での加点評価は、事業年度もしくは暦年単位で従業員に対する目標値(大企業3%、中小企業など1.5%)以上の賃上げを表明した入札参加者に行っている。ただ賃上げ未達成なら減点を課す仕組みとなる。全建がこの措置について、会員企業に対しどのように感じているか確認した結果、『満足している』(回答割合12.4%)または『やや満足している』(49.2%)が合わせて6割だった。一方、『不満がある』(18.4%)または『一部不満がある』(19.9%)が合わせて4割弱あった。不満の内容や理由も確認したところ、会員企業からは『この制度がいつまで続くか分からない。経営を圧迫し賃上げを見越した内部留保も検討が必要。結果的にマイナスに働く場面が出てきている』『賃上げの必要性は理解できるが、会社の経営状況が良くなることが条件』など、制度の廃止も見越した抜本的な見直しを求める意見が出た。『毎年(毎年度)で1.5%と縛りを付けられると賃上げの自由度が損なわれる。複数年度の賃上げも認めるべき』『達成できなかった時の減点措置が厳しすぎる』といった、運用の柔軟な見直しを求める意見もあった。」(『建設工業新聞』2023.09.19)
●「斉藤鉄夫国土交通相と建設業主要4団体は19日に東京・霞が関の国交省内で意見交換会を開き、技能労働者の賃上げや工期の適正化を官民一体で強力に進めることを確認した。半年後に適用が迫る時間外労働の罰則付き上限規制に触れ、斉藤国交相は『ピンチをむしろチャンス』と捉え、これを機に労働時間短縮や処遇改善への取り組みを『抜本的に強化しなければならない』と決意を表明。中央建設業審議会(中建審)と社会資本整備審議会(社整審)合同の基本問題小委員会による『中間取りまとめ』が同日公表されたことを受け『必要な制度改正に取り組む』と明言した。」(『建設工業新聞』2023.09.20)
●「建設キャリアアップシステム(CCUS)登録技能者の能力評価(レベル判定)手続きに、10月2日から『解体』職種が追加されることが決まった。能力評価実施団体は全国解体工事業団体連合会(全解工連、井上尚会長)。レベル判定業務は日本機械土工協会(日機協、山梨敏幸会長)に委託し、同日にウェブで申請受け付けを開始する。レベル判定に用いる能力評価基準の策定・認定は41職種目。能力評価の対象になるのは▽足場とび工▽かじ工▽建設廃棄物運搬工▽はつり工▽解体工▽同(コンクリート工作物)▽同(木造建築物)▽ひき家工▽アスベスト除去工―のいずれかの職種コードでCCUS技能者登録している技能者。同協会が策定した能力評価基準に基づき4段階でレベルを判定し、各レベルに応じたカードを技能者に交付する。能力評価基準では各レベルに必要な保有資格や就業日数を設定した。2022年2月には登録基幹技能者の職種に『解体』が追加され、今年8月には全解工連が全国5会場で初の『登録解体基幹技能者講習』を開始している。」(『建設工業新聞』2023.09.22)
●「東京・明治神宮外苑の再開発計画の撤回などを求めている国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の関係者らが15日、東京都千代田区の日本記者クラブで記者会見した。国際文化的景観委員会のエリザベス・ブラベック委員長は、オンラインで参加し『将来の世代のため、事業をただちに中止することを呼びかけたい』と述べた。イコモスは、再開発で文化的資産が危機に直面しているとして、緊急要請『ヘリテージ・アラート』を7日に公表。三井不動産などの事業者に計画の撤回を、都には環境影響評価(アセスメント)の再審議を求めた。会見でブラベック氏は『文化遺産の不可逆的な破壊だ』と指摘。伐採対象ではないイチョウ並木も『スポーツ施設の建設で日射が減るなどのストレスがかかる』とした。都には都市計画決定の見直しを要求した。」(『日本経済新聞』2023.09.16)
●「2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場建設費について、約450億円増の2300億円程度を軸に検討されていることが24日、わかった。複数の関係者が明らかにした。資材高や人件費の高騰が主因という。2300億円に増額となった場合は当初計画から8割超上昇することになる。増額となれば2度目で、国民負担はさらに膨らむ。会場建設費は政府と大阪府・大阪市、経済界が3分の1ずつ均等に負担する仕組みとなっている。運営主体の日本国際博覧会協会が上振れ額の精査を進めており、その後政府や府・市、経済界などと調整する。最終的な増額幅は変わる可能性がある。会場建設費の上限は誘致時点で1250億円だったが、会場デザインの設計変更などで20年に1850億円に増額した経緯がある。建設費にはメイン会場のほか、同協会が建設する海外パビリオンの工事費などを含む。資材高や人件費の高騰を背景に工事の落札金額が当初計画から上振れるケースが相次ぎ、政府が同協会に必要な金額の精査を指示していた。」(『日本経済新聞』2023.09.25)
●「原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を選定するための『文献調査』について、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長が受け入れない考えを表明した。住民の理解を得るハードルは高く、政府が目指す文献調査の実施地域拡大の難しさが浮き彫りになった。最終処分場が決まらない限り、政府が推進する核燃料サイクルは完成しない。岸田政権は原発フル活用にかじを切っており、処分場選定を前に進める政府の責任は一段と重くなっている。核燃料サイクルは、再処理工場で使用済み燃料からウランとプルトニウムを取り出し、原発の燃料に再利用する政策。再処理の際に出る放射性廃液をガラスで固めたものが高レベル放射性廃棄物で、地下に埋設処分する。処分場の選定は、①文献調査②概要調査③精密調査――の3段階で進み、全体で20年程度かかる。最終処分場選びは原発の利用を始めてからの懸案だ。2007年に初めて高知県東洋町が文献調査の受け入れを表明したが、町長選で調査阻止を掲げた候補の当選で撤回された。全国初の文献調査は20年に北海道の寿都町と神恵内村で始まった段階だ。政府は今年4月、『最終処分に関する基本方針』を改定し、『政府の責任』で処分に取り組んでいくことを明確化した。経済産業省は『複数の地域が文献調査に関心を持っている』(幹部)として実施地域拡大を目指すが、今回の対馬市の動きは他の地域の判断にも影響を与えそうだ。」(『建設通信新聞』2023.09.29)
●国や自治体による大型開発を検証し、中止を求める「公共事業改革市民会譲」(橋本良仁代表)が28日、国会内で全国各地の課題を学ぶ集会を開いた。現地からの参加者が事業の現状と問題点を報告。JR東海が国の財政投融資を活用して進めるリニア中央新幹線(東京・品川-名古屋間)建設工事について、甲府市の川村晃生さんは「全線の86%がトンネルで、残土の処分や水資源の保全など、さまざまな課題が解決されていない。工事が大幅に遅れていることからも失敗は明らかだ」と指摘した。東京外環道の大深度地下トンネル工事に反対する住民は、東京都調布市で陥没や空洞が生じる事故が起きたとして「地盤沈下や家屋損傷、騒音と振動による健康被害の苦しみも続く。家の下にトンネルが掘られ、安心して住めなくなることは人道的・倫理的に許されない」と訴えた。長崎県による石木ダム建設に反対し、同県川棚町の予定地で抗議の座り込みを続ける住民がビデオメッセージを寄せた。(『しんぶん赤旗』2023.09.29より抜粋。)