情勢の特徴 - 2023年11月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「インボイス(適格請求書)制度の開始から1カ月あまり。10月分の請求書の処理が本格化するなか、中小・新興企業などで混乱が続いている。企業ごとに異なる請求形式の違いへの対応や、登録番号の確認作業で業務の負担が増している。10月に入っても企業の9割で今後の対応に懸念を持つとの調査も出ている。『アプリやソフトウェア販売、電子商取引(EC)販売を手掛ける事業者の一部で10月以降、急きょ自社でインボイス発行が必要な取引が相次いだ』。家計簿アプリや会計ソフトを手掛けるマネーフォワードの松岡俊経理本部長は想定外の対応に追われた。アプリの販売プラットフォームの米アップルや米グーグル、ECサイトの米アマゾン・ドット・コムなどで、発行の仕組みがバラバラだったからだ。例えば同じアプリ販売でもアップル経由の場合、アップルがインボイスを直接交付するが、グーグルでは事業者側に交付義務が発生している。マネーフォワードは1年ほど前から準備してきたが、10月に入って取引先への周知や税務署への確認、アプリの利用規約の記載変更などの対応に追われることになった。帝国データバンクが10月6~11日までに実施したインボイス制度への対応状況に関する企業アンケートでは対応が遅れているとした回答が3割にのぼり、全体の9割で懸念事項があると回答した。懸念の多くが事務作業負担の増加だった。『10月から請求書を紙から電子に切り替えて発行してほしい』。防災設備設計・施工の紘永工業(横浜市)は、納入先10~20社から請求書のフォーマット変更の依頼が相次いだ。各社が独自システムを使っていることが多く『アカウントの登録作業に手間がかかった』(経理担当者)。都内の電気工事会社は請求書をインボイス番号記載の形式に変更し、8月末に取引先各社に郵送で案内をした。だが、取引先の請求書担当に届いていないためか、番号のない請求書を送ってくる取引先が散見される。制度への登録が必要とされる免税事業者160万者のうち、登録が済んだのは9月末時点で106万者。出前館では10月以降もー部の配達員が登録を進めており、その確認作業に追われている。辻・本郷ITコンサルティング(東京・渋谷)の菊池典明税理士は『買い手は免税事業者に対しては、どれほど課税分を負担してもらうか改めて交渉する必要がある。今後も対応で混乱する可能性もある』と指摘する。小規模な取引先の多い外食産業の負担も続く。つぼ八は『登録番号の確認作業や請求書の準備などで業務時間が増えている』と話す。10月分の請求書送付は今後増える見込みで、番号の確認作業でさらなる業務負担の増加を懸念する。インボイス制度について同社の担当者は『免税事業者を設けるべきではない』と制度の廃止を求める。居酒屋『金の蔵』などを展開するSANKO MARKETING FOODSは従業員の立て替え精算で使うシステムで番号を自動で読み取れないケースが多発。経理部が1枚ずつ領収書を確認するなど『想定以上に負担が増えた』という。免税事業者側でも混乱も起きている。建設作業員を中心に構成する全国建設労働組合総連合(全建総連)には『一人親方』と呼ばれる個人事業主の一部から『取引先から課税事業者登録を突然求められ、登録しなければ単価を下げると通知された』との報告が入った。公正取引委員会はインボイス制度を巡り一方的な取引価格の引き下げは独占禁止法の違反につながる恐れがあるとして注意を促している。だが、実際のビジネスの現場で値決めを巡り混乱が広がっている恐れもある。」(『日本経済新聞』2023.11.05)
●「政府は2日の臨時閣議で、財政支出規模21.8兆円に上る総合経済対策を決定した。柱の一つに据えた防災・減災、国土強靭化などに6.1兆円(事業規模6.3兆円)を投じる。『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』の4年目(2024年度)分を確保し対策を着実に進める。同対策の後継となる『実施中期計画』の策定向けた検討に取り組むと明記した。建設業関係では持続的な賃上げを実現するための『賃金行き渡り』の担保策や、『建設業の2024年問題』の解決に向けた措置を講じる。」(『建設通信新聞』2023.11.06)
●物価高騰に伴う急激な仕入れ値上昇が長期化する下、従業者規模5人以下の小企業者の収益低迷が続いている実態が、全商連付属・中小商工業研究所が10月20日に公表した「2023年下期(9月)営業動向調査」で明らかになった。仕入れ経費の増大に見合う単価・マージンの確保が十分でなく、価格転嫁の困難性が、収益低迷の要因とみられる。国・自治体による直接支援や資金繰り支援が緊急に求められている。同調査は、従業者規模6人以上と5人以下の小企業者で比較分析。23年下期の「売上DI値」は、6人以上が9.7に対して5人以下は▲42.5、「利益DI値」は6人以上が▲7.3に対して5人以下が▲52.1。5人以下は、経営困難な状況から脱しきれずにいる。物価高騰に伴い、「原材料・商品の仕入値DI値」の上昇(87.5)と「経費の増大」(35.1%)が長期化している。こうした中、中小商工業者は「経費節減」(38.2%)や「販売価格(単価)引き上げ」(32.1%)を中心とした経営努力を強めている。その反映として、「単価・マージンDI値」(11.1)は、3期連続で01年の統計開始以来の最高値を更新している。「単価・マージンDI値」を比較すると、6人以上は30.7に上昇し、5人以下は7.3と初めてプラスに転じている。それでも、6人以上と5人以下との間で、売上DI値が52.2ポイント、利益DI値が44.8ポイントもの差が開いているのは、5人以下の小企業者においては、仕入れ経費の増大に見合う単価・マージンの確保が十分ではなく、価格転嫁の困難性が見て取れるからだ。中小商工業者の実情に即した、国と自治体による直接支援や資金繰り支援が、緊急に求められている。同調査には、「インボイス導入のタイミングで廃業する予定の年配の業者が、身の周りに増えてきた」(静岡、家具・木工・紙製品)、「50年近く仕事をしている。インボイス制度で、仕事を通じての人間関係が崩れていくように思う」(鹿児島、職別工事業)という切実な実態が寄せられている。(『全国商工新聞』2023.11.06より抜粋。)
●9月の総務省「家計調査」は家計を切り詰めても、出費がかさむ実態を浮き彫りにした。深刻なのは食料支出だ。2人以上の世帯では前年同月に比べ3.7%も購入量(実質値)が減少したのにもかかわらず、実際に支払った金額(名目値)は5%も増えたのだ。物価は高騰している。総務省「消費者物価指数」によると、9月の物価は前年同月に比べ2.8%の上昇だった。とりわけ食料は9%と大幅に上昇した。帝国データバンクがまとめた食品主要195社の価格改定動向によると、9月は2148品目、10月は4757品目で食品値上げが行われた。2023年全体では予定を含め3万2189品目の値上げだ。この食料価格の上昇が家計を圧迫している。消費支出に占める食料支出の割合をエンゲル係数という。生活水準の指標とされる。9月のエンゲル係数は前年同月に比べ1.2ポイント上昇し、28.6%となった。エンゲル係数は5月以降、5カ月連続で28%を超えて高止まりしている。23年は1~9月の平均で27.5%と比較可能な00年以降、もっとも高かった20年と並ぶ水準だ。一方、岸田文雄政権が2日に閣議決定した経済対策では、「物価高騰から家計を守る」としながら、物価抑制策は電気・ガス料金やガソリン代への補助金しかない。しかも企業への補助金であり、直接家計をあたためるものでもない。(『しんぶん赤旗』2023.11.08より抜粋。)
●「東京商工リサーチが9日発表した10月の企業倒産(負債額1000万円以上)は793件と前年同月比33%増えた。新型コロナウイルス禍で実施した公的支援の反動が大きく、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)を利用した企業の倒産は累計で1100件を超えた。一方、事業継承を目的にしたM&A(合併・買収)の機運も出始めてきた。企業倒産の増加は19カ月連続で、1~10月で約7000件となった。2023年通年では4年ぶりに8000件を超える公算が大きい。直近で最少だった21年は6030件、22年は6428件だった。23年の倒産が大幅に増えるのはゼロゼロ融資の反動だ。コロナ禍での資金繰りを支援するために20年春から政府系や民間の金融機関で取り扱いを始めた。同融資は一定期間の元本返済を免除してきたが、23年に入って返済の猶予期間が終わる企業が続出し、7月には約5万社で返済が始まった。物価高や人件費の上昇で経営が厳しくなる中、ゼロゼロ融資の返済も始まって資金繰りに窮するケースが相次ぐ。中小企業にとっては後継者不足も深刻だ。帝国データバンクによると、後継者の不在による倒産は1~10月に463件と前年同期比13%増えた。同期間では集計を始めた13年以降で最多となった。後継者難の倒産を要因別に見ると、販売不振(246件)が最も多く、経営者の病気・死亡(190件)が続いた。負債額1億円未満の企業が全体の約7割を占める。帝国データの内藤修・情報統括部課長は『政府支援でなんとかコロナ禍を乗り切れたが、後継者問題を解決できないまま事業継続を諦めるケースが増えている』と指摘する。」(『日本経済新聞』2023.11.10)
●「政府は10日に閣議決定した2023年度補正予算案で『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』の4年目分として、国費1兆5188億円を計上した。財政投融資などを加えた事業費ベースでは2兆3560億円となる。うち公共事業関係費は国費1兆3022億円(事業費2兆0035億円)を確保する。いずれも計上額には、現下の資材価格や物価の高騰などを踏まえて、5か年加速化対策の別枠として創設した『国土強靭化繋急対応枠』(3000億円)も含まれている。5か年加速化対策は5年間で事業規模15兆円(国費ベース7兆円台半ば)というスケールを描いている。1~3年目(21~23年度)までの対策の進行状況を見ると、これまでの累計で事業規模約9.88兆円、国費約5.02兆円(うち公共事業関係費約4.15兆円)を確保してきた。これに今回の補正予算案の計上額(国土強靭化緊急対応枠を除く)を加えると、事業規模は約11.8兆円(国費ベースで約6.2兆円)となる。5か年加速化対策の費用として計上した分野別の事業費は、▽風水害や大規模地震などへの対策=1兆8200億円(国費1兆1721億円)▽老朽化対策=4818億円(2928億円)▽デジタル化推進=541億円(539億円)。府省庁別では、前年度に引き続き国土交通省の計上額(国費1兆1079億円)が最も多かった。気候変動の影響を見据え、あらゆる関係省が協働する『流域治水』の取り組みを推進。高規格道路のミッシングリンク解消や重要インフラの老朽化対策などを展開する。5か年加速化対策以外の事業を含めた、国土強靭化関係予算の計上額は国費1兆9496億円(事業費べース3兆0769億円)。うち公共事業関係費は1兆4165億円(2兆1341億円)となる。政府は強靭な国土づくりの歩みをしっかりと進めるため、予算執行に当たり、適正な積算実施や工期設定、施工時期の平準化などに取り組む。国庫債務負担行為も柔軟に活用する。」(『建設工業新聞』2023.11.13)
●「帝国データバンクは14日、人手不足による企業の倒産件数が2023年1~10月に前年同期比78%増の206件になったと発表した。集計値がそろう14年以降の年間の最多件数をすでに上回った。建設業が件数の37%、物流業が16%を占めた。いずれも24年4月から時間外労働の上限規制が適用される業種で、さらなる人手不足が懸念されている。調査を担当した帝国データバンク情報統括課の旭海太郎副主任は『今後人手不足による倒産の影響が一段と広がる可能性がある』と指摘する。従業員規模別にみると、10人未満の企業の倒産が155件で全体の75%を占めた。10~50人未満が23%で50人以上は1%のみだった。業歴別では30年以上が最多の84件で41%だった。小規模で業歴の長い企業ほど人手不足と事業継続懸念に直面している。」(『日本経済新聞』2023.11.15)

行政・公共事業・民営化

●「国土交通省は、都道府県が発注した週休2日工事の2022年度実施状況をまとめた。週休2日達成率(災害復旧を除いた年度工事完了件数に占める週休2日工事4週8休達成件数の割合)は、75%以上が前年度比4団体増、30%未満が15団体減となるなど、都道府県による週休2日の取り組みが着実に進展している。受注者希望方式で受注者が週休2日確保に取り組んだ割合が、達成率に比較する傾向も浮かび上がった。達成率が高い団体の地元建設業界は意識が高いと見られ、さらなる進展に向けては業界の意識向上が鍵を握る。」(『建設通信新聞』2023.11.06)
●「国土交通省は、『債務負担行為の活用』など施工時期の平準化に有効な八つの取り組みについて、都道府県と政令市の実施状況をまとめた。発注部局別の実施率(団体総数に占める実施団体数の割合)は、土木部局がほとんどの取り組みで最も高く、農林部局は半数以上の取り組みで8割を超えた。土木部局がけん引し、発注部局の枠を超えて農林部局にも取り組みが広がりつつある。一方で建築部局は遅れている。」(『建設通信新聞』2023.11.07)
●「国土交通省は、技術者や技能者が交代しながら個人レベルでの週休2日確保に取り組む週休2日交代制工事について、都道府県の導入状況をまとめた。導入済みは4割で、検討中は2割だった。作業日が限定的などの理由で週休2日工事を適用しにくく、現場閉所が困難な工事でも、交代制の導入によって個人レベルで週休2日を確保できることから、未導入で検討もしていない4割の団体に導入を働き掛ける。」(『建設通信新聞』2023.11.08)
●「自民党の『公共工事品質確保に関する議員連盟』(会長・根本匠衆院議員)が、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)の改正に向けた検討を本格化する。8日に東京都内で総会を開き、有志議員が参加する法改正プロジェクトチーム(PT)の設置を了承。同日ヒアリングした建設関連業界団体からの要望を踏まえ、法制化の内容を詰めていく。根本会長は『品確法を軸に、建設業法を含めて関連する法体系をしっかり整備し、建設業界でこれからの担い手を確保でき、2024年問題に的確に対応できるよう運用していきたい』と意欲を示した。PTのメンバーは自ら希望する議員も含めて議連幹部で固める。今後のスケジュールは明らかにしていないが、建設業法や公共工事入札契約適正化法(入契法)とともに24年の通常国会での一体的な改正を視野に入れ検討を進める見通し。測量設計分野の担い手確保を後押しする観点から、閣法の測量法改正も併せてPTで議論する。業界団体ヒアリングでは、建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用される24年問題を目前に控え、公共工事の適正な工期設定など建設業の働き方改革につながる施策への切実な声が多く聞かれた。これを機に担い手不足に拍車がかかるとの懸念も大きく、賃上げや生産性向上を含めた早急な対応が求められている。こうした意見を踏まえ根本会長は、品確法の産業政策としての側面を強調。働き方改革の観点で公共発注の多岐にわたる課題解決が求められると指摘し『長年の懸案事項もここで解決する必要がある』と主張した。さらにダンピング対策などの取り組み状況も含めて『地方自治体、特に小規模な市町村には品確法の趣旨が十分に浸透していない』との認識を示し、対応策を検討する際に重点を置く考えを示した。品確法の枠内で『発注者の責務』が位置付けられている公共工事と比較し、取引適正化に向けた法的枠組みに乏しい民間工事の問題点にも言及。適切な賃金の行き渡りなど『民民間の課題にもきちんと対応していきたい』と話した。」(『建設工業新聞』2023.11.09)

労働・福祉

●「企業に属さずフリーランスとして働く人が増加傾向にある。安心して働くには、病気やけがをしても生活が保障される安全網が欠かせない。厚生労働省は労災保険に原則全業種のフリーランスが加入できるようにする。現段階の試算でフリーランスの加入対象者は約270万人に広がる見通しだ。フリーランスは企業や組織に属さずに個人で仕事を請け負って働く人を指す。内閣官房の調査では20年時点で全国に総計460万人いる。労働人口の15人に1人の計算だ。新型コロナウイルスの感染拡大を機に増加したといった調査もある。フリーランスは企業に雇用されていないため、仕事や通勤中に起きた事故や病気の治療費などをカバーする労災保険に一部の業種の人しか加入できない。これまでは自転車配達員、歯科技工士など業種ごとに徐々に保険に入れる対象をひろげてきた。こうした加入対象業種は現在25種ある。厚労省は今回の改革で労働者災害補償保険法の施行規則を改正し、労災保険に入れるフリーランスの対象を全業種に広げる方針だ。2024年秋の施行を目指す。加入は任意で、ライターや研究者、デザイナーなども新たに対象になる。そのうち企業から業務委託を受け、企業で働く労働者と同じ環境にあることが保険加入の条件になる見通しだ。4月に成立したフリーランス・事業者間取引適正化等法が定める基準に沿って判断する。」(『日本経済新聞』2023.11.02)
●「東京地区生コンクリート協同組合(青木規悦理事長)は、2025年4月1日から完全週休2日制導入を目指す方針を固めた。土日祝日の完全休日化を前提に、やむを得ず稼働する場合は割り増しの休日単価とする。組合員企業では高齢化が進んでおり、週休2日にしなければ若手の人材確保が困難との問題意識が背景にある。今後、施工者らへの説明を本格化するとともに、首都圏の周辺協組との連携を模索する。24年度を試行期間と位置付け、理解を求めていく。」(『建設工業新聞』2023.11.07)
●会計年度任用職員は、自治体の非常勤や臨時の非正規職員を統一した制度で、2020年度から始まった。全国で約62万人いる。(6カ月かつ週19時間25分以上勤務の人)処遇の改善が制度の趣旨ですが、雇用の不安定さは増している。任期は最長1年。雇用の更新にあたる「再度の任用」について、総務省は、公募が法律上必須ではないとしながらも、広く募集を行うことが望ましいなどと自治体に“助言”。公募せずに「再度の任用」ができるのは、国の非常勤職員の場合は「原則2回(3年)まで」だと、具体例を示した。現職と新規採用を一律にして公募にかければ、大量の雇い止めが出る恐れがある。批判を受けて、同省は22年12月、「連続2回を限度とするよう努めるもの」に変更。国と同じ扱いをしなければならないかとの問いには「地域の実情等に応じつつ、適切に対応されたい」と、自治体まかせの姿勢を見せた。しかし、「2回まで」に従って公募をした自治体も多く、雇い止めにあう人が相次いだ。公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)は今年、会計年度任用職員を対象にアンケート「制度3年目に何が起きたのか」を実施。辞めたと答えた人のうち、「4割は不本意な雇い止めで、勤務歴が長い人が雇い止めにあっている傾向(16年以上が5割超)」と分析している。「明確かつ合理的な理由が示されないまま雇い止めになる」「業務をしっかりと行ってきた人が公募試験で何人も落とされた」などの声も寄せられた。(『しんぶん赤旗』2023.11.08より抜粋。)
●「国土交通省は9日、第1次検定を年齢制にして実務経験を第2次検定のみで求めるなど2024年度から受検資格を大幅に見直す施工管理技術検定について、24年度の実施計画と運用方法を発表した。実務経験として認められる工事の範囲を広げるとともに、その証明方法を変更する。受検資格の見直しに伴い、第1次・第2次両検定の試験問題は作成に当たっての考え方を改め、内容を変更する。実務経験として認められる工事の範囲は、検定種目に対応した建設業業種の該当工事に変更する。加えて、複数の検定種目が対応した業種での工事の経験は、同一の経験を複数検定種目の実務経験として申請可能にする。これにより、例えば、とび・土工の業種に含まれる杭工事を土木構造物で実施した経験は、土木だけでなく、建築や建設機械の検定種目でも実務経験として申請できるようになる。23年度までは、検定種目に対応した工事種別ごとに、実務経験として認められる工事内容を受検の手引きで例示していた。そのため、建築の技術検定で実務経験として認められる杭工事の経験は建築工事で実施したものに限られ、土木工事での経験が認められなかった。実務経験の証明方法も変更する。24年度からは原則として工事ごとに、勤務している会社の代表者ら、または勤務している会社が請け負った工事の監理技術者らが証明する。23年度までは、過去に勤務していた会社での実務経験を含めて受検時に勤務している会社の代表者らが証明する運用だった。24年3月31日までの実務経験は従来方法による証明を認める。受検資格の見直しに伴い、試験問題は改める。第2次検定に必要な実務経験の年数が学歴で差を付けずに一定となることから、第1次検定の試験問題は各専門分野の基礎を確認できる内容に変更する。第2次検定は、受検者の経験に基づく解答を求める設問に関して、白身の経験に基づかない解答を防ぐ観点から設問を見直す。第2次検定の試験問題見直しは不正受検防止も狙いとする。技術検定のスケジュールは、1・2級の建設機械と1級の土木で第1次検定の申込期限を4月5日に延ばす。23年度の期限は3月31日だった。建築と電気工事の1級第1次検定のみ受検者も、申込期限を4月5日とする。第1次検定の受検資格が年齢制に変わり、1級は『19歳以上(受検年度末時点)』となるため、高校を卒業して4月から建設会社に就職した新入社員が入社後に申し込みできるようにする。また、業界団体からの要望を踏まえ、1級土木に陰って第1次検定を行う試験地に鹿児島を追加する。検定種目ごとの詳細な内容は、各指定試験機関が24年1月以降に公表する受検の手引きで案内する。」(『建設通信新聞』2023.11.10)

建設産業・経営

●「全国建設業協会(奥村太加典会長)と47都道府県建設業協会が、業界を取り巻く諸課題について国土交通省などと意見を交わす2023年度の地域懇談会・ブロック会議が10月31日の北陸地区で全日程を終えた。社会資本整備・維持管理の担い手であり、災害対応などでの地域の守り手となる地域建設業の持続可能性をいかに担保するか。この1カ月の間に全国各地区で繰り広げられた議論を振り返る。地域懇談会では、▽公共事業の推進とその円滑な施工▽改正労働基準法と働き方改革、生産性の向上▽賃上げと建設キャリアアップシステム、外国人労働者▽『地域の守り手』としての地域建設業とその広報――の4点をテーマに据えた。ブロック会議では、各地域の実情や特性も踏まえながら業界側からさまざまな要望や意見を伝えた。全国共通の最重要テーマは、今年も地域建設業の経営基盤となる安定的・持続的な公共事業予算の確保だった。特に、改正国土強靭化基本法が成立して初めての会議となっただけに、国土強靭化対策関連の要望が集中した。現行の5か年加速化対策やその前の3か年緊急対策は、その時々の閣議決定をベースに実行されているが、法改正によって、政府による中期実施計画の策定が法的に位置付けられた。『ポスト5か年』をはじめとする対策継続への道筋が付いたことに安堵(あんど)感が漂う場面もあったが、大事なのはその中身。業界側からは、事業の期間や規模、重点施策を明示した国土強靭化中期実施計画の早期策定を求める声が相次いだ。25年度を最終年度とする現5か年対策は、全体事業規模15兆円のうち、3年目となる22年度第2次補正予算までに7割近くの約9.6兆円が措置された。折しも、10月20日に開会した今臨時国会での成立を目指し、現在検討が大詰めを迎えつつある23年度補正予算案で、国土強靭化予算がいくら設定されるかに関心が集まる中ではあるが、最終5年目に予算上の“息切れ”が起こるのは明らか。最終年度を待つことなく、新たな対策に移行する『前倒し』への期待も高まった。さらに、予算の『当初化』への要望も根強い。この間、国土強靭化予算は補正予算で措置されてきたが、補正予算は経済対策の側面が強く、規模も変動しやすい。特に、施工の期間や条件に制約を受ける積雪寒冷地の業界などからは、施工時期の平準化の観点も含めて、当初予算での別枠確保を求める意見が上がった。また、昨今の物価高騰や賃金上昇を受けて、同じ予算規模では整備量が実質減少すると指摘し、現行対策を大きく上回る事業費の確保を働き掛ける声もあった。国交省側も『予算の執行状況などから、建設業界の施工余力は十分にある』との認識を示し、引き続き必要十分な予算の獲得に全力を尽くす考えを表明した。複数の地方整備局長は『管内には、やるべきことがまだまだたくさんある』と協力を呼び掛けた。国交省の林正道官房技術審議官は『今の温暖化の状況を踏まえれば、災害はさらに激甚化するし、南海トラフ地震や首都直下地震のリスクも高まっている。また、インフラはますます老朽化していき、しっかりとメンテナンスをしなければならない。われわれの仕事は減ることはなく、むしろ増えるような状況にある』と話し、合わせて担い手確保や生産性向上の必要性を説いた。予算確保を巡っては、ブロック会議の過密スケジュールの合間を縫って、奥村会長が政府・与党幹部への緊急要望活動も複数回実施し、地域建設業の生の声を直接届けた。」(『建設通信新聞』2023.11.01)
●「かつて下降の一途をたどった公共工事設計労務単価は現在、11年連続で上昇している。その転換点をつくった立役者の一人として知られる国土交通省の塩見英之不動産・建設経済局長は、11年ぶりに地域懇談会・ブロック会議に出席し、『現場を支える技能者の不足は大変に深刻度を増し、技能者を雇用する下請け企業だけでなく、建設業界全体の存続をも左右しかねない大きな問題となってしまった』と危機感をあらわにした。その上で『社会資本整備の担い手、地域の守り手として不可欠な役割を担う建設業界が、今後も持続的に重要な役割を果たしていけるようにするためには、若年人口が減少する中で、他産業との人材獲得競争に打ち勝つことが最も重要である』と指摘。2024年4月から適用される時間外労働の上限規制に言及し、『今までの仕事のやり方を改めなければならないという意味ではピンチの側面もあるがへ業界を挙げて長時間労働の是正に待ったなしで取り組まなければならない。人材獲得に関しては、他産業に後れを取らずに済むという意味ではむしろチャンスと捉えるべきだ』と訴えた。全国建設業協会の奥村太加典会長は各地区の会合で、『上限規制の適用を半年後に控え、その対応は待ったなしの状況にある。全建では21年度から、週休2日と時間外労働の年間360時間以内を目指す「2+360(ツープラスサンロクマル)運動」を展開しているが、この9月からは「工期に関する基準」に沿った見積もりを行う「適正工期見積り運動」も開始した。発注者の理解を得ながら、適正な工期の下で働き方改革を進められるよう、業界一丸となった取り組みが求められる』と呼び掛けた。上限規制対応だけでなく、将来の担い手確保の観点からも、絶対に欠かせないのが週休2日制の定着だ。国交省は、直轄工事では既に、ほぼ100%の工事で週休2日を実施していると説明した上で、『今は工期工体を通しての週休2日となっているが、時間外規制を踏まえ、月単位での週休2日など質の向上を図っていく』と表明した。ただ、地域建設業の大多数は、主に地方自治体の工事をなりわいの糧としている。都道府県・政令市レベルでは進展しているものの、業界側からは『市町村では週休2日を末導入のところが多く、費用の補正も不十分』などといった声が上がった。適正な予定価格や工期の設定、適切な設計変更なども含め、いわゆる新・担い手3法の市町村への浸透について、国による一層の働き掛けを求める声が高まっている。元請け企業の立場としては、工事関係書類のさらなる最適化・簡素化への期待も大きい。全建がブロック会議を前に実施した会員アンケートによると、残業の理由は『作成する書類が多すぎる』が最多で、ブロック会議では書類自体の削減や受発注者それぞれの作成書類の明確化に加え、『書類作成工期』の設定、設計図書の精度向上、ワンデーレスポンスの徹底などを求める意見が出た。24年度以降の建設現場のニューノーマルとして、何よりも重要になるのが、休日が増えても働き手の収入が減らないようにする仕組みだ。多くの会場に駆けつけた自民党の佐藤信秋参院議員は、全国・全職種平均で5.2%上昇した23年度分を含め、25年度までの向こう3カ年で労務単価を計15%引き上げるべきと主張。さらに、これにインフレ分をプラスし、計20%程度の上昇が必要だと持論を展開した。足立敏之参院議員も物価上昇分を考慮した公共事業費の増額確保の必要性に言及した。」(『建設通信新聞』2023.11.02)
●「地域懇談会・ブロック会議では、中心的なテーマとなった国土強靭化を含む公共事業予算の安定的・継続的な確保と、適用開始まで半年を切った時間外労働上限規制への対応以外にも、さまざまな意見が飛び交った。政府調達に導入され、実施2年目に入った総合評価方式における賃上げ企業の加点措置については、運用方法の改善や手続きの簡素化などを求める声が各地から上がった。東北建設業協会連合会は、人材確保・定着の観点からも賃上げの必要性に理解を示しつつも、基本的に受注産業である建設業が賃上げ分を商品価格に自ら転嫁できる産業とは性格を異にすることを指摘。その上で多くの地域建設業の経営が、公共事業の受注に大きく左右されているため、毎年の継続的な賃上げは企業にとって負担が大きく、実施できなかった場合のペナルティーにも懸念を示した。関東甲信越地方建設業協会長会は、事後評価方式への変更と、未達成だった場合の減点制度の廃止を訴えた。資本力の小さな地方の中小建設業に、毎年の賃上げは極めて困難とし、一度の賃上げで複数年を評価する方法を提案した。約2500社から回答を得た全国建設業協会のアンケート結果でも、加点措置を申請した約800社の4割弱が制度に対する不満があると回答し、『いつまで続くか分からないため経営を圧迫する』『達成できなかったときの減点措置が厳しすぎる』『賃上げの自由度が損なわれる』といった意見が寄せられた。国土交通省は、政府全体の取り組みのため、同省単独で制度の変更や終了ができないことに理解を求めた上で『昨年度来、多くの意見をいただいている。引き続き関係省庁とも連携して適切な運用に努めていきたい』と応じた。前年のブロック会議で大きなテーマとなった資材価格の高騰。現在も高止まり状態が続く中、九州建設業協会などは、煩雑さを嫌って適用を諦める中小建設業が多いとし、単品・インフレスライドの手続きの簡素化を働き掛けた。国交省直轄工事では、スライド条項の運用ルール改定などによって使い勝手を高め、現に適用件数も急増しているが、全建アンケートによると、地方自治体の手続きや結果に対する不満が多くなっている。国交省は、今後もさまざまな機会を通じて適切な設計変更などを自治体に呼び掛けるとした一方、業界側にも『“食わず嫌い”をせず、スライド申請に一度チャレンジしてほしい』と要請する一幕もあった。前年より声は少なかったものの、対象工事費の1%受注者負担ルールの撤廃を求める意見もあった。このほか、超過許容上限枠の設定といった予定価格の上限拘束性の柔軟な運用、低入札調査基準価格の予定価格に対する設定範囲の上限引き上げ、調査基準価格算定式のうち一般管理費等の算入率アップなどの要望も寄せられた。全てのブロック会議終了後に取材に応じた全建の奥村太加典会長は、政府の新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の検討が同時期に進む中、『必要な予算確保に向けた業界の機運を盛り上げられた。各地区からは、施工余力は十分あるとの声が上がり、国交省側にもしっかり伝わった』と振り返った。上限規制対応については『民間工事を手掛けている都市部の企業ほど危機感が強い』とし、『あくまでも私案だが』と前置きした上で、ほかの業界団体とも連携しながら、一般社会や民間発注者に対して、業界全体で理解を求めるPR活動の必要催にも言及した。」(『建設通信新聞』2023.11.07)
●「大成建設は9日、中堅ゼネコンのピーエス三菱を買収すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を通じて、議決権ベースで最大50・20%の株式を取得し、連結子会社化する。取得額は最大で240億円規模。建設業界は残業規制が適用される『2024年問題』もあり人手不足が深刻化している。人手不足の解消を目的としたM&A(合併・買収)が動き始めた。」(『日本経済新聞』2023.11.10)
●「上場大手ゼネコン4社の2024年3月期第2四半期決算が13日までに出そろった。連結の売上高は第1四半期に続き、鹿島、大林組、清水建設の3社が同期比で過去最高を記録。堅調な国内建築を中心に売り上げを伸ばしている。他方、利益は鹿島を除く3社が営業減益となるなどいまだ低迷が目立つ。工事損失引当金を計上している不採算工事なども複数あり、完全に脱するまでには1、2年はかかる見通しだ。単体の売上高(完成工事高)をみると、鹿島、清水建設、大林組が2桁増収。特に建築の伸びが大きく、『半導体であれ、EV(電気自動車)であれ、成長セグメントは変化していくが、全体として堅調に推移している』という。ただ、売上高は積み上がっていくのに、過去の受注競争と資材高騰の影響を受けた案件による“利益が上がりづらい構造”は今期も継続している。単体ベースで建築の完成工事総利溢(粗利)率は大成建設と清水建設が1%台に沈むなど、鹿島を除く3社が低下した。『手持ち工事の中で大型の不採算工事の影響がはがれるのは数年後になる』『過去に受注した大型案件が低採算だったり、引当を計上した利益率ゼロ案件がまだ動いていたりする』といった声が根強い。一方で明るい兆しも見えてきた。業績の先行指標となる受注時の採算性の改善だ。受注量は大型案件の有無などで各社状況は異なるものの、その採算性については『受注時採算重視に取り組み、建築の粗利は明らかに好転してきている』『受注環境は悪くなく、受注サイドから収益性の回復が見えてきている』と手応えを口にする。とはいえ、24年度から適用開始となる時間外労働の上限規制を見据え、受注量を考慮する動きも見えてきた。『協力会社の能力を含めて受注判断しているが、受注した分以外の余裕はそこまで多くはない』『グループ全体としてではなく、それぞれの(建物の)用途・セグメントで必要とされる専門能力が異なることから、場合によっては着工時期や計画の見直しをお願いし、それでも対応できない時には辞退する』といった発言もあった。今後は採算性の管理に加え、罰則付き労働時間規制という業界が経験したことのない未知の変化を計算に入れなければならない。不確実性の時代にありながら、これまで以上に精緻な経営戦略が今、求められている。」(『建設通信新聞』2023.11.14)
●「上場ゼネコン大手(鹿島、大林組、清水建設、大成建設)の2023年4~9月期の連結決算が13日に出そろった。大型案件の順調な進捗(しんちょく)などを背景に4社とも増収。本業のもうけを示す営業利益は鹿島が伸ばしたが、残り3社は前年同期を下回った。低採算の手持ち工事が建築の利益率を押し下げているケースもある。通期の単独受注高は3社が前期比で減少する見通し。24年4月からの時間外労働の上限規制適用を見据え、施工能力を勘案しながら採算性重視で受注活動に臨む方向だ。23年4~9月期の連結売上高は、国内外で大型工事が進捗した大林組と、大型建築案件が竣工した清水建設が、上期として過去最高を記録した。単体の完成工事総利益(粗利益)率は、鹿島が前年同期から改善し、引き続き2桁を確保した。建築の粗利益率を見ると、鹿島が『大型竣工工事を中心とした損益改善』を理由に、前年同期比1.1ポイント増の9.8%となった。清水建設は同3.3ポイント減となる1.7%に、大成建設は同4.8ポイント減の1.1%に落ち込んだ。『大型建築案件で工期厳守のための追加費用がかなり増えた』(清水建設)、『受注環境が厳しかった低採算工事の割合が高まった』(大成建設)ことが要因。ただ、両社ともその後の受注時採算は好転しており、通期では改善する方向だ。受注面では、鹿島が、国内外で複数の大型工事を獲得し、連結受注高が上期として過去最高の記録。今後も半導体工場など複数の大型工事の受注を予定しており、期首予想を上回る見通しだ。通期の連結業績予想は、鹿島と清水建設、大成建設が増収営業増益を見込む。今後に向けては、『建築、土木とも引き続き、生産キャパシティーを勘案しつつ採算性を重視した受注活動を展開する』(大林組)方向で共通する。大型案件では厳しい競争が続いているとの見方も強い。協力会社を含めた施工体制の確保に配慮しながら、目の前にある堅調な需要に向き合う状況が続きそうだ。」(『建設工業新聞』2023.11.14)
●「主要ゼネコン26社の2023年4~9月期決算が14日に出そろった。連結売上高は土木、建築ともに豊富な手持ち工事が順調に進捗(しんちょく)し24社が増収。資材価格や労務費の高止まりで利益確保は難しい状況が続くものの、工事採算の改善などで営業利益は17社が増益となり好転している。工事の採算性を示す単体の完成工事総利益(粗利益)率は公表している23社のうち10社が前年同期を上回った。連結売上高は大型工事が進捗した大林組や清水建設、工事に加え不動産売り上げも好調だった長谷工コーポレーションなどが上半期として過去最高となった。各社ともおおむね順調に工事を消化しており、減収の企業も前年同期とほぼ同水準を維持している。利益面では資材価格高騰の影響が直撃した前年同期に比べ、選別受注で持ち直しを図った企業がある。超大型建築案件など過去の低採算工事が売り上げに占める比率が高い企業では『足元の受注時採算は改善しているものの、当面は厳しい状況が続く』(大手ゼネコン)との声も漏れる。建設資材や労務費は高止まりが続く。『物価スライドをタイムリーかつ地道に発注者と交渉している』(インフロニア・ホールディングス〈HD〉)など、各社が今後の物価高騰を加味した契約交渉に努めている。業績の先行指標となる単体受注高は13社が増加。引き続き旺盛な都市部の再開発や高速道路リニューアルの需要増に加え、工場や物流施設など民間設備投資の回復が受注を押し上げている。一方で北海道や九州での半導体産業への投資活発化を背景に、設備工事を中心に人員確保の厳しさが増す。『急に人手がいなくなった東日本大震災後のような危機感を覚えている』(準大手ゼネコン)との声もある。労務の逼迫(ひっぱく)はしばらく続くとみられ、各社がDXなど生産性の向上に加え、協力会社との関係強化に注力している。時間外労働の罰則付き上限規制の適用が24年4月に迫る。各社では『現状の手持ち工事を考えると来期の消化は厳しくなる可能性がある』『忙しい時期をなるべく回避する受注戦略を立てている』など施工体制維持、採算重視の選別受注が加速しそうだ。」(『建設工業新聞』2023.11.15)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●「東京都内のマンションに建物と居住者年齢の2つの『老い』が迫っている。都内の築40年以上のマンションの6割に30年以上の長期修繕計画がなく、居住者の高齢化率も高い。修繕をしなければ危険な状況に陥るほか、居住者高齢化による組合の担い手不足で管理不全のおそれもある。都は事態の改善のため専門家を派遣するなど対策を急ぐ。都住宅政策本部によると、2021年末時点で都内分譲マンションの累積着工戸数は約194万戸。管理方法を定める区分所有法が改正された1983年以前に建てられたマンションは23年3月末時点で都内に1万1459棟あり、このうち都の条例が義務づける管理状況の届け出をしたのは1万440棟だった。届け出には戸数や階数などのマンションの概要や、管理組合や長期修繕計画の有無などを記す必要がある。国土交通省のガイドラインで長期修繕計画は30年以上とされているが、届け出のあったマンションの6割にあたる約6300棟で30年以上の長期計画がなかった。3割にあたる約2800棟は計画そのものがなかった。計画があるマンションも30年未満の計画だったり、期間を定めていなかったりした。管理状況を届け出た1万440棟のうち5.4%は修繕積立金がなく、管理組合がないマンションも5.0%あった。マンションは適切な管理と修繕を続けることで資産価値を維持できたり上げたりできる。修繕を続けるために時期や費用の長期的な計画を立て、入居者から修繕積立金を集める。長期修繕計画がないと必要な資金のめどが立てられない。重要な修繕ができなければ危険なうえ、マンションの価値が下がりかねない。都は適切な管理をしてもらおうと対策に乗り出した。管理状況を届け出たマンションに対し、組合の求めなどに応じてマンション管理士を無料で派遣。管理不全の兆候がある場合は5回まで無料とする。管理士は長期修繕計画の作成や修繕積立金の設定に関する相談などに応じる。無届けのマンションには届け出を呼びかける。住宅政策本部の山口真本部長は9月、都議会の答弁で『計画的な修繕により適正に管理を行っていく必要がある。課題の検証を進め、マンションの管理不全を抑制していく』と話した。マンションの長期的な管理不全のリスクが高まるなか、同時に居住者の老いも懸念されている。国交省によると、22年末時点で築40年以上のマンションは全国で約126万戸あり、10年後には約261万戸、20年後には約445万戸に増える見込みだ。国交省による18年度のマンション総合調査によると、1979年以前に完成したマンションでは、世帯主が60歳以上の割合は8割弱にのぼる。2010年以降に建てられたマンションでは2割未満で、古いマンションほど居住者の高齢化が顕著だ。一般社団法人東京都マンション管理士会の藤江俊之副理事長兼事務局長は『高齢化が進むと管理組合の担い手が減り、管理不全に陥りやすくなる』と話す。実際に同会には高齢の管理組合代表者から後継者不在についての相談が寄せられているという。管理不全のマンションを購入選択肢に入れる若い世代は多くはないはずだ。管理不全を放置すると建物と居住者の老いが連鎖して加速する懸念がある。負のスパイラルに陥る前に現状を正確に把握し、対策を急ぐ必要がある。」(『日本経済新聞』2023.11.03)
●「長引く資材高や人件費の高騰が住宅着工を冷やしている。9月の着工戸数はおよそ10年ぶりの低水準となった。住宅の値上がりによる消費者の購買意欲の低下などが要因だ。用地の不足や人口減少下での住宅数の過剰といった構造問題も横たわる。国土交通省の住宅着工統計によると、1カ月あたりのブレを除いた3カ月移動平均の着工戸数(季節調整済み)は9月に6万6300戸となり、前年同期比で7.7%減少した。新型コロナウイルス禍で需要が落ち込んだ2020年6月の6万6700戸を下回った。リーマン・ショックや東日本大震災の影響が残っていた11年12月に並ぶ低い水準だ。内訳をみると、分譲マンションや建売住宅などの『分譲住宅』が1万8700戸で13.3%減った。戸建てなどの『持ち家』は1万9100戸で8.8%のマイナスだった。持ち家の減少は21カ月連続となっている。『住宅展示場の来場者数はコロナ前の19年から半減している』。大手ハウスメーカーの担当者は話す。国内の住宅展示場は22年に積水ハウスが308カ所と19年比で11%減らした。旭化成ホームズもモデルハウスを185棟と14%減少させている。背景にあるのが建築資材の価格や人件費の上昇だ。建設物価調査会によると、鉄筋コンクリート(RC造)の集合住宅の建築費指数(15年=100)は足元の9月に125.8となり、18年同月と比べて2割上がった。指数は木造の一軒家でも3割高まった。木材、鉄、コンクリートなどの資材の価格が上がっているためだ。人件費の上昇は建設現場で続く人手不足を反映している面がある。ただ、人手不足の影響は『これからますます大きくなる』といった声が不動産関係者からは聞かれる。建設業者に時間外労働の上限規制を適用する『2024年問題』で工期の長期化が懸念される。住宅価格は右肩上がりで推移している。不動産経済研究所(東京・新宿)によると、首都圏の新築マンション価格は23年4~9月に7836万円と5年前に比べて2000万円超高くなった。東京カンテイの調査では新築戸建ての平均価格は9月に4531万円と、同じく5年前から700万円ほど上昇した。東京23区は9009万円と14年4月の調査開始以来初めて9000万円を突破した。足元で企業が賃上げに積極的になっているとはいえ、給与の伸びはこうした価格上昇に及ばず、新築住宅は一般消費者にとって高根の花になりつつある。着工数の減少には構造的な問題もある。ニッセイ基礎研究所の吉田資氏は『都市部で分譲マンションに適した用地が不足し、供給が絞られている』と指摘する。三井不動産や野村不動産などの大手は好立地の土地を確保しようと大学の遊休資産を活用するといった手段をとる。国際的に見ると、日本は人口あたりの着工戸数が多い。国交省の分析で20年の人口1千人あたりの戸数は日本で6.5戸だった。フランスの5.4戸、アメリカの4.2戸などより多い。日本は既存の住宅数が多いとの指摘もある。国交省の調べで国内の住宅ストックは18年時点で6200万戸と総世帯数を16%上回っている。人口減少の影響も避けられない。野村総合研究所が6月に公表した調査で、新設住宅の着工戸数は40年度に55万戸を見込んだ。22年度の実績から4割減る。住宅投資は国内総生産(GDP)の国内需要の項目のひとつだ。住宅投資が縮めば、家電や家具の売り上げ縮小などに波及する可能性があり、日本経済の成長率の下押し要因にもなる。」(『日本経済新聞』2023.11.06)
●「大阪府と大阪市、経済団体は1日、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場建設費増額の負担を正式に受け入れる方針を決定した。同日、博覧会協会幹部が府と市に最大2350億円に増額する要因の詳細を報告し、物価上昇分527億円と予備費130億円が必要と説明した。工事内容も見直し、157億円削減したと述べた。府と市は自らが発注した公共建築工事の単価上昇などと比較し、『想定を上回る物価上昇があり、協会の精査結果はやむを得ない』と分析。議会に増額分の予算案を提案し、可決成立を目指す。」(『建設工業新聞』2023.11.06)
●「国土交通省はマンショシの管理組合が管理業務を外部に委託する『第三者管理』の指針改定案を2023年度内にまとめる。マンションの住民に対する説明や契約プロセスに明確なルールを定め、トラブルの発生を防ぐ。住民の高齢化や共働き世帯の増加を背景に、理事業務を管理会社に委託するケースが増えている一方で、管理会社が自社グループ企業に大規模修繕工事を発注するなど利益相反につながる懸念も強まっている。国交省が23年2~3月に実施した調査によると、第三者管理を手掛ける管理会社のうち、大規模修繕工事を自社で『受注している』『受注している場合と、受注していない場合がある』と回答した会社は45%に上る。利益相反のチェックは住民らで構成する管理組合が担っているが、第三者管理では正確な判断が難しいといった問題が指摘されている。こうした状況を踏まえ、国交省は第三者管理のルールを定める『外部専門家の活用ガイドライン』を見直す。工事発注時に管理組合側に不利益が生じないよう、発注プロセスや情報開示に関するルールを検討。税理士などの外部専門家を監事に置き、管理会社の業務状況を監視する体制づくりも視野に入れる。住民が第三者管理の仕組みを理解せずに導入されることがないよう、分譲段階での説明や導入決定プロセスに関するルールも定める。管理組合と管理会社との契約の交わし方や、管理者の権限についても検討する。改定の方向性については、国交省が10月に設置した有識者会議『外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ(WG)』(座長・鎌野邦樹早稲田大学法学学術院法務研究科教授)の初会合で示された。24年3月までに4回の会合を開く予定。最終会合で改定案をまとめる。」(『建設工業新聞』2023.11.07)

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