情勢の特徴 - 2024年11月前半
●「国内物価上昇の一因である財(モノ)インフレが鈍る見通しだ。鉄鋼や木材、化学製品など主要な産業資材12品目のうち、2024年10~12月に値下がりを見込むものが6割弱となり、値上がりはゼロとなった。人件費増加分を価格転嫁するハードルは上がっている。日本経済新聞が素材メーカーや商社に価格動向を聞き取りした。商品生産・販売の川上にあたる産業素材の価格は日銀が算出する企業物価指数の構成要素だ。企業間で取引されるモノの価格を映す同指数は、消費者物価指数(CPI)の先行指標とされ、景気動向や金融政策の判断に重要な役割を果たす。…主要な産業資材12品目のうち、6割弱にあたる7品目が10~12月に値下がりする見通しだ。値上がりが見込まれる品目はぜロ。4~6月は値上がりが5品目で値下がりはゼロ、7~9月は値上がり3品目で値下がり2品目だった。企業が値下げを余儀なくされている様子が浮かぶ。産業資材の値上がりが止まった背景には主に2つの理由がある。まず国内建設需要の低迷だ。国土交通省の建築着工統計調査によると鉄筋コンクリート造の建物の着工床面積は8月に前年から27%減った。建設現場では人手不足が深刻で、着工のずれ込みや見直しが相次いでいる。これまでの値上がりによる工事費の高騰も建設需要を冷やす。建設物価調査会(東京・中央)によると、鉄骨造のオフィスビルの工事原価は4年間で3割上がった。23年に閉館し『中野サンプラザ』(東京・中野)跡地の再開発は建設費の高騰で完成予定がずれ込む見通しだ。2つ目は、急激な円安進行に一旦は歯止めがかかっていることだ。9月の輸入物価指数(日銀算出)は契約通貨ベースで前年同月比0.4%低下、円ベースでは同2.6%低下となった。非鉄や化学製品は輸入物価下落が波及しやすい。…今後の焦点は人件費上昇を理由とした値上げが続くかだ。連合が公表した24年春季労使交渉(春闘)の最終集計によると、平均賃上げ率は33年ぶりに5%を超えた。産業素材業界でも賃上げによる人件費増加分を販売価格に転嫁する動きが広がったが、中堅企業を中心に息切れ感が出ている。」(『日本経済新聞』2024.11.01)
●公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は1日、2024年7~9月期の運用損益が9兆1277億円の赤字だったと発表した。赤字は23年7~9月期以来4四半期ぶりで、コロナ禍の20年1~3月期(17兆7072億円)以来の大きさだった。日銀の利上げや米国経済の先行き懸念を背景に、8月に円高・株安が進んだことが響いた。(『しんぶん赤旗』2024.11.02より抜粋。)
●「厚生労働省は月額賃金8万8000円以上とするパート労働者の厚生年金適用要件を撤廃する方向で調整に入った。配偶者の扶養内で働く人が手取り収入の減少を意識する『106万円の壁』はなくなる。労働時間要件は残る見通しで、週20時間以上働くと原則として厚生年金に入ることになる。」(『日本経済新聞』2024.11.09)
●「建設物価調査会は、9月1日時点で実施した民間企業設備投資動向調査の結果をまとめた。建設投資、機械投資ともに、全産業で投資意欲は旺盛だが、投資額は減額意向を示す企業の割合が大きく、傾向が一致しない状況が続いている。資材価格の高騰、人手不足などを背景としたコスト上昇が影響しているとみる。さまざまな業種の4487社をアンケート方式で調査し、23.8%に当たる1068社から得た回答を集計した。建設投資マインド判断DI(建設投資マインドについて、「前向き」「やや前向き」と答えた企業の割合から「後ろ向き」「やや後ろ向き」と答えた企業の割合を差し引いた値)は、現況(2024年9月)が全産業でプラス1.6、製造業でマイナス3.1、非製造業でプラス3.7となり、製造業以外の2区分は投資意欲が旺盛な企業が多かった。…一方で、建設投資額判断DI(事業年度当初と比べた建設投資額について、「かなり増額」「増額」と答えた企業の割合から「かなり減額・中止・延期」「減額」と答えた企業の割合を差し引いた値)は、マインドと逆の傾向が見られた。…建設投資時期判断DI(建設投資時期について、「かなり前倒し」「前倒し」と答えた企業の割合から「かなり後ろ倒し・中止・延期」「後ろ倒し」と答えた企業の割合を差し引いた値)も、マインドとは異なり、現況、先行き3カ月、6カ月のいずれも全区分がマイナス域となっている。」(『建設通信新聞』2024.11.11)
●「国士交通省は、改正建設業法の第2弾施行に関する政省令案をまとめた。価格転嫁や工期変更の協議を円滑化する観点から、契約締結前に注文者へ通知する義務を建設業者に課す『恐れ情報』の対象事象を具体北し、主要資機材と労務の供給不足や価格高騰などとする。技術者の専任制度を合理化し、ICT活用によって兼任を認める二つの特例措置は、ともに対象工事の基準額を請負代金額1億円未満(建築一式工事の場合は2億円未満)に設定する。」(『建設通信新聞』2024.11.06)
●「国土交通省は、改正入札契約適正化法(入契法)の省令案をまとめた。公共工事の受注者による発注者への施工体制台帳の提出義務について、生産性向上の観点から法改正で提出を不要にできるとした新たな措置の具体的な方法に、発注者による建設キャリアアップシステム(CCUS)などの利用を位置付ける。」(『建設通信新聞』2024.11.06)
●「国土交通省は直轄土木工事の施工管理や監督・検査で、3DモデルやAR(拡張現実)などのデジタル技術を活用した新たな手法を受注者の提案に基づき積極的に取り入れる方針だ。現行の基準類で定める手法と異なっていても、監督・検査などに支障が生じないことを受発注者双方で確認できれば『試行』という形で採用を認める。民間主導で業務効率化が期待できる新技術を機動的に導入し、現場の省人化や生産性向上につなげる。試行結果を本省で収集し、優良事例の水平展開や基準化も検討する。」(『建設工業新聞』2024.11.11)
●「市区町村の入札契約適正化に向けた都道府県による働き掛けの実施状況が、国土交通省のアンケート調査で分かった。全47都道府県が働き掛けを実施している。その方法は、会議や研修での働き掛けが多数を占めた一方、個別の対話・訪問は少数だった。第3次担い手3法の改正公共工事品質確保促進法(品確法)と改正入札契約適正化法(入契法)を踏まえ、国交省は働き掛け強化を都道府県に求める。」(『建設通信新聞』2024.11.12)
●「厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月から0.1%減少した。8月は0.8%の減少で、2カ月連続でマイナスとなった。6月や7月にあったボーナスによる賃金の押し上げ効果が薄れた。」(『日本経済新聞』2024.11.07)
●「国土交通省は、改正建設業法に基づいて2025年11月ごろまでに中央建設業審議会が作成・勧告する予定となっている『労務費の基準(標準労務費)』について、鉄筋と型枠から職種別の検討に入る。11月中にも意見交換会を設置し、建設業団体との間で素案作成などの議論を始める。特殊性が指摘されていた住宅分野でも建設業団体などとの意見交換会を設け、素案作成の議論を始める前段階として、関係職種への標準労務費適用に当たっての課題を整理する。」(『建設通信新聞』2024.11.07)
●「出入国在留管理庁は、技能実習生の2023年失踪者数をまとめた。9753人に上り、過去最多だった。職種別は建設関係が全体の4割を占めた。前年度に比べて全体に占める割合は下がったが、職種別で建設関係が依然として最も多い。建設関係は4593人で、全体の47.1%だった。5.3ポイント低下し、3年ぶりに5割を下回ったが、職種別で最も多い状況となっている。建設関係の最多は19年以降5年連続。建設関係の失綜者数をさらに細かい職種別で見ると、とび1614人、建設機械施工768人、型枠施工516人、鉄筋施工453人の順に多い。」(『建設通信新聞』2024.11.08)
●労働基準法を骨抜きにする議論を進めていた厚生労働省の有識者研究会「労働基準関係法制研究会」が12日、最終報告に向けた「議論のたたき台」を公表した。名ばかりの「労使コミュニケーション」で労働時間規制を外すデロゲーショシ(適用除外)拡大・容易化を盛り込み、労働時間短縮を求める労働者の願いに反するものだ。…「たたき台」が示したのは、使用者の言いなりになる労働者の代表(過半数代表者)に労働時間の規制外しを担わせる仕組みの確立だった。現在、労働者保護の最低基準規制を外す労使協定を締結できるのは「過半数で組織する労働組合」か「労働者の過半数を代表する者」だ。…過半数代表が関与する制度は57種も存在する。労働基本権(団結権・団体交渉権・団体行動権)が保障され闘う姿勢がある労組であれば使用者と対等の立場で交渉できるが、過半数代表者にはそういった力はない。使用者優位に協議が進められた結果、長時間の低賃金労働がさらに広がる恐れがある。複数事業場での労使協定の一括手続き明確化も提起されているが、こうした一括手続きの容易化は、各事業場の実態や労働者の意見が考慮されなくなるばかりか事業場の労組の規制力をなくすことにつながる。「たたき台」は、「過労死ライン」を超える月100時間未満の残業上限についても、引き下げには社会的合意が足りないなどと言って見送った。副業の割増賃金支払いの労働時間を通算しない制度改悪にも言及している。(『しんぶん赤旗』2024.11.14より抜粋。)
●「国土交通省は、都道府県と政令市が2023年度に完了した工事の週休2日達成率を調査した結果をまとめた。都道府県の単純平均達成率は63.4%で、前年度に比べて16.9ポイント上昇した。30%未満の団体数も大幅に減るなど、都道府県の週休2日が着実に進展している。政令市を調査したのは初めてで、市によって達成率にばらつきがある。23年度週休2日達成率(「災害緊急復旧工事を除いた23年度完了工事件数」に占める「23年度完了工事のうち4週8休以上を達成した工事件数」の割合)を都道府県別で見ると、75%以上は13団体(前年度7団体)、30%以上75%未満は33団体(同27団体)、30%未満は1団体(同13団体)だった。」(『建設通信新聞』2024.11.15)
●「建設業法で現場配置が求められる監理技術者などの雇用形態の特例措置『企業集団制度』で、4月から運用する新ルールを活用する動きが出てきた。同制度では連結決算を行う企業グループ内で在籍出向する技術者の配置を特例的に認めている。新ルールでは出向元と出向先の両方が経営事項審査(経審)を受けていても、子会社間を含めた出向社員の配置が可能となり、ゼネコンやハウスメーカーを母体とするグループにも特例活用の道が広がった。地域の建設会社でも特例を生かした受注に乗り出している事例がある。」(『建設工業新聞』2024.11.01)
●「東日本建設業保証(東保証、栗田卓也社長)は10月31日、中小建設会社の経営活動実態を分析した『建設業の財務統計指標(2023年度決算分析)』を発表した。収益の総合指標にしている総資本経常利益率は前年度から0.26ポイント低下の4.06%と3年連続で低下した。資材価格の高騰や賃金のアップなどで経費が増加し、利益が圧迫されていることが要因と見られる。地区別では新幹線工事で全体的に売り上げが伸びていた北陸地区が5.18%と最も高かった。」(『建設工業新聞』2024.11.01)
●「日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)、全国建設業協会(全建、今井雅則会長)、全国中小建設業協会(全中建、土志田領司会長)、建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)の建設業主要4団体は5日、不動産協会(不動協、吉田淳一理事長)に建設現場の土日閉所運動の展開に当たって協力を要望した。少子高齢化が進行する中、若い担い手を確保するには休日の確保など就業環境の改善が急務となっている。建設業のこれら背景について理解を求め、土日閉所が可能な工期の設定などを訴えた。4団体が主要な民間発注者の業界団体である不動協に要望を行うのは初めて。」(『建設工業新聞』2024.11.06)
●「全国鉄筋工事業協会(岩田正吾会長)は8日、名古屋市の名古屋クラウンホテルで2024年度秋季定例会(雇用改善推進会議)を開いた。岩田会長は、榛準労務費作成に向けた国の動きなどを踏まえ、『雇用した若い衆を守ることが一番。そのための意見は元請けに示すべきで、職人の処遇を上げるための原資をしっかりと確保し、若い衆に支給していくことがわれわれ親方の務めであり、いますべき一番大事なことだ』と述べ、請負価格と賃金の好循環の構築へ力を注ぐ考えを強調した。さらに外国人技能者の割合が増加していく流れを踏まえ、『外国人から選ばれる日本になるよう、全鉄筋がリーダーシップを発揮していきたい』と外国人材の確保・育成にも意欲を示した。技能者の処遇改善に対する地方自治体の理解を深めてもらう必要性も指摘し、『各地で行政などと議論するテーブルをつくることが大事。静岡県のように各地区で専門工事業からなる建専連を立ち上げてほしい』と求めた。」(『建設通信新聞』2024.11.12)
●「国土交通省が11日に発表した建設工事受注動態統計調査によると、2024年度上半期(4~9月)の受注総額は前年同期比15.0%増の61兆4683億円となった。元請受注高のうち、公共工事は6.0%増の11兆2974億円、民間工事は13.7%増の27兆5046億円といずれも堅調な伸びとなった。」(『建設工業新聞』2024.11.12)
●「上場ゼネコン大手4社(鹿島、大林組、大成建設、清水建設)の2024年4~9月期の連結決算が12日に出そろった。土木、建築で大型工事が順調に進捗するなどし3社が増収。本業のもうけを示す営業利益は、発注者の理解が進み受注時採算が上がっていることから3社が伸ばした。業績の先行指標となる単体受注高は2社が前年同期を上回った。」(『建設工業新聞』2024.11.13)
●「主要ゼネコンの2024年4~9月期決算が14日に出そろった。決算発表日を延期した奥村組を除く25社の連結売上高は、手持ち工事の順調な消化によって増収が目立った。資材価格や労務費が高止まりするものの、本業のもうけを示す営業利益は受注時採算の改善や選別受注の徹底で13社が増益。工事の採算性を示す単体の完成工事総利益(粗利益)率は公表22社のうち15社が前年同期を上回り、底打ち感の出ていた建築の粗利益率も回復基調が見られた。」(『建設工業新聞』2024.11.15)
●「国土交通省は、住宅政策の指針となる住生活基本計画の見直しに着手した。人口減少や世帯構成の変化といった社会経済情勢を踏まえつつ、2050年のあるべき住生活や住宅ストックを見据え、今後10年間で取り組む施策の方向性を定めていく。25年11月の中間取りまとめ、26年3月の閣議決定を目指す。」(『建設通信新聞』2024.11.01)
●「政府は10月31日に開いた『公共部門等の脱炭素化に関する関係府省庁連絡会議』の第3回会合で、地球温暖化対策推進法に基づき、政府が温室効果ガス排出削減などのために実施する内容を定めている『政府実行計画』の改定方針を囲めた。2030年以降のさらなる温室効果ガス削減に向け、ペロブスカイト太陽電池を耐荷重の小さい屋根などへの率先導入を新たに計画へ位置付ける。建築物は、建築物の資材製造から解体までライフサイクルを通じて削減することが重要となることから、ライフサイクルCO₂への配慮を計画に明示する。」(『建設通信新聞』2024.11.01)
●「国土交通省は1日、能登半島地震を受けて実施した上下水道施設の耐震化に関する緊急点検の結果を公表した。災害時の拠点となる避難所や病院などの重要施設のうち、接続する上下水道の管路がいずれも耐震化されている施設は約15%にとどまった。上下水道の基幹施設の耐震化率も低調だった。自治体の予算逼迫(ひっぱく)が背景にあることから、国交省は財政支援などを通じて耐震化を進めていく方針。斉藤鉄夫国土交通相は同日の会見で11月中にも策定する経済対策に関連施策を盛り込む考えを示した。」(『建設通信新聞』2024.11.05)
●「東京電力ホールディングスは7日、福島第1原子力発電所2号機の溶融燃料(デブリ)取り出しに成功した。2011年3月の原発事故から初めてで、廃炉の実現に向けた重要なステップとなる。今後分析を進め、計880トンほどあるデブリの大規模取り出しに役立てる。」(『日本経済新聞』2024.11.08)
●「不動産調査会社の東京カンテイ(東京・品川)がまとめた10月の新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格は、東京23区が前月比3.2%安の7374万円になった。2カ月連続で下落し、3年半ぶりの2カ月連続マイナスとなった。8月には過去最高の7783万円を記録していたが、これまでの上昇基調に陰りが見え始めた。調査は敷地面積が50平方メートル以上100平方メートル未満の新築木造一戸建て(土地含む)について、最寄り駅まで徒歩30分以内またはバスで20分以内の物件を対象とした。…都心を中心にマンション価格が高騰しているため実需層が戸建てに目を向けて購入する流れなどから、戸建て住宅の相場は押し上げられてきた。24年8月には14年の調査開始以来の最高値に上昇していた。実需層が手を出しにくくなっており、需要が弱含んで相場が下落に転じた。」(『日本経済新聞』2024.11.09)
●「中古マンション相場の勢いに陰りがみえてきた。市況が軟調に傾いているのは福島県や愛知県など全国15県と1年前の3倍に増えた。金利の先高観や物価高などで購入意欲が鈍り、多くの地域で上昇相場の勢いが失われた。中古マンション市場は転機に差し掛かっている。」(『日本経済新聞』2024.11.12)