情勢の特徴 - 2025年1月前半

経済・財政 行政・公共事業・民営化 労働・福祉 建設産業・経営 まちづくり・住宅・不動産・環境 その他

経済・財政

●「政府は2024年12月27日、25年度予算案を閣議決定した。一般会計は前年度比2.6%増の115兆5415億円で、過去最多となった。うち公共事業関係費は6兆0858億円で、0.05%増、金額では30億円増となっている。今月開会する通常国会に提出し、24年度内の成立を目指す。公共事業関係費の内訳は、一般公共事業費が0.4%増の6兆0261億円、災害復旧等が23.7%減の597億円。災害復旧等は、災害の発生が想定より少なくて予算の全額を支出しないことがあったため、予算を有効活用する観点から運用・配分の精緻化と柔軟化を実施したことで、大幅減となった。財務省主計局は『災害の初動対応に影響が出ない額を確保している』と主張する。災害が多発して予算が不足した場合は、予備費を活用する見込み。一般公共事業費を府省別で見ると、国土交通省関係が0.02%増の5兆2336億円、農林水産省関係が0.02%増の6786億円、経済産業省関係が0.4%減の22億円、環境省関係が0.3%減の493億円、内閣府関係が47.2%増の624億円。」(『建設通信新聞』2025.01.06)
●「国内総生産(GDP)の算出でデータが生み出す価値を捉える動きが始まる。国連が3月にも国際算出基準である国民経済計算(SNA)を改定するのを踏まえ、日本も公的統計への反映をめざす。電子商取引(EC)購入履歴のデータベース整備などを設備投資とみなし、デジタル経済の実態を把握しやすくして必要な経済政策の判断基盤とする。GDPは一国の経済規模や成長率がわかる最も重要な経済統計だ。個人の消費活動や企業の投資・生産・サービスから生まれる付加価値の合計額を計測する。新基準を導入すれば日本の名目GDPは1~2%強押し上げられるとの試算がある。2024年7~9月期に当てはめると単純計算で年14兆円ほどになる。国連はSNAを経済活動の実態に合わせて変えてきた。現行の『2008SNA』は09年に採択されたものだ。デジタルを使ったサービスや取引が広がったにもかかわらず、『現代の石油』と呼ばれるデータが生み出す価値を十分に捕捉できていない。国連の統計委員会はこの課題を踏まえ、3月にもデータ整備を投資としで計上する『2025SNA(仮称)』を採択する。各国が対応を始めると、データやデータベースの整備が設備投資として計上される。…各国が新基準に対応するようになれば、名目GDPは増える。内閣府の経済社会総合研究所の試算では、日本の名目GDPは10~20年の年平均で1~2%強底上げされる見通しだ。各国の試算ではオランダは3.0%、オーストラリアは2.9%、カナダは1.9%、インドは1.0%、 米国は0.8%、それぞれ名目GDPが増えるとはじく。」(『日本経済新聞』2025.01.09)
●「建設経済研究所と経済調査会は10日、2025年度建設投資見通しの1月推計を発表した。3回目の推計となる今回は、物価変動を含む名目値で建設投資額が前年度見通しに比べて1.9%増の75兆5800億円、物価変動を含まない実質値で0.2%増の58兆1545億円と予想。政府、民間ともに投資が底堅いとみる。前回推計(24年10月)との比較では、名目値が7000億円引き上げ、実質値が4131億円引き下げとなっている。」(『建設通信新聞』2025.01.14)
●「2024年の全国の企業倒産件数が11年ぶりに1万件を超えた。原材料価格や人件費の上昇で経営が圧迫された中小・零細企業の市場からの退出が増えたのが主因だ。一方で事業承継を目的としたM&A(合併・買収)は集計を開始した10年以降で最多となった。日銀のマイナス金利解除や利上げで金融の正常化が進んできており、今後も企業の新陳代謝が活発になる見通しだ。東京商工リサーチは14日、24年の倒産件数(負債額1000万円以上)が前年比15.1%増の1万6件だったと発表した。倒産件数が1万件を超えるのは東日本大震災の影響が残る13年以来だ。倒産の大半は中小・零細企業で、従業員数5人未満が7582件と75.8%を占めた。」(『日本経済新聞』2025.01.15)

行政・公共事業・民営化

●「2025年は、建設業の担い手確保に向けた制度の設計と公共事業予算の確保に当たり、重要な局面を迎える。改正建設業法の全規定が25年内に施行されるなど24年に成立した第3次担い手3法の運用が全面的に始まるとともに、政府による国土強靭化実施中期計画の策定作業が本格化するとみられるためだ。持続可能な建設業を実現する上で大事な1年になる。第3次担い手3法のうち改正建設業法と改正入札契約適正化法(入契法)は、最後に残された第3弾施行が12月までに実施される。改正建設業法第3弾施行の目玉は、著しく低い労務費等による見積もり・見積もり依頼の禁止だ。中央建設業審議会が11月ごろまでに職種別で作成・勧告する労務費の基準(標準労務費)を参考指標にしながら、国土交通省が請負契約の見積書を個別に調査して違法性を判断する。違反した場合、国交省と都道府県は建設業者に指導監督、発注者には勧告・公表を行う。この制度の狙いである適正水準の労務費確保と賃金行き渡りを実現する上で欠かせないのが、建設業法で建設業者の努力義務になっている見積もりだ。国交省は、労務費などを内訳明示した見積書の作成・提出・尊重を建設業界の商慣行として定着させ、建設生産システムの下流から上流へと積み上げによって価格が決まる仕組みに変える必要性を示す。改正建設業法の運用に併せて、適正な労務費・賃金支払いを契約上で担保する取り組みなどの実効性確保策を展開し、見積もりの普及を図る方針。公布と同時に施行されている改正公共工事品質確保促進法(品確法)では、国交省を含む関係府省庁が発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)を1月にも見直し、法改正で発注者の責務に追加された事項を中心に必要な取り組みを具体化する。国、特殊法人等、地方自治体(都道府県、市区町村)の全公共発注者は、新たな運用指針を参照しながら、25年度に改正品確法の趣旨を踏まえた発注を始めることになる。国交省は、改正品確法に位置付けられVFM(バリュー・フォー・マネー)の思想を具現化する発注の仕組みとして、直轄土木工事で技術提案評価型SI型(仮称)の総合評価方式を25年度から試行する方針だ。近年の公共事業予算を支えてきた防災・減災、国土強靭化も、大きな動きがありそうだ。防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策の後継となる国土強靭化実施中期計画について、政府が24年11月にまとめた総合経済対策では『能登半島地震の経験も踏まえつつ、実施中期計画策定に係る検討を最大限加速し、早急に策定する』と明記されている。政府は計画策定の前段階として5か年加速化対策の成果を評価する作業を進めている段備にある。発災から1年が経過し、多くの課題を突き付けた能登半島地震の教訓も踏まえると、実施すべき国土強靭化の取り組みは依然多い。計画をまとめる時期、計画期間、事業規模は明らかになっていないが、建設業界からは5年間で25兆円の事業規模が必要との声が上がる。」(『建設通信新聞』2025.01.07)
●「改正建設業法に基づき適正な労務費に併せ、雇用に伴う『必要経費』の確保・行き渡りが必要との議論が持ち上がっている。国土交通省は昨年末、確保すべき必要経費の範囲について考え方を提示。以前から業法に規定する『通常必要と認められる原価』として適正な確保を求めてきた▽法定福利費(事業主負担分)▽安全衛生経費▽建設業退職金共済(建退共)掛け金―の三つを、見積書への明記などで内訳を明確にして下請企業まで行き渡らせる経費と位置付ける方針だ。」(『建設工業新聞』2025.01.08)
●「改正建設業法に基づき著しく低い労務費による見積もり提出・見積もり変更依頼を禁止する措置の施行に先立ち、建設工事の取引実態の実地調査に当たる国土交通省の『建設Gメン』が実際の工事契約で問題となる行為をあぶり出す作業に着手している。最初に注文者に提出した『当初見積書』と、価格交渉を経て契約に反映した『最終見積書』の労務費の額を比較し、その積算根拠となる施工数量や人工数を併せて確認。これまでの調査から、交渉過程で労務費が減額され、公共工事設計労務単価を大きく割り込む単価になったケースが明らかになっている。」(『建設工業新聞』2025.01.09)
●「中央建設業審議会による労務費の基準(標準労務費)の作成・勧告に向け、鉄筋、型枠の2職種と住宅分野の計8職種・分野を対象として、国土交通省が関係団体との間で進めている職種別意見交換が一巡した。標準労務費の素案作成に関する主な論点として、細分化を最小限とし、歩掛かりが工事によって異なることを踏まえて個々の工事契約で契約当事者が交渉・補正できるようにすべきとの意見が挙がった。11月ごろの作成・勧告を目指し、中建審ワーキンググループ(WG)の議論と並行して職種別意見交換を進める。」(『建設通信新聞』2025.01.14)

労働・福祉

●「日本経済がデフレ前のパフォーマンスを取り戻す中で、建設業への人材の供給量が低位で推移した場合、2030年度には建設技術者が4万2000人不足し、建設技能労働者は62万3000人不足する――。建設経済研究所(RICE)がこうした推計をまとめた。もちろんこれは建設業にとって最悪のケースを想定した場合の推計だが、これほどわが国の建設産業は人手不足に今後も悩まされることになる。推計では生産性向上を実現すれば、一定程度カバーできることを示してはいる。それでも、この推計は外国人を現状のペースで受け入れることを大前提としており、建設産業での外国人の存在は今後も必要不可欠となることを示したとも言える。外国人がいる建設現場が一般化する包容力と環境・体制の整備が求められる。」(『建設通信新聞』2025.01.01)
●「企業に女性の登用を促す女性活躍推進法が成立して2025年で10年になる。企業に行動計画の策定を義務付けて格差の是正を目指したものの、女性の管理職はなお少ない。長時間労働のほか、家事・育児の負担の偏りも要因だ。政府は同法を改正して、女性登用の拡大を狙う。25年の通常国会に提出を目指す改正案は、男女の賃金差を公表する義務の対象を従業員数101人以上の企業に拡大する。22年から301人以上の企業に義務付けていた。対象企業は1.7万社から5.1万社に広がる。従業員数101人以上の企業には管理職に占める女性比率の公開も義務付ける。これまでは開示する項目の選択肢のひとつだった。女性の健康課題への取り組みも企業の行動計画に盛り込むよう促す。生理休暇の取得のしやすさなどを念頭に置く。政府が法改正を目指す背景には、女性の登用が想定通りには進んでいないことがある。フルタイムで働く女性の賃金は、男性を100とすると78.7にとどまる(22年)。法が成立した15年の74.3から大きな改善はみられない。経済協力開発機構(OECD)平均は88.6だ。世界経済フォーラム(WEF)が発表した24年版の『ジェンダー・ギャップ指数』によると、日本は146カ国中118位だった。男女の賃金差や管理職の比率といった経済分野での遅れが目立つ。政府は賃金格差の主因は女性管理職が少ないことにあるとみる。管理職に占める女性の割合は23年に14.6%にとどまる。法成立前の14年には11.3%で、大きな改善はみられない。…家事や育児の負担が女性に偏る構造も変わっていない。21年の総務省の社会生活基本調査によると、6歳未満の子どもがいる共働き世帯で家事・育児に費やす時間は、妻が1日当たり約6時間にのぼる。夫は1時間半程度で、4倍もの開きがあった。男性の育休取得率は23年度に30.1%まで上昇したが、女性の84.1%とはなお隔たりが大きい。」(『日本経済新聞』2025.01.07)
●「建設業技術者センター(CE財団、佐藤直良理事長)は、地域建設会社の時間外労働に関する報告書をまとめた。全国建設業協会(全建)傘下の4県の協会では、4週8休の達成がゼロと回答した割合が前年度から7.4ポイント低下し28.4%となった。技術者5人以下の会社でもゼロの割合が16.9ポイント減の47.2%となり、週休2日(4週8休)が地域建設会社にも『着実に浸透しつつある』と評価した。」(『建設工業新聞』2025.01.08)
●「厚生労働省が9日発表した2024年11月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)は、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金が前年同月より0.3%減った。物価上昇に賃金の伸びが追いつかず4カ月連続のマイナスとなった。名目賃金を示す現金給与総額は30万5832円で3.0%増えたものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の伸び率が3.4%と上回った。11月はコメや野菜など食品の価格上昇が目立ったほか、政府による電気・ガス代の補助が縮小したことが影響した。実質賃金は22年4月以降、夏季賞与の押し上げ効果があった24年6月と7月を除いてマイナスが続いている。」(『日本経済新聞』2025.01.09)

建設産業・経営

●「専門工事業界では2024年6月に成立した第3次担い手3法などを受け、処遇改善に向けた期待感が一段と強まっている。同6月に建設産業専門団体連合会(建専連、岩田正吾会長)が開いた通常総会後の幹部会見で、労務費を原資としたダンピングを規制するため改正建設業法に基づき国が示す『標準労務費』への対応に向けた準備を各会員団体で推進する意向が示された。発注者や元請業者などサプライチェーン(供給網)全体で関係者を交えた議論が始まり、25年は先行職種の鉄筋工と型枠大工を中心に標準労務費の具体化を進める。岩田会長(全国鉄筋工事業協会会長)は、賃金原資を確保できるだけの標準労務費の設定に当たり『水の流れと一緒で(最上流の)発注者に理解してもらわないといけない』と指摘した上で、建専連の考えを『大きな声で発言していく』と力を込めた。一部の職種・団体では標準労務費の設定を見据え、適正な賃金支払いを前提とした請負単価を会員間で共有し、元請側に働き掛ける動きも活発化している。建専連副会長の三野輪賢二日本型枠工事業協会会長は『専門工事業団体がそれぞれ、それなりの単価になると見せることで、われわれは職人に支払うことができるようになる』と強調。大木勇雄日本建設躯体工事業団体連合会会長は『見積もりに安い労務費を入れずに、(注文者に)ものを申していかないといけない』と述べ、適正賃金の確保に向けて専門工事業界全体で足並みをそろえる必要性を説いた。」(『建設工業新聞』2025.01.01)
●「大都市圏などを中心とした旺盛な建設需要を追い風に、ゼネコン各社が民間建築工事での適正利益確保に力を注いでいる。資機材価格の高止まりや労務不足、働き方改革の推進などを背景に建設コストは上昇基調にあるが、適正な価格や工期への発注者の理解が得られるようになってきたとの声が多い。低迷していた受注時採算が改善傾向にあるとの見方が広がっており、『商習慣が徐々に変わりつつある』(ゼネコントップ)との受け止めも出ている。」(『建設工業新聞』2025.01.06)
●「全国建設業協同組合連合会(全建協連)の青柳剛会長ら幹部は10日、東京・永田町の自民党本部に森山裕幹事長を訪ね、持続可能な地域建設業の実現を要望した。▽公共事業予算の確保▽柔軟な働き方改革と働き方特区の創設▽全国建設研修センターを活用した外国人の受け入れ―の3点を求めた。地域の守り手の役割が大きくなる中、持続可能な働き方や人材の確保・育成の在り方を訴えた。」(『建設工業新聞』2025.01.15)

まちづくり・住宅・不動産・環境

●能登半島地震では、建物の倒壊などによる直接死が228人に上った。全壊住宅約6000棟のうち約7割は石川県輪島市と珠洲市に集中するが、両市の住宅耐震化率は約50%と全国平均の87%を大きく下回る。後継ぎがいない高齢者が高額な耐震改修に踏み切れないことが背景にあるが、専門家は「命を守るため改修してほしい」と強調する。能登半島では2007年にも輪島市などで最大震度6強の地震が発生し、自治体は耐震化の必要性を訴えてきた。同市は20年、耐震化率90%の達成に向け約4200棟の改修が必要と試算。戸別訪問などで啓発に取り組んだが住民の反応は鈍く、市が把握する20~22年度の改修工事は28件にとどまる。市の担当者は「後継ぎがおらず、あと何年住むか分からない家を耐震化しようと思わない高齢者も多い」と明かす。能登半島は大きな住宅が多く改修費が高額になりがちなことも、耐震化に踏み切れない要因とされる。国土交通省によると、輪島、珠洲両市と穴水町で調査した木造建築物約4900棟のうち、1981年以前の旧耐震基準を満たす建物の約20%が倒壊した。一方、改定を経て現在の耐震基準になった2000年以降に造られた建物の倒壊率は1%未満にとどまった。81年以前の建設でも耐震改修が行われた建物は倒壊が確認されなかったという。金沢大の村田晶助教(地震防災工学)は「現在の耐震基準を満たしている限り、能登半島地震クラスの地震が起きても倒壊にはほぼ至らず、人的被害は出ない」と分析した上で「耐震化で人命が守られることが結果として表れた。改修した方が圧倒的に良い」と強調する。村田助教によると、予算の都合で住宅全体の耐震化が難しい場合、寝室や居間など滞在時間の長い部屋だけを補強することで費用を抑えられるという。村田助教は「家がつぶれて帰省中の子どもや孫が亡くなったら後悔してもしきれない。寝室だけでも耐震化しておくべきだ」と呼び掛けている。能登半島地震では、石川県の馳浩知事が発生直後に被災地への不要不急の移動を控えるよう求めたため、ボランティアの初動は鈍くなった。SNSで「被災者の迷惑」と批判の目を向けられることもあるボランティアですが、県災害危機管理アドバイザーを務めた神戸大の室崎益輝名誉教授(防災計画)は「被災直後から必要だ」と指摘する。室崎さんは発生間もない昨年1月6日から同県七尾市などに入り、水やおむつを避難所に届けながら視察した。時間帯により渋滞はあったものの、「ボランティアが緊急早両の連行を妨げている様子はなかった」と振り返る。室崎さんは避難所に届く支援物資の仕分けや被災者への配布には人手が必要と強調。「手を取り一緒に涙を流すだけでも被災者の励ましになる。行政にはできない役割がある」と意義を説明する。…室崎さんによると、重機を使う道路工事といった、復旧に不可欠な作業は行政が業者に発注し、手が回らない部分をボランティアが担うのが本来の在り方という。室崎さんは「行政が業務を十分に発注せず、ボランティアに頼るのは違う。彼らは行政の手足ではない」と話す。(『しんぶん赤旗』2025.01.06より抜粋。)
●「内閣府は9日、災害時に必要な物質や機材に関する全国調査の結果をまとめた。市区町村の詳しい備蓄量を国が公表するのは初めて。米やパンの備蓄が進む一方、体調悪化の防止に欠かせない段ボールベッドや移動式トイレは十分備わっていない。能登半島地震で避難所の過酷な環境が改めて浮き彫りになり、国は『住環境』の改善を急ぐ。2024年1月の能登半島地震では道路の寸断が相次ぎ、被害が甚大な地域への物資の輸送が難航。地震後に関係省庁の検証チームが国による備蓄状況の公表を促し、内閣府が24年11月1日時点の状況をまとめた。都道府県と市区町村の備蓄の合計は米やパンなどの『主食』が9279万食、水が2970万リットル、暖房機器が3万985台、冷房機器は3万6184台。簡単に組み立てられる『段ボールベッド』を含む簡易ベッドは57万台で、備蓄がゼロの自治体も目立つ。携帯トイレは6569万回分。設置型のトイレは240万台で、このうち移動式のトイレカーやトイレトレーラーは全国で81台だった。内閣府幹部は『主食などに比べて、トイレやパーティションなどの避難所の生活環境整備に関する物資の備蓄状況は自治体や地域ごとにばらつきがある』と指摘。被害の想定に応じて全体的な備蓄水準を上げる必要があるとの見方を示す。想定する災害に応じて自治体が必要数や実際の備蓄量を公表するケースはあるが、今回の調査は必要となる備蓄量を示していない。内閣府は避難所の環境を改善するための基礎的なデータと位置づけ、自治体に十分な量を確保するよう求める。」(『日本経済新聞』2025.01.10)
●「阪神大震災の復旧・復興作業などに従事し、30年近い潜伏期間を経てアスベスト(石綿)による中皮腫や肺がんを発症する事例が近年相次いでいる。石綿を含有する建造物は残存しており、今後の災害でも同様の被害が懸念される。専門家は新たな対策づくりの必要性を指摘する。『被災地は復旧・復興が最優先。石綿の危険性の認識はほとんどなかった』。中皮腫を発症し、神戸西労働基準監督署から2023年に労災認定を受けた60代男性は当時を振り返る。震災直後、がれきの撤去作業などに従事したという。震災翌月の1995年2月、民間研究機関の環境監視研究所の調査員として神戸市東灘区で石綿飛散の状況を調べた熊本学園大の中地重晴教授は『石綿を吹き付けた鉄骨がむき出しのまま放置され、散水せずに建物を解体すると粉じんが舞っていた』と話す。調査した解体現場付近では、大気1リットルあたり約250本の石綿繊維が検出された。現行の法令が定める基準値の25倍という水準だったが、『当時は防じんマスクの着用が徹底されておらず、無防備な姿で働く作業員が目に付いた』。阪神大震災の復興作業に従事するなどし、中皮腫や肺がんで労災や公務災害に認定されたケースは少なくとも8件。災害時の石綿による健康被害を広く知らしめた。厚生労働省によると、中皮腫の潜伏期間は石綿を吸い込んでから20~50年。兵庫県保険医協会(神戸市)が2023年11月から24年1月に実施したアンケートは、4割の医療関係者が『被害者が今後増加する』と回答した。阪神大震災以降の災害でも、11年の東日本大震災をはじめ石綿建材を含むがれきが散乱し、解体作業に携わる労働者やボランティア、住民らが石綿に暴露した可能性が指摘されている。」(『日本経済新聞』2025.01.14)
●「中古マンション市場で完成後間もない『超築浅』物件の売り出しが増えている。東京・大阪で築1年以内に売りに出された物件は10年前の3倍を超える。投資家が転売益を見込んで短期で売買している。新築物件の供給減少により需要も高く、中古マンション価格上昇の一因となっている。実際に住みたい人が買えるように転売目的の購入を制限する不動産会社も出てきた。不動産情報サイト『マンションレビュー』を運営するワンノブアカインド(東京・港)のデータを基に、2014年から24年1~10月の間に1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と大阪府で売り出された中古マンションの築年月や販売時期を調べた。24年1~10月に東京・大阪で売り出された築1年以内のマンションは1548戸と、14年同期に比べて3.7倍に増えた。通年換算でも3倍超となるペースだ。中古マンション販売全体に占める割合も1.89%と10年前(0.81%)から倍増している。一度も居住実績がない『新古』物件も含まれている。売り出しが増えている背景にあるのが市場価格の上昇だ。築1年以内の中古販売価格は東京23区が24年1~10月で平均1億5653万円、大阪市が1億1498万円と19年通年よりそれぞれ50%、66%上昇した。東京23区の築1年以内物件の直近10年の価格上昇率は2.6倍と、新築価格(1.9倍)を大きく上回る。神奈川県や千葉県などでも超築浅物件は新築価格の上昇率を上回る状況になっている。全国の新規マンション供給戸数は開発エリアの減少により10年前の6割程度まで減っている。都市部の人気物件は抽選に応募が殺到し、希望者が買えない状況だ。」(『日本経済新聞』2025.01.15)

その他