情勢の特徴 - 2025年3月後半
●「厚生労働省は4月から、老後に受け取る年金の目安などを知らせる『ねんきん定期便』の記載内容を見直す。厚生年金に加入する会社員らに向けた定期便に、事業主も加入者と同額の保険料を負担している旨を明記する。SNSを中心に、事業主負担の記載がなく年金給付額を『多く見せている』などと批判が出たことに対応する。」(『日本経済新聞』2025.03.17)
●「生活保護を受ける人の過半が65歳以上の高齢者となっている。日本社会の高齢化が進み、低年金の独居老人が増えたことが背景にある。年金支給額を底上げする改革の先送りが続けば、全額を公費でまかなう生活保護にセーフティーネットを頼る状況が深刻になる。…日本経済の停滞が長引いたことで受給者数は増加傾向にあり、2000年度の103万人から23年度には速報値で199万人に膨らんだ。厚生労働省によると、00年度に37%だった受給者に占める65歳以上の割合は23年度には53%と半数を超えた。…生活保護を受ける高齢者が増えた要因の一つは年金額が少ないことだ。23年度に65歳以上の生活保護受給者で年金を受け取っていたのは速報値で72%。このうち年金が月額4万円未満の人が約5割を占めた。23年の高齢無職世帯の平均支出は夫婦で月28.2万円、単身では月15.8万円。総務省によると、23年の高齢無職世帯(65歳以上、夫婦のみ)の家計収支は月平均でおよそ3.8万円の赤字だった。特に独り暮らしの場合は家計が厳しくなりやすい。家賃や光熱費など世帯単位でかかるコストの1人あたりの負担が大きくなるためだ。生活保護を受けた高齢者のうち、単身者が占める割合は22年度に80%に上った。65歳以上人口の全体に占める単身者が2割ほどにとどまることを考えると生活保護受給者の独居率の高さが目立つ。」(『日本経済新聞』2025.03.24)
●「国土交通省は18日、埼玉県八潮市の道路陥没事故を受けて再発防止策を議論している有識者会議の提言を踏まえ、全国の自治体に下水道管路の特別重点調査の実施を要請した。1994年度以前に設置された内径2メートル以上の管路約5000キロが対象で、1年以内に調査結果の報告を求める。このうち八潮市の事故現場と類似する箇所など約1000キロは優先箇所と位置付け、今夏ごろまでに調査完了を目指す。」(『建設通信新聞』2025.03.19)
●「関東地方整備局は2024年度の入札・契約、総合評価の実施状況をまとめた。予定価格が250万円未満を除く発注件数は606件。発注総数に占める入札不調・不落の発生率は9.9%で昨年度と横ばいだった。工種別では設備工事が30%を超えた。入札参加企業が配置予定技術者を確保できないことなどが要因とみられ、整備局は引き続き対策に力を入れる。」(『建設工業新聞』2025.03.24)
●「政府は、国の契約で予定価格が少額の場合に選択できる『少額随意契約』の基準額を引き上げる。ここ数年の物価上昇などを踏まえた対応。工事の場合、現行は予定価格250万円以下で少額随契を選択可能としているが、400万円以下に見直す。…国と都道府県、政令市は同じ基準額を適用している。工事だけでなく製造契約や財産の買い入れ、物件の借り入れ、財産の売り払い、物件の貸し付け、その他の契約で、それぞれ基準額を引き上げる。政令市を除く市区町村では、工事の基準額を現行の130万円から200万円に見直す。」(『建設工業新聞』2025.03.26)
●「国土交通省は26日、中央建設業審議会の第6回労務費の基準に関するワーキンググループ(WG)を開き、公共工事の観点から、改正建設業法に基づく労務費の基準(標準労務費)の実効性確保策を議論した。入札段階の取り組みとして、労務費ダンピング調査(仮称)の実施を提案した。適正な予定価格の設定に向けては、国交省が地方自治体の歩切り実態を改めて調査するとともに、調査で歩切りが確認された自治体に対して入札契約適正化法(入契法)に基づく要請などを行い、歩切りの根絶を図る。…『公共工事の取り組み』をテーマとする第6回WGで国交省は、▽入り口の対策(入札契約段階の実効性確保)▽出口の対策(労務費・賃金支払いの実効性確保)▽その他の対策(適正な予定価格の設定や見積期間の確保など)――の三つに分け、具体策をたたき台として示した。入り口の対策として提案したのが労務費ダンピング調査だ。国交省案によると、労務費などが著しく低い場合は、直接工事費の割合が低くなると類推されることから、開札を経て落札候補になった競争参加者を対象に、直接工事費に着目した調査を行う。…入り口の対策にはこのほか、入札金額内訳書での労務費などの明示を挙げた。改正建設業法の全面施行に合わせて改正入契法が12月までに施行されると、公共工事の入札に参加する建設企業は労務費や材料費などの内訳を明示した入札金額内訳書を発注者に提出する義務を負う。これが適切に実施されるよう、入札金額内訳書のひな形を公共発注者向けのガイドラインなどで示す考え。出口での対策には、建設Gメンによる調査の実施、建設工事標準請負契約約款の改正によって導入予定のコミットメント制度を活用した賃金支払いの確保、発注者が賃金支払い状況などを確認する直轄工事でのモデル的な取り組みを示した。その他の対策としては、歩切り調査と独自歩掛かり調査の実施、適正な見積期間の確保を位置付けた。二つの調査は、適正な予定価格の設定に向けた取り組みで、予定価格と落札率がある入札制度の中で労務費を確保できるようにすることが狙い。」(『建設通信新聞』2025.03.27)
●「政府は14日、『労働安全衛生法および作業環境測定法改正案』を閣議決定した。労働者の労働災害防止対策に、建設業での一人親方をはじめとした個人事業者などを取り込み、個人事業者など自身が実施する安全衛生対策の推進や業務上災害報告制度の創設、職場のメンタルヘルス対策として、ストレスチェックの実施を労働者数50人未満の事業場にも義務化することなどが柱。今国会での成立を目指す。」(『建設通信新聞』2025.03.17)
●「建設業振興基金は14日、建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者登録申請と能力評価申請を同時に行うワンストップ申請の受け付けを始めた。1回の申請で4段階のレベルに応じたカードを取得できる。二つの申請をそれぞれ行う従来方法に比べて、手続きが単純化するとともに、申請に要する手数料が安くなる。従来方法での申請も引き続き可能。ワンストップ申請のスタートにより、申請方法の選択肢が一つ増えることになる。」(『建設通信新聞』2025.03.17)
●「厚生労働省が24日にまとめた2024年(1-12月)の労働災害発生状況(速報、3月7日時点)によると、労働中の新型コロナウイルス感染による労災を除き、建設業での死亡者数は、前年同期比(前年同時点比)6.6%増(14人増)の226人と、2年ぶりに増加した。近年の確定値までの推移から、5月中にまとめる予定の24年建設業死亡者数の確定値は230-240人程度と推計される。現時点の速報値で、過去最少だった23年の223人(確定値)を上回り、死亡者数が増加に転じたものの、確定値で2番目に少ない20年の256人は下回る見通し。また、休業4日以上の死傷者数は、前年同時点比3.9%減(550人減)の1万3661人だった。死傷者数は近年の確定値までの推移から、24年の確定値は1万3850-1万4100人程度になると推計され、過去最少だった23年の1万4414人を下回り、過去最少を更新することがほぼ確実な状況となった。死傷者数(確定値)は、20-23年まで4年続けて1万4000人台が続いており、24年確定値の推計からは、初の1万3000人台になる可能性がでている。」(『建設通信新聞』2025.03.25)
●「建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録された技能者や事業者のデータを、API連携する民間システムで共通して使えるようにする『共同利用』の基本方針が固まった。共同利用を認めるデータの範囲や運用方法を関係者間で合意した。労務・安全管理に用いるシステムが現場ごとに異なる場合も、CCUSに蓄積されたデータを直接反映できるようになり現場管理の効率化が期待できる。各システム事業者と2025年度当初から共同利用の契約を順次締結し、サービスを開始する予定だ。」(『建設工業新聞』2025.03.26)
●「全国中小建設業協会(全中建、土志田領司会長)が会員企業を対象に実施した人材保護に関する調査結果によると、2025年度に技術者の採用を予定している会員の割合は前年度比3.0ポイント低下の34%にとどまった。23年度から2年連続で低下した。時間外労働の実態を見ると、1カ月当たり『10時間未満』が47%と最も多く、週休2日に取り組んでいる企業は66%だった。建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入予定がある会員企業のうち、今後の予定について50%が『検討中』と回答した。」(『建設工業新聞』2025.03.18)
●「全国建設業協会(全建、今井雅則会長)は2025年度、技能者の賃上げと会員企業の生産性向上、働き方改革などを柱に協会活動を展開する。技能者の賃上げや生産性向上は、2月に中野洋昌国土交通相と建設業主要4団体が官民で取り組むことを申し合わせた事項。その実現に向け協会を挙げて取り組む。自然災害の激甚化や少子高齢化などを背景に、建設業の環境整備も急務。25年度は若い世代が憧れ入職したいと思う業界づくりに向けて、処遇改善や働き方改革といった取り組みを一層加速させる1年にする。」(『建設工業新聞』2025.03.18)
●「全国中小建設業協会(土志田領司会長)は、人材確保・育成対策などに関する2024年度の実態調査結果をまとめた。働き方改革に関連し、時間外労働時間を聞いたところ、9割超は月30時間未満だった。週休2日の取り組みも、9割近くが推進していることが分かった。アンケートは、全中建会員団体の傘下企業2330社を対象に24年7月から11月にかけて実施し、702社から有効回答を得た(回答率30.1%)。月当たりの時間外労働の実態によると、10時間未満が47%と最多を占め、次いで10時間以上20時間未満の27%、20時間以上30時間未満の18%、30時間以上の8%の順となった。残業の発生原因は『人手不足』と『煩雑な書類作成』との二つが突出しており、『自然条件』『設計内容の不備』『適正な工期の発注ではない』も比較的多かった。週休2日は、既に取り組んでいるが66%、実現に向けて取り組んでいるが21%を占め、検討中が10%となった。取り組めないは、3%とわずかだった。週休2日が難しい場合の理由としては、『発注者に週休2日の概念がない』『国や県は週休2日制だが、市は取り組んでいない』などが挙がっている。週休2日の実現には、発注者側の意識改革や月額賃金が変わらない単価設計、日給制から月給制への移行、設計労務単価のさらなる引き上げ、受注時設計図書の不倫改善などを求める意見が寄せられている。」(『建設通信新聞』2025.03.19)
●「建設経済研究所は『建設経済レポートNo.77』を発行した。建設産業の現状や課題について11テーマ別に分析結果や考察をまとめた。人口当たりの建設投資額に不均等が見られず、資本金ベースでは建設会社の労働生産性が製造会社を上回っていることなどを報告。技能労働者の減少に伴い、生産性が横ばいなら2035年度には建設投資額が10兆~15兆円程度押し下げられる懸念も示した。主な分析などを見ると、都道府県別の建設投資は、面積当たりの建設投資額などに集中や不均等があったものの、人口当たりの建設投資額は不均等が目立たなかった。都道府県のうち、人口の少ないグループには公共投資の割合が約49%を占めているところもあり、民間投資を補う形で公共投資が建設投資を支えていることがうかがえるという。建設業従事者の将来推計を初めて都道府県別に行った結果、20年と35年を比較すると、技能労働者が全ての都道府県で減少し、半数以上で減少率が20%を超えた。技能労働者1人当たりの建設投資額を考慮すると、20年度の生産性が35年度まで横ばいであれば建設投資額の押し下げが10兆円を超えるとした。供給制約は遠くなく、1.5倍程度の生産性向上が必要という見方を示した。建設関係の職業訓練施設に地域差があり、東日本に多いという調査結果も盛り込んだ。」(『建設工業新聞』2025.03.21)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)は24日の理事会で、2025年度事業計画を決定した。建設業全体を俯瞰(ふかん)した中長期的な方向性を示す、新たな長期ビジョンの策定・公表を重点方針の第一に明記した。現長期ビジョンの積み残しの課題や今後予測される課題に的確に対応するため、業界に関わる幅広い関係者が共有できる新たな指針や具体的な方策を提示する。新ビジョンは今後、外部有識者や他団体などの意見も参考にした上で、7月をめどに公表する見通しだ。」(『建設通信新聞』2025.03.25)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)は、『労務費見積り尊重宣言』の2024年度実施状況をまとめた。原則全ての工事で実行した会員企業の割合は72%となり、一部工事で実施の19%を合わせると、9割超が宣言に基づく行動を取っていた。フォローアップ結果を公表するのは初めて。同宣言は、1次下請けへの見積もり依頼に際して、適切な労務費を内訳明示した見積書の提出要請を徹底し、当該見積もりを確認した上でこれを尊重するというのが趣旨。ここ数年、公共工事設計労務単価の引き上げに併せて行っている首相、関係閣僚との技能者賃金の上昇目標の申し合わせや、社会全体での賃上げ機運の盛り上がりなどを受けて、実施率も年々向上している。」(『建設通信新聞』2025.03.25)
●「日本建設業連合会(宮本洋一会長)は、『下請取引適正化と適正な受注活動の徹底に向けた自主行動計画』を改定した。原材料費などの価格高騰時の全額転嫁を目指すに当たっては、出発点である『発注者への全額転嫁』を前提に、元請け、下請けを問わずサプライチェーン全体で取り組むと明文化した。計画改定に併せ、国土交通省に対して会長名の要望書も提出。竣工まで一切支払いがないケースもあるなどと窮状を訴え、民間発注工事の支払い条件改善などを求めた。」(『建設通信新聞』2025.03.26)
●「全国で市街地再開発の計画見直しが相次いでいる。日本経済新聞の調査で、進行中の事業のうち、8割弱で完了時期の延期や費用の増加が起きていることがわかった。見直した計画の平均で期間は2.7年延び、費用は2割膨らんでいる。資材価格が上昇し、人手不足も響く。再開発は国や自治体からの補助金も充てられており、計画変更は公的負担の増加につながる。市街地再開発は1969年制定の都市再開発法に基づき、老朽化した住宅密集地や道路、公園の敷地を集約して中高層ビルなどに再整備する。自治体は公共性が高い場合に、要件に応じて国と折半で補助金を出す。住戸やオフィスなど新たに生まれた『保留床』の売却が収益のため、規模が大きくなりがちだ。2024年11月時点で144件の再開発事業が進行している。地方自治体や再開発組合への聞き取り、情報開示請求を通じて、計画認可後の進捗を分析した。当初と比べ事業完了時期を延期したのが89件(62%)、費用総額の増加が96件(67%)あった。76件は両方に該当した。…これまでの市街地再開発ではビルを従前よりも大きく建て直し、収益を生む保留床を確保することで事業を成立させてきた。採算を確保するためには、なるべく開発規模を大きくするというのが開発手法の定石だ。しかし、近年は新型コロナウイルス禍や世界的な物価高など、計画時に想定していなかったことが起きている。東京大まちづくり研究室の小泉秀樹教授は『大規模プロジエクトほど計画の先行きが見通しづらく、事業が遅れたり、中断したりするリスクも大きくなっている』と指摘する。」(『日本経済新聞』2025.03.26)
●「全国で耐震性が確保されている住宅の割合は2023年時点で90%との推計を国土交通省がまとめた。前回18年推計の87%から3ポイント上昇した。国交省は改修のほか、古い住宅の建て替え、解体で耐震不足の建物が減ったとみている。残る10%の570万戸は最大震度7を観測した能登半島地震、熊本地震同程度の揺れで倒壊する恐れがある。南海トラフ巨大地震などが懸念される中、改修促進が課題となる。」(『日本経済新聞』2025.03.26)
●「2023年度の国内建築用木材の自給率が半世紀ぶりに50%を上回ったことが、政府の集計で分かった。総需要約2926万立方メートルに対し、国内生産量が55.3%に当たる約1618万立方メートルとなった。政府は4階建て以上の中高層建築物の木造・木質化を促すため、建築基準法の構造規制を4月に緩和するなど木材利用促進策をさらに展開する。」(『建設工業新聞』2025.03.27)
●「政府の作業部会は31日、南海トラフ沿いで巨大地震が起きた場合、死者数が最大で29万8千人に上るとする新たな被害想定を公表した。政府は『死者8割減』を掲げて減災対策を進めたが前回推計からの改善は約1割にとどまった。早期避難により被害はさらに抑えられるとしており、一人ひとりの防災意識の向上が求められる。」(『日本経済新聞』2025.03.31)