情勢の特徴 - 2025年6月後半
●「金融庁はTOB(株式公開買い付け)を巡るインサイダー取引事件の増加を受け、違反した場合の課徴金を17年ぶりに見直す。不正に得た利益に一定の係数をかけ合わせるなどで米欧の水準に近づける。コーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展でTOBが急増する中、不正事案の発生を抑止する。」(『日本経済新聞』2025.06.17)
●「複数の荷主の貨物を集めて運ぶ混載トラック(特積み)の運賃が一段と上昇した。主要路線である東京―大阪間の相場は2024年末時点から2%ほど高い。人手不足が深刻になるなか、運送会社は運転手らの待遇改善のための値上げ交渉を続けてきた。『物流の2024年間題』を受け、荷主企業側も理解を示す方向へ意識が変わっているようだ。特積みトラック運賃の東京-大阪間は6月時点で、100キログラム当たり3080円程度となった。足元の水準はデータを遡れる00年以降で最も高い。運送会社と荷主は、貨物量の増減や諸コストの状況などを踏まえて随時、運賃交渉をしている。24年4月からトラック運転手の時間外労働への規制強化に対応するため、運送各社は運賃引き上げを求めてきた。22年には2%、23年には1%それぞれ上昇していた。24年には5%上昇した。多くの荷主が値上げを受け入れ、運賃相場は上昇基調が続いているものの、燃料代や人件費の急速な上昇にはなお追いついていないという。…下請けの協力会社への支払いのほか、車両や倉庫の更新にかかるコストも上昇している。今後も運賃を引き上げる必要がある。」(『日本経済新聞』2025.06.18)
●「中小企業基盤整備機構は、事業承継・引き継ぎ支援事業の2024年度実績をまとめた。建設業のM&A(企業の合併・買収)の成約件数は前年度比17.0%増の261件で過去最高を更新した。全産業に占める割合は12.2%となっている。」(『建設通信新聞』2025.06.18)
●「国土交通省は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の利用拡大に向けた2026年度までの3か年計画の取り組み状況をまとめた。CCUSと労務安全システムとの情報連携について、早ければ25年度内にもCCUS登録情報を反映できる民間サービスが提供される見込みとなった。下請け会社が元請け会社ごとに同じ情報を入力する手間が省け、事務作業の効率化が期待される。」(『建設通信新聞』2025.06.17)
●「国土交通省は、入札契約適正化法に基づく実施状況調査(入契調査)と、公共工事品質確保促進法に基づく実施状況調査(業務発注事務調査)を始めた。国交省の標準歩掛かりと異なる独自の歩掛かりの作成状況や、市町村の発注担当職員の育成に関する支援などを新たに調べる。8月上旬までに回答を求め、12月に結果を公表する。対応が不十分な公共発注者には改善を求めていく。」(『建設通信新聞』2025.06.19)
●「国土交通省は23日、公共工事品質確保促進法(品確法)の改正を踏まえ、公共発注者の取り組みを見える化する『第3次・全国統一指標』を決めた。工事の平準化率は4-6月期に加え、新たに1-3月期の実績を把握し繁忙期のピークカットを促す。週休2日工事については従来の公告ベースではなく実績ベースで達成状況を見る。地域ブロックごとの発注者協議会で各指標の目標値などを検討し、今秋以降に公表する。」(『建設通信新聞』2025.06.25)
●「国土交通省は、建設業の重層下請け構造の実態調査を開始した。元請けや下請けへのアンケートを通じて、重層化に伴う技能者の賃金や労働時間への影響といった課題を現場単位で把握する。回答に応じて追加でヒアリングを実施し、実態をさらに深掘りする。2025年度内に結果をまとめ、今後の政策立案に役立てる。」(『建設通信新聞』2025.06.26)
●「国土交通省は26日、『今後の建設業政策のあり方に関する勉強会』の初会合を開き、建設業を取り巻く環境変化を踏まえた今後の建設業政策について議論を始めた。担い手確保だけでなく建設業が直面する課題を乗り越えるため、企業が目指すべき経営戦略のあり方を探り、技術と経営に優れた会社の活躍につながる政策の方向性を定めていく。2026年3月の取りまとめを目指す。」(『建設通信新聞』2025.06.27)
●「フリーライターやカメラマンらに報酬額や支払期日を示さなかったなどとして、公正取引委員会は17日、出版大手の小学館と光文社にフリーランス保護法違反で再発防止を勧告した。勧告は2024年11月の同法施行以来初めて。曖昧な条件で仕事を発注する出版業界の商慣行が浮き彫りになっており、公取委は業界団体にも法令順守を要請する。」(『日本経済新聞』2025.06.18)
●「国土交通省が提供する『働き方自己診断チェックリスト』を活用した結果、建設業で働く一人親方のうち4割弱が『社員の働き方に近い』と感じていたことが分かった。診断結果を踏まえ、取引先に雇用契約の締結を打診したケースもある。国交省は、労働関係法令の規制逃れを目的とした『偽装一人親方』の抑制対策としてチェックリストの活用を働き掛けるが、現状で自ら活用した経験がある一人親方が1割程度にとどまっており、さらなる認知・活用が必要だ。」(『建設工業新聞』2025.06.19)
●「建設キャリアアップシステム(CCUS)邁営主体の建設業振興基金(振興基金、谷脇暁理事長)は、能力評価(レベル判定)の申請手数料を全額支援する期間限定のキャンペーンを8月1日に始める。2026年3月末までに申請すれば通常4000円の手数料が実質無料になる。CCUS登録技能者は5月末時点で166.2万人。うちレベル判定を受けているのは11.5万人で全体の約7%に過ぎない。振興基金はキャンペーンをレベル判定の普及を加速する起爆剤としたい考えだ。」(『建設工業新聞』2025.06.24)
●「全国で採用試験合格者の辞退率が5割を超える自治体が相次いでいる。民間企業の給与上昇で官民の待遇差が広がり、採用で競り負けるケースが増えている。内定者の6割超が辞退した東京都日野市が競合関係にある隣接市と就職説明会を開くなど、各自治体は対策を進める。初任給の引き上げで人気就職先になった大阪府和泉市のような成功例もある。…『半数辞退』の自治体は全国で相次ぐ。北海道帯広市の辞退率は54.8%と同市で過去最大になった。北海道では函館市の辞退率も52.0%。約50%が内定を辞退した宮城県気仙沼市の担当者は『思うように採用できていない』と実感する。総務省の地方公共団体の勤務条件等に関する調査を基に集計したところ、政令指定都市を除く市区町村の23年度の採用試験合格者の辞退率(合格したが採用されなかった人の割合)は22.2%だった。19年度の18.4%から4ポイント近く上昇した。都道府県では23年度に34.0%と、19年度の30.6%から上がった。辞退者が増えている要因の一つが民間との待遇差だ。少子化で学生優位の『売り手市場』は進み、内定を取りやすくなっている。地方公務員を志す人は地元志向が強く、金融機関など地域の企業に流れる傾向もある。」(『日本経済新聞』2025.06.26)
●「厚生労働省がまとめた2024年の労働災害動向調査結果によると、総合工事業(工事現場)の労災状況は、延べ100万実労働時間当たりの労働災害による死傷者数で災害発生の頻度を表す『度数率』が、前年と比べ0.22ポイント上昇し、1.91となった。また、延べ1000実労働時間当たりの労働損失日数で災害の重さの程度を示している『強度率』も0.28ポイント上昇し、0.57だった。これにより、死傷者1人平均労働損失日数は、122.4日増加の296.6日となっている。労働損失日数は2年連続して増加し、過去10年の中で最も多い損失日数だった。」(『建設通信新聞』2025.06.26)
●「国土交通省はとび職や鉄筋工など建設業で働く労働者が適正な賃金を受け取っていないと感じた場合の通報制度を設ける。2027年度にも試験運用を始める。25年12月に全面施行する改正建設業法に基づき建設従事者の労務費の基準を示すのに合わせ、処遇改善の実効性を確保する。近く中央建設業審議会(国交相の諮問機関)に提示する。国交省が情報提供システムを設け、基準と比べて不当に低い賃金だと感じた人が通報できるようにする。26年度中にシステムを設計し、27年度から試験運用する。給与明細に記載された給与や労働日数、勤務経験を入力してもらう。極端に待遇が低い場合、国や関係機関が雇用主となる建設業者の取引状況などを調べる。法令違反が疑われれば、建設業者に是正を指示したり発注者に勧告したりする。悪質な事業者は社名公表も検討する。国交省は業界団体や有識者が参加するワーキンググループを設けて制度を検討してきた。個別の業種で賃金に関する公的な相談窓口を設けるのは珍しい。」(『日本経済新聞』2025.06.27)
●「建築大工をはじめとした住宅分野の建設技能者の持続的な確保に向けた施策検討に、国土交通省が本腰を入れ始めた。いわゆる『町場』の木造住宅の現場に従事する技能者を対象とした取り組み。これまで『担い手の確保・定着』という観点では、国の政策として表立って重点が置かれていたわけではなかった分野だ。『野丁場』よりも急激に担い手が減少している現状に、国交省が危機感を募らせたことが背景にある。」(『建設工業新聞』2025.06.27)
●「国が2013~15年に生活保護費を引き下げたのは違法かどうかが争われた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(宇賀克也裁判長)は27日、減額を『違法』と認め、取り消した。受給者側の勝訴が確定した。国は減額分の支給といった対応を迫られる可能性がある。」(『日本経済新聞』2025.06.28)
●「2024年(1-12月)の建設業での労働災害による死亡者数が2年ぶりに増加した一方、休業4日以上の死傷者数が3年連続で減少したことが、厚生労働省がまとめた24年の労働災害発生状況(確定値)で分かった。新型コロナウイルス感染症による労災者数を除いた死亡者数は、前年比4.0%増(9人増)の232人となった。過去最少だった23年の223人を上回り、死亡者数が増加に転じたものの、これまでで2番目に少ない20年の256人は下回った。」(『建設通信新聞』2025.06.30)
●「勤労者退職金共済機構(勤退共、梅森徹理事長)の建設業退職金共済事業本部(建退共本部)は27日、複数掛け金制度の導入と民間工事への普及に関する有識者検討会の中間取りまとめを公表した。最低でも退職金1000万円超の実現を目指すと明記。掛け金ごとの退職金のイメージを示した。掛け金を必要経費とした元下契約への理解を求めることも盛り込んだ。」(『建設工業新聞』2025.06.30)
●「建築工事の停滞で需要がしぼむなか、主要資材の値動きが二極化している。受注競争で鉄筋コンクリート用の鋼材が値下がりする半面、生コンクリートはこの1年で2割上がった。過剰な能力を残したままの鉄鋼業界と、先んじて生産集約が進んできた生コン業界で価格交渉力の差が広がっている。…需要の弱さは同じにもかかわらず、値動きの方向が違うのはなぜか。その理由は生産集約の差だ。全国生コンクリート工業組合連合会によると、全国の生コン工場は24年度末時点で3007カ所と、10年間で12%減った。需要が見込めない地域の工場撤退が進んだほか、後継者不足で工場を閉めるケースもある。需要にあわせて供給能力の削減が進んだことで需給が緩みにくくなり、強気の値上げ姿勢を打ち出しやすくなった。地区ごとにメーカーが組合をつくり、共同でゼネコンと価格交渉するのも特色だ。…企業別での営業に比べ交渉力が増すうえ、メーカー同士の過剰な値下げ合戦も避けられる。生コンは工場で練り始めて90分以内に工事現場に届ける必要があるため大量につくって保管することができないという製品特性も有利に働く。その点、鉄筋業界の事情は対照的だ。異形棒鋼などの建設用鋼材は主に鉄スクラップを電気で溶かす電炉でつくる。経済産業省の生産動態統計で計算すると、国内の電炉の生産能力は2月時点で年産3800万トン程度。この10年間ほとんど変わっていない。中小規模のメーカーが乱立し、これまで統廃合が進んでこなかった。日本鉄鋼連盟によると、鉄筋を中心とする小形棒鋼の在庫量を月間の出荷で割った在庫率は4月時点で118%で、80%ほどだった22年度から40ポイント近く上がっている。需要が弱いなかで在庫が高止まりし、メーカーや流通事業者が注文をかき集めるために値下げ販売を迫られる構図だ。…鉄筋は大規模な在庫を抱える流通事業者が限られ、工場から工事現場に直接届ける必要がある。『地産地消』の色が強いのは生コンと同じだ。ただ生コンと違い日持ちするため遠くまで運ぶこともでき、『最近は他地域から安価な製品をもってきて商圏を荒らす同業者もいる』(電炉メーカー)という。」(『日本経済新聞』2025.06.19)
●「東北6県の地域建設会社7社とみずほ銀行は、共同出資の新会社『東北アライアンス建設』(福島県郡山市、代表・隂山正弘隂山建設代表取締役)を設立する。23日に東京・丸の内のみずほ銀行丸の内本部で協定書を取り交わした。広域で連携して経営資源の最適化や人材不足、技術的制約に対処する。設立日は30日付で、発行株式数は1万4000株、資本金は7000万円。7社の直近決算の合計完工高は570億円、4月1日時点の総従業員数は786人。」(『建設通信新聞』2025.06.24)
●「経済産業省中小企業庁は20日、2025年3月『価格交渉促進月間フォローアップ調査』の結果を公表した。価格交渉の申し入れや実施などを点数化した『価格交渉の実施状況』の業種別ランキングで、建設業は30業種中4位となり、前回の第7回(24年9月)調査からポジションを三つ上げた。その一方で、価格転嫁できた割合を指す『価格転嫁率』は前回調査と同様、30業種中12位にとどまった。ただ、価格転嫁率自体は30業種全体を0.2ポイント上回る52.6%となり、前回調査から2.3ポイント上昇している。さらに、要素別に建設業の価格転嫁率を見ると、原材料費53.7%(前回比2.1ポイント増)、エネルギー費48.2%(2.2ポイント増)、労務費50.4%(3.0ポイント増)といずれも改善の進展が見られる。」(『建設通信新聞』2025.06.24)
●大阪・関西万博の海外パビリオン建設における下請け工事代金の未払いが続々と発覚している。その内容は、さまざまだ。…「被害者の会」が立ち上がったが、今日発覚している工事代金未払い事案は、恐らく氷山の一角に過ぎない。海外パビリオン建設を巡っては、日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設)が2023年11月に、着工の遅れについて「もうデッドラインは過ぎていると思ってもいい」と危機感を示していた。この発言は重く、混乱は予想できた。このような事態は、なぜ相次いでいるのか。大阪府の吉村洋文知事は記者会見で、関西の中小建設業者に工事参加を強く呼び掛けた。そして、大阪府と万博協会、国・省庁は、万博建設工事等の協力を要請し、国家プロジェクトを盾に、受注における信用と機運醸成を高めた。難工事を引き受け、不眠不休で工事に携わった中小建設業者と従事者が、苦境に立たされている。この事態は、建設業の“万博倒産”の連鎖に発展しかねない。万博協会は、「民民の契約」に介入しない意向を示しているが、国内の建設業を守るためにも責任を持って救済すべきだ。(『全国商工新聞』2025.06.30より抜粋。)
●「不動産調査会社の東京カンテイ(東京・品川)が23日に公表した5月の中古マンションの平均希望売り出し価格は、東京23区で前月比3.1%高の70平方メートル当たり1億88万円だった。同社の集計では、東京23区の平均として初めて1億円を超えた。都心で築年数の浅い物件の売却が増えて、平均価格を押し上げた。」(『日本経済新聞』2025.06.24)
●「国土交通省は、建築物のライフサイクルアセスメント(LCA)の2028年度での制度化に向けた検討を始めた。建築物に関する省エネ規制は使用段階のエネルギー消費量の削減を対象にしているが、LCAでは資材製造段階や施工段階、解体段階を含めたライフサイクル全体でのCO₂、メタン、代替フロンなどの温室効果ガス(GHG)を算定・評価する。制度設計に当たって、LCAは耐震性など建築物に求められる他の性能などとトレードオフにあるため、バランスが取れた規制やインセンティブの付与が求められる。」(『建設通信新聞』2025.06.26)
●「経済産業省は2026年度から、化石燃料の利用が多い工場や店舗をもつ1万2000事業者に屋根置き太陽光パネルの導入目標の策定を義務づける。薄くて軽いペロブスカイト太陽電池の導入を広げて、脱炭素に向けて太陽光の比率を大幅に高めるエネルギー基本計画の目標達成に近づける。省エネ法の省令や告示を25年度内にも改正する。メガソーラー(大規模太陽光発電)は適地が減っていることから、建物の利活用を急ぐ。新たな義務は原油換算で年1500キロリットル以上のエネルギーを使う事業者や施設に課す。工場や小売店、倉庫などが該当する。自治体の庁舎も含む。義務は2段階でかける。企業や自治体の設置目標の策定は26年度からで、約1万2000事業者を対象とする。少なくとも5年に1回程度の更新が必要になり変更時はその都度報告を求める。27年度からは毎年、約1万4000カ所に及ぶ施設ごとに設置可能な面積と実績の報告を求める。予定の出力数なども把握する。違反や虚偽の報告には50万円以下の罰金を科す。」(『日本経済新聞』2025.06.30)
●「国外に流出する富裕層の数が2025年に全世界で過去最多の14万2000人となる見通しだ。富裕層に厳しい税制を導入した英国が中国を上回って最大の流出国となる。移動する英国の富裕層の総資産はおよそ918億ドル(約13兆円)と試算される。流入先では中東や米国、イタリアが上位に並ぶ。」(『日本経済新聞』2025.06.27)