情勢の特徴 - 1999年4月
● 日本銀行が発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、、過去最悪の水準だった前回の12月調査に比べてわずかに改善がみられるものの、依然としてきわめて厳しい水準にとどまっている。「戦後最悪」の不況の重しが依然のしかかったままである。なかでも、雇用が「過剰」だとみる企業の割合は、いちだんと強まって過去最大の水準となり、今後、強引なリストラが進められることで、個人消費が冷や水を浴びせられ、景気がさらに悪化に向かう可能性もある。企業の景況感を示す業況判断DI(「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数)は、大企業・製造業でマイナス47(前回調査マイナス49)、同・非製造業でマイナス34(同マイナス39)。中小企業は製造業がマイナス53(同マイナス 56)、非製造業がマイナス38(同マイナス43)と、改善は小幅にとどまった。
● 経済審議会(首相の諮問機関)は、21世紀初頭を目標とした次期経済10ヶ年計画「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」のたたき台となる15項目の政策課題を公表した。海外からの移民労働者の受け入れについて、経済活性化などの観点から「積極的に検討すべきだ」との考えを示したほか、行政の効率化に関して府県を合併する「道州制」の検討などを挙げた。過去の経済計画で最大の目標と位置付けてきた経済成長率については「重要であるが、それ自体が目的とはなり得ない」と明記。新たな目標として可処分時間などを挙げ、成長重視から質的な生活の豊かさ重視への転換を打ち出した。
● 日銀が発表した貸し出し・資金吸収動向によると、都市銀行や長期信用銀行など銀行業態の貸出平均残高で、15ヵ月連続の前年割れとなった。業態別では都銀が前年同月比6.0%減、長信銀同6.6%減、信託銀行同7.6%減。いぜん大手銀行により貸し渋り・資金回収の動きが続いていることを示している。
● 帝国データバンクが発表した98年度の企業倒産件数は前年度比0.3%増の17,497件で、不況の期化を映してバブル崩壊後の最多となった。経営が破たんした日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の関連ノンバンクが巨額の負債を抱えて相次ぎ倒産したため、負債総額は前年度比0.4%増の15兆1,820億円と過去最悪の規模。ただ中小企業向け公的信用保証の拡大政策などの効果で年度後半には倒産件数が減少傾向に転じており、今年3月も前年同月を約3割下回った。
● ゼネコン(総合建設会社)各社は、インターネットを使って専門工事業者や空調などの設備業者に発注情報を公開、発注先を決める方式を相次いで採用する。大成建設は5月にもスタート、来年3月までに1,000社まで取引先を広げるほか、戸田建設も全国の支店での導入を検討する。ゼネコン各社が組織する協力会から資材などを調連していた従来のやり方を見直し、低コストで技術力のある企業を発掘、取り込むことで競争力の底上げを狙う。
● 建設省は、1999年度の建設投資見通しをまとめた。名目で71兆5,500億円、前年度比1.5%増と3年ぶリの増加となる。内訳は、建築が36兆2,800億円で2.1%増、土木が35兆2,700億円で0.9%増、土木のうち公共事業は5.5%増の25兆 7,200億円。投資主体別では、政府投資が35兆800億円で5.1%増加する一方、民間投資は36兆4,600億円で1.7%の減少を予想している。99年度の建設投資を実質べースで見ると、全体で67兆6,300億円、前年度比1.8%の増加となる。投資主体、投資目的別の構成比は、政府土木がもっとも高く40.2%、次いで民間住宅の29.2%、民間非住宅建築12.6%、民間土木9.1%、政府非住宅 6.5%、政府住宅2.4%となっている。官民比率は、政府が49.0%、民間が51.0%で、政府投資のウエートが3年連続で上昇している。建築・土木の構成比は、建築が50.7%、土木が49.3%で、前年度と大きな変化はない。
● 建設省は工場跡地などの再開発を促すため、都市の土地利用規制を定めた都市計画法を30年ぶりに全面改正する方針を固めた。改正の柱は市街化区域内の用途地域規制の弾力化で、時間のかかる都市計画の変更手続きなしに工業地域や住居地域などの用途指定を変えられるようにし、市街地の一体開発を容易にする。都道府県知事や市町村しかできない都市計画変更の提案を民間の開発業者に開放することも検討する。効率的な都市再開発を進めると同時に、工場跡地を利川しやすくすることで製造業の過剰設備破棄を側面支援する狙いもある。
● 建築基準法の改正に伴い「指定確認検査機関」が民間企業に開放されるが、これへの参入条件の概要が明らかになった。建設省は、不動産会社や設計事務所、建設会社など施設建設に直接的、間接的に関与する民間企業が確認検査機関として許可を受ける際に、新会社の設立を義務付けるとともに、単独出資、複数出資に関係なく、「出資比率の合計を50%未満」とする方針だ。出資企業から確認検査機関への役員出向も禁止する。関連業種の兼業と役員出向を禁止することにより、確認検査業務の中立性、公平性を確保する。建設省はこの参入条件を各都道府県にも通達する。銀行や生命保険会社、損害保険会社などが新規参入する見通しだ。主な参入条件は、▽不動産業、設計・「コンサルタント業、建設業など施設建設に直接的、間接的に関与する業種の兼業禁止と、役員出向の禁止▽新設する指定確認検査機関の出資比率合計が50%未満▽確認検査員2人以上の確保−−など。
● 県外のゼネコンが落札した場合、下請けに市内企業を使うよう義務付ける方針を打ち出した和歌山市は、政策調整会議を開き「義務付け」は断念するものの、あくまでも市内企業を使うように「要請」していく方針を正式に決めた。要請を断った場合、入札で不利になるような扱いはしないが、仮にそうした企業が落札した場合、さらに要請を続ける意向だ。
● 清水建設は、賃金体系の見直しを視野に入れて、労働組合との協議を始める。1日に発表した新経営三ヶ年計画では、販管費が800億円を切る目標を設定しており、そのためには「総人件費の削減に、相当な覚悟で臨まなければならない」と強調、これから交渉していく構えだ。地域別の賃金体系などが模索されていくものとみられる。近藤副社長は、総売上高1兆3,500億円、経常利益250億円の経営目標を達成するには、「売上総利益率が8%前後、販管費は800億円を切ること」が不可欠との考えを示した。背景には、価格競争が激化している一方で、地方で勝つためにはコスト競争力を高めなければならない課題があり、地域別の賃金体系をとることで、コスト競争力が高まるとの判断があるようだ。
● 建設省は13日、一次下請けから末端下請けまでの「重曹下請け」における下請構造や取引実態を明らかにした「専門工事業者下請取引実態調査」をまとめた。契約方法などの実態は一次・二次下請業者間に比べ、二次・三次間の方が悪化している一方、部分払いの支払い期間などは下位ほど良くなっている。請負金額の下請比率は、4割以上が一次・二次間で65%、二次・三次間56%を占めており、8割以上もそれぞれ20%近くになっていた。調査結果をみると、請負契約方法について、個別契約または基本契約を交わしているのが、元下間が31.5%、一・二次間が15.4%、二・三次間が11.1%と低くなり、メモや口頭が元下間の5.9%に対し二・三次間が18.5%と下位ほど高くなっている。請負金額の決定方法も見積書提出後協議が元下間の89.0%に対して二次三次間が64.0%、見積もりなしが20.0%になっている。完成払金の手形期間は、120以内が元下間76.3%二・三次間92.3%。部分払いの締切日から支払いまでの期間も 30日以内が元下間64.1%、一・二次間が79.4%、二・三次間が77.3%と下位ほど良くなっている。しかし変更工事の場合の代金受取状況をみると、下位ほど全額受領の率が減っている。
● 日本建設業団体連合会の建設業基本問題委員会は、21世紀に向けた建設業経営の在り方を提言する報告書の概要をまとめた。右肩上がりの日本経済の終えんに対応し、建設市場も縮小していくことを見据え、大手ゼネコンは自助努力・自己責任にもとづき、「選択と集中」を展既すべきであるとる。第一章で「大手ゼネコンの方向性」、第二草で「建設産業政策,公共発注政策のあり方」をまとめ、個々の会員企業が進むべき道を提言したものといえる。
● 東京商エリサーチは、1998年度の建設業の倒産状況をまとめた。倒産件数は504件、負債総額は2兆94億5,500万円、件数は前年度比6.2%減、負債総額も21.6%減となり、大幅減少となった。とくにこの1ー3月期は38.8%減少を記録した。負債規模別では、10億円以上の大型倒産は251件で、このうち100億円以上は16件。5億円以上10億円未満が294件、1億円以上5億円未満が1,741件、1億円未満が2,808件の内訳となっている。業種別では、総合工事業が2,870件、職別工事業が1,386件、残る16.6%にあたる866件が設備工事業だった。