情勢の特徴 - 1999年6月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

● 経済企画庁が発表した国民所得統計調査によると、今年1−3月期の国内総生産(GDP)は、前期(昨年10−12月)にくらべ、物価変動を除いた実質で、1.9%(年率7.9%)増と、6期ぶりにプラスに転じた。一方、98年度のGDPは名目で約494兆円と、3年ぶりに500兆円を割り込んだ。同年度の実質経済成長率は前年度比マイナス2.0%と。、97年度に続く2年連続のマイナス成長で、減少幅も1974年度のマイナス0.5%を下回る過去最悪となった。1−3月期のGDPを需要項目別にみると、寄与度がもっとも高かったのは公共投資で前期比10.3%の伸び。前期まで総崩れ状態だった民需は、個人消費が同1.2%、、設備投資が同2.5%それぞれ増加した。 家計調査にみる前年同月比での消費支出が、1月にプラスとなったものの、2、3月は大きく落ち込むなど、個人消費はひきつづき低迷している。
● 1998年度の国の中小企業発注実績がまとまった。建設省が前年度よりも1.0ポイント比率を伸ばし、直轄工事の 48.7%、1兆966億円を発注したのを始め、ほとんどの省庁、公団、事業団で発注率がアップしている。96年度からの3年間の推移をみると、建設省が 3.0ポイント増加、農水省が6.5ポイント増加、運輸省が5.7ポイント増加と、中小への発注比率が着実に上昇していることが分かる。政府の規制緩和策では、官公需法の見直しが求められているが一方では、中小対策を重視した傾向が強まっているといわれている。98年度実績は、その傾向を裏付ける内容になっており、今後の対応が注目される。
● 東京商工リサーチがまとめた5月の建設業倒産によると、件数は374件で前年同月比32.1%の大幅な減少となり、負債総額も813億6,500万円で48.1%減、ほぼ半減した。8ヶ月連続の減少となり、公共投資の増加、住宅着工の好調持続によって、建設業の倒産に歯止めがかかったといえそうだ。 負債総額10億円超の大型倒産は16件で、このうち1社平均の負債額は2億1,700万円と小規模化している。職種別にみると、総合工事業が191件。職別工事業が115件。設備工事業が68件。原因別の倒産状況は、不況型が245件(販売不振178件、赤字累積62件、売掛金回収難5件)、放漫経営62件、過小資本24件、連鎖倒産23件ととなっている。
● 公正取引委員会は28日、地方自治体の入札・契約手続きなどの問題点を競争政策の観点から検討した報告をまとめた。調査の結果、公共工事を地元企業に優先発注するとの方針を定めている自治体が8〜9割に上り、入札の参加要件や指名基準として「地域要件」の設定が幅広く行われている実態が明らかになった。報告で公取委は、地元優先の方針は「基本的には各団体の行政裁量の問題」とする一方、競争を通じて低コストでの調達を図るという入札制度の利点を損ないかねないとも指摘。運用に当たって、過度の地域要件を設けないことや、事業者の任意の判断の尊重、受注機会の分配だけを目的にしたJV結成の排除などを求めている。調査対象は都道府県と人口10万以上のすべての市(217市)で、うち全都道府県と207市から回答があった。調査結果によると、地元企業への優先発注の方針を定めていたのは都道府県の83.0%、市の93.2%。これに加えて地元産品の優先使用の方針を定めていたのは都道府県で53.2%、市で41.5%だった。公共工事を地元企業に優先発注する方法は、▽地域内に本店・支店・営業所を有する事業者に発注▽地元企業とJVを組ませる▽地元企業を下請けとするよう要請−−の3種類。地元企業の下請けへの使用要請は、入札の前後に幅広く行われており、入札参加者に文書で要請している団体が27、落札者に文書で要請している団体も31あった。こうした要請に事業者がどう対応したかの確認を47団体が行っており、うち3団体は、方針に沿わなかった事業者に対し指名の留保や理由書の提出を求めるなど何らかの措置を取っていることも分かった。
● 政府が今国会での成立を目指している産業競争力強化のための税制改正案の最終案が29日、明らかになった。企業の過剰設備の廃棄と事業再編を後押しするために税制上の優遇措置を設ける。@分社化した際にかかる登録免許税を半減するA設備を廃棄した場合に生じる欠損金(赤字)を翌期以降の黒字から差し引く「繰越控除期間」を現行の5年から7年に延長するBストックオプション(自社株購入権)制度の所得税優遇措置を子会社にも拡大する−−が主な内容。一方、経営のモラルハザード(倫理の欠如)を防ぐため、改正案を3年間の時限立法とするとともに、優遇措置の適用に当たって通産相ら担当閣僚への具体的なリストラ計画の提出・承認を義務付ける。

行政の動向

● 国土庁は、全国総合開発計画の根拠法である国土総合開発法(国総法)と国土利用計画法(国土法)の見直し作業に着手した。6月中に設置する専門委員会は、新たな国土体系について@目的・理念・指針性A計画事項B計画体系C計画策定手順D計画の調整手続きと実効性−−などの観点から検討する。地方分権や行財政改革などの動きを踏まえ、全国計画と地方計画の位置付けも明確にする。指針性や地方の主体性をより高めるため、新計画では地域ごとの個別プロジェクトは明記しない方針だ。 専門委員会の検討結果を踏まえ、同庁が国総法、国土法など関係法令の改正や新法などを検討する。
● 建築審議会(鶴田卓彦会長)は14日、官公庁施設の性能規定化に伴う基本的性能のあり方について報告書をまとめ、関谷勝嗣建設相に答申した。官公庁施設の性能規定化は、材料や工法を指定する従来の仕様規定では困難だった施設の整備に当たり、技術選択の幅を広げ、民間の技術力を積極的に活用することで、品質を確保しながらコスト縮減を図ることなどが目的。答申では、性能規定化へ向け、官公庁施設に必要な基本的性能項目を定めた。具体的な内容は、▽社会性(地域性、景観)▽環境保全(環境負荷低減、周辺環境保全)▽安全性(防災、防犯など)▽機能性(バリアフリー、室内環境など)▽経済性(耐用性など)−−の5分類35項目。それぞれに要求される水準の設定と、設計の際に必要な技術基準の策定を求めた。適切な性能を備えた官公庁施設を整備するため、個別の建物の企画・設計段階で、基本的性能項目相互の水準のバランスや、ライフサイクルコストによる経済性などを考慮した総合評価を行うことの必要性も指摘。基本的性能基準を個別の施設に適用する上での考え方と方法を示した指針の策定も提案している。
● 衆院建設委員会は4日、官民の役割分担を明確にする形で修正した「新PFI法案」を可決した。PFI法案は、民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持・運営を行なうことで、効率的な社会資本整備を進めることを目的に、昨年、議員提案により国会に提出された。修正点は、公共施設の管理者がPFI対象事業と民間事業者の選定時に定める実施方針の内容に、▽協定などの解釈について疑義が生じた場合の措置▽事業破たん時の措置−−の2項目を追加。また、選定された事業者が第三セクターの場合は、公共施設の管理者との責任分担を事業計画・協定の条項で明記することを規定した。当初は、政府が必要と認めた場合に選定事業者への出資を認めていたが、修正法案ではこれを削除。さらに、政府と地方公共団体が選定事業者の債務を保証することを認めていた条項も削除し、公的支援の範囲を縮小した。このほか、PFI事業の対象になる「公共施設等の整備等」の中に、「国民に対するサービスの提供」を明文化。PFI事業を促進するための規制緩和を速やかに行うことも条文上で明確に打ち出した。PFI事業を実施する民間事業者の選定のあり方については、入札制度改善の検討と合わせて、必要な措置を講じることも付け加えた。
● 建設省は2000年4月から、直轄工事にISO9000シリーズ(s)を導入することを決めた。9000sの認証取得企業、発注者を対象にISO9000s適用パイロット事業の効果把握・課題調査結果をまとめており、企業の品質に対する意識の向上や透明性の確保などの効果があることを確認し、ぺーパーカンパニー排除にも有効としている。2000年度以降のISO導入について、同省は従来から、一定規模以上の直轄工事を対象に(参加要件化を含め)検討するとしていたが、2000年4月の導入を決めたことから調査結果をもとに7月末までに基本方針をまとめ、8月に業界団体に意見を紹介しながら、10月半ばにも詳細などの導入方法などをまとめる。
● 政府は29日の閣議で、中小企業者に対する99年度の契約方針を決めた。官公需契約目標総額は約5兆150億円、率を41.6%に設定した。公共工事に対する施策としては、分離・分割発注を推進するとともに、中小工事を早期発注して中小建設業者に特段の配慮を払う。また、競争契約参加資格審査手続きの電子化対応を進め、申請手続きを一層簡素化する方針だ。本年度の契約目標総額は、98年度に比べ約5747億円の減額となるものの、率が0.1ポイント増となり昨年度をわずかに上回る。発注機関別では、国を約3兆3580億円の43.9%、公団を約1兆6570億円の 37.5%にそれぞれ設定した。
● 住宅品質確保促進法(通称)が5月15日に衆議院で可決・成立し、23日に公布された。公布後1年以内には施行されることになるので、遅くとも来年6月には住宅性能表示・評価制度、瑕疵保証10年の義務づけ、住宅の紛争処理制度等がスタートすることになる。住宅品質確保促進法は建設省の原案どおり可決されたが、法律の成立にあたっては、衆・参両議院で次のような附帯決議がつけられている。@住宅関連産業界はもとより一般消費者にも、積極的な広報を通じて制度の周知徹底を図ること。A性能表示基準では、積雪寒冷地等の地域特性を考慮するとともに、地盤評価、住宅のバリアフリー化、健康、シックハウス問題等にも対応すること。B住宅性能評価を効率的、合理的に運用するために、工務店等中小住宅生産者が住宅型式性能認定を取得できるように支援すること。また、瑕疵保証円滑化基金の充実強化等により、中小業者が不利にならないようにすること。C住宅紛争処理の参考となる技術的基準は、客観的かつ具体的に記述し、策定経過も公開すること。D中古住宅においても性能表示制度や瑕疵担保責任の導入を検討すること。E契約書に、性能評価書とは反対の意志表示を請負人等がしても、それが新たな紛争の要因にならないようにすること。F住宅性能評価にあたって、建築基準法に基づく確認・検査、公庫の現場検査、住宅性能保証制度の現場審査とも連携させること。G住宅性能評価書の交付を受けていない住宅についても、相談、助言及び苦情の処理が円滑に行われるようにすること−−等。建設省ではこれを受けて、秋頃までに評価方法基準、表示項目、表示基準、紛争処理技術基準等の案を策定し発表する予定だ。
● 経済環境の厳しさが続くなか、地元企業の育成、保護政策を強め、公共工事を地元企業に限定して発注する地方自治体が増えてきている。例えば、岩手県では県内を13のブロックに分けて、そのブロック内に本店のある企業だけによる競争に限定したり、千葉県柏市でも、市内に本店のある企業でJVを編成させて入札するなど、これまで以上に地元対策を強化する施策を打ち出す自治体が出てきた。こうした動きは全国的に顕著になっており、ほとんどの自治体でなんらかのかたちで、地元企業を優先する対策を打ち出している。

労働関係の動向

● 1日発表の労働統計によると、4月の完全失業率は3月と同率の4.8%で過去最悪を維持、完全失業者数は342万人で過去最多を更新した。有効求人倍率は0.48倍で4ヶ月ぶりに前月より低下した。とくに男性失業率は3月より0.2ポイント悪化した5.0%(女性は4.5%)となり、初めて5%の大台に乗った。リストラなど企業の都合による非自発的離職者は115万人で過去最多となり、11年4ヶ月ぶりに自発的離職者を上回った。世帯主の完全失業者数は 93万人で、これも過去最多です。世帯主失業が増えた結果、職さがしをする家庭の主婦などが3月より2万人増の84万人となった。雇用者数は5,312万人で1年前より29万人減り、自営業者なども含めた就業者数は6,469万人で同63万人減と、働く人は確実に減っている。

業界の動向

● 住友林業、伊藤忠建材、全国32社の大手建材店は共同で、住宅完成保証事業を主力とする新会社「住宅あんしん保証」を設立する。工事途中で工務店が倒産した際、建築主に住宅の完成を保証するもの。完成保証積立金は1億円で、保証積み立て準備金は6,000万円。32社の建材店が地区本部となり、住宅資材の販売先である大工や工務店に対して保証制度への加入を呼びかける。保証を受ける工務店らは、経営状態などに事前審査を受けた上で、1棟あたり2万 7,100円の保証料を支払う。保証内容は、1棟当たり請負金額の30%もしくは900万円(どちらか低い金額が選択される)。建築主は金銭保証と役務保証のいずれかを選べる。保険業務は三井海上火災と安田火災海上の2社が担当。完成保証事業のみで業務を開始するが、今後、性能保証や所得保証、住宅および建材の性能評価・表示などの業務も手がける考えだ。

その他の動向