情勢の特徴 - 1999年7月
● 建設省が発表した5月の新設住宅着工戸数は10万1,574戸で、前年同月比0.9%の微減となった。全体では3ヶ月ぶりのマイナスだが、住宅金融公庫の融資金利の上昇抑制など景気対策の効果で、注文住宅の一戸建て(持ち家)の着工戸数は同17.9%の大幅増となった。一方、マンションなど分譲住宅や貸家では住宅メーカーなどが新規着工に慎重で、不振が続いている。種類別に見ると、持ち家は4万6,252戸で4ヶ月連続増加。これに対して、分譲住宅の着工戸数は前年同月比16.3%減の2万1,932戸だった。一方、貸家の着工戸数は10.3%減で、30ヶ月連続のマイナスとなった。
● 日銀は6月の企業短期経済観測調査(短観)の結果を発表した。企業の景況感を示す業況判断指数(DI) は大企業製造業がマイナス37となり、前回3月調査から10ポイント改善。大企業非製造業や中堅、中小企業でも軒並み上昇し、前回に続き全業種で景況感の改善を示した。公共投資の増加や日銀のゼロ金利政策など一連の景気対策の効果が浸透する一方、1−3月期国内総生産(GDP)の高い伸びや株高が企業心理を押し上げている。しかし設備投資計画が前年を下回るなど先行きに関する不透明感は依然として消えない。
● 経済審議会(首相の諮問機関、豊田章一郎会長)は、2010年ごろを目標とした新しい経済計画「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」を小渕恵三首相に答申した。今回の経済計画は90年代の不況が単なる景気循環の谷ではなく、「結果の平等」を過度に重んじる戦後の制度や慣習の行き詰まりだと位置付けた。日本経済が近代工業化の時代から「知恵の時代」への「歴史的大転換」に直面していると指摘。この認識をもとに、「激しい競争を通じて磨かれた個性と創造力によって新しい技術、産業、文化がきらびやかに登場することが必要」と自由な競争社会への転換を強調した。21 世紀初頭の日本の「あるべき姿」の条件としては@知恵の社会化A少子高齢化Bグローバル化C環境制約――などの「未来変化への対応性」が必要だと指摘。特に人工減少への対応については専門的・技術的分野の外国人の積極的な受け入れのほか、定年制の見直しによる高齢者雇用の促進を打ちだした。
● 小渕内閣は雇用対策を柱とした1999年度第一次補正予算案(総事業規模5,429億円)を決め、国会に提出した。補正予算案には、政府が6月に決めた「70万人雇用創出」策を盛り込んでいる。一般会計に計上した緊急雇用対策費は5,198億円。具体的には、国・地方自治体で「30万人雇用創出」をするという緊急雇用・就業機会創出特別対策事業に2,047億円をあてている。うち地方自治体が民間の企業や非営利団体 (NPO)に委託し就業期間(たとえば遺跡発掘や小中学校でのコンピューター教育など。1人6ヶ月未満)をつくる緊急地域雇用特別交付金に2千億円を計上している。情報通信や医療福祉など成長が見込まれるとする15業種で、事業主が中高年の非自発的失業者を前倒し雇用した場合に国が奨励金を出す新規・成長分野雇用創出推進事業(15万人雇用創出)に900億円、駅前保育所設置など少子化対策臨時特例交付金に2,003億円をあてている。労働保険特別会計では、離職者受け入れ企業や送り出し企業がおこなう教育訓練への賃金・訓練費助成で、人材移動特別助成金(7万人雇用創出)をだす。
● 建設省は、建設業許可業者数調査の結果を公表した。それによると99年3月末現在の建設業者数は、大臣、知事の両許可を合せて前年比3.1%増の58万6,045者となった。89年から9年連続の増加で、増加率が3%台になったのは79年以来19年ぶりとなる。許可業者数が増えた要因として、同省は「94年の建設業法改正に伴い、許可の有効期限が3年から5年になり、期限切れによる許可失効業者が少なくなった為」と分析している。建設業許可業者数の内訳は、大臣許可が0.8%増しの1万815者、知事許可が3.1%増しの57万5,230者。許可業者数が最も多いのは、東京都の5万5,200者で、次いで、大阪府=4万9,796者 神奈川県=3万1,735者 埼玉県=2万8,314者 愛知県=2万8,313者 の順。逆に最も少ないのは鳥取県の2,844者。一般・特定別の建設許可業者数は、一般が56万3,108者(前年比3.1%増)、特定が4万8,971者(3.1%増)。大臣許可は一般が7,223者(1.0%増)、特例が6,575者(1.2%増)。一方、知事許可は一般が55万5,885者(3.1%増)、特例が4万2,396者(3.5%増)となった。
● 東京商工リサーチが発表した1999年度上半期の建設業倒産(負債総額1,000万円以上)は2,010件、負債総額は5,621億5,500万円となった。1−6月の倒産件数は、前期より611件(23.3%)、前年同期比1,037件(34.0%)、の大幅な減少となった。負債総額で見ても、前期比54.1%減、前年同期比43.6%減となっている。業種別に見ると、総合工事業が1,090件、負債総額約3,889 億円と半数以上を占めた。職別工事業は563件(負債総額約1,169億円)、設備工事業が357件(負債総額約564億円)。原因別では販売不振 1,024件をトップ゚に、赤字累積308件、放漫経営289件、連鎖倒産142件と続いている。
● 政府は、産業活力再生設置法案を国会に提出した。再生法案が重点を置いたのが、合併など企業の機動的な事業再編を加速させる措置だ。例えば、これまでは早くて3ヶ月、1年かかるのも通常だった分社化の手続きが大幅に早くなり、最短なら1ヶ月以内で完了できるようになる。税制面では登録免許税の軽減などを実施する。日本では従来、なじみの薄かった従業員や経営者による企業買収(マネジメント・バイアウト=MBO)にも道を開いており、合併などの事業再編については、企業の選択肢を広げる手段を幅広くそろえた。一方、法案づくりの過程で課題となったのが、優遇措置の適用を希望する企業が提出する「事業再構築計画」の認定基準だ。政府は総資産利益率(ROA)の改善など、具体的な数値目標を定めた運用基準を省令の形で策定する。
● 99年度第一次補正予算が成立した。予算成立を受け労働省は8月初めに特別交付金の実施要綱を各自治体に配り仮申請を受け付ける。秋の地方議会で関連条例が成立した後に正式に交付、この交付金を使って都道府県や市町村が教育や福祉、環境等の分野で雇用を創出する。交付金は各都道府県人口と有効求職数を勘案して総額の95%の配分を決め、残る5%は特別な事情で上積みが必要な都道府県に振り分ける。
● 小渕内閣は、2000年度予算案の概算要求基準を閣議了解した。「引き続き景気に十分に配慮した財政運営を行なう」(大蔵省)という基本方針の下、一般歳出(政策的経費)は、今年度当初予算の46兆8,878億円を上回る47兆円半ばに達することになり、過去最大を更新する。特に公共事業関係費は、前年度当初比5%増となった99年度当初予算の額と「同額」の9兆4,307億円にする方針。その公共事業関係費の中に、「経済新生特別枠」(2,500億円)と「生活関連重点化枠」(3,000億円)の二つの特別枠を創設するとしている。また、同基準では、今年度の概算要求基準と同じ「15ヶ月予算」(99年1月〜2000年3月)の考え方を採用するとし、秋にも編成する予定の99年度第2次補正予算と一体で公共事業関係費をさらに膨らませる方針である。
● 建設省が発表した6月の新設住宅着工戸数は11万4,505戸となり、前年同月比7.3%増加した。住宅金融公庫の融資金利引下げ前の駆け込みもあり、2ヶ月ぶりのプラスとなった。6月の着工戸数は年率換算値(季節調整済み)では同6.5%増の130万5,000戸。着工戸数を種類別に見ると、持ち家が同29.2%増の5万1,931戸。公庫融資を利用した住宅が金利引上げ前の駆け込みで80.5%増と大幅に増えた一方、民間資金を利用した着工は15.6%減となった。マンションの着工戸数は1万2,985戸、同6.0%減と13ヶ月ぶりにマイナス幅が一ケタとなった。貸家は31ヶ月連続で減少した。
● 建設省は、建設産業の今後に向けた戦略的な取り組みを示した「建設産業プログラム」をまとめた。経営の「選択と集中」による多様な連携を通じた「利益率向上」が建設産業再生のカギとし、全国規模の大手ゼネコン60社程度に焦点をあてた企業戦略の方向を打ち出している。必要な企業戦略としては@不採算分野からの撤退と優位部門への重点化A成長期待分野、戦略投資分野の強化Bコストダウンによる競争力の強化C品質や商品開発、提案力による競争の強化―の4つの方向を示している。企業戦略を進めるための「経営組織の革新」と「連携強化策」として、自社の分社化、MBO(マネージメントバイアウト=経営陣が金融機関などの助けによって自社の全部または一部を買い取り、独立して経営をおこなう手法)などの活用による企業分割、他社との業務提携、ノウハウのある企業とのフランチャイズ゙、営業譲渡、他社への資本参加、合併――の7項目を盛り込んでいる。
● 中央省庁を2001年1月から1府12省庁体制に移行することを柱とする中央省庁再編関連法と地方自治体の権限を強める地方分権一括法が8日午後の参院本会議で可決、成立した。省庁再編法は新設する省庁の役割などを定めた各省庁設置法や行政スリム化を推進する為の独立行政法人通則法など計17本で構成。中央省庁が現行の1府21省庁から1府12省庁になるのに伴い、閣僚数の上限はこれまでの20から17になる。内閣と首相官邸の機能強化では首相が重要な政策を閣議で提案できる発議権を明記。内閣府に新設する経済諮問会議は、首相や民間有識者をメンバーとし、予算編成の指導権を大蔵省から官邸に移す狙いがある。国立病院など計90の機関や業務を2001年4月各省庁から「独立行政法人」に衣替えする。国家公務員数の削減は省庁再編基本法で「10年間で10%」としているが、自民、自由両党の政策合意で十年間で25%削減する。
● 財団法人住宅保障機構(和田友一理事長)は、建築基準法に基づく指定確認検査機関の工事審査業務を開始する。埼玉県浦和市、東京都千代田区、中央区、港区の延べ床面積500平方メートル以内の住宅を対象に、建築物の建築完了検査と中間検査業務を実施する。同機構の建築確認検査は―確認検査業務―住宅金融公庫審査と確認検査を合せておこなう業務―の2種類。確認検査料は、確認検査に限定した業務を申請する場合、構造計画書の提出を義務付けていない確認申請と中間検査が1万8,000円、完了検査が2万4,000円。公庫審査と一括して確認検査業務を行う場合は、確認申請と中間検査が各1万6,000円、完了検査が2万円となっている。
● PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律案)が23日の参院本会議で可決・成立した。法案には、国の債務負担の特例、国有財産の無償使用、無利子貸し付け、土地所得の便宜、規制緩和・撤廃など、事業参加企業の高収益確保につながる優遇策がふんだんにもりこまれている。
● 北海道の堀達也知事は、川崎二郎北海道開発庁長官と関谷勝嗣建設相に、石狩川支流の千歳川の総合治水対策の中に、国が計画している同川の放水路を含めないとする意見書を提出した。北海道開発庁はこの方針を尊重する意向で、地元住民らが環境への影響の大きさを理由に反対し 17年以上棚上げ状態だった放水路計画は事実上中止されることになった。1982年に策定された同計画は、洪水対策の為、石狩川を通って日本海側に流れる千歳川の水を、全長約40キロの放水路を作り、増水時に太平洋側に流そうというもの。道の意見書では、川の拡幅や堤防強化、合流点対策などにより治水対策は可能として、放水路計画を対象から外している。
● 労働省が発表した毎月勤労統計調査速報(5月)によると、従業員5人以上の事業所で働く労働者の数(通常雇用)は前年同月比で0.3%減少。通常雇用(期間を定めない雇用)はこれで9ヶ月連続の減少。常用雇用のうち正規社員を示す一般労働者は1.0%減16ヶ月連続減少。一方、パートタイム労働者は3.3%増。正規社員が不安定雇用のパートに置きかえられている姿をしめした。賃金のうち、所定内給与は前年同月比 0.5%減の26万1,759円で4ヶ月連続減。残業代など所定外給与は0.5%増加したが、両方あわせた「決まって支給する給与」は0.4%減で14ヶ月連続減。
● 建設省は、公共工事の労務単価を設定するため毎年行っている労務費調査手法を改善する。信頼できる企業を選定して調査するモニター方式を試行的に導入するほか、職種で異なる労働市場圏ごとの調査を実施する。調査表や賃金台帳への意図的な虚偽記載を防ぐ為、記載された金額の確認資料として、これまでの銀行振込領収書などに加え、さらに別の客観的な資料についても提出を求めていく方針だ。本年度の調査(10月実施予定)から実施する具体的な改善策としては、労務費調査趣旨の徹底、設計労務単価の内訳周知と調査記入方法の明確化、審査方法の改善、労働市場圏単位の調査実施、モニター方式による調査方法の導入など。また、運輸関連の工事など一部の職種を、これまでの都道府県から港湾局単位で区切るなど市場圏ごとに単価の設定を行う。労働者の職種別の分類を明示するとともに、現物支給やボーナスの割戻しが労務費に含まれることなどを周知徹底するため、調査の手続書も改定する。
● トンネル工事で働いてじん肺になったとして、東北地方の元作業員等33人が工事会社に、一人あたり3,300万円の損害賠償を求めた東北トンネルじん肺訴訟で、原告21人と被告の日本鉄道建設公団(鉄建公団)との和解協議が12日午前、仙台地方裁(梅津和宏裁判長)であり、青森県の8人の原告について和解が成立した。トンネルじん肺訴訟で、和解が成立したのは全国で初めてで、他のゼネコン相手の訴訟にも影響しそう。鉄建公団は、この訴訟中に亡くなった原告の一人に弔意を示すとともに、謝罪と再発防止を盛り込んだコメントを発表た。
● 政府は、年金制度「改革」関連法案を、閣議決定した。法案は今国会に提出される予定。同法案では、来年度以降に厚生年金(報酬比例部分)を受け始める人への給付を、いまより5%引き下げることを盛り込んだ。支給開始年齢も、厚生年金の報酬比例部分(払った保険料に応じて支給)について、2013〜2025年度にかけて段階的に65歳まで遅らせることにしている。ほかにも、現役サラリーマンの手取り賃金の伸びに合わせて、5年に一度年金金額を引き上げる「賃金スライド制」を止める、働いている60歳〜64歳の年金額を賃金に応じて減らす「在宅老齢年金制度」の対象を、69 歳まで拡大するなど。
● 厚生省は、来年4月に実施される介護保険で65歳以上のすべての高齢者が負担する保険料が、全国平均で月額一人あたり 2,885円になることを明らかにした。全国調査の中間集計。中間集計は、保険料の最高額は月6,204円、最低は1,409円で、格差は4.40倍となっている。最も多いのは2,500円から3,000円未満で、1,135市町村(38%)。3,000円から4,000円未満も800市町村を超えている。人口規模では50万人以上の大都市部の平均が3,518円で、5千人未満の町村部では2,819円となっている。保険料は夫婦なら二人分を負担することになる。全国平均の2,885円の場合だと月5,770円。年額にすると一人3万4,620円で、夫婦では6万9,340円の新たな負担となる。
● 労働省は、建設業界に雇用調整助成金制度を適用する方針を固めた。指定業種は「一般土木建設工事業」「建設工事業」「土木工事業」の3業種が含まれる見通しだ。適用を申請していたのは、全国建設業協会、日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建設業協会の4団体。同制度は、景気変動や産業構造の変化から雇用調整に踏み切る事業者を支援するため、1975年に創設した。労働者の失業を防ぐのがねらいで、同省が指定した業種について、事業主が支払う賃金の一部を国が支給する仕組みだ。セメントやサッシなど建材業界は、すでに指定を受けている業種も多い。給付金は、事業主が労使協会を経て休業、教育訓練、出向を行う場合に支給される。暫定措置では、出向の場合、事業主負担額の3分の2(中小企業は4分の3)、休業は同省が定める算定額の3分の2(同4分の3)、教育訓練では訓練費として一人1日あたり3,000円(同6,000円)が支給される。受給期間は、出向の場合2年間、休業と教育訓練は合わせて200日間となっている。
● 総務庁が発表した6月の完全失業率(季節調整値)は4.9%となり、3・4月の4.8%を上回り、調査をはじめた53 年以降の最悪を記録した。特に企業の倒産やリストラなどによる「非自発的」な離職者が118万人(原数値)と過去最多を更新し、失業は一段と深刻になっている。6月の完全失業率は前月比0.3ポイント上昇。男女別に見ると、男性は5.1%と4月の5.0%を上回り、過去最悪を更新した。年齢別では 25−34歳の男性層が5.4%とこれまでで最も高く、中高年に比べて雇用が安定していた20代後半から30代前半の男性でも失業が増えている。女性は 4.4%だった。完全失業者数は329万人と前年同月と比べて45万人増えた。離職理由別では「非自発的」離職者が、より有利な就職先を求める「自発的」を15万人上回り、失業の実態は厳しさを増している。雇用者のうち正社員などの「常用雇用」は4,674万人と前月同月比で101万人も減り、過去最大の落ち込みを示した。対照的にアルバイトなど「臨時雇用」は27万人増と増加が続いており、農業を除く雇用者に占める「臨時雇用」の割合は9.4%と1年前より0.6ポイント上昇した。