情勢の特徴 - 1999年8月
●産業競争力強化のための産業活力再生特別措置法案とそれに伴う租税特別措置法案、企業の合併・買収(M&A)を促進する「株式交換制度」の創設を柱とする商法改正案が成立した。いずれも企業の事業再構築を後押しするのが目的で、租税特別措置法改正案は設備廃棄に伴う欠損金(赤字)を翌年度以降の利益から差し引く「繰越控除期間」を現行の5年から7年に延長することなどの優遇措置を盛り込んだ。一連の法案成立によって、日本企業のリストラや事業再編が加速する見通しだ。一連の法案はいずれも経済界が早期成立を強く要望したもので、産業再生法案は「企業の事業再構築支援」「中小・ベンチャー創業支援の拡充」「国の持つ特許の民間移転促進」の三本柱で構成。企業は優遇措置の適用を受けるために、まず自らの得意分野である「中核的事業」を選択し、設備や人材など経営資源を集中する方針を明確化する。その上で生産性の低い分野の譲渡や廃棄を盛り込んだ事業再構築計画を通産省など主務閣僚に提出し、承認を得る。租税特別措置法改正案は@分社化や企業合併、債務の株式化の際にかかる登録免許税を軽減するAストックオプション(自社株購入権)を使って自社株を取得しても実際に売却するまでは課税を繰り延べる所得税の優遇措置を子会社にまで広げるとともに、ストックオプションの付与限度を発行済み株式総数の25%(現行10%)に引き上げる――などを盛り込んだ。産業再生法案と租税特別措置法案は短期間で企業の事業再構築を推し進める狙いから2003年3月末までの時限立法とする。商法改正案はこれまで少数株主の反対や煩雑な手続きから遅れていた企業再編を促進するのが目的で、企業買収に伴う株式の譲渡・移転を容易にするための株式交換制度の創設が目玉。株式交換制度では親会社となる企業が、完全子会社化する企業の株主が保有する株式を受け取る変わりに、自社が発行する新株を割り当てる。
●総務庁が発表した6月の家計調査によると、全世帯の消費支出は一世帯あたり30万6189円となり、前年同月に比べ名目で0.5%、消費物価の変動分をのぞいた実質で0.1%それぞれ減少した。実質減となったのは2カ月ぶりだ。消費支出を項目別に前年同月比の実質増減率でみると、自動車の支出の落込みがもっとも大きく、これを含めた「交通・通信」が8.4%減。また、寝具類などの減少によって「家具・家事用品」が4.3%減少した。その反面、住宅の設備修繕が増加したため「住居」が12.4%増、パソコンの増加によって「教養娯楽」が8.5%増となった。
●建設省が発表した6月の公共事業着工額(契約工事の総額)は前年同月比7.8%減の1兆1461億円と、半年ぶりのマイナスと転じた。公共事業全体の3分の2を占める地方発注の公共事業が、地方自治体の財政悪化から大幅に減少したのが主因。5ヶ月連続で増えた国の発注分も伸び率は前年より4.1ポイント縮小した。地方発注分は今後も伸び悩むとみられ、政府の追加策がないと景気下支え効果が途切れる公算が大きくなってきた。公共工事は、98年度補正予算と99年度予算を切れ目なく発注する「15ヶ月予算」などの効果で今年1月からプラスに転換、2月から4月までは前年比2−3割の大幅増がつづいた。だが5月は2.6%増にとどまり、6月は前年割れに転じた。6月の発注者別の着工額は、地方の機関(自治体や公営企業)が、市町村の発注の落込みで前年同月比12.0%減った。
●民間信用調査会社の帝国データバンクが発表したところによると、7月の全国企業倒産(負債総額1千万円以上)の件数は1332件で、前月にくらべ、3.5%増加し、今年5月に次ぐ2番目の高水準となった。前年7月に較べると22.1%減少しているが、これは、"貸し渋り"への政府の政策でもある「中小企業金融安定化特別保証制度」の効果と見られている。7月の負債総額は1兆3549億2100万円。1兆円を超える金額は今年4回目で、7月としては97年を抜いて戦後最悪を更新した。業種でみると、建設業(406件)が8ヶ月ぶりに400件を超えて増加傾向(前月比10.0%増)。製造業(229件)でも前月比9.6%増加した。
●日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の大手銀行3行は来年秋にも共同金融持ち株会社を設立、2002年春をめどに事業を統合することで合意した。3行はまず各行の証券子会社などを合併させ、銀行本体のリストラを実施。その後、会社分割制度などの整備を待って、各行の業務を個人分野の銀行業務、法人分野の銀行業務、高度な金融技術を活用する投資銀行業務などに分け再編成する。具体的にはまず来年秋に共同持ち株会社を設立。それまでに3行のホールセール(大口取引)の証券子会社である興銀証券、第一勧業証券、富士証券を合併させる。持ち株会社設立から5年の間に3行の人員を合計で6千人削減、2万9千人体制とし、店舗も約150ヵ所削減する。2002年春までの間に3行は事業を抜本的に再編する。個人業務を手がける「カスタマー・アンド・コンシューマー銀行」、法人取引を扱う「コーポレート銀行」、高度な銀行取引を駆使する「インベストメントバンク(投資銀行)」を設立、持ち株会社が統括する。投資銀行部門は法的には証券取引法に基づく証券会社となる可能性もある。
●中小企業政策審議会(首相の諮問機関)は弱者保護的な性格が強かった現行の中小企業基本法を全面「改正」して、創業やベンチャー企業の育成に重点を移すべきだとする中間答申をまとめた。業種別の組合などを通じて設備の導入・近代化を後押しする横並び的な支援策を見直し、技術開発や人材育成などソフト面を中心に個別企業の自助努力促すよう提言。リスクを負って資金を供給する個人投資家向けの優遇税制(エンジェル税制)や未公開株市場の整備などを打ち出した。答申を受けて、政府は今秋に開く予定の臨時国会で基本法改正案と関連法案を提出する方針だ。答申は21世紀の中小企業を「日本経済のダイナミズムの源泉」ととらえ、「多用で活力のある中小企業の育成」という政策目標を設定。その柱として自助努力の支援、競争条件の整備、セーフティーネット(安全網)の整備を挙げた。自助努力の支援では特定の業種への支援を改め、意欲的な個人企業を対象に、技術や販路開拓などのソフト面も支援すべきだと指摘。物的担保の乏しい創業者でも資金を調達しやすくする仕組みをつくることなどを求めた。
●建設省は、2000年度予算の概算要求をまとめた。一般公共事業費の要求総額は国費ベースで6兆6505億円と前年度比4.7%増となった。都市基盤を総合的・集中的に整備する「都市再生推進事業」を創設するなど、経済の再生を目指した都市の再構築や、頻発する水害・土砂災害への抜本対策を強化する。大都市圏の環状道路の大幅な整備促進など幹線道路ネットワークの構築にも力を入れるほか、高度道路交通システム(ITS)の取り組みとして高速道路への「ノンストップ自動料金収受システム」(ETC)の導入を本格化させる。概算要求額の内訳は、国費に自治体負担分などを加えた事業費ベースの一般公共事業費の要求額は前年度比2.4%増の26兆6812億円。事業分野別では、都市の再構築や土砂災害対策などに力を入れる結果、市街地整備や急斜面地崩壊対策等の要求額の伸び率が特に高くなっている。政策課題別では、「都市の再構築と地域の活性化」に8763億円(前年比10%増)。都市再生推進事業のほか、中心市街地の活性化など一定の目的のために行われる各種の補助事業に統合補助金を出し、地域の創意工夫を生かす「町づくり総合支援事業」を創設する。「連携・交流を支えるネットワークの整備」には2兆1534億円(同8%増)。高規格幹線道路の22ヵ所、延長289キロを新たに開通させるほか、三大都市圏の環状道路について、有料道路制度の活用や用地取得方法の改善によって大幅な整備促進を目指す。「安全で安心できる国土づくり・地域づくり」には9540億円(同10%増)。このほか「少子・高齢社会に備えた生活空間づくり」に8013億円(同9%増)、「環境負荷の少ない経済社会の実現」には2820億円(同10%増)をそれぞれ要求。
●政府は、閣議で今年から21世紀初頭までの10年間の「第九次雇用対策基本計画」を決定した。今年度第一次補正予算と「産業再生」法に盛り込んだ大企業のリストラ・人減らし促進の方向を追認、「労働市場の構造変化への対応」や「労働移動の円滑化」を求め、財界・大企業が進める「産業再生」に応じた労働市場の構築を追及する内容になっている。具体的には、今後予想される産業構造の転換と労働力人口の減少に対処するため、@ 新規産業の育成による雇用創出A職業能力の開発による転職の支援B65歳定年の実現と高齢者の労働力需要の拡大C高等学校での専門教育の充実D女性労働者の能力発揮と、育児や介護をする労働者の働きやすい環境整備―などにとりくむ。
●建設省は、2001年1月の国土交通省発足を視野に入れ、緊急に取り組むべき施策を示した「当面の緊急課題への対応」をまとめた。2000年度重点施策に当たるもので「経済を支える都市の再構築と地域の活性化」「産業再生、新産業・新市場創出および市場構造改革」「総合的緊急災害対策」の三課題を揚げ、それぞれ主要施策を示している。経済情勢を考慮しつつ、三大都市圏の環状道路整備や低・未利用地の有効活用など、将来的な社会資本整備に必要な都市機能の形成や流通の円滑化を図るためのソフト、ハード面の施策を充実させている。「都市の再構築と地域の活性化」では、@社会経済情勢を踏まえた新たな都市機能の形成、再構築A交通の円滑化・効率化、定時制の確保、コスト削減B地域の経済拠点の形成―が柱になっている。10月に設立する都市基盤整備公団の土地有効利用事業について、国の支援措置を拡充するとともに、工場の跡地の円滑な土地利用転換を実現するために、用途変更先導型再開発地区計画制度を積極的に活用する。既成市街地の再生をめざした老朽住宅・建設物の共同・協調立替に関する総合的低利融資制度も創設する。交通の円滑化では、全国に約1000ヶ所ある、朝夕のピーク時に長時間渋滞を生じさせるボルトネック踏み切りの解消への鉄道の高架化、道路立体化を図る。都市部の鉄道駅など交通結節点の周辺を含めた面的なバリアフリー化を推進するためのプログラムも策定する。さらに、三大都市圏の環状道路の設備促進をめざし、都市基盤整備公団との連携による用地取得のための新たな代替地提供システムを構築する。首都圏の環状道路については、おおむね10年間で、圏央道内側の渋滞ポイントの約6割の解消により年間二兆円の経済効果があるという。高規格幹線道路のインターチェンジ(IC)整備が、企業立地の促進などにつながることから、新たに地域が希望する追加ICを整備する制度を創設する。建設費・管理費を縮減するETC(自動料金収受システム)専用ICも導入する。
●国土庁は戦後の国土整備の指針になった全国総合開発計画(全総)の根拠法である国土総合開発法(国総法)の抜本改正に乗り出す。北海道の苫小牧東部、青森県のむつ小川原など大規模開発事業の行き詰まりを踏まえて、従来の開発重視路線を転換し環境保全や既存の社会基盤施設の有効活用に重点を移した新たな国土計画の策定を打ち出す。法改正により戦後五次にわったって策定された全総は事実上歴史的使命を終える。国はこれまで国総法に基づいて全総を策定し、道路や空港、橋など大規模事業の整備目標や投資額を示してきたが、新たな全国計画は数値目標を示さず、自治体などに計画策定の主導権をゆだねる方針。計画の内容も開発事業を列挙するのをやめ、森林や河川、中山間地の保全策、自然環境を生かした地域整備、防災に配慮した都市整備などに力点を移す。新たな全国計画は地域ごとの計画のガイドラインとし、国が主導する国土開発計画という従来の位置付から転換する。計画の名称から開発という言葉を削る公算が大きい。公共事業の見直し機運や財政難に配慮し、既存インフラの有効活用策も盛り込む。
●都営住宅の家賃減免制度の見直しを検討している東京都住宅局が、都営住宅の新規供給政策から撤退し、立替だけに限定する方針を決めた。住宅建設部は、来年度予算要求にあたって、都営住宅の新築戸数を99年度の400戸からゼロに、立替を同3400戸から3000戸に圧縮する案をまとめ、局内の調整を開始した。老朽化した都営住宅のスーパーリフォームは今年度と同じ1500戸、一般住宅改善は500戸減の600戸に圧縮している。都営住宅建設事業は、「財政再建推進プラン」が、「一般財源の充当額の大きい事業について重点的に見直しを図る」として例示した138事業の一つである。
●運輸省は来年度、民間事業者に公共施設の整備・運営をゆだねるプライベート・ファイナンス・イニシアチブ(PFI)の実施を促すため、民間への支援策を講じる。施設を建設する公有地を無償で提供するほか、建設費の一部を無利子で貸し出す。固定資産税の軽減など税制優遇策の創設も実現を目指す。PFIに参加する企業の資金負担を軽くし、対象となる事業を増やすのが狙いで、第一弾として港湾と観光施設の整備で同制度を取り替える。資金支援では、施設を建てる国公有地を民間に無償、又は低廉で提供。企業負担を施設の建設費と運営費に限定する。施設の建設・運営には、総事業費の30%を上限に同省所管の特別会計から無利子融資をはじめる。財政投融資からの低利貸し付けも用意する。資金支援のほか、運輸省は建設省とともにPFI参加企業への税制優遇策を設ける意向。施設の前倒し償却を認めて法人税の負担を軽くしたり、固定資産税や都市計画税の軽減を大蔵省などに求める。
●労働省は、雇用調整助成金(雇調金)の指定業種に「土木・建築建設業」「舗装工事業」「冷暖房設備工事業」の三業種を指定した。土木・建築建設業は総合建設業者(ゼネコン)を対象にしたもので、業種の事業主だけでなく一定の基準をクリアした二次下請け業者まで適用が認められるため、多くの建設業者に活用の道が開けるようになる。雇調金制度は、休業や教育訓練、出向に関する賃金の一部を国が負担するもので、助成率についは、政府の緊急雇用対策をうけ、98年6月から99年9月をめどに暫定的に引き上げている。指定業種となるには、最近3ヶ月間の生産量と雇用量を示す指標の月平均が、前年または前前年同月比で5%以上減少しているなどの基準をクリアしていなければならない。
●建設経済研究所は、主要建設会社51社の1998年度経営状況を分析した結果をまとめた。98年度は、各建設会社の経営改善に向けた動きが本格化した。不良債権化する可能性が高い完成工事未収入金の1年以上滞留分は、95年度のピーク時には1兆244億円あったが、98年度は5512億円とほぼ半減している。特に大手と準大手の減少幅が大きい。不良債権の処理が本格化したため、特別損失への計上額は大きく増加した。51社全体の特損計上は、96年度に1843億円、97年度7370億円だったが、98年度は1兆8711億円に達した。不良資産・不良債権を処理するため、多額の株主資本を取り崩す企業も増加している。51社全体の株主資本は、94年度に4兆2900億円だったが、98年は2兆6800億円へと減少した。資本金階層別で見ても、大手、準大手、中堅のすべてで減少している。バブル期に急増した有利子負債は現在、微減傾向にある。98年度は、51社合計で8兆491億円、前年度比0.9%減少した。ただ、株式資本の取り崩しによって、有利子負債の比率は急増している。98年度の有利子負債の株主資本比は、97年度の2.38倍から3.17倍へと急増した。51社全体の計上利益の水準を見ると、98年度は、2761億円、ピーク時の31.2%の水準にまで落ち込んだ。一方、販菅費の圧縮などの効果から利益率はやや改善している。売上高経常利益率は、97年度1.5%だったが、98年度は1.7%とやや上昇した。51社全体の完成工事高総利益率も前年度の8.2%から8.5%へと改善している。