情勢の特徴 - 1999年9月

経済の動向 行政の動向 労働関係の動向 業界の動向 その他の動向

経済の動向

●建設省が発表した7月の新設住宅着工戸数は前年同月比1.9%増の10万2553戸となった。2カ月連続の増加で、住宅金融公庫の金利抑制など景気対策の効果とみられる。販売が好調なマンションは17カ月ぶりに前年の水準を上回った。7月の着工戸数は年率換算値(季節調整済み)では115万3千戸。着工戸数を種類別に見ると、持ち家が4万2084戸で6カ月連続増加。公庫融資を利用した住宅が同20.1%増えたのとは対照的に、民間資金を利用した着工は10.7%の大幅減となり、公庫融資への依存が鮮明になっている。アパートなど貸家は2.9%減の3万6728戸で32カ月連続のマイナス。マンションの着工戸数は、98年2月以来17カ月ぶりに上昇に転じ、12.5%増の1万3086戸となった。
●通産省は、リストラ・人減らし支援の「産業再生」法にもとづき企業が税制などの優遇措置を受ける際の認定基準を公表した。同法では、担当大臣が「事業再構築」計画(リストラ計画)を認定した企業にたいし、金融・税制上などの支援措置が受けられる仕組み。「計画」の認定に際し同法では、生産性を相当程度向上させる目標を持つことが求められている。認定基準ではこの具体的数値目標として、自己資本当期純利益率が2ポイント以上上昇することなど3つのいずれかに該当することを求めている。これを含む認定基準をクリアした企業は、分社化にともなう裁判所の検査役選任を不要にするなどの商法の特例措置が適用されることになる。また認定基準では、過剰設備の廃棄にともない、欠損金の繰り延べ期間の延長による税制上の優遇措置を受ける企業にたいし、すべての施設の帳簿価格の5%(複数の施設を撤去するときは10%)以上の設備の廃棄を求めている。
●経済企画庁が発表した1999年4−6月期の国民所得統計速報によると、国内総生産(GDP)は物価変動分を除いた実質で前期(1−3月)に比べ0.2%増、年率換算で0.9%増となった。これは、2期連続のプラス成長。前年同期比では0.8%増。浪費型公共事業など、巨額の借金で政府が強行してきた「公的需要」で、なんとか国内の生産を下支えしている形。一方、実質GDPの内訳を需要項目別で見ると、前年同期比では、民間需要0.2%減、公的需要8.1%増。民間需要の中では、個人消費(民間最終消費支出)の1.8%増を民間設備投資(民間企業設備)の8.9%減で打ち消す形になっている。また、公的需要のなかでは、公共事業を示す公的固定資本形成が21.0%増と突出している。
●東京商工リサーチは、8月の建設業の倒産状況をまとめた。件数は430件、負債総額は1857億3700万円で、1999年になってともに最高の数値を記録した。件数は前月比0.7%増、金額も28.8%の増加。前年同月と比べると、件数は0.2%減だが、負債総額は30.9%の大幅な増加となった。分譲マンションは順調に推移しているが、地方自治体の財政難により公共工事にかげりがみられ、民間の設備投資の不振などを背景に、受注競争は激しさを増す一方で、収益性の低下から脱しきれない状態が続いている。中小企業金融安定化特別保証制度によって、いったんは倒産を回避した企業もこの特別枠の資金を使い果たして、ついに倒産にいたったケースが増えはじめた。負債総額は3カ月連続で1千億円を超え、100億円超が村角建設(大阪府)、岡野電気工事(東京都)、土屋建設(静岡県)の3社あった。職種別では総合建設業が231件、設備工事業が87件。
●大蔵省が発表した1999年6月末現在の国の債務残高(借金)は460兆6676億円と3月末比5.3%増加、過去最高を更新した。うち国債は、「景気対策」のため建設国債や赤字国債の増発が続いており、同2.4%増の302兆3021億円と、初めて300兆円の大台を突破。長期国債が243兆2667億円と80.5%を占めた。一方、借入金は同0.2%減の96兆8057億円。一時的な資金繰りのため国が発行する政府短期証券(FB)は同56.6%増の46兆6460億円。同省は99年度末の国債残高は327兆円に達すると見込んでいますが、今年度2次補正予算編成で国債の追加発行を予定しているため、同残高もさらに上乗せされ、国の財務状況が一段と深刻化するのは確実だ。

行政の動向

●建設省は、発注者支援データベース(DB)の未導入の地方自治体を対象に、不良不適格業者排除対策に関する実態調査を開始する。日本建設情報センター(JACIC)と建設業技術センター(CE財団)で構成するJACIC‐CE協議会の発注者支援DBは配置技術者の専任制の確認などに有効なことから、建設省の不良不適格業者排除策などに活用するよう求められている。すでに多くの地方自治体でDBが導入されているが、いっそうの普及促進を図るため、4月から未導入の自治体に、管理技術者の専任制に疑惑がある工事の情報の通知を求めた。今回の調査は、DB未導入で疑惑情報を通知している7都道府県、7政令指定都市、45県庁所在市、地方中核都市が対象。建設業法にもとづく監理・主任技術者の専任配置を徹底しているか、確認はどうしているか、疑義情報の効果、DB導入の予定、導入範囲、施行体制台帳の発注者への提出義務付けや現場立ち入り検査の実施状況、独自のシステム構築の有無などについて設問している。発注者支援DBによる8月分の疑義情報結果(未導入機関分)は、他省庁が353件中79件(22.4%)、都道府県が618件中104件(16.8%)、政令市が240件中84件(35.0%)、県庁所在市・中核市が835件中133件(15.9%)となった。
●建設省は、過度の地域要件を示したときには是正指導に乗り出す方針である。市発注の工事に使う下請企業に市内企業の活用を求めるケースや、請負金額の20%以上は市内企業に下請に出すこと、あるいは県内や市内に営業所のある企業などを入札参加資格に盛り込む事例など、建設省は現在調査を進めている。最近は、景気の低迷などを背景に、自治体が発注する工事が、少しでも多くの地元企業に行き渡るような条件の設定が目に付くようになっている。たとえば、和歌山市内は6月から、県外企業が市発注の工事を受注した場合、下請けに市内企業を使うよう要請している。また、富山県砺波市では市内病院新築工事を発注した際に、単体、JVいずれでも参加できるが、県内に営業所のある企業であることを条件付けている。JVの場合、構成員を1,2社として、そのうち1社は県内企業、もう1社は市内企業であることとした。さらに下請けには市内企業を使うことを条件に、請負金額の20%以上と明示した。鳥取県の鹿野市では、町立小学校新築工事を発注したときには、経常JV同士で特定JVを編成させて、入札に参加させた事例もあった。建設省の尾見審議官も「地方自治体にとって、地元企業対策は重要な課題」と理解を示しながらも、「一定の競争性を確保するためにも、地域条件は県内程度にとどめるべき」との考え方を明らかにし、行き過ぎた地域用件を付け加えた場合には、是正指導する必要性があることを指摘した。
●住宅宅地審議会(建設相の諮問機関)は、21世紀の住宅・宅地政策に関する中間報告をまとめた。報告は、現行の住宅政策が宅地所得に重点をおいてきたため、リフォーム市場や中古市場、賃貸市場などが未発達のままだと指摘している。21世紀の世帯数の減少や住宅需要の減少を踏まえ、今後の住宅政策はストックの有効活用とストック流動化に向けた市場整備が重要になってくると分析したのが特徴である。ストック活用を促進させるため、リフォームや立て替えに対する支援制度を充実させる。また中古住宅購入とリフォームの一体型融資制度など、新たな融資制度や支援策を検討する。一方、住宅取引については、市場環境の整備を重要課題にあげる。適正価格による競争原理を導入し、ユーザーの多様な選択を促すのがねらいである。官民の役割分担を踏まえながら市場の誘導やルールづくりに着手する。このほか、住宅関連のサービス市場も育成する。介護ビジネスやセキュリティーサービス、資産運用コンサルティングなどと住宅産業との連携を強め、「住宅総合サービス事業」を展開させたい考え。
●地方自治体の公共事業抑制が鮮明になってきた。補正予算を組まない東京都を除く46都道府県の9月補正予算によると、補正後の公共事業費(普通建設事業費)は前年同期比17.8%の大幅減。このうち自治体が独自に手掛ける地方単独事業は16.3%減になった。公共事業費は当初予算と合わせた補正後の予算額で12兆3640億円。全道府県が前年同期より減り、群馬など4県を除き軒並み2ケタのマイナスになった。公共事業費から国の補正事業などを除いた地方単独事業費は5兆3026億円。沖縄、島根、広島を除いて前年を下回り、茨城、愛知、秋田など5県は3割以上減った。
●建設省は、建設解体廃棄物リサイクル制度の柱となる分別解体制度の骨格案をまとめた。分別解体の義務を、住宅やビルなど建物の持ち主(施主)ではなく、解体工事を請け負う元請業者に課した点が特徴。同省が分別解体の基準を定め、その基準に沿った解体工事計画書を元請業者が策定し、計画通りに施行されているかどうかを行政機関が監視・チェックする仕組みを構築する。施主には、責務規定として適正なコスト負担を求める方針である。同省はこれを近く決定する「建築解体廃棄物リサイクルプログラム」に盛り込む意向で、次期通常国会で成立を目指す建築解体廃棄物リサイクルに関する法律に基づいて制度化する考え。
●住宅・都市整備公団は、同公団の改革に伴い10月1日に発足する「都市基盤整備公団」の事業概要などを明らかにした。大都市地域などにおける移住環境の向上と都市機能の増進を図るために必要な都市の基盤整備に関する事業を進める。業務の重点は住宅・住宅地の大量供給から、大都市地域などの都市基盤制度にシフトし、既成市街地の再開発、住宅市街地の整備、賃貸住宅の供給・監理などを手掛ける。具体的には、市街地の整備改善業務については、国の施設と連携しながら、都市構造再編などの視点から重点的に事業を展開する地区を設定し、基本計画の策定支援や、事業の総合的なコーディネート、拠点的事業の実施などを行う「都市構造再編総合整備事業」を推進する。大都市地域の都市基盤整備では、公共施設の整備、土地の整序を伴う敷地整備、宅地の造成を中心に行い、建築物の整備は、再開発のために必要な場合などを除いて民間による建築活動に委ねる。このため、地方公共団体および民間との連携を強化。地方公共団体などが実施する街づくりを支援するとともに、公団のノウハウ・人材などを活用するため、コーディネート業務を本来業務化する。民間による供給が見込まれる分譲住宅分野については、再開発などに伴うものを除いて全面的に撤退する。賃貸住宅業務は、公団が所有する約73万戸のストックを有効活用するため、住戸規模・性能などが劣るものについて立て替え、リニューアルなどを計画的に実施。

労働関係の動向

●総務庁が発表した7月の完全失業率(季節調整値)は過去最悪だった6月と同じ4.9%である。同日労働省が発表した7月の有効求人倍率も3カ月連続で最低水準の0.46倍。総務庁の7月の労働力調査によると、完全失業者数は319万人で、6月より10万人減ったものの1年前の7月より49万人の増加である。とくに男性の55‐59歳層の完全失業者は21万人で過去最多を記録した。そのうち13万人はリストラなど企業都合による非自発的辞職者(全体では105万人、前年同月比21万人増)。完全失業率を男女別に見ると男性は過去最悪だった前月と同じ5.1%、女性は前月より0.2ポイント上昇の4.6%。就業者数は6497万人、18カ月連続減少で、職場がひきつづき縮小している。
●建設、運輸、農水の3省は、10月からの労務費調査実施に向けて、調査の精度、透明性を高めるため、調査表に新たに法定福利費の被保険者負担額の記入を追加するとともに、会場調査前に調査表の内容を確認する現状調査も実施する。会場調査は昨年に続き、施工体制台帳や施工体系図、銀行振込領収書を確認する。さらにヒヤリングなどを通じて必要と判断された企業、またはモニター調査の試行のために選定された企業を対象に、法定福利費関連資料の提出を求める。調査内容は、13日付けで各発注機関と関連団体に通知した。具体的には、現場の作業内容、労働者数、職種構成を、現場での確認や元請企業へのヒヤリング、安全大会参加者名簿などで調べ、調査票の記入内容が現場の状況を反映しているかどうかを確認し、会場調査でのヒヤリングなどに反映させる。また、3省は今年度から、調査票の調査項目として、新たに法定福利費(雇用保険、健康保険、厚生年金保険)の被保険者負担額を追及した。調査会場のヒアリングの結果、記入内容に問題ありと判断した企業については、新たに @給与支払い報告書または源泉徴収票 A健康保険・厚生年金被保険者報酬月額算定基礎届 B雇用保険被保険者資格取得届・区分変更届 C元請会社が保管している作業日報の確認――といった法定福利費関連資料の提出を求める。会場調査後も、内容確認のために事業所を訪問する重点調査を行うとともに、不正行為が発覚した場合は、勧告や指導停止など厳しく対処していく。

業界の動向

●大手ゼネコンの工事発注の低迷が深刻化している。建設省が発表した大手建設会社の7月の工事受注総額は、前年同月を20%以上割り込む低水準で、99年度に入って最大のマイナス幅を記録した。建設省が発表した大手50社の7月の受注総額は前年同月比20.2%減の1兆0134億円で、4カ月連続の前年水準割れとなった。海外工事を除いた発注者別の内訳は、民間工事が6533億円(前年同月比19.9%減)、官公庁工事が3023億円(同17.4%減)。民間工事は4カ月連続の減少で、製造業からの受注が前年同月比38.4%減で16カ月続けてマイナスを記録するなど依然、低迷が続いている。一方、官公庁工事も2カ月連続マイナスとなり、減少幅も拡大した。内訳は国の機関の工事が同30.9%減、地方機関の工事が同2.6%減。
●積水ハウスは自社で建築した戸建て住宅を対象に、10月から中古住宅の購入者に10年間の性能保証を付ける。建物の築年数にかかわらず、購入後10年間に建物の欠陥が見つかった場合、無償修理に応じる。顧客の住み替えを支援し、新築住宅の重要を掘り起こすのが狙い。同社がこれまでに建てた住宅は全国に141万戸あり、年間2千戸を仲介する計画。中長期的に新築住宅の需要が減ると予想されるため、既存顧客の住み替え需要を開拓する。
●鹿島は、企画・基本計画・実施設計・リニューアルまで、あらゆる段階のあらゆる建物に適応する独自のライフ・サイクル・コスト(LCC)評価システムを開発、これを活用したライフサイクルエンジニアリングビジネス「KLEAD」を始める。「不動産を所有することに価値を見出すのではなく、不動産を活用することに価値を見出す時代」になってきたため、以前にも増して高まっている経済的評価をコンサルティングする。また、企業(顧客)の本業に貢献する不動産、利益をあげる不動産、利用期間を限定した建物・施設、売却価値の高い不動産、証券化しやすい不動産など、建物所有者のニーズも経済性を軸に多様化していることから、これに対応する。同ビジネスは、事業企画段階から基本計画段階、実施設計段階、さらにはリニューアル段階まで適応可能なLCC評価システムを使う。

その他の動向