情勢の特徴 - 1999年10月
● 米通商代表部(USTR)のバシェフスキー代表は、「日本における規制緩和、競争政策、透明性およびその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書」(規制改革要望書)を、河野洋平外相に提出した。その内容は、電気通信、医療機器・医薬品、金融サービス、住宅、エネルギー、流通、法律業務―の7分野を対象に、2000年3月までにわが国が改善すべき規定と、談合に関する法的措置の強化を含む競争政策の推進について言及している。今回の要望書の最大の特徴は、わが国の規制緩和を一気に進める方策として、要求事項の実施機関を明確に示した点である。要望書に盛り込まれた7分野のうち、住宅分野については@土地利用政策A木材製品B住宅資材C中古住宅・改築市場D住宅金融公庫の融資プログラム―で改善を求めた。住宅の性能を重視した建築基準法の改正措置を評価しながらも、依然として欧米と比べ住宅コストが高いと指摘。"やり玉"に上がった法制度は恒例の借地借家法、建築基準法で、なかでも建築基準法では、木造4階建て住宅の建築を可能にする法制度の改善を新たに加えたのが特徴だ。競争政策では政府や自治体が発注する公共工事および物品の調達に関連した談合に対し、法的措置の強化を要求した。警察機関には、刑事上の談合行為(談合罪)の調査に向けた新たな計画の策定と,公正取引委員会との連携強化をもとめ、2000年4月までに談合を抑止する「反談合計画」を策定するよう要求。すべての政府調達機関には、民法上の談合など不法行為に関与した企業に対し、損害賠償を請求できる仕組みづくりを求めた。住宅分野の要望内容を見ると、土地利用政策は▽定期借地法の導入を可能にする借地借家法の改正▽建築基準法で定める第1種および第2種住居地域の容積率に対する合理的な説明―を求めた。この中で、定期借地制度の導入を可能にする借地借家法の改正については、自動的な賃貸借契約の更新の廃止(借地借家法第26条)、賃貸借契約の更新拒絶要件の「正当の事由」の廃止(第28条)、借賃増減請求権の廃止(第32条)を2000年12月末までに実現するよう要求。一方、建築基準法で定める第1種および第2種住居地域の容積率では、住宅居室の日照(建築基準法第29条)、延べ面積の敷地面積に対する割合(第52条)、建築面積の敷地面積に対する割合(第53条)、建築物の敷地面積の最低限度(第54条)について、2000年7月までに合理的な説明を行うように求めた。木材製品については、2000年12月末までに防火地域と準防火地域を除く地域を対象に、防火材を用いた木造4階建て住宅、多世帯・多目的木造建築物の建築を可能とするべきだとした。延焼遮断要件の規模縮小と防火壁の承認では、2000年3月までに国際慣行に基く延焼遮断に関する代替規則を策定することも求めた。さらに住宅資材では、防音天井タイルといった内装仕上げ材の防火試験要件として国際基準の採用(2000年7月までに実施)、水道法に基く水道構成部品の基準共同認証制度の構築(2000年末)をあげている。中古住宅・改築市場では市場の活性化を促す方策として、不動産業界と公的・民間の金融機関との協力関係強化を指摘し、資産鑑定評価制度を2000年7月までに構築するよう要求している。
● 建設省が発表した8月の公共工事着工額(契約工事の総額)は前年同月比7.4%減の1兆4296億円となり、3ヶ月連続のマイナスとなった。景気対策により国の発注は堅調に推移しているものの、地方自治体の発注が財政難により低迷。公共工事は98年度補正予算と99年度予算をあわせた15ヶ月予算で切れ目ない発注を実施してきた。15ヶ月予算の始まった今年1月からの累計は前年同月比8.3%増の10兆3060億円。ただ、予算が実際に公共工事の執行につながるまでには数ヵ月の時間差があるため当面は着工額の減少が続きそうだ。公共工事の総額の3分の2を占める地方は財政状況が悪化しているため、新規工事の積み増しが難しい。
● 東京商工リサーチは、1999年度上半期(4−9月)の建設業の倒産状況をまとめた。倒産件数は2407件、負債総額は9092億4600万円だった。件数は、前年同月比19.4%の減少となったものの、前期比は13.8%の増加で、この6ヶ月の建設業経営を取り巻く環境の厳しさを物語っている。負債総額は、前年同期比8.8%減、前期比10.1%減とともに下回って入る。業種別では、総合建設業が1282件で全体の約5割を占め、職別工事業は674件、設備工事業は451件となっている。形態別では、銀行取引停止が1969件、内整理が128件、法的整理では破産が275件、和議23件、特別清算9件、会社更生法2件、商法整理は1件となっている。
● 1999年度の国債発行額が37兆―38兆円に達し、一般会計歳入に占める国債収入の割合(国債依存度)が40%を上回る見通しになった。政府は、総合経済対策に伴う第2次補正予算として「21世紀型社会資本整備」で約3兆5000億円、中小企業対策や金融システム対策などで約2兆円の計5兆5000億円規模の財政支出を予定している。また、1兆円規模が見込まれる今年度の税収不足も赤字国債の増発要因。これに対し、11月上旬に実施するNTT株第5次売却では、現時点で約5000億円の税外収入が見込まれる程度で、大半の財源を国債で賄うことになる。今年度当初予算の国債発行額は31兆500億円だが、2次補正により建設国債で3兆5000億円、赤字国債で2兆5000億円の計6兆円程度が計上される見通し。この結果、今年度の国債発行額は98年度の34兆円を超えるのは確実。国債依存度も、98年度(同40.3%)を上回り、42%前後に上昇するとしている。
● 政府は、通産省・中小企業庁がまとめた中小企業基本法「改正」案を閣議で決定した。新法案は、大企業と中小企業の「格差を是正」する現行法の政策理念を捨て、ベンチャー企業の育成や創業への支援策に重点化した内容である。「改正」案は、中小企業の価値・役割を「新たな産業の創出」などによる「国経済の活力の維持・強化」に求めている。基本的施策の第1の柱に「経営の革新と創業の促進」をあげている。その具体策として、新商品開発のための技術研究開発や、販売などの著しい効率化のための設備導入への支援、ベンチャー企業育成のための人材確保や、株式・社債の発行による資金調達制度の設備などを明記した。第2の柱として「経営基盤の強化」を置き、そのなかに技術研究開発や「産業集積の活性化」、「商業集積の活性化」、「取引の適正化」などを盛り込んでいる。また、中小企業の定義として、現行法で1億円としている製造業の資本金を3億円にするなど、資本金、従業員数を引き上げて範囲を拡大している。
● 建設省が発表した9月の新設住宅着工戸数は前年同月比10.5%増の10万9012戸となった。2ケタの伸びは96年10月以来2年11ヶ月ぶり。マンションが住宅ローン控除制度の適用を受けるためには今秋が事実上の着工期限で、駆け込み着工が増加したことが主因。注文住宅の1戸建て(持ち家)は同12.3%増えた。住宅金融公庫融資への依存が鮮明になっており、民間資金を利用した着工は伸び悩んでいる。9月の着工戸数は4ヶ月連続の増加で、年率換算値(季節調整済み)では125万9000戸。前月比で1.3%減った。建設省が住宅着工の目標としている年130万戸の達成は難しい情勢だ。
● 総務庁が発表した9月の家計調査によると、勤労者(サラリーマン)世帯の消費支出は32万603円となり、前年同月に比べ名目で3.9%、物価上昇分を除いた実質で3.7%それぞれ減少した。実質の減少は2ヶ月連続で、同庁は「収入全体も減少しており、個人消費の基盤は弱い」(統計局)と指摘している。実収入は実質0.4%の減少。家計を支える世帯主の定期収入は8ヶ月ぶりに増加に転じたものの、同居家族(除く配偶者)の収入減少が響いたとしている。また、可処分所得から消費支出に回る割合を示す平均消費性向(季節調整済み)は69.0%と2ヶ月連続で低下し、半年ぶりに70%台を割り込んだ。
● 政府は、総理府内に「民間資金等活用事業推進委員会」を設置し、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)実施に向けた基本方針の検討を始める。99年内をめどに検討する基本方針は、@事業の選定A事業の募集・選定B事業者の責任と適正な事業実施C法制度・税制上の措置D財政上・金融上の支援――などについて基本的な考えを明記し、内閣総理大臣が正式決定する。日本版PFIの統一的な指針で、事業家に向けた一連の環境が整うことになる。PFIを導入する地方自治体などは、この基本方針をより具体化した「実施方針」作成する。実施方針は募集要綱に相当するもので、事業概要や運営方法などの協定内容、事業破綻時の対応などを明記し、事業者を選定する。現在、地方自治体などでPFIの導入計画があるが、実際に事業が動き出すのは政府が基本方針を定めた後になる。このため、早くても2000年以降になりそうだ。
● 政府は2001年の中央省庁再編に伴って、各省庁の現業部門を切り離してつくる「独立行政法人」の会計基準を固めた。これまでは国が決めた予算は単年度で使い切らなければ"消滅"してしまったが、経営努力で余った予算については次の年度に繰り越せるようにする。現行は資金の出入りに重点を置いているが、資産と負債を把握できる複式簿記を導入、固定資産の減価償却の考え方も盛りこみ資産の実態を明確にする。民間並みの企業会計の導入で独立行政法人にコスト意識を植え付け、業務の大幅な効率化につなげる方針だ。独立採算とはしないが経営の裁量を与え、効率化を競わせる。独立行政法人は営利企業とは異なり、国の業務を確実に実施することを目的とする。経営努力により余剰資金が発生すれば、自らの裁量で他の事業に振り向けることができるようにする。各法人の資産の実態を正確に把握するため、減価償却も初めて導入する。減価償却費は損益に反映されず貸借対照表の資本の部に明記するだけでよいことにする。
● 47都道府県の1998年度普通会計決算見込みが出そろった。それによると、公債費負担比率で警戒ラインの15%を超えている団体は、前年度の31道県から35道県に増加。うち岡山、富山、長野、熊本、秋田、鹿児島、高知、長崎、山形、山梨、大分の11県が危険ラインの20%を超えた。一方、公債費や人件費など容易に縮小できない経常的経費に使われた一般財源のシェア(経常収支比率)を見ると、「要注意」の80%超が、岐阜、鳥取、島根、愛媛、佐賀を除く42道府県。青森、長野、島根、高知、佐賀、鹿児島の6県を除く41道府県で数値が上昇し、より窮屈な財政構造となった。大阪、神奈川、愛知は100%を超えている。全都道府県の歳入総額は前年度比4.9%増の55兆5033億4900万円、歳出総額も同4.9%増の54兆6271億1100万円だった。景気対策で地方債を増発し、公共事業を大幅に追加したことから、伸び率は3年ぶりにプラスに転じた。しかし、法人関係税不振の直撃を受けた東京、神奈川、愛知、大阪の4都府県は収支が悪化、ついに赤字団体に転落。
● 99年度に入り、財政難の自治体が地方単独事業(自治体独自の公共事業)の実施を一段と手控え、このままでは当初計画額19兆3000億円の4分の1以上が未達成になる可能性が出てきた。今年度9月補正予算までの46道府県(補正を組まない東京都を除く)の単独事業費は、前年同期比16%減の5兆3000億円(日本経済新聞調べ)。道路、河川といった分野で工事を抑制する例が多く、京都府のように当初予算を削るマイナス補正に踏み切った例もある。地財計画には政府の政策目標という性格がある。その大幅な未達成は、政府の景気重視の方針に地方が協力できなくなっている実態を示している。自治省は、99年度後半に単独事業の実施を促し、国の総合経済対策を側面から支援する考え。今後、自治体が財源の最大100%までを債権発行で賄えるよう規制を緩める方針だ。ただ債務膨張を嫌う自治体側が、せっかくの特例措置を活用しない可能性も指摘される。
● 労働省は、規模5人以上の事業所調査による毎月勤労統計調査(9月速報)と、今年の夏季一時金結果(確報)を発表した。それによると、9月の「きまって支給する給与」は28万1152円(前年同月比0.4%増)で3ヶ月連続の増加となった。また所定外労働時間は9.4時間(同1.1%増)で2年1ヶ月ぶりの増加。しかし、企業は正社員である一般労働者を同0.9%減と20ヶ月連続で減らすなどしており、常用雇用(同0.1%減)は13ヶ月連続の減。今年の夏季一時金は平均44万665円で、前年同期にくらべ3.7%の減。夏季一時金は2年連続で減少。
● 総務庁が発表した9月の完全失業率は前月より0.1ポイント低下の4.6%となったものの、いぜん高水準である。総務庁の労働力調査によると、9月の完全失業率(季節調整値)は男女計で4.6%と前年より低下したが、性別で見ると男性は4.6%で前月比0.1%低下したものの、女性は逆に同0.1ポイントの上昇4.7%でことし3月以来の高水準になった。一般世帯で見ると、世帯主失業率は前月(3.3%)より低下の3.0%だが、配偶者は前月(2.8%)より悪化し3.0%。世帯主の失業でパートなど働きに出る配偶者が増えているためと見られる。完全失業率は317万人で1年前の同じ月より22万人の増加。非自発的失業者は98万人で100万人台を割ったが、1年前とくらべれば11万人増で、厳しい雇用情勢は続いている。就業者数は6504万人で前年同月比12万人減と20ヶ月連続の減少。ただ、雇われている人の数(雇用者数)は同8万人増の5355万人で20カ月ぶりに増加。一方、自営業主・家族従業者は同21万人減で20ヶ月連続の減少。
● 準大手ゼネコン(総合建設会社)の西松建設と戸田建設は技術分野を中心として業務提携することで合意したと発表した。技術研究施設や保有技術の相互活用のほか、資機材や工場の共同利用などを通して経営の効率化を狙う。提携期間は5年とし、その後については提携継続の是非を両社で協議する。両社はゼネコン業界では財務体質が良好な企業としても知られる。財務面のぜい弱なゼネコンが経営不安から民間工事受注を減らすなかで、"強者連合"の結成による信用力の一段の向上も見込む。