2001年10月10日
特定非営利活動法人 建設政策研究所
目次
完全失業率は史上最悪の5%(8月)になった。雇用の受け皿と期待されたIT部門から失速し、株価は9月決算を前に1万円台を割り込んだ。いま深刻なデフレ経済に突入している。GDPは4−6月期にマイナス0.8%(年率換算で実質3.2%、名目10%のマイナス)、消費者物価は23ヶ月連続下落、民間給与3年連続減、基準地価10年連続マイナスとなっている。株価続落で個人金融資産が初めて減少し、株価総額は4年で125兆円減少している。製造業ではリストラ「合理化」の競演が演じられ、不良債権の本格的処理がはじまる前にすでに日本経済は危機的な状態になっている。
このような経済情勢のもとで小泉内閣の「構造改革」は国民に激痛を与えようとしている。不良債権最終処理次第では20〜30万社が整理され、100万〜130万人の失業者増加が予想されている。金融庁は全国大手銀行16行だけでなく、さらに地銀、信金などにも要注意先リストの作成を求めている。
建設業は3月に発表された「緊急経済対策」のなかに名指しで不良債権処理をせまられている。「構造改革基本方針(=骨太方針)」では企業の過剰債務と同時に非効率企業の退場という方針をとっている。銀行のさじ加減で倒産が一気に進められよう。また他の産業の不良債権処理にともなう連鎖倒産も予想される。
現在建設大企業は、建設投資の減少のなかで利益を確保するため、リストラ「合理化」、下請再編、下請企業への指し値発注をすすめており、中小企業の倒産は高水準で推移し、夜逃げ、金繰りのための自殺が相次いでいる。建設投資の今後の減少とあいまって、「構造改革」をすすめるなかで建設業の失業は、業界や研究機関でも60〜90万人にのぼると予想されている。
しかも建設労働者は完全失業率では捕捉されない労働者である。完全失業率とは1ヶ月の最終の週に1時間も就業できなかった人を調査して推定数と率を出しているものである。ところが建設労働者は1ヶ月の就労日数が少なく生活が困難になっている人が多く、建設政策研究所が昨年行った首都圏建設産業調査では1ヶ月15日以下の日数の就労者が16%にのぼる。これらの労働者は完全失業者の範ちゅうに入らず「半失業」状態である。そして、就労日数の減少、賃金の低下、手間請化で、年収は300万円台に落ち込み、賃金額は1990年代初めの水準に戻っている。
これに対し、政府・業界の雇用対策の基本は、就労対策や失業者の救済対策でなく建設労働者の他産業への「移動」対策となっている。政府の「構造改革基本方針」の中にある「公共事業の見直し」では、大規模工事計画を温存し、土地の流動化と不動産の証券化を図るなど投資型都市再生を前面に出している。そして過剰債務と非効率の企業を退場させるという方針のもとに、「建設産業再生プログラム」にもとづいてゼネコンを再編し、入契法の「不良不適格業者の排除」によって中小業者数を削減し、建設投資の縮小に対応させようとしている。
また、2001年6月にまとめた日建連の政策「21世紀の建設市場の見通しと建設産業のあり方―競争と淘汰の時代」では、「第4章・雇用問題への対応」で諸施策が提起されているが、失業対策は皆無で、労働移動を円滑にすすめる対策に終始している。
これを受けて国土交通省は「当面の建設業雇用対策について」をまとめ、新分野への開拓や下請保護策を提示し、排出される失業者は、厚生労働、経済産業、国土交通3副大臣によるプロジェクトチーム(PT)を設置し、失業対策でなく、派遣労働の導入をふくめた50万人の雇用創出をめざすとしている。政府は、9月27日に召集し、12月7日までを会期とした第153臨時国会を「雇用対策国会」とし、前半をテロ新法、後半に01年度補正予算案および「緊急雇用対策法案」を提出する見通しである。
建設産業における雇用問題は独特の性質を持っている。
建設産業は不況時には他産業で流出した労働者を吸収し、建設就業者は97年には685万人にも達した。バブル崩壊後、長期にわたって50兆円規模の公共投資を続けた結果、今年度末には国・地方を合わせ666兆円というばく大な債務残高となる。今後、同規模の公共投資を続けることは困難で、就業者の減少がはじまっている。不良債権処理が予定通り行われれば、企業整理・倒産によって大量の失業者が予想され、長期的には建設投資の縮小によって、就業者の減少が進むと見られている。
建設雇用の特徴の一つは、大型プロジェクト優先の公共事業政策による工事の大型化、機械化によって、ぼう大な量の工事が発注されながら一工事あたりの労働者数は減少していることである。また、建設業で失業する労働者の70%は同一産業内を移動するという特徴がみられる。
緊急対策では、建設労働者の減少をくい止め雇用・就労の場を確保するために、大型工事優先でなく雇用拡大に結びつく小規模工事への発注工事内容の転換が大きな課題になる。
今日、雇用問題として見過ごすことができないのは、建設大企業、デベロッパーの取引上の優位性の乱用である。「指し値」発注に示される単価・支払の一方的切り下げ、手形取引、長期の手形サイトは中小建設業に大きな打撃を与えている。それは即、賃金の低下、収入減となっている。また社会保険の使用者負担など労務経費を節減するために「外注化」が進み、新たな重層下請構造をつくりだしている。さらに、大手ゼネコンでは競ってリストラ「人員削減」をおこない、人員削減の穴埋めには、過密・長時間労働を押しつけ、サービス労働がまん延している。
建造物の品質保証の上からも、重層下請の規制、元下契約関係の透明化、労働者の就労保障、賃金・労働条件の確保、人員増が求められる。
建設業においては特殊な就労形態のため、日本の失業・雇用保障制度とのギャップが大きくなっている。建設労働者は手間請、請負給による就労が圧倒的である。したがって「就労日数減」は「完全失業」となって現れず「半失業」状態になる。外注化の増大とともに大部分の建設労働者が雇用保険法などから除外され、法による救済方法がない。
建設産業の構造変化と労働者の長期にわたる不安定化のなかで、安定した就労機会の確保と失業・雇用保障制度の確立は急務になっている。
民間投資の停滞、公共事業の削減、大手ゼネコンの横暴によって倒産、失業、就労減が増大している上に、デフレ経済による打撃、「構造改革」による痛みの三重苦になっている。これらを踏まえ失業・雇用の緊急対策は次のような視点で提言する。
建設労働者の社会保障は劣悪である。それは重層下請構造のもとで労働者は圧倒的に低単価・低賃金のためである。また、手間請形態が多く労働者の意識も社会保障の必要性について習熟していない。
健康で文化的生活を維持するためには、次のような施策が必要である。
以上の提言を実現するため、建設産別の労働組合、団体が共同で、雇用・就労保障、失業中の生活保障を求める大運動を呼びかけるものである。