提言・見解

青木建設、民事再生法申請にあたっての見解

2001年12月15日
特定非営利活動法人 建設政策研究所

 中堅ゼネコン 青木建設が12月 6日、民事再生法の適用を申請した。連結負債総額は4000億円以上にのぼるといわれている。

 青木建設の法的処理にいたる経過をみるとき、企業経営者、主力銀行(あさひ、日興)および歴代自民党政府の無責任な体質が浮き彫りになる。また、そのツケが青木建設とその関連従業員、重層関係にある多くの下請業者と労働者に被せられることに強い懸念を抱かせる。

 そのため、今後の対策としては

 第一に、法的処理の直接被害者になる者の救済を最優先すること

 第二に、このような事態をもたらした企業経営者、主力銀行、自民党政府・行政それぞれの責任を明確にすること

 第三に、市場競争万能型と癒着・護送船団型を使い分ける小泉「構造改革」政策の転換を図ることが、求められる。

 第一の問題について、現段階では民事再生法手続きの申請が、再建につながるか企業の清算に向かうか予断を許さない。しかし、どちらに向かっても労働者、下請など取引業者が最大の被害者となる。

 青木建設の従業員数は本体で1241名、グループ企業を含めると約7300名になる。

 これら労働者の雇用の保障および未払い賃金、退職金の支払い、強制的に購入させた自社株投資への補償を企業経営者、主力銀行および国の責任で実行すべきである。

 また、下請業者など取引業者の工事代金未収債権、売掛債権を優先的に支払い履行すべきである。特に下請業者への債務不履行は直ちに重層関係にある数多くの小零細下請業者の倒産につながる。公共土木工事中心の青木建設の下請業者には専属下請業者が多い。銀行の貸出債権や国の租税債権に優先した支払いを実行すべきである。

 第二の問題については、まず青木建設の経営者責任である。青木建設はバブル期に、海外のホテルやリゾート施設の買収、国内ゴルフ場の開発や不動産投資など本業の建設事業以外の事業に多額の投資を行い、多額の有利子負債と債務保証額を抱えることとなった。これら放漫経営の責任があいまいなまま社長の交代劇だけでお茶を濁している。また、前社長は大蔵官僚出身で竹下元首相の秘書官という経歴の持ち主であり、現社長は旧建設省からの天下りというように、癒着による公共事業受注に依存する経営体質を持ち続けてきた。今回、民事再生法の申請により経営陣は責任を取るどころか、社長を含め現経営陣すべてが居座ろうとしている。あらためてこのような経営を行ってきた経営陣の刑事責任など法的責任と共に経営者としての社会的責任を明確にすべきである。

 次に、主力銀行をはじめ金融機関の責任を明確にすべきである。バブル期には、放漫経営を促す無責任な大量貸付を行い、経営危機に陥って以降は、経営に実質的に関与(副社長職にあさひ、日興派遣役員が、常務取締役で管理本部長、企画本部長に協和、日興派遣役員が座る)し、さまざまなリストラを強要してきた。さらに、99年には「経営の将来性がある」として2049億円の債権放棄を行った。にもかかわらず、今回銀行は突如、支援を放棄した。

 銀行自らの利害と生き残りを最優先し、経営見通しの甘さによる失敗を貸付先に転化する銀行経営陣の責任を明確にすべきである。

 次に、歴代自民党政治が行ってきた責任の問題である。

 1973年、竹下元首相の秘書官が社長に就任して以降、青木建設は兜町で「竹下銘柄」と呼ばれてきた。青木建設は海洋土木工事を中心に受注を伸ばし、1996年には公共工事が受注総額の66%を占めるほど、公共事業依存型経営を行ってきた。そしてその背景には自民党政治との深い癒着関係が指摘できる。最近では、関西国際空港第二期工事の総事業費1000億円にものぼる埋め立て用土砂採取事業を青木・鹿島共同企業体に受注させた。さらに総貯水量全国一といわれる徳山ダム本体工事を熊谷・大成・青木共同企業体に受注させた。これらは業界では「青木建設救済」といわれるほど明々白々な癒着関係を示したものである。今回あらためて、経営破たんするようなゼネコンに大型公共事業を受注させた自民党政治の責任を問わねばならない。

 さらに、自民党政治は、銀行の健全化のためと称し、70兆円にものぼる公的資金を銀行の債権放棄などの原資として用意した。しかし、青木建設の事態は経営の一時的延命策としての役割を果たしたに過ぎなく、公的資金の無駄使いとなるものである。このような銀行奉仕の無責任なやりかたを改めさせる必要がある。

 第三に、「構造改革」と称する経済政策の問題である。小泉首相は青木建設の倒産に対するコメントとして「構造改革が順調に進んでいることを示すもの」と述べた。しかし、歴代自民党は大型公共事業とその見返りとしての政治献金と集票機構というゼネコンとの癒着型政治であった。このような政策に対置するように、小泉「構造改革」は、市場競争万能型経済政策をとっている。

 しかし、その内実は「都市再生」政策にみられる都市部での大規模再開発事業への支援であり、従来型大型公共事業やさまざまな規制緩和により大手ゼネコンを始め金融・デベロッパーの再生をめざすバブル型経済への誘導である。また、銀行の不良債権最終処理への金融庁の検査マニュアルや再検査などによる銀行再生のための誘導策である。

 このように小泉「構造改革」は日本の独占的大企業が再生し、あらたな繁栄をするための戦略であり、その面では従来どおりの競争排除型経済政策を取っている。

 一方、小泉「構造改革」が市場競争万能型政策を取っているのは、大企業と中小企業との市場競争関係、中小企業内の市場競争関係、公営政策と民営政策との競争関係、労働市場関係、国民の医療・福祉分野の市場関係などである。

 青木建設の破綻は、市場競争の中の自然的破綻では決してなく、すでに破綻していた経営を競争排除・癒着型政策で支えてきたものを、政府と銀行が、独占的大企業の生き残りを優先させた政策的淘汰・選別に過ぎない。