提言・見解

「都市再生関連法に基づく再開発事業の展開に対する見解」

2002年3月25日
特定非営利活動法人 建設政策研究所

 第154通常国会において、民間主導による都市再生を促進させるための新規立法および改正法案が提出された。新規立法としては「都市再生特別措置法」、一部「改正」法案として「都市再開発法」「土地区画整理法」「建築基準法」「民間都市開発の推進に関する特別措置法」などがある(以下これらの法案を都市再生関連法案と呼ぶ)。これらの法案は3月初旬に国会に提出され、国民にその内容を検討する余裕すら与えないまま、一括方式で強引に国会を通過させられようとしている。

 都市再生関連法案の主な柱は、第一、小泉首相を本部長として設置され、すでに都市再生方針の策定と実施にあたっている都市再生本部の法定、第二、都市開発事業計画に対する国土交通大臣の認定制度の創設、第三、既存の用途地域等に基く規制を全て適用除外とする都市計画に係わる特例措置、また、民間の都市開発事業への支援措置として、第四、市街地再開発の施行者に再開発会社を追加、第五、土地区画整理事業における集約換地手法の導入、第六、民都機構、都市開発資金による金融支援、である。

 これらの法律の成案の過程では、都市再生事業の障害となっている問題について、民間デベロッパーなどへのアンケート調査が行なわれた(都市再生本部第五回会合資料)。そこでは、主に、次の3点が都市再生事業の障害として指摘された。

  1. 用途規制、容積率・建蔽率・高さ制限、日影など都市計画上の制約、
  2. 都市計画決定・事業計画認定に到る過程の緩慢さ
  3. 民間再開発事業と関連する公共施設建設の遅れ

都市再生関連法案は、このような民間デベロッパーの声に全面的に応えて、「都市再生事業」に係わる限り、都市計画および建築計画の決定と実行のあり方を根本的に変更するものとなっている。とりわけ、従来、公的主体に限定されていた土地収用権が、民間資本を中心とする開発会社に付与されることは重大である。都市再生関連法案は、都市再生本部と民間資本による都市再生プロジェクトの断行のための法的枠組みであり、地方公共団体によるマスタープランの策定やまちづくり条例制定の動きとも真っ向から対立するものである。建設政策研究所では、住民不在の大規模再開発事業の中止・見直しとともに住民参加による住民のための居住環境を基本としたまちづくりを進める立場から、一連の法律に対する具体的問題点を指摘し、批判的見解を明らかにするものである。


「都市再生特別措置法」の内容と問題点

 この法律は小泉首相を本部長とする都市再生本部を法的に位置付け、それが打ち出す「都市再生の推進に関する基本方針」に新たな法的拘束力を持たせ、都市部で緊急に推進すべき地域を「都市再生緊急整備地域」として政令で特定し、民間開発資本が自由に開発活動ができ、当該事業に関して民都機構を通じたさまざまな金融支援を受けることができることを定めた新規立法である。主な内容と問題点を列挙すると

  1. 都市再生の拠点となる緊急・重点的に市街地整備を推進すべき地域を「都市再生緊急整備地域」として政令で指定する。都市再生本部はこの政令を立案する(法第2条、第4条)。また、本部は都市再生緊急整備地域ごとに、地域整備方針を定めなければならない(第15条)。
    問題点:「都市再生緊急整備地域」が政令で定められ、なおかつ都市再生本部が地域整備方針を定めるのであるから、当該地域内で計画されている都市再生事業の推進は国と地方自治体の義務となり、住民の開発反対の意見が排除される危険がある。
  2. 都市再生緊急整備地域内で都市開発事業を施行しようとする民間事業者は、当該都市再生事業計画の認定を申請することができる。国土交通大臣は申請から3ヶ月以内に計画の認定に関する処分を行なわなければならない(法第20条、21条)。
    問題点:当該地域内で民間事業者が、都市再生事業計画を申請した場合、民間事業者の事業計画を国が早期に認定することにより、都市計画決定、事業認可の蓋然性を高め、事業計画の推進をはかるもの。都市計画決定、事業認可の以前に国が事業計画の適否を判定することで、事実上事業認可権を国が握る状況が生じる。環境などへの住民の批判の機会を封じるもの。
  3. 民間都市開発推進機構は、認定事業者に対して、認定事業の施行に要する費用の一部の無利子貸付け、費用の一部(公共施設などの整備に要する費用の額の範囲内)について、出資または社債の取得により、あるいは債務保証によって支援することができる(法、第29条)。
    問題点:民都機構をつうじて、民間事業者への様々な金融的恩典を与えようとするもの
  4. 政府は、民都機構が認定事業に対して行なう金融支援に関する費用の一部を無利子で貸し付けることができる。また、債務保証実施のための基金に充てる資金を補助することができる(法、第30条、第32条)。
    問題点:認定事業を支援する民都機構の業務を、資金供給と債務保証の両面から国民の税金によって補助するもの。
  5. 都市再生緊急整備地域のうち高度利用を図る区域に対し、都市計画特別地区を定め、当該地区内の建築物に対しては、誘導すべき用途、容積率の最高、最低限度、建ぺい率の最高、最低限度、高さの最高限度および壁面の位置の制限を定める(法、第36条)。
    問題点:都市計画特別地区では、従来の都市計画規制にとらわれず、別途新たな制限を設けることが出来るもの。民間事業者の自由度をさらに高めようとするもの。
  6. 民間事業者は都市計画決定権者に対し、土地所有者等の三分の二以上の同意を得ることにより、都市再生特別地区等の都市計画の決定や変更を提案をすることができる(法、第37条)。
    問題点:都市計画特別地区では、民間事業者が地権者の3分の2以上の同意で、都市計画の決定や変更を提案することができる。民間事業者の利益が先にあって、それに合わせた都市計画の決定や変更の提案ができるというもの。
  7. 都市計画決定権者は民間事業者の都市計画の提案に対し、6ヶ月以内に都市計画の決定を行う(法、第41条)
    問題点:地方自治体が民間業者に従属し、環境や住民の意見を尊重することよりも、民間事業者の時間コスト・事業中止リスクを軽減する立場から早期に決定を下そうとするもの。
  8. 都市再生事業を施行するために必要な市街地再開発事業等の認可を行う行政庁は、申請から3ヶ月以内で認可等処分を行うこと(法、第42条)
    問題点:緊急整備地域では、民間事業者からの市街地再開発事業の申請に対し、住民の意見を聞く余裕もなく早期に認可の可否を決定しなければならない。
  9. 民間事業者が都市計画の提案を行っているにもかかわらず、都市計画決定権者からの通知がない場合は、行政庁に対し事業認可の申請を行うことができる(法、第43条)。
    問題点:民間事業者の都市計画提案に対し、その決定が住民の反対などで遅れた場合、それを無視して事業認可の申請を行なえるというもの。基礎的自治体の認可の権限が行政庁に移り、基礎的自治体の都市計画決定以前に審査できる点を都市計画決定と平行してすすめることができるようになる。

「都市再開発法の一部改正」の内容と問題点

これまで市街地再開発事業の施行者は地方公共団体や都市基盤整備公団、市街地再開発組合であったが、これに民間デベロッパーなどで構成する再開発会社を施行者に加えようとするものである。主な内容と問題点を列挙すると

  1. 市街地再開発事業の施行を主な目的とし、施行区域内の宅地所有権等を有するものが、株主総会の過半数を有し、総地積の3分の2という要件をみたす民間開発会社は、市街地再開発事業の施行区域内の土地について、市街地再開発事業を施行することができる(第2条の二、第3項)。
    問題点:これまで、市街地再開発の施行者は地方自治体や組合であったが、これに民間再開発会社が加わることになった。これまでは、地権者の全員の合意や組合総会での決定など、地域住民の合意無しに市街地再開発をすすめることは困難であった。その制約を取り払うとともに、組合施行では行なえない保留床の証券発行なども可能となる。
  2. 再開発会社である施行者は事業計画について、宅地の所有権者等の3分の2以上の同意を得た上で、都道府県知事の認可を受ける。知事は法令等に反していなければ認可せねばならない(第50条の二および四)。
    問題点:宅地の地権者の少数派の意見や周辺環境および住民の意見を無視して事業計画の認可を受けることが可能となる。
  3. 再開発会社は特定事業参加者を原則として公募し、必要な資力と信用を有するものを認定する。
    問題点:特定事業参加者とは、保留地や保留床の引き受けを約束した事業者であるが、大規模再開発は、保留地や保留床の販売をあてにした投機的な事業であり、多くの区画整理事業や再開発事業が破たんしている。このような事業のあり方を踏襲するもの。さらに、再開発事業が特定事業参加者に依存している場合、事業の内容が特定事業参加者の意向で変更されることが避けれらなくなる。
  4. 第二種市街地再開発事業の場合、再開発会社は施行区域内の宅地の所有権者等のうち、譲受希望を申し出た者の三分の二以上の同意を得た上で、都道府県知事の認可を受けなければならない(第118条の二および六)。
    問題点:再開発会社は、第二種市街地再開発事業も施行できる。そこで、民間事業者が中心の再開発会社に、強制収用権が付与されることになる。

「土地区画整理法の一部改正」の内容と問題点

 新たに高度利用推進区を創設し、希望する地権者のみで高層ビルをつくることができる。主な内容と問題は次の点である。

  1. 高度利用区域または特定地区計画等区域の土地区画整理事業の事業計画を行う場合、新たに高度利用推進区を定めることができる。希望する地権者は、高度利用推進区内に共有持分を得ることができる(第2条の6、第85条の2)。
    問題点:土地区画整理事業の一部地域を高層化することが可能となる。保留地・保留床問題を一層深刻化させるもの。

「建築基準法等の一部改正」の内容と問題点

 デベロッパーやゼネコンが都市部での土地利用や建築活動をより効果的に自由に迅速に行えるように、容積率などの選択肢の拡充や容積率制限等を迅速に緩和する制度の導入、さらには民間事業者が都市計画を提案できる制度を導入しょうとするものである。

 主な内容と問題点を列挙する。

  1. 商業・業務機能の集積、都心居住の推進、密集市街地の整備など多様な課題に対応できるよう、容積率制限、建ぺい率制限、日影制限などの選択肢の拡充を行う。
    容積率制限では中高層住居専用地域でこれまでの300%に400%、500%を追加する。商業地域で1000%に1100%、1200%、1300%を追加する、などである。建蔽率制限では第1種住居地域等でこれまで60%のみから50%、80%を追加する、など。日影規制では低層住居専用地域以外でこれまでの高さ4mのみから6.5mを追加する、など。
    問題点:用途地域における容積率などの規制を緩和し、選択肢を広げる事により、土地利用の価値を高め、建築活動を促進させようとするもの。
  2. 低層住宅地域において、都市計画で定める容積率の1.5倍を限度としてその容積率を緩和することができる、など容積率制限、斜線制限について民間事業者の事業化リスクを軽減するため、許認可を経ずに、建築確認の手続きにより迅速に緩和する制度を導入する。
    問題点:容積率制限、斜線制限について民間事業者の事業化リスクを軽減するため、許認可を経ずに建築確認の手続きにより迅速に緩和する。
  3. 民間事業者の負担の軽減に配慮し、複数棟からなる開発プロジェクトを円滑・迅速に実現するため、総合設計制度と一団地認定制度との申請手続きを一本化させる。
    問題点:民間事業者がより自由に設計を行なうことを可能とするもの。

都市再生関連諸法の問題点

1400兆円の民間個人資産を都市再生投資に振り向ける

 都市再生関連諸法の制定は、「わが国の構造改革の一環として都市再生を強力に推進する」ための法整備である。都市再生の課題は、第一に、経済の低迷・投資不振という構造問題、第二に、既成市街地の問題、ストックの陳腐化、国際競争力の低下などの都市問題を解決することである。そして、この2つの課題を解決するために、「1400兆円に上る個人金融資産」を「周辺地域への起爆剤となるような地域に、集中的、戦略的に」「振り向ける特別の措置」をとると説明されている(都市再生特別措置法案・説明資料)。しかし、都市再生の2つの課題の解決のためには、個人金融資産が、直接住宅の改修等に向かうか、あるいは公的主体を経由して福祉・医療・保育等の地域施設の整備と既成市街地の改善に向かうことで事態は大きく打開される。そのような住宅改修を促進する免税・補助制度、地域の福祉・医療・保育制度の確立、既成市街地の改善事業の展開こそ、真の都市再生を促進する政策である。

民間開発資本による、利益のための、市街地再開発事業

 再開発会社を市街地再開発事業の施行者に加える措置が取られていることは、都市再生関連諸法のもっとも重要な内容である。この措置は、第一に、従来多くは事業協同組合方式でおこなわれてきたものを株式会社方式に転換することによって、市街地再開発の公的な性格を事実上否定し、純粋に営利事業として運営することに他ならない。第二に、純粋に営利事業として運営される再開発会社が、第二種市街地再開発事業の施行者となり、土地収用件を付与される。第三に、再開発会社が、社債や不動産関連証券を発行することを通じて、個人金融資産投資の受け皿となることである。今回、あわせて、土地区画整理事業に高度利用推進地区を設ける措置が取られているが、これは全国で破たんに瀕している土地区画整理事業を都市中心部に限定して高層建築を含む再開発事業に再編するものである。開発会社の利益をうむ保留床部分が賃貸された場合には、賃料収入を支払い原資とする不動産証券の発行が可能となり、再開発会社は、いち早く資金を回収するとともに大きな利益をあげることができる。これらの結果、市街地再開発事業全体が、開発会社の利益追求の手段に性格を変えてしまう。国や地方自治体の資金によって整備される公共施設も、再開発地区の投資物件の価値を維持し・高めるという観点を第一に配置・建設されることにならざるを得ない。政府・地方自治体は、当面PFIなどの新たな手法も導入して財政破たんを取り繕うであろうが、「景気対策」として「都市再生」事業の認定を拡大すればするほど、「公共施設」整備のため財政支出が膨れ上がることになる。再開発会社による市街地整備事業の施行は、財政破たんへの道である。

政令で地域を指定し、民間資本の再開発事業のために、都市計画を決定・変更する

 都市再生関連諸法は、都市再生緊急整備地域の政令による指定、民間開発資本の事業計画の国土交通大臣による認定、民間事業者による都市計画提案、迅速な都市計画決定を規定している。これらは、民間資本の再開発事業の実施のために、都市計画を決定・変更するための諸措置である。

 緊急整備地域の指定は、第一に、政令でおこなわれるために、都道府県や市町村の策定する都市マスタープランやまちづくり条例の方を、都市開発事業に適合させることが求められることになる。緊急整備地域の指定にあたっては、関係地方自治体と協議することが規定されているが、都市計画審議会に諮ること、公聴会を開くこと、都市マスタープランとの整合性を図ること、などは規定されていない。住民本位のまちづくりの流れに完全に逆行している。第二に、緊急整備地域の指定は、すでに民間から都市再生本部に提案されている286のプロジェクトの事業計画認定を念頭においてなされる。このプロジェクトの内容の一部分しか公表されることなく、法制度が決定されようとしている。

 緊急整備地域の指定に明瞭にしめされているように、都市再生関連諸法のに基づく都市再生は、地方分権、情報公開、住民参加のまちづくりに反した国家介入による都市開発である。

都市再生事業の破たんの危険性

 都市再生関連諸法において、都市再生事業において、従来の保留地・保留床の売却益で事業費を生み出す手法が積極的に採用されることが想定されている。この再開発手法は、右肩あがりの経済成長、人口増加、土地価格上昇を前提とした手法である。これらの前提が崩れているもとで、この開発手法による再開発事業を大規模に展開することは、多くの都市再生事業を破たんの危険に晒すことになる。単に経済的な観点だけから言っても、情勢の推移を慎重に見極めて計画・実施が検討されるべきところである。ところが、都市再生事業は、経済危機からの脱出と言う政策課題を担って、鳴り物入りで推進されようとしている。このようなスタンスからの大規模プロジェクトの推進は、経済的な合理性をも担保しえない無謀な政策であり、ただちに中止、再検討されなければならない。

中心部の民間資本と開発資本のみが栄え、周辺部の商店街・中小企業と住民は困難に

 たとえ、都市再生事業が成功したとしても、周辺商店街や中小企業の困難が増すことは、いくつもの大規模再開発の実例によって、示されている。さらに、少なくない地方自治体は、開発の優先と税収の停滞のために、危機的な財政状況にある。このもとにおける再開発事業の大規模な展開は、地方自治体財政を破たんさせ、住民の福祉や中小企業支援の障害となる。

都市再生関連法に基づく再開発事業の展開に対して

 都市再生関連諸法の制定をうけて、法定され・権限を得た都市再生本部は、都市再生方針の策定、都市再生緊急整備地域の指定、地域整備方針の策定、また国土交通大臣による事業計画認定を急ぎ、都市再生事業の強力な推進を図るであろう。

 しかし、都市再生関連諸法律は、民間開発会社に権限と資金を集中するとともに、政府方針の絶対化によって再開発事業を遮二無二推進するものであり、住民本位のまちづくりを押しつぶす悪法である。既存の都市計画法、都市再開発法、建築基準法等の手法・論理とも乖離が大きい。都市再生関連諸法に基づく再開発事業の具体化にあたっては、既存の諸手法の徹底した実施の要求が広がるであろうし、財産権の侵害、基礎的自治体の自治権の侵害があった場合には、訴訟を含む様々な抵抗が広がることも予想される。

 法定されたとしても、都市再生事業が正当性を得られるかどうかは、都市再生の今後の展開と、都市再生事業の展開に対して国民・住民がどのような態度をとるかにかかっている。

 都市再生政策に対しては、「小泉内閣の『都市再生』に関する見解」において6点にわたる転換の内容を示した。その最後では、地域からの住民本位の都市再生計画の策定、経験の交流と総括による都市再生のトータルプランの確立を展望した。都市再生関連法は、この展望を阻む最大の法的な障害物となろう。まちづくりの共同の努力の積み重ねの一歩一歩を歩むことが、都市再生関連法の廃棄へ向けたたしかな流れをつくりだすのである。