2003年4月1日
特定非営利活動法人 建設政策研究所
目次
建設工事の「著しい低価格受注(いわゆるダンピング受注)」が建設産業、特に中小建設業において大きな問題となっている。全国建設業協会をはじめ各地方建設業協会、東京都中小建設業協会などが中小建設業や地方の実態を踏まえた立場から「対策」や国土交通省への「要望」が出されている。また、最近、国土交通省も「ダンピング排除緊急対策」を発表した。しかし、これらの「対策」は公共工事における低入札価格調査制度の活用上の問題や低価格入札のできにくい制度づくりなど制度いじりに片寄っている。
しかし、建設ダンピング問題は公共工事だけでなくむしろ民間工事において顕著にあらわれている。しかもそれは「市場競争万能主義」や「弱肉強食」「効率化」という政府・国土交通省の「構造改革」の視点から中小建設業者に対する貸し渋りや貸しはがし、「不良不適格業者の排除」と一体となり、中小建設業淘汰の一環としてあらわれている。地域に密着した建設産業の構造を無視し、銀行や大手ゼネコンの不良債権処理のための指値発注や建設行政・産業再生政策は、中小建設業者や下請業者、またそこに働く労働者に大変な苦難を強いるものであるとともに、結果的に品質上の責任を果たせない構造物となっている。
建設政策研究所では「建設ダンピング」問題を公共工事の入札制度に係わる制度問題だけでなく、建設産業の本来のあり方から問題の所在を明らかにし、当面の対策とともに抜本的解決策を提案するものである。
国土交通省の「建設投資見通し」によると、2002年度の官民合計の建設投資額(見通し)は59兆1600億円とピーク時の1990年度の85兆 4423億円と比較すると26兆2823億円、約31%も減少し、1980年度の水準に落ち込んでいる。その内訳を見ると民間建設投資、特に民間非住宅投資が大きく落ち込んでいる。民間非住宅投資はピーク時の31兆2321億円に対し、2002年度は14兆4900億円と16兆7421億円、53.6%も落ち込んでいる。民間住宅投資はピーク時の27兆1621億円に対し、2002年度は18兆7400億円と31%の落ち込みで建設投資全体の落ち込みと同水準である。一方公共投資額は1998年度までは拡大基調をたどりながら、1999年度から急速に低下傾向をたどり、2002年度には25兆9300億円と1998年度から5年間で24.4%も落ち込んでいる。
このように建設市場は90年代初頭からの民間非住宅投資の大きな落ち込みを公共投資が下支えしてきたが、99年度以降公共投資が地方財政破綻の中で急速に落ち込んだことが、受注競争の厳しさに拍車をかけた。
公共事業は地方自治体発注工事に落ち込みが激しいが、特に地方単独事業では96年度から2000年度の5年間に17兆1043億円から11兆8570億円と30.7%も落ち込んでいる。そのため、地方の単独事業を主に受注していた地域建設業者は民間受注の減少に加え、公共工事においても激しい受注競争を強いられることとなった。
一方、価格競争は中小建設業だけでなく民間受注をめぐる大手ゼネコン間にも激しく生じている。特に都市部の超高層ビル建設工事やマンション建設工事は施主からの指値発注による低価格受注が相次いでいる。
国土交通省「建設工事受注動態調査報告」により、2001年度の建設業者の総受注金額を資本金階層別に見ると、資本金50億円以上の大手業者が全体の 41.4%を受注し、特に民間工事だけでは50.4%と大手建設業者が過半を占めている。一方、資本金5千万円未満の中小建設業者は業者数では 577,000社と総建設業者数の96.4%を占めているに係わらず民間工事元請受注額では18.5%を占めるに過ぎない。このため中小元請業者は大手が受注しない小規模事業に群がり、激しいダンピング競争が行われている。また、多くの中小建設業者は元請業者の下請けになり、元請業者からの厳しい指値による低価格受注、いわゆるダンピング受注を余儀なくされている。
2001年4月から施行された「公共工事入札契約適正化法」は公共工事における談合その他の不正行為排除の徹底を掲げ、発注各官庁は入札参加者の資格、入札者・入札金額、落札者・落札金額など入札・契約に係る情報の公表を行うこととなった。また、発注者は談合等の情報を得た時は公正取引委員会に通知することとなった。
そして、国土交通省では談合情報対応マニュアルを策定し、各発注官庁では定期的に適正化指針に基づき改善状況の調査・公表を行うこととなった。
これらの措置は、大手ゼネコン間の談合や癒着防止には必ずしも有効に働いていないが、
地域建設業者間における談合摘発の強化につながり、業者間の談合慣習に代わるルールを持たない中で結果的に歯止めなき価格競争につながっている。
ダンピング競争の原因として建設需要と業者数のアンバランスを指摘する声は依然として強い。1995年に旧建設省が監修した「建設産業政策大綱」は、建設市場縮小のもとで「中小企業保護に名を借りた不良不適格業者の参入を防止する」という建前から、建設行政を「メリハリの効いた中小企業対策へと転換する必要がある」と述べ、今後は「大手と同じ土俵で競争できる仕組みが求められる」と露骨な競争政策を通じた中小建設業淘汰の方向を打ち出した。それ以来、大手業者団体や建設行政は「建設需要の停滞・減少にもかかわらず、業者数が大幅に増加している。特に企業規模の小さい業者が増加しており、この相当数の減少が必要」という政策方向を取り続けている。しかし、中小建設業者数の多いことは地域に根ざす建設構造物づくりの上で必要なことであり、このことがダンピング競争の直接の原因ではないことを改めて明らかにしておく必要がある。
ところで「大綱」は一方で「一企業あたりの就業者数は12人程度と米国並み、欧州以上、さらに就業者一人当りの建設投資額では1500万円と、平均として見る限り、国際的に見て日本の企業数が特に多いわけでも、企業規模が零細というわけでもない。さらに各国の従業員規模別の建設業者数の比率を見た場合、いずれの国においても従業員100人未満の業者が90%以上を占めており、日本の企業が中小企業の比率が高いというわけではない」と述べ、日本の業者規模の多様な建設産業構造が諸外国に比較し特別に不自然なものでないことを認めている。さらに「大綱」は「建設業においては自ら、又はグループにより請負を行うこともあれば、労働者として就労することもある一人親方的存在が50万人程度いると言われており、このような存在が建設生産体制を支える基盤の一つともなっている」と小零細業者の果たす役割を評価している。
ところが「大綱」は「これからは誰もが元請になれる時代ではない」と、中小元請建設業者数、特に資本金1千万円〜5千万円階層の増大を問題視し、この階層への公共工事受注の集中を是正すべきと述べている。
大手建設業団体や国土交通省は、この立場から中小建設業者が多いことが非効率であり、ダンピング競争を生み、品質の低下をもたらすものと主張しつづけている。
しかし、日本の建設生産が下請け業者を含め、中小建設業者によって支えられていることは「大綱」が自ら認めるところである。今後、建設事業が大規模事業偏重から脱却し、地域住民のニーズに密着した、福祉・防災・環境を重視した事業や既存構造物のリフォームやメンテナンス需要が増大するに従い、地域に根ざす建設業者の役割はいっそう増大する。何故なら、地域建設業者は地域の環境や自然条件、住民要求などをよく把握しており、建設施工においても、地域内の他業者や専門家などとも連携しやすい条件を有しているからである。
政府・行政はダンピング問題を理由とした中小建設業者淘汰への誘導政策ではなく、建設生産を地域から支える役割を果たす中小建設業者が、ダンピング問題などで経営が脅かされている実態を把握し、中小建設業者への直接的な支援策を打ち出すことがいっそう重要となる。
日本の建設生産構造は、発注者から直接、工事を受注した元請業者が自ら工事施工するのではなくその多くを下請業者に請負わす構造になっている。その外注比率は今日では元請工事原価の70%にも達している。元請業者は主要な材料、機械などの調達以外は下請業者に請負いさせる。さらに今日の重層下請け構造では工事施工を担う労働者は2次下請以下の業者に依存している。このような重層下請構造のもとで元請業者がダンピング受注した工事の請負金額は元請業者が一定の利益を差し引き、1次下請業者にダンピング受注させる。さらに1次下請業者は一定の利益を差し引き、2次下請業者にダンピング受注させる。このようにして、元請業者がダンピング受注したしわ寄せは、さらに低価格で下へ、下へとおろされていく。その結果、最後に工事を施工する業者および労働者にしわ寄せが集中することになる。
全建総連東京都連が毎年行っている、賃金実態調査をみると、現場労働者の常用賃金(日給)の上昇は1993年の19,315円をピークに、その後、下降カーブを描いている。特に1997年以降、賃金の下落はいっそう激しくなっている。1997年の賃金は18,604円で93年から4年間で711円(3.7%)の下落であったものが、2002年では16345円と97年から5年間で2,259円(12.2%)も下落しており、近年の指値発注、ダンピング受注の結果が賃金に直接影響していることがうかがえる。
また、下請業者は、ダンピン受注の結果、賃金の支払だけでなく労務経費の負担すらできなくなり、雇用労働者から非雇用労働=一人親方化し、さまざまな経費を労働者自ら負担させられる事態が進行している。
このように、元請業者のダンピング受注は最終的に現場労働者の賃金・労働条件を際限なく切り下げることによって成り立っている。
近年、欠陥マンション問題が社会的に大きくクローズアップされている。建てたばかりなのに、壁にクラックが入る、ベランダが落ちる、建物が傾くなどの問題がかつてなく多く生じている。また、安価な材料使用によるシックハウス症候群など住み手の健康にも重大な問題が生じている。
また、公共構造物においても高速道路の耐震補強工事の手抜きやトンネル工事のコンクリート剥離、覆工厚さ不足などが社会問題化している。
ダンピング問題は日本の建設産業構造とも関連し、安心、安全、長持ちする構造物づくりそのものを困難にさせ、結果的にその構造物に居住する住民、構造物を使用する国民に大きな被害が及ぶ。
ダンピング競争は単に建設業界内の問題だけでなく、社会資本そのものの品質に係わるものとして現在から将来への国民・住民の生活や生命に大きな影響をもたらすことを認識する必要がある。
その点では、ダンピング問題は広く国民の問題であり、税金を納める納税者の視点からも、単に安ければよいという問題ではないことを理解した取り組みが必要となる。
国土交通省は「ダンピング受注防止対策」をまとめ、2月10日付で通達を出した。
その主な内容は
(a) 低入札価格調査制度調査対象工事に対する情報の公表や立ち入り調査などを行う体制の確立
(b) 低入札価格調査制度対象工事業者への適正な施工確保と履行保証割合の引き上げ
である。
具体的には、
(a) 各地方整備局と自治体で構成するダンピング受注対策地方協議会の設置
(b) 直轄工事で低入札価格調査制度の対象となった案件について、
◎ 履行保証割合を従来の1割から3割に引き上げる
◎ 過去に施工上問題のあった企業に技術者を増員させる
◎ 対象案件に関する情報公表
◎ 施工体制や技術者専任制などの点検強化
◎ 下請代金支払状況等実態調査の優先対象にする などの施策を実施する。
国交省の説明では、「対策を検討する上で、ダンピング受注の明確な基準がなく、低入札調査案件でも企業努力によって低コストで応札したケースもあることなどを考慮し、『低入札調査案件=ダンピング受注』という単純な位置付けは難しい。このため、低入札価格での受注が企業の財務内容の悪化を招き、品質の低下や下請へのしわ寄せ、労働条件の悪化、安全対策の不徹底などにつながる可能性が高いという視点から、各施策を組み立てた」と述べている。
履行保証割合を引き上げる理由については、債務不履行時の再発注費用などの発注リスク回避と、第三者機関による企業評価チェックの厳正化を図るため、と述べている。
問題点として
これまでも低入札調査案件については公表されていたが、調査の結果問題なしという案件がほとんどで、失格となった案件は稀である。今回、体制を強化し、調査案件になった業者へのペナルテイを課すことにより公共発注機関としてのリスクを回避し、同時に低入札案件を少なくするというものである。
しかし、低入札した業者を審査する第三者機関とは損害保険会社や前払保証会社、金融機関であり、その審査によりダンピングかどうか決められることになる。これら機関の審査が厳しくなれば、金融機関主導による業者の篩い分けが行われることになる。これではダンピング受注せざるを得ない業者やその環境を改善することなく、建設業者への一方的負担による上からの締め付けが進むことになる。
自民党では昨年12月10日「公共工事ダンピング受注排除緊急対策」を発表した。
その主な内容は
(a) ダンピング受注排除のため、各地方整備局と自治体で構成する組織の整備
(b) 低価格受注を繰り返す業者を公正取引委員会に通報
(c) 独占禁止法に基づく公正取引委員会による調査の強化
(d) ダンピング受注を繰り返す業者に対する指名排除など
(e) ダンピング受注に係わる前払い金の縮減や履行保証割合の引き上げ
(f) 低入札価格調査の徹底と最低制限価格制度の活用
(g) 監督・検査の徹底(技術者の増員、下請業者への支払いの確認、外部機関の活用等)
(h) ダンピング受注防止のための法律の制定 である。
基本的には国交省の対策と同様で、ダンピング受注業者に対するペナルテイ的負担によるダンピングの排除と入契法で謳われた「指針」に基づくものである。
但し、今通常国会において自民党は議員提案による法案を提出しょうとしている。
一方で市場競争をあおる「規制改革」を進め、それと矛盾する対症療法的法律がどん
な役割を果たすか、業者への当座のご機嫌取り対策に過ぎないのではないか。
1月27日に発表された「対策」では、「ダンピング受注は『企業のモラル』や『施工された公共工事の品質』の低下など大きな弊害をもたらす。また、労働条件の悪化、安全対策・環境対策の不徹底、下請業者へのしわ寄せ、ひいては施工能力のない不良不適格業者の増加にもつながる。さらに、このまま公共工事のダンピング受注が続けば、ダンピング受注によって施工された個々の工事だけに留まらず、技術力を高め、経営に努力している多くの企業が疲弊していき、下請業者、資材業者等の経営にも影響が及ぶ。また、将来の建設産業の健全なる発展を阻害するものである。」と強い危機感をにじませた上で、公共工事の「T.入札の段階」「U.落札業者決定(契約)の段階」「V.施工の段階」に分けて当面の対策を中心とした提言を行っている。また、その内容に応じて「今後具体的な検討を進めるべきもの」「できるところから実施しつつ、さらにその内容の充実を図るべきもの」「早急に実施すべきもの」の三段階に分類している。以下、提言内容を紹介する。
T.入札の段階
1)検討を進める事項
(1) 「価格」だけによらない競争入札制度の導入
(2) 入札実施の前段階における適切な施工業者の選定
2)実施すべき事項
(1) 最低制限価格等の事前公表の廃止
(2) 工事費内訳書の提示
(3) 低価格で落札した業者の公表
U.落札業者決定(契約)の段階
1)検討を進める事項
(1) 調査基準価格の引き上げ
2)実施しつつさらにその内容を充実すべき事項
(1) 低入札価格調査の適切かつ厳格な実施
(a) 厳格な調査の実施
(b) 調査体制の確立
(c) 調査体制が不備な場合の最低制限価格制度への移行
(2) 低入札価格調査の結果、失格とするための判断基準の明確化
(a) 判断基準の明確化
(b) 判断基準の細分化
3)実施すべき事項
(1) 最低制限価格制度あるいは低入札価格調査制度の活用
(2) 履行保証の付保割合の引上げ
(3) 前払い金の縮減
V.施工の段階
1)実施すべき事項
(1) 施工段階における監督・検査体制の強化
(a) 施工時における監督・点検を強化・充実し厳正に行う
(b) 施工体制台帳、施工計画等を厳密にチェックする
(c) 下請業者、資材業者等への支払いの実態等を調査し、必要な是正改善措置を行う
(d) 安全対策、環境対策、労務管理、近隣対策などの間接工事費の適切に実施されているかを厳格に調査し、必要な改善措置を行う。
これらの措置を講じるため、発注者は監督職員を通常より増員して配置する。
また、必要に応じて、一定の権限を付与した外部機関や専門家等の活用を図る。
(2) 竣工検査の厳格化
(3) 専任技術者の増員
(4) 工事ごとのコスト調査の実施
W.その他
1)検討を進める事項
(1) ダンピングの定義づけ
(2) 独占禁止法による不当廉売の排除
(3) 設計の精度向上
(4) 瑕疵担保責任のあり方
問題点
ダンピング受注が品質の低下、さらには労働条件悪化や安全・環境問題、下請業者へのしわ寄せなどに大きな影響をもたらすものとして、総合的にとらえている面で評価でき、具体的対策においても施工段階の発注者責任の問題等、積極的提言も多く含まれている。
しかし、一面、入札資格段階で、ランク要件ではなく企業の技術力や財務内容で業者選定すべきなど大手業者が絶対的に有利となる提言も見られる。また、品質低下を招く、産業の構造上の問題としての労働条件や下請業者の問題には具体的提言が見られない。
地域に根ざした建設産業構造に対応した施策を
1)公共事業を地域密着型に切り替え、地域建設業者に重点的に発注する
(a)地域住民の生活要求を検討し、事業化すべき内容を見直し、住民と発注側および専門家と連携した事業を、関係住民の信頼のある地域建設業者が担う仕組みをつくる
(b)官公需法の骨抜きに反対し、公共発注機関の中小建設業発注率を思い切って高める
(c)大型公共工事はできるだけ工種ごとに分離し、中小建設業の施工可能なものは地
域中小建設業者に発注する
(d)小規模小額工事については随意契約により地域建設業者に優先的に発注すること
2)地域建設業の経営革新、技術革新への支援・助成の拡大
(a) 政府の不良債権処理加速策を中止し、金融機関の中小企業への貸し渋り、貸しはがしを止めさせ、地域金融機関の再生と健全な取引関係を回復させる
(b) 地域中小建設業の資金繰り支援のため、国・地方自治体による無利子・無担保融資制度の確立
(c) 技能・技術の継承・発展に努力する地域中小建設業への国・地方自治体の助成制度の確立
3)公共工事入札・契約制度の建設産業構造に見合った改善を
(a) 公共工事市場を裾野の広い産業構造に合わせ均等に受注機会をはかるため条件付一般競争入札とする
その条件とは、資本金、技術力、工事実績、経営状態等によりランク付けを行う。ランクは建設業者の階層と数を鑑み、ランク分けをきめ細かく行い、ランク内業者数に見合った工事件数を確保しながら、ランク内の公平な競争を行う。
(b) 入札参加資格審査の基準と透明性の確保
ランクごとの参加資格を決める審査委員会の構成には発注側だけでなく市民代表、労働者代表を加える。
一定規模以上の業者の審査基準には、これまでの下請発注率、施工体制台帳による下請け契約におけるダンピング発注状況を加味する。
審査基準および参加資格者名簿を公表する
(c) 一定規模以上の工事には入札参加業者に詳細な工事費内訳書の提出を義務付ける
内訳書の内容には、労働者の雇用状況、労務費、材料費、機械経費、現場管理費の内容、一般管理費の内容、予定される下請け業者、見積り内容など
(d) 談合等不正行為があった場合は、第三者機関である入札監視委員会が不正行為情報の受信・通知・開示を行うこと。また、不正行為の疑いのある場合の、公共機関内部からの善意の告発に関しては刑事事件の罰則の対象としないこと
際限のない低価格競争防止のための歯止めの確立を
1)建設労働者の賃金・労働条件の底上げと歯止め策を
(a) 建設労働者の賃金・労働条件の最低基準を建設労働組合と業者団体で取り決める
建設労働者の大まかな労働条件の最低水準を建設関係労働組合と業者団体との交渉により取決め、これを下限として元請・下請の契約労務単価を取り決めることにより際限のないダンピング受注に歯止めをかける。
(b) 地方公共団体は、発注する公共工事に携わる労働者の賃金・労働条件を他産業の同種の労働者と同一水準以上にするという公契約条例を制定し、この水準を下限としてダンピング受注に歯止めをかける。当面、入契法の付帯決議にある「建設労働者の賃金・労働条件の確保が適正に行われるよう努めること」に則した発注者責任による労働者への賃金確保を図ること
(c) 公共工事の積算労務費算定の基準となっている労務費調査による二省協定賃金方式は、ダンピング受注の結果生じる際限なく下落した賃金実態をベースにするため、積算労務費そのものが、労働者の生計費や熟練度に関係なく切り下げられることになる。そのため、積算労務費算定方式を二省協定賃金方式から公契約法・条例に基づくものにしていく必要がある。
当面、公契約法・条例が制定されていない状況では、二省協定賃金プラス労働者の標準生計費加算分で労務費を積算するよう算定方式を改善する。
公共工事の発注者は、積算労務費を公表するとともに、労働者への支払実績と大きな差額があると労働者から申し入れがあった場合は、実態調査を行い関係業者
に直ちに是正させることとする。
2)下請業者への指値発注などをやめさせ、公正な元下取引契約の確立を
(a) 独占禁止法第19条、建設業法第19条3項を厳格に適用し、原価に満たない発注を禁止させる
(b) ダンピング発注による下請業者の倒産が増加しているが、下請業者の労働債権や手間請債権の確保を最優先にする
(c) 元請ゼネコンの不良債権処理を最優先した経営を改めさせ、下請業者への犠牲押し付け防止のため、公正な契約の監視機関を行政に設ける
良質な社会資本建設の立場から発注者の責任の明確化を
1)施工段階における発注者の監督・検査体制の強化
公共事業における工事目的物の品質を確保するため、発注者は次の措置を講じる
(a) 施工時における監督・点検を強化・充実し厳正に行う
(b) 施工体制台帳、施工計画書等を厳密にチェックする
(c) 下請業者、資材業者等への支払の実態等を調査し、必要な是正改善措置を行う
(d) 安全対策、環境対策、労務管理、近隣対策などが適切に実施されているかを厳格に調査し、必要な改善措置を行う
これら措置を講じるため、発注者は監督職員を増員配置する。特に、安易な監督に陥りがちな民間業者への委託は行わない
(e) 適正な施工の確保のため、労働者・市民オンブズマン等による現場調査権を認めること
2)中間検査、竣工検査の厳格化
最低制限価格ぎりぎりまたは低入札価格調査を受けて落札した工事案件に対して、発注者は中間時、竣工時の検査や工事成績の評価を、出来形や品質、性能等を含めて厳格に行い、その結果を公表する。
3)設計・積算精度の向上を
設計における基本設計、実施設計など各段階の設計精度を高めるため、できるだけ民間委託を排し、発注官庁が直接設計を行うこととする。民間委託した場合も発注官庁の設計仕様を指定したものとする。
また、積算については安全経費や労務経費など現場経費を実勢に合わせたものとする。そのために設計・積算分野の職員の増員を図る。市町村など小規模自治体で職員の配置が困難な自治体には自治体の立場にたった民間機関に委託する積算・設計についてはその内訳を含め公表することとする。
上記の見解に対してご意見を当研究所にお寄せください。