提言・見解

政府の「官公需施策」の見直しに関する見解

2004年3月25日
特定非営利活動法人 建設政策研究所

目次

1.政府の提案では

   公正取引委員会の「公共調達と競争政策に関する研究会報告書」

   総合規制改革会議の「規制改革推進に関する第3次答申」

2.官公需法の見直しを主張する背景とねらい

3.建設政策研究所の見解と提言

<補足資料>
(表一)中小建設業者(資本金1〜5千万円)と公共工事受注との関係の推移
(表二)2002年度資本金階層別工事受注額


 昨年末、政府の機関が相次いで公共調達についての競争政策に関する報告書を提出した。

 第1には2003年11月に提出された公正取引委員会の「公共調達と競争政策に関する研究会報告書」であり、第2には同年12月に提出された総合規制改革会議の「規制改革推進に関する第3次答申」である。双方の報告では「競争政策」と「規制改革」が一体となり公共事業の取引や競争関係に関する提案が行われているが、そのうちの一つが「官公需施策」の見直しである。官公需法(官公需についての中小企業者の受注確保に関する法律)は1966年に施行された。その「目的」の項には「国等が物件の買入れ等の契約を締結する場合における中小企業者の受注の機会を確保するための措置を講ずることにより、中小企業者が供給する物件等に対する需要の増進を図り、もって中小企業の発展に資する」と述べている。しかるに、今回の政府機関双方の提案は「官公需法」に基づく現在の官公需施策を縮小・撤廃の方向で見直そうとするものである。

公正取引委員会の提案では

(a) 中小企業の受注機会の確保施策が実績においても契約目標を確保するという運用は、中小企業の競争的体質を弱めることになるので「機会」の確保だけにとどめること。

(b) 国は地方自治体の行う「地域要件の設定」(入札参加資格を地元業者に限定)について過度に競争性を低下させる運用にならないよう求め、具体的あり方を周知させること。

(c) 発注者は、地元企業に受注機会を与えることを目的にして、地元企業を加えた共同企業体を編成するよう事業者に義務づけることを廃止する。

(d) 分割発注は、行過ぎた運用が行われる場合、公共調達が非効率となり、競争性が確保されない。従って、発注者は分割発注を行う場合はその理由を公表することにより過度の分割発注を抑止するべきである。

(e) ランク制は競争性を確保するため、同一ランクにおける十分な事業者数の確保に配慮するとともに、ランクを統一していくといった見直しを不断に行っていく必要がある。 以上の5項目の提案が行われている。

一方、総合規制改革会議第3次答申の「競争政策」の項では

、官公需施策、分割発注、地域要件について以下のような提案を行っている。

(a) 官公需施策・中小企業者向け契約目標のあり方の見直し(平成15年度中に検討開始、平成16年度中に結論)

 中小企業の競争力を高めるとともに、技術や意欲があり、創造的な事業活動を行う中小企業の育成に資するよう、そのあり方の見直しを検討し、特に「中小企業者向け契約目標」については、その数値設定のあり方の見直しを検討すべきである。経済合理性を勘案せずに単に中小企業に受注させることのみを目的とするような発注を回避しつつ、幅広い範囲の企業の参入を促すような競争促進に資する新たな指標の導入も含めて検討し、これを踏まえて、発注者においても理由の公表等を通じて分割発注に関する透明性を向上させ、経済合理性のない分割発注の実施の禁止を徹底する方向で検討すべきである。

(b) 分割発注の運用改善(平成15年度以降逐次実施)

 分割発注が政府調達の公正性・経済合理性に反する形で恣意的に実施されることのないよう、明確な基準の策定等について検討を行うべきである。また実施した場合の理由の公表についても、官公需施策のあり方についての検討を踏まえて実施すべきである。地方公共団体においても同様の取組みが実施されるよう要請すべきである。

(c) 地域要件設定の運用改善(平成15年度以降逐次実施)

 地域要件の設定が、過度に競争性を低下させる運用とならないよう、今後、国において、地方公共団体における地域要件の設定のあり方について基本的な考え方を検討し、その結果を地方公共団体に対して周知すべきである。また、地域要件設定の理由の公表については、早急に実施するよう要請すべきである。


 以上のように、双方の「官公需施策」についての提案は、ニュアンスの強弱はあるが概ね似通っている。そして、総合規制改革会議の第3次答申は、この3月19日に2004年度を初年度とする「規制改革・民間開放推進3カ年計画」として閣議決定された。

 「官公需施策」はその見直しが、さまざまな理由付けを行い、「中小企業の受注機会の増大を図る」という官公需法本来の主旨をねじ曲げ、中小企業の発展に資する目的を阻害する方向で実行されようとしている。

 建設政策研究所では、今日の長期不況が地域経済の著しい落ち込みを生じさせ、地域の中小企業や商店の疲弊、雇用の喪失をもたらしていることから、官公需法の一層の積極的活用が緊要と考える。そのため、政府の官公需施策の見直しについては、基本的に反対の立場から以下のような見解と提言を行うものである。

 尚、この内容については、今後各方面の意見を聞き討論を重ね、また今後の施策の状況変化を見極め、より正確で具体的提言に仕上げていきたい。

■官公需法の見直しを主張する背景とねらい

 

(1) 中小元請建設業者の増大

旧建設省が1995年に策定した「建設産業政策大綱」では資本金1千万円以上5千万円未満の中小元請建設業者が著しく増加していると述べ、その中には中小企業保護に名を借りた不良不適格業者が参入している可能性を危惧している。確かに1990年度を100とした2002年度の業者数は276と3倍近くに増加している(表一参照)。このような中小元請建設業者の増加の原因に官公需法による保護政策があると見なし、その見直しによりこのクラスの業者数の削減・淘汰を意図している。

(2) 大手ゼネコンの公共工事受注の増大を図るため

 2002年度の資本金階層別公共工事受注金額をみると、資本金50億円以上の大手ゼネコンの受注金額が5.1兆円と全体金額の33.1%であるのに対し、資本金1千万円以上5千万円未満の中小元請業者の受注金額が5.9兆円と全体金額の37.9%を占めている。

 大手ゼネコンにとって建設市場の縮小傾向の中、民間工事受注では50%近いシェアを確保しているにもかかわらず、公共工事受注では30%強のシェアしか確保していない(表二参照)。この原因に官公需法があり、中小元請建設業者がより多く受注していることに強い不満を抱いている。

(3) 公共工事総量の低落傾向の中で中小企業発注割合が安定していることへの危機感

 公共工事発注総量の推移をみると、1998年度34.3兆円をピークにその後年を追うごとに低下している。2002年度の発注総量は25.8兆円と98 年度の75.2%にまで落ち込んできている。しかるに資本金1千万円以上5千万円未満の中小企業の受注金額は1998年度5.9兆円、2002年度5.9 兆円と横ばいであり、発注割合では35.4%から37.9%へと若干増加し、中小企業発注割合は安定している(表一参照)。

 大手ゼネコンにとっては、中小元請建設業者への公共工事発注の保障が結果的に大手への発注減少につながっているとみている。また将来的に公共投資が縮小方向にある中で、引き続き中小企業への保護政策が続くことへの危機感が強まっている。

■建設政策研究所の見解と提言

 今回、政府の両機関からの提案は、規制改革を通じて公共工事の競争性を発揮させようとするものであるが、その競争性は「大きいものも小さいものも同じ土俵で競わせる」という市場競争万能主義に立脚している。

 日本の資本主義は高度に発達し、各産業における大企業の独占的地位がますます強化されている。しかし、その一方で大企業の下請的役割を含め、膨大な中小企業の存在があり、その中小企業が日本経済を下から支える役割を果たしている。

 建設産業の業者数はこの間の長期不況による中小建設業の倒産にもかかわらず、2002年度現在約57万社存在する。しかし、そのうち資本金50億円以上の大企業はわずか130社に過ぎない。これに対し、資本金5千万円未満の中小建設業者は全体の97%を占めている(表二参照)。このような中小建設業者の存在が建設産業を支えると同時に、地域住民の生活や安全・福祉を守る上で大きな貢献を果たしている。

 地域建設業の役割の重要性を鑑み、地域建設業者を保護する立場から官公需法が制定され、これまで重要な役割を果たしてきた。そして、将来的に公共事業が開発型大規模事業から地域に密着した福祉・環境・防災・維持補修型事業に転換の方向にある中で地域に根ざす中小建設業者の果たす役割がいっそう重要になる。そのためには、官公需法の骨抜きではなく、公共発注機関の中小建設業契約目標率を思い切って高める必要がある。このような見地から以下の提言を行う。

1)公共事業を地域密着型に切り替え、地域建設業者に重点的に発注する

(a) 開発型大規模公共事業から地域住民の生活要求に基づく事業に転換を

赤字必至といわれる高速道路建設の見直しや無駄なダム建設の中止など開発型大規模公共事業を思い切って削減しつつ、住民と発注側および専門家と連携し計画・設計した地域住民の生活要求に基づく事業を大きく増大させること。 

(b) 節度ある「地域要件」の確保と増大の仕組みを

国や地方公共団体は公共工事が地域経済振興、地域の雇用確保に重要な役割を担っていることを明確にし、その立場から地域建設業の契約目標率をいっそう高めるための施策を講じること。

(c) 地域外元請業者が受注した場合における地元下請業者の活用を

地方公共団体は大型工事などで地域外元請業者に発注した場合においても、地域建設業者の育成と地域経済振興に寄与する立場から、下請業者は地元業者を活用する仕組みをつくること。

2)公共工事入札・契約制度の建設産業構造に見合った改善を

(a) 入札制度は条件付一般競争入札を

入札制度は中小元請業者が圧倒的多数を占める産業構造に合わせ、均等に受注機会をはかるため条件付一般競争入札とする。その条件とは、資本金、技術力、工事実績、経営状態等によりランク付けを行う。ランク分けは現行の5ランク(A~E)制を厳格に守り、これ以上ランク数を減少することは行わない。また、上位ランク業者が下位ランク工事に食込むことを禁止し、ランク内における談合等を排除した公正な競争を行う一般競争方式とする。

(b) 入札参加資格審査の基準と透明性の確保

不良不適格業者の入札への参入を防止するため、入札参加資格審査の基準を明確

にし公正・厳格に実施する。入札参加資格審査に対しては市民代表によるオンブズマン制度を設け、そのチェックを行い透明性を確保する。

  一括下請けや上請けを防止するため、業者の審査基準には、これまでの下請発注況、

元請施工能力(技能労働者や施工機械等の確保状況)、下請業者としての施工実績がある場合はその実績などを加味する。

また、審査基準および入札参加資格者名簿は公表することとする。

3)大型公共工事は工種ごとに分離発注を

 大型公共工事は出来る限り分離発注を行い、施工可能なものは思い切って地域中小建設業者に発注する。また、小規模小額工事については随意契約により地域建設業者に優先的に発注する。

 但し、工事を延長距離などで輪切りにする分割発注は固定経費の増大を招くなど非効率になる可能性がある。そのため、分割発注する場合は費用分析を十分行い、その結果を公表することとする。

4)共同企業体(JV)による地域建設業者の受注の確保を

 大型公共工事など中小元請業者が単独受注できない場合には、分離発注とともに共同企業体として工事に参加することにより受注を確保する。JVの組合せは県外大手企業と地元中小企業というパターンだけでなく、地元中小企業同士の組合わせも積極的に追求する。

 その場合、一律に地元業者を参画させる方向ではなく、地元業者のJV工事の中での果たす役割、特に地域条件の有利性を生かした貢献などを明確にした条件を付すなどの工夫が必要である。また、発注者側では共同企業体の運営において構成企業が対等・平等に参画できるよう指導を強化すること。

5)官公需適格組合の共同受注事業の円滑な推進をはかる

 官公需法に則り設立された官公需適格組合に対して、第3条「組合を国等の契約の相手方として活用するように配慮しなければならない」に基づき、公共工事の受注機会の増大を図っていく。その際、組合が受注した工事は組合の直接監理体制(実質的関与)のもとに、共同して担当する組合員企業が建設業法に従い施工に携わることができるよう発注者側の配慮が必要である。

 

<補足資料>

(表一)中小建設業者(資本金1〜5千万円)と公共工事受注との関係の推移

  90年度 91年度 92年度 93年度 94年度 95年度 96年度
業者数 80,263 91,069 101,452 115,170 129,109 143,246 182,304
全業者数に占める割合(%) 15.8 17.7 19.4 21.7 23.8 26.0 32.7
90年度を100とする指数 100 113 126 143 161 178 227
請負契約額(億円) 57,225 63,412 65,883 78,009 67,676 71,351 57,275
全請負契約額に占める割合(%) 39.3 36.8 36.0 39.5 38.6 37.2 35.1
90年度を100とする指数 100 111 115 136 118 125 100

97年度 98年度 99年度 2000年度 01年度 02年度
210,986 219,789 225,317 229,931 226,348 221,773
37.4 38.7 38.4 38.3 38.6 38.8
263 274 281 286 282 276
53,774 58,750 54,270 66,597 63,927 58,678
33.9 35.4 35.3 36.2 38.0 37.9
94 103 95 116 112 103
注:業者数は年での集計。請負工事額は、90年度から99年度までは工事額100万円以上、2000年度以降は500万円以上。
出所:業者数は国土交通省「資本金階層別許可業者数調べ」。請負契約額は国土交通省「公共工事着工統計年報」「建設工事受注動態統計調査報告」。

(表二)2002年度資本金階層別工事受注額
資本金階層 業者数(社) 総受注金額 1社当り受注金額 資本金別受注率 公共受注金額 1社当り受注金額 資本金別公共受注率
個人 140,242 1,002 0.007 0.3% 364 0.003 0.2%
500万円未満 128,850 3,604 0.028 1.0% 1,480 0.011 0.9%
500万〜1千万円未満 63,532 2,323 0.037 0.6% 1,768 0.028 1.1%
1千万〜5千万円未満 221,773 102,029 0.460 27.6% 64,698 0.292 40.1%
5千万〜1億円未満 10,501 33,199 3.162 9.0% 17,164 1.635 10.6%
1億〜10億円未満 4,820 44,508 9.234 12.0% 16,549 3.433 10.2%
10億〜50億円未満 1151 34,649 30.103 9.4% 13,188 11.458 8.2%
50億円以上 130 148,798 1144.597 40.2% 46,246 355.741 28.6%
合計 570,999 370,111   100% 161,458   100%

民間受注金額 1社当り受注金額 資本金別民間受注率
638 0.005 0.3%
2,124 0.016 1.0%
555 0.009 0.3%
37,331 0.168 17.9%
16,035 1.527 7.7%
27,959 5.801 13.4%
21,460 18.645 10.3%
102,551 788.856 49.1%
208,653   100.0%

出所:業者数は国土交通省「資本金階層別許可業者数調べ」より 2002年4月  但し、資本金階層が10億円以上については「建設工事施工統計調査報告2001年度」より

受注金額は国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告 2002年度版」より