提言・見解

「PFI法の一部改正」に関する見解

2005年8月3日
特定非営利活動法人 建設政策研究所

 政府が推進する「構造改革」の柱である「官から民へ」という政策は、経済活動や国民生活への国の関与を最小限にし、行政が責任を持って行なうべき公共事業を営利目的の民間大企業に委ねるものである。この政策に応え、公共施設の企画から設計、建設、管理、運営のすべての過程において、「民主導」の事業形態で進めるのがPFI事業である。

 PFI法は1998年の通常国会において議員立法として提出され、翌99年7月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI促進法)として成立した。

 その後、2001年11月に二つの点で大きな法「改正」が行なわれた。第1は、公共施設等の管理者に衆参両院議長、最高裁長官、会計検査院長を加え、行政府だけでなく三権のすべてをPFI事業の対象としたこと。第2には行政財産をPFI事業以外の事業との合築においてもPFI事業者に貸し付けることを可能としたこと。

 そして今通常国会(第162)ではこの延長線上でさらに大幅に民間事業者に特典を与える法「改正」が行なわれ、8月5日成立、8月15日に公布された。

 建設政策研究所は「公共」の性格を歪め、民間大企業の収益確保に最大限の公的支援を行なうPFI事業には基本的に反対する。その上で本法律「改正」が「公共」と称しながら、「民間」との境界を大きく踏み越え、いっそう民間事業者の収益確保に特典を与え、国民の公共の権利を剥奪するものとして、その問題点を明らかにし、「改正」に反対の態度を表明するものである。

PFI法「改正」の主な事項と問題点

1. 国公有財産(行政財産)の貸付けの拡充

(1) 公共施設等と民間施設との合築建物の場合

 合築建物に係わる行政財産である土地を、PFI事業者から特定民間施設(PFI施設を含む一棟の建築物≪特定建物≫の民間施設部分)を譲渡された第三者にも貸付可能(再譲渡の場合も同様)とした。(第11条の二)

(2) 合築以外の形態による民間施設の併設の場合

 特定施設(教育文化施設、熱供給施設、新エネルギー施設等の第2条第1項第3号及び第4号に掲げる施設およびそれに準ずる施設で政令で定めるもの)の設置事業で選定事業(PFI事業)の実施に資すると認められるもの(特定民間事業)の用に供するため、行政財産を当該特定民間事業を行う選定事業者(PFI事業者)に貸し付けることができるようにした。さらに選定事業者が特定民間事業に係わる特定施設(特定施設を利用する権利を含む)を譲渡する場合、当該行政資産を当該特定施設の譲渡等を受けた第三者に貸し付け可能(再譲渡の場合も同様)とした。(第11条三)

《問題点》

 当初のPFI法では、行政財産である土地を特定事業を行なうPFI事業者に貸付けるものであったが、前回改正により、特定施設に合築した民間建物を包含してPFI事業者に貸付けることを可能とした。

 今回の改正は、合築された特定建物の内公共施設(PFI施設)以外の特定民間施設を選定事業の契約解除・終了後においてPFI事業者が引続き所有・運営する場合、行政資産である土地を貸し付けることを可能とした。さらにその特定民間施設を選定事業者(PFI事業者)が他の民間事業者に譲渡する場合、譲り受けたほかの民間事業者に行政財産を貸し付けることを可能とした。

 また、合築以外の特定施設の併設事業で選定事業の実施に失すると認められる場合は、併設地の行政資産をPFI事業者に貸し付けることができるようにする。さらに特定施設の選定事業の終了あるいは契約解除後においても、併設地の行政財産を貸し付けることができる。さらにPFI事業者が他の民間事業者に特定施設(その権利を含む)を譲渡する場合に譲り受けた民間事業者に行政資産を貸し付けることを可能とした、というものである。

 このように、国民の財産である国公有地がPFI施設と合築または併設という事を名目に、民間不動産事業を行う事業者に貸与することができるようになる。さらにそれが不動産事業を行う不動産投資事業にも貸与され、優良な投資物件として機能することにつながる可能性もある。国民の財産である国や地方自治体の土地は、本来国民生活や安全上の空間として、公園や災害時の避難場所として、さらには公営住宅用土地などに利用されるものが、一部営利業者に半永久的に使用権をゆだねることになる。そして最終的には再売却、証券化等を通じ、行政財産の使用者すら不明という事になりかねない。

2.PFI事業がサービス分野を対象とすることの明確化

 目的規定に「国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保する」を明記(第3条1第4条3−1)

 指定管理者の指定に当たっては選定事業の円滑な実施が促進されるよう配慮する(第9条の二)

《問題点》

 これまでのPFI事業は民間事業者による設計・建設に重点が置かれていたが、管理・運営面において民間のノウハウをいっそう活用する手法に転換を図るもの。

 PFI事業を建設に重点を置いた場合、初期投資が大きくなり、金利負担をカバーすることが大変となる。試算では契約期間を20年とした場合、初期投資がライフサイクルコストの40%を超えると事業のメリットが期待できない、と言われている。そのため、これまでのハコ物偏重のPFI事業から病院や保育園など、マンパワーに依拠する施設の管理・運営に重点を置こうというものである。

 これは、これまでの公務員による管理・運営からパート・派遣労働者など低賃金・不安定労働者に置き換えることと連動させ、PFI事業としての土地使用や税制上の特典を得ながら、民間事業者が初期投資の少ない管理・運営を行なうことにより収益性の高い事業に転換するものである。

 しかし、運営において経済効率が重視されることにより、公共性としての@地域社会の共同利益、A住民サービスの質や安全性、環境対策などが軽視されることになる。また公共物の利用料金設定が高くなり、利用者負担増につながる可能性もある。さらに収益性を重視するため、維持管理への投資が十分に行なわれない懸念がある。その結果、公共物の安全性が低下し、利用者や周辺住民の安全が損なわれる可能性がある。

 また、PFI事業をサービス分野に重点を移すことにより、指定管理者制度などNPM(自治体等の公共セクターに新しい管理方式を適用する)にもとづく公的施設のあらゆる分野に、営利を目的とする企業が参入し、民間運営手法を導入しつつ、PFI法に基づくさまざまな恩典を得ることにより収益性を向上させることになる。

3.民間事業者の選定にあたって価格以外の評価方法の採用

 公共施設の管理者等は、民間事業者の選定を行うに当たっては、原則として価格および国民に提供されるサービスの質その他の条件により評価を行うものとすること。(第8条ニ)

《問題点》

 法改正の主旨は、PFI事業における民間事業者選定を行うに当たっては価格だけでなく民間事業者の持つ技術力や経営資源を選定の評価基準に付け加える方式を採用するとともに、管理・運営におけるサービスの質の評価を重視した選定を行うということである。しかし、そもそも公共事業で行うかPFI事業で行うかを選定するVFM(Value For Maney:公共サービスの提供についてPFI方式により公共施設等の建設、管理、運営等の公共の負担コストを現在価値で算出したものと、公共が自ら実施する場合の事業期間全体を通じての公的財政負担の見込み額の現在価格を比較すること)の算定は単純にコスト比較を行うもので、財政負担の少ない事業方式を選定するものである。これまでのPFI事業選定におけるVFM比較をみると、公務員の人件費と民間非正規労働者の人件費との単純比較が行われ、より低賃金。低労働条件の非正規労働者の使用を前提としたPFI事業が選定される場合が多い。これは結果的に国民に提供されるサービスの質の低下つながる。また、民間運営におけるサービスの向上は結果的に利用者負担の増大を招き、公共性が阻害されることにもつながる。そのため、PFI事業の事業選定者においてサービスの質を問うなら、そもそもVFM評価時に安易なPFI事業の選択ではなく、公共の責任による建設、運営・管理を選択することが、利用者にとって安全な施設づくりと質の高いサービスを提供されることにつながる。