2004年度 市民事業調査部会報告 2004/12/11

             市民事業調査部会の経過と今後の研究の方向について
                                                           市民事業調査部会
                                                           事務局
1.部会の課題・メンバー・スケジュール等について
 本部会は、公共事業の新しいあり方を探るために市民事業を調査・研究する目的で、今年初めて設けられた。2年間の計画で、成果を出版することを念頭において研究をすすめている。
 構成メンバーは、責任者 渡邊 治、助言者 小関 隆志、事務局 今井 拓、メンバーは、木村 正則、辰巳 祐史、高木 直良、高遠晴子、和田 佳一である。
 部会の目的は、@ 市民事業の特徴、問題点、課題を明らかにして、A 従来型公共事業・公共サービスへの対案を提起する、ということである。本年度当初には、次の目的、方法とスケジュールを確認している。

目的:不況の長期化の中、また地方自治体財政の厳しい状況の中、地域経済は一層冷え込み、地域産業や地域の雇用の確保が困難になってきている。一方、公共事業は高速道路をはじめ相変わらず開発型大型事業が中心で、都市部では「都市再生」と称して大規模再開発事業が展開されている。このような状況を打開するため、長野や和歌山など地方では地域住民と業者、専門家と自治体が共同し、地域要求にもとづく事業づくりが行われ、新たな公共事業として注目されている。しかし、首都圏など都市部ではその位置付けが困難であることともに、十分な掘り起こしが行われていない。そこで首都圏を中心にした市民事業とはどういうものか、その概念と位置付けを明らかにし、具体的事例の掘り起こしを行い、公共事業の転換と新しい方向性を明らかにする。 2年後に出版をめざす。

方法:
@各地方における市民事業的内容を文献等により集約し、さまざまな角度(事業種類、事業主体、事業手法、事業規模、運動内容  、阻害要因・限界など)から分類を行う。
A従来の公共事業やまちづくりとどのように異なるのか、地方の実態や文献等により市民事業の理論的概念付けを行う。
Bヨーロッパなど海外における市民事業的内容の事例と法制度上の保障を文献などより調査・分析を行う。
C首都圏における市民事業的内容をインターネットなどから把握し、ヒヤリング等を通じて詳細な事例調査を行う。
D首都圏自治体の市民事業的制度と動向及び阻害要因を調査し、その可能性を探る。   
E従来型公共事業と比較した新しい方向性および打開策を検証するとともにし、提言する。

スケジュール
  2004年 3月  全体の企画についての検討。必要な文献の紹介と研究・調査課題の検討。
    4月〜8月  各地方および海外の市民事業的内容およびについて文献等を持ち寄り分類と概要紹介のための作業分担、報告と内容検討。
    9月〜10月  従来型公共事業との違いを明らかにした市民事業の理論的概念付け及び制度的保障の仕組み、その阻害要因などの検討。
11月〜12月 中間的原稿執筆。中間報告書作成
2005年 1月  首都圏における市民事業的内容の文献やインターネットからの情報をもとに調査計画の策定
    2月〜8月  首都圏の市民事業の事例調査、国・自治体の制度や支援の仕組み調査、従来型公共事業との関係の検討
   9月〜10月  従来型公共事業と比較した新しい方向性および打開策についての提言の検討。 
   11月〜12月 原稿の執筆、その内容の討議
2006年
    1月〜2月  草稿の作成、討論
      4月  出版  


2.経過と到達点
 本年度は、調査部会を7回開催した。部会毎の議題や報告テーマは以下の通りである。

第1回調査部会 3月23日 上記企画案の検討・確認  小関氏「市民事業部会にあたって」(多数の文献・資料紹介あり)を受け、当                  面、文献資料によって、市民事業の検討をすすめ、随時ヒアリングを設定していくことに。 
第2回調査部会 4月19日 @小関「藤原俊彦(2002)」の内容紹介、A高遠「COCO湘南台の取り組み〜高齢社会におけるグループリ                  ビングへの期待」
第3回調査部会 5月17日 @今井「東北活性化センター編『コミュニティ・ビジネスの実践』」の内容紹介、A辰巳『都市政策』「コミュニ                  テイ・ビジネスの振興と課題」、B小関「『ユニバーサルデザイン』からみた市民事業の可能性」(ホーム                   レス支援の市民事業・ふるさとの会 ヒアリング)
第4回調査部会 6月28日 @高木「NPOとまちづくり」の内容紹介、A辻村「中山徹「公共事業見なおしを考える」の内容紹介」 Bふ                   るさとの会ヒアリング報告
第5回調査部会 7月30日 @今後の調査・研究方向とグループ編制について討議・決定
                  社会資本グループ会合
                  福祉グループ会合 和田「ワーカーズコレクティブによる福祉市民事業について」
第6回調査部会 10月18日 @「造って壊す℃梠繧ヘ終わった」(21世紀ビジネス塾)ビデオ視聴 A社会資本グループの調査・研                  究内容について B福祉グループの調査・研究内容について(中央設計永橋氏ヒアリング「市民参画に                   よる施設づくりとまちづくり」)
第7回調査部会 11月29日 @中間報告の内容について A中央設計レクチャー報告

 前半は文献研究を中心に、各地の市民事業の取り組みや行政による支援など市民事業をめぐる全体的状況を把握した。既存の文献は、既存の公共事業の批判として別の事業分野を提起するか、あるいは市民事業の成功例の紹介にとどまっている。そこで、本調査部会としては、具体的な市民事業の事例にあたり、その事業の抱えている問題点を含めて、特徴や課題などを客観的に明らかにしていくこととした。
 市民事業は、@.従来の公共事業への対案(住民要求に応えながら雇用を創出する新しい公共事業)、A.企業社会、営利企業への対案(市民が公共的目的のために、行政から独立に経営している事業)として期待され、取り組まれている。同時に、公共事業・公共サービスの民営化の一手法(NPOやボランティア組織が有償労働によって公的サービス事業を請け負う形態)としても利用されつつある。研究の視角としては、市民事業の公共事業のオルタナティブとしての側面を重視していくことが議論された。
 前半では、ふるさとの会のヒアリングを行った。そこでは、従来の公共事業や公共サービスとの違いや活動主体の側の事業の位置付けなどを聞き、市民事業のイメージをつかむことができた。
 後半からは、社会資本整備関係と福祉関係グループに分かれて、市民事業の関係者からのヒアリング、レクチャーを交えて、具体的な事業分野における状況と市民事業の課題や可能性を探ってきた。それぞれ、ワーカーズコレクティブと中央設計の活動内容についてヒアリングを行った。
 部会での議論の中では、市民事業の現状の問題点と今後の発展を考える上で重要な要素として、行政の関与のあり方と事業資金の手当てのふたつが強調された。


3.中間報告の概要と今後のすすめ方について
 中間報告の内容として部会で議論された概要は次のようである。
【社会資本整備関係グループ】 市民事業調査部会社会資本グループでは、都市部における社会資本整備に係る市民事業の具体例の掘り起こしをめざしているが、課題へのアプローチをふたつの側面から行ってきた。ひとつには、「従来型公共事業」も行政の側からその一部については、変わろうとしているのではないか。その実態や到達点、原動力とともに「限界性」、打開・深化の方向を見極める必要がある。ふたつ目は参加型、実践型の市民運動から発展し成果を挙げている事例です。さらに、行政主導の「行政・企業・市民活動間のパートナーシップを取り持つ中間組織」までが生まれており、注目すべきだ。

【福祉関係グループ】 介護など高齢者福祉の領域は、非常に矛盾が大きい。今後の高齢者人口の増加にどうやって対応するのか、基本となるシステムを構築しないとどうにもならない。現状では、噴出する問題に対して行政が小手先の対応に終始するなか、民間業者が営利目的で福祉分野に参入してきている。NPO法人は、認証が比較的簡単なため、良心的な業者もあるが、悪質な業者も目立つ。株式会社もピンからキリまであり、混沌としている。また、自治体ごとでも民間業者への対応はバラバラである。高齢者施設の民間事業所の側は、入所者の体力・財力がなくなったときは、退所させて生活保護にまかせるというのが本音だ。そこで、市民事業による福祉施設・サービスの提供に期待がかかることになる。当面、ワーカーズコレクティブと生活科学運営の高齢者施設の見学・ヒアリングを計画しているが、高齢者住宅提供事業をはじめとする福祉の現場の実態から市民事業の意義、課題、従来型公共サービスの限界、課題等を探りたい。

【問題提起】 社会資本にも市民事業(的なもの)は必ずある。事例を列挙すれば、橋守システム(千葉県いずみ鉄道の鉄橋保守管理事業)、小沼再生事業(NPO法人アサザ基金)、国土交通省鉄道局の社会実験(駅前市街地の活性化など)、自然エネルギーによる発電事業などであり、調査検討する必要がある。
 これまでの議論と市民事業の抱えている問題を踏まえると、今後の研究にあたってのいくつかの留意点がある。第一に、誰が市民事業をコントロールするか、チェックするのか、という点である。市民事業も社会からの適切なフィードバックがあってはじめてうまく機能する。第二に、市民事業内部の民主主義だけでなく、地域社会の民主主義に地域住民がどうコミットするのか、その中にける市民事業の役割いかん、という点だ。地域福祉計画や地域の公共事業の基本計画の策定をどのような手順ですすめるのかが問題となる。第三に、資金調達をどうしているのか、今後どうするのか、という点が大問題である。
 既存の公共事業の問題点や市民事業の課題を明らかにするとともに、公共事業の改革にあたっての市民事業の意義、位置づけも検討して、部会としてのグランドデザインを描く必要もあろう。その上で、第2年目のより具体的な調査研究活動に入るべきだ。
 
 今後の研究のすすめ方については次の4つの方向が出されている。第一、社会資本整備関連、福祉関連それぞれの市民事業の具体的事例にあたり、特徴、課題、問題点の把握していくこと、その中で、市民事業の概念についても明確に規定していくこと。第二、社会資本整備と福祉それぞれの抱えている問題点を整理し、それとの関連において市民事業の課題や役割を位置づけていくこと。第三、市民事業と提携、支援していく上で行政側の抱えている問題点や改善の努力についてもヒアリングを行い把握していくこと。第四、市民事業の発展の最大の障害となっている資金問題を重視し、特に市民事業の一分野でもあるコミュニティ金融について、調査・研究を行うこと。




                             市民事業調査部会 問題提起
                                                            2004.12.10 小関隆志

1.市民事業部会における議論の経過
(1)部会スタート時の問題意識
 この部会で最初に論点となったことは、標題にある「市民事業」とは何かという概念規定であった。
 そもそもこの部会が設置された時点での問題意識は、従来型の公共事業に対置するかたちで、市民を主体とした、市民が必要とする事業を市民事業と称し、市民事業の現状と方向性を明らかにしたいということであった。地方の衰退・失業問題、自治体の財政破綻、大型の開発事業による問題がある一方で、企業や専門家、NPOなどが自治体と連携して、より市民事業に近いものが各地に生まれてきているのではないかという認識が背後にあった。また、公共事業に対する批判にとどまらず、積極的に対案を提示する必要があるという認識もあった。そこで、2年程度をかけて首都圏を中心にさまざまな事例を掘り起こし、調査結果をまとめて刊行することを視野に入れるということで、部会がスタートした。

(2)市民事業とはいったい何か
 市民事業が従来型の公共事業に対置される概念だとすれば、従来型の公共事業と呼ばれるものに対して、市民事業はいかなる点で対極にあるのかを明らかにしなければならない。なぜならば、従来型の公共事業に対する批判点は極めて多様だからである。資源の浪費、国家予算の浪費、自治体財政の破綻、政治家とゼネコンの利権、行政主導・住民不在、環境破壊、大型のハード事業重視など。市民事業とは、いかなる価値を優先した事業なのかが、必ずしも明らかとはいえない。地方分権なのか、環境保護や自然エネルギーなのか、住民参加か、ハードではなくソフトなのか、大型ではなく小型がいいのか、雇用創出なのか、社会的弱者の保護を旨とするのか。そもそも、あらゆる理想を同時に体現したような事業など、はたして存在するのかという疑問も生じる。
 他方、既に市民事業と自称する事業が多様に形成されてきており、多様な文脈とニュアンスをもって各々が市民事業という言葉を使っている。当然のことながら市民事業の統一的な定義は存在しない。自己雇用系(ワーカーズコレクティブ)、環境系(自然エネルギー)、福祉系(老人ホーム、障害者の店舗)、地域活性化系(農村アグリビジネス、地域通貨、商店街)、支援組織系(金融、中間支援)、市民活動系(子育て、社会教育、医療など)などに大別されよう。ただし、行政や営利企業への対案、地域社会・自然環境への配慮といったおおまかな方向性は共有していると見て差し支えない。
また、市民事業とかなり近い表現で、コミュニティ・ビジネスや社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)があり、現在はどちらかといえば後者のほうがポピュラーだが、市民事業とはどう違うのか、あるいは同じとみて差し支えないのかも検討を要する。
要するに、市民事業とは何か、何を目指すものかを明らかにすることが、この部会の調査を成功させる大前提となる。

(3)ふるさとの会へのヒアリング
 その後2回にわたって、市民事業やコミュニティ・ビジネスに関する文献を読み、内容を検討した。地域におけるビジネスの成功例は多数紹介されているものの、従来型の公共事業との対比で市民事業はいかなる特徴を持ち、優れているのかは、必ずしも判然としなかった。
 5月末に、山谷地域のホームレスを支援するNPO法人、自立支援センター・ふるさとの会を訪問し、行政の行っているホームレス対策事業と、NPOの行っているホームレス支援事業の違いを学び、市民事業を考察する上で具体的なイメージを描くヒントになった。
ここで仮にNPOの行っているホームレス支援事業を市民事業と呼ぶならば、細かな違いは多々あるが、ふるさとの会の事例を通して見えてきた一つの根本的な違いは、一人ひとりの人間(特に弱者)の目線からものごとを発想しているか、縦割りでなく総合的な事業であるか、であろう。
 一人ひとりの目線に立てば、ごく短期間の職業訓練や生活改善プログラムで充分だとはいえないし、ハード整備重視に偏ることもなく、居住と雇用を切り離した政策も出てこないはずだ。また、縦割りでなく総合的な視点に立てば、ホームレスの支援と地域経済の活性化と高齢者福祉を同時に視野に入れることが可能となる。

(4)各グループに分かれての議論
 以上、市民事業とは何かというイメージ構築の作業が、7月までの経過である。9月以降、分野別にグループに分かれ、各論の検討に入った。当初は数多くの分野の現状を調べたいと考えていたが、人数的な制約もあり、社会資本整備と住宅・福祉の2グループが個別に議論を始めた。
 社会資本整備Gは、道路や河川の整備を中心に検討したが、道路や河川の整備は行政が行うものであって、パブリック・インボルブメントのような市民参加はあり得ても、市民事業にはなじまないのではないかという疑問が出された。11月に中央設計を訪問して、利用者参加型設計の事例として、ヒアリングを行った。
 住宅・福祉G(のちに福祉部門Gと改称)は、高齢者介護施設および高齢者住宅に焦点をしぼり、施設で介護サービスを実際に行っているメンバーの和田氏にヒアリングを行い、生活科学運営やWNJ(ワーカーズコレクティブ・ネットワーク・ジャパン)の経営理念を検討した。今後、和田氏が勤務する施設を訪問してヒアリングを行い、従来の行政主導による高齢者介護の問題をどのように克服してきたかを明らかにしたいと考えている。

2.市民事業に対する視点
(1)公共事業への市民参加、参加型公共事業
 従来の公共事業に対置して市民事業を位置づけるとすると、ひとつは公共事業への市民参加がある。住民からの意見を集めるもの(PI)から、住民がボランティアとして事業に協力したり、まちづくり社会実験のように一定期間事業に参加するものまで幅広い。

(2)行政から民間へ(民間の参入、民営化)
 もう一つの市民事業は、従来行政機関や公益法人が独占していた事業分野に企業やNPOが参入したり、公営から民営に移行したりするものがある。公的介護保険や電力自由化などが挙げられる。

(3)政策的背景
 コミュニティビジネスとしては、地域経済の活性化をはじめ多様な種類があるが、ここでは公共事業の限界を乗り越える試みとして市民事業を位置づけているので、視点をしぼって、市民事業が登場した政策的背景をまずおさえておきたい。
一方では新自由主義政策のもとで、医療・福祉・教育の民営化・地方分権化が進み、国の責任と関与が少なくなってきている。民間の参入する余地が増え、独創性の発揮といったプラスの面もあるが、所得格差と不平等の拡大、サービスの質の確保などマイナスの面も指摘されている。
 他方、社会資本整備をみると、住民の身近な部分(公園・河川など)は住民参加の視点を取り入れているが、高速道路や新幹線、都市再生、ダム建設といった大型事業は依然として存続し、市民事業の介入する余地は乏しい。
国・自治体の財政が逼迫しているため、PFIの導入、民営化、民間参入など、民間からの資金調達が進んでいる。

(4)市民事業の意義
 市民事業は、従来の公共事業と比較して、どの点で異なり、優位性があるのかを分析することによって、その意義を明らかにできるのではないか。

(5)市民事業の課題
 また、単に意義を強調するだけではなく、市民事業の抱える課題を論じることが、今後市民事業を発展させる上で不可欠と思われる。
 特に、市民事業の資金調達については、個々の市民事業体がどのように経営努力しているのかというミクロの点と、市民事業に融資・助成している金融機関(市民金融とも呼ばれる)の役割、市民金融をめぐる政策・制度というマクロの点の両者が求められる。

(6)市民事業の展望
 市民事業といっても、全てが良いことをしているという保証はないし、盲目的な信頼は腐敗や独裁を招くことになる。行政による指導監督が行き届かず、行政にあまり期待できない現状では、社会による市民事業へのチェックを働かせることで、健全な市民事業を発展させることにつながるだろう。
 また、個々の市民事業による個別の努力にはおのずから限界があり、地域計画を市民主体で作り上げることにどうつながっていくのかにも注目したい。さらには、財政面で市民事業の育成発展を支える仕組みを作る可能性も考えたい。


3.今後の調査の方向性
来年1年間かけて、上記の視点から事例調査を進め、調査結果をまとめる。
・社会資本整備、福祉、資金調達の3グループがそれぞれの分野で先進的な事例を調べる。
・各々の分野における政策的背景、市民事業の意義を明らかにする。
・市民事業の現状と課題、展望をさぐる。




                  
「市民事業と社会資本整備」グループ中間報告
                                                             社会資本整備グループ責任者
                                                             2004/11/27 高木 直良

 このプロジェクトのスタートから半年以上を経たが、「市民事業」の実態や定義がいまひとつ分からないところからまだ脱しきれず、いまだ模索を繰り返している途中というのが現状です。特に「企画」にうたっている「都市部における社会資本整備に係る具体例の掘り起こし」に関しては、なかなかこれというものに出会っていません。
 しかし、これまでの文献調査やグループ討議から見えつつあることについて簡単にまとめ中間の報告をします。

1 二つの側面からのアプローチ
 これまでの議論を振り返るとこの課題へのアプローチを二つの側面から行ってきたのではないかと言えます。
一つの側面は、「企画」の問題意識の出発点である「従来型公共事業」が行政側の方からも変わろうとしているのではないか。いまや自治体で「市民協働事業」や「NPO」との連携事業は珍しくありません。その実態と到達点や原動力とともに「限界」性、そしてその打開・深化の方向を見極める必要があるということです。
 二つめの側面は、「市民事業」とか「コミニティ・ビジネス」とか言われる以前から地域に湧き出るように誕生した環境問題やまちづくり・まちおこし関係のNPOや参加型、実践型の市民運動から発展し成果を挙げている事例です。行政から独立した運動を展開し成果を挙げているものもあれば、行政(自治体・政府機関)まで巻き込んで動かすまでに発展しているものまで見られます。
 そして行政が仕掛け人となっている「行政・企業・市民活動間のパートナーシップを取り持つ中間組織」までが生まれています。NPOが過大に評価される傾向とともにこれらの動きをどのように評価すべきか。

1 転換迫られる公共事業の現状・・・行政側からの変革の可能性と限界と
 従来型公共事業への鋭い批判を続けている五十嵐敬喜氏の著書「市民事業」(天野玲子氏との共著)や「脱ダム宣言」で象徴的存在になった田中長野県知事の講演「市民事業」、中山徹氏の「公共事業費の削減と地元建設業の対策」(議会と自治体2004.4)を参考にしながら下記の事例を見てきました。
1)行政が主導して仕組みづくりや参加型事業を展開
○世田谷区まちづくりセンター・ファンドの場合
 79年から木造密集市街地の環境整備事業が「住民参加による修復形まちづくり」がモデル地区から始められ、82年には区民参加  を基本理念とする「まちづくり条例」を制定され、92年にはまちづくりの「主体としての住民の確立」と住民、行政、企業三者の調整   機能を果たす「まちづくりセンター」を設立した。同時に住民のまちづくり活動を資金的に支援する「公益信託世田谷まちづくりファン  ド」を設立し、これまで276グループの助成を行っている。
○「平成16年度河川技術講習会=技術の自治とは何か=市民も参加する公共業」
・メダカやドジョウ等の身近な水域に棲む魚類等の生息環境の改善に向けて
・地域の創意・工夫を活かした川づくり・市民の声を取り入れた荒川づくり
・技術の自治=市民も参加する公共事業(伝統治水技術の再評価)
○「水辺の楽校」(各地のイベントなどがHPで紹介されている)
2)「つくってこわす」時代から「メンテナンス」重視へ・持続可能な循環型社会実現へ
○ 国・地方自治体での「アセットマネジメント」作成(高度成長期に作られた橋やトンネルなど土木構造物の計画的補修による長寿命 化によるコスト削減)の動き
○ NHK番組「21世紀ビジネス塾“造って壊す”時代は終わった、メンテナンスが日本を変える」(第三セクター「いすみ鉄道」の鉄橋の 維持方法はS38年以前の旧国鉄時代にはあった毎日点検と修理を行う「橋守」の経験を活かしたベンチャー企業の知恵。橋の寿命 をあと70年から100年延ばせるという。) 
○ 「自然再生」事業「つくったものをこわす」ことも。
 河川の護岸改修で直線化された川道をもとの蛇行した川に戻す事業。
 アメリカでのダム撤去
 ソウルの高架道路を撤去し河川(精渓川)を復活する事業 
3)「参加」・「見直し」の形づくり
○ 外環道延伸事業でのPI(パブリック・インボルブメント)方式(事業に関して市民の意見を公開の場で聴取する制度として宣伝され  ているが、その実態を具体的に探る必要がある)
○ 埼玉県道路事業箇所評価
 上田新知事のもとで県の道路建設事業の「新たな評価基準」に評価が行われた。特徴として@精度(きめ細かな評価、ニーズに即 した評価A合理性(幅広い意見、専門的見解)をあげているが、特に「県民や市町村のニーズを6地域に分けてきめ細かく把握とし  て県民1万人と全市町村にアンケート、地域ごとに評価項目に重みを設定した」ことを挙げ自負している)
4)止まらない従来型公共事業(国交省、日本道路公団)の最近の動向
○画期的な大型公共事業の地裁判決での事業者敗北と控訴・・・圏央道裁判
○新たな展開=「都市再生」事業の全国展開
○止まらない高速道路網建設の全国展開(民営化論議の大山鳴動してねずみ1匹)
5)「自治体抜きのまちづくり」・・・強力な逆流の傾向
○ PFIと指定管理者制度導入
○ 規制緩和・・・都市計画決定の「迅速化」、民間建築確認申請
6)変革への展望
○いくつかの県での知事などトップの「リーダーシップ」の見直しのもとでの変革
○小さな自治体での情報公開と住民密着型事業の推進
○職場単位での住民との協働の体験の積み重ねなどの変革の芽を応援し、依然として根強い従来型の流れや企業利益優先の「規 制緩和」などの逆流を押しとどめなければならない。
2 市民・NPO・専門業者等による「市民事業」の流れ
1)全国各地でのNPOによるまちづくり、町おこし
   自然環境・・・水系レベルの取り組み(NPO鶴見川水系ネットワーク)
   森林再生、自然エネルギー開発(「市民事業」や「NPOとまちづくり」に事例)
2)社会資本メンテナンスへの業界技術者として技術的提案(21世紀型)
   鉄道橋のメンテナンス(長寿命化技術)・・・コスト面、廃棄物削減
3)グランドワークという取り組み
○英国・・・1981,英国環境省により行政・地域住民・企業とのパートナーシップ
       英サウスウェールス地区閉山炭鉱跡地での地域再生・美しい景観
○日本グランドワーク協会(主務官庁=農水省、環境省、国交省、1996.10設立、地方公共団体、民間企業が出捐)
○「パートナーシップによる環境再生事業を通じて、持続可能な地域社会を構築すること」と定義(従来の行政機関と地域活動グルー プの連携を促進する中間支援機関、企業に対してはCSR=企業の社会的責任活動の一形態として提案)
○各地域ではNPO法人として地域の自然環境再生や学校の総合学習支援や環境教育支援が行われている(NPOグランドワーク福  岡、NPOグランドワーク三島)
4)「中央設計」の30年間の取り組みに学ぶ(04.11.25事務所訪問、永橋代表、高田広報出版部長から聞き取り)
   住宅・医療・福祉施設の相談から設計監理と保守管理まで手がけてきたが、ほとんどが市民が運動でつくる施設であり、「まちづ   くり」をも追求している建築設計会社としての30年間の経験の真髄を聞かせてもらった。
○特別用語老人ホーム「やわら木苑」(千葉県松戸市,92年)・・・700人の「つくる会」会員が土地探しから資金集めに係わり、7年かか りで建設
○特別擁護老人ホーム「サンシャイン美濃白川」(岐阜県白川町)・・・「福祉でまちづくり」をめざす白川町が社会福祉法人を設立して 建設。町民と自治体の連携と熱意が100回におよぶ「建設委員会」を開かせた。これを設計会社として支え、要望を活かす設計を行 った。完成時には町民の一割が見学にきた。
○芦別市立子供センター「つばさ」(北海道芦別市02年、保育所・子育て支援センター・児童センター・母子通園センターの複合施設)
 公募された市民が参加する8回の懇話会での検討内容を基本設計に反映させるプロポーザルでそのアイデアやアドバイスが認め  られ選ばれた。
○会社代表の永橋氏の居住地逗子市での、一市民(専門家)としてまちづくりへの参加の経験
・池子米軍家族住宅建設反対運動から「まちづくり懇話会」参加、会OBからなる「逗子まちづくり研究会」の活動、そして現在は「逗子 市まちづくり基本計画準備研究会」、「逗子まちづくり基本計画市民会議」「逗子市市民参加条例検討委員会」での活動・・・常に周り の市民とともに組織をつくって活動、適宜意見書を公表し市民や行政に働きかけてきた。

 今後はこうした二つの側面からの現場調査や主要な人物からの聞き取りを含めて事例研究を進め、そこから見えてくる問題を深める必要があるのではないでしょうか。

●主な資料・参考図書
五十嵐敬喜・天野玲子著「市民事業」
○ 緑の公共事業が始まった(長野県、和歌山県、北海道、高知県)
○ 無駄の再利用(雪、雨水、生ごみの再資源化、エネルギーとしての活用)
○ 自然再生エネルギーで暮らす(市民風力発電、木質バイオマス、菜種アブラ)
○ 森と川と海をつなぐ(植樹で海を守る、近自然工法の河川改修、登山道整備、瀬戸内海の浄化作戦)
○ 福祉・環境・まちづくり(岡山市の路面電車、早稲田大学商店街の地域活性化、北海道の小建設会社が農業に、愛知県高浜市の 宅老所・介護予防等拠点整備事業、平塚市NPOひなたぼっこ)
○ “ポスト公共事業社会”の設計図(市民事業法をつくる)
 長野県田中知事講演「市民事業」
○ 補助金依存の大型公共事業(一律の規格・大規模工事対象が招くモラルハザード、中央ゼネコンへの利益の還流の構造)の矛盾 からローカルルール型の地元密着型公共事業への転換(五直し=水直し、森直し、道直し、田直し、街直し)
○ 入札制度改革、地域建設業(重機、地元技術者を持つ)の支援、脱ダム宣言、建設業からの転換支援(農業・森林再生事業への  転換)
○ 転換への応援、プログラム

「NPOとまちづくり」明日へジャンプ!まちをささえる市民事業体
・ 建設省年政策・市街地建築課推薦 NPOとまちづくり研究会編(97.6.15)
1まちづくりNPOの意義と必要性
1) なぜNPOという言葉か使われるようになったか
   無給ボランティアの限界、NGOとの区別
2) NPOを必要とする社会的諸課題
   高度に発達した「企業セクター」と「行政セクター」
   「NPOを第三のセクター」とする「新しい社会の構造」の必要性
   ・95年の阪神淡路大震災の救急、救援、復旧.復興の過程での企業・行政の限界
   ・「個の確立」「生甲斐のある生活」「他人任せでない自分自身の手による生活」など「より質の高い生活」を求める
3市民活動を支える社会の仕組み:NPO社会へ
1) 市民社会の未来を市民自身の手で拓いていくために:多様な選択の機会を持つ社会
2) 市民運動によって市民のための制度を作る
4水平の人間関係:NPOの世界
2) ボランティア活動が開いた水平の人間関係
3) 「一緒に取り組む」という「水平の関係」が「人間の優しさや創造性」を誘い出す
4) NPO社会の本質
まちづくりNPOの全体像
1) 広がる「まちづくり活動」の領域
2) 「市民主体のまちづくり」
3) ボランティアではなく仕事にしたい
1居心地のいい環境づくりをめざして(つくば市、世田谷区)
2ゆたかなたのしい住まいづくりをめざして(名古屋市、つくば市)
3地域を元気にするために(滋賀県長浜市、奈良市)
4地域の文化を守り育てるために(三春町、有田市)
5地域でみんなが暮らせるように(町田市成瀬、横浜市、日野市)
6自然環境に親しみ守るために(釧路湿原、京都市、世田谷区)
7市民のネットワークをきづくために(神奈川県、神戸市)
8住民を支援する地域の専門家をつくって(世田谷区、東京都)




                  
市民事業調査部会 福祉グループの問題意識と課題
                                                       福祉グループ責任者 高遠 晴子

市民の要望は在宅介護より施設介護
 2000年4月より介護保険法が施行され、3年毎に見直しがされるようになっており、2003年に1回目の見直しがされている。介護保険施行はイコール地方分権で、都道府県、市町村の力量が問われ、施行当初は一般市民の介護保険に対する認知度のばらつきも大きかった。漸く利用者サイドも介護保険のシステムを理解するようになってきた。
 本来、介護保険の目的は、在宅での家族介護と利用者の自立支援であるが、全国の傾向としては施設介護の要望が強くなっている。介護保険施行後の4年の間に、首都圏では有料老人ホームやグループホーム、ディサービス事業所などの多くの介護支援事業所が林立しているのも、老人介護施設の運営が、社会福祉法人でないと経営できない特別養護老人施設を除いて、株式会社やNPO法人など民間が出来るようになったからだ。
 介護保険法が施行されてからは、施行される前の福祉法と絡んだ場合は、介護保険法が優先される。介護費の負担は、本人や家族の年収に関係なく、介護度毎に設定された給付限度額内のサービスメニューを選んだ場合は一割負担となり、超えた場合は超えた分が全額負担となる。施設に入るために自治体をまたいで転居した場合は、現行法では転居前の自治体負担だったのが居住する自治体が負担することになった。
 人々に優しいまち、福祉のまちと謳っていた地町村が、介護保険制定後は自分ところの負担が大きくなるという問題を抱えることになり、民間の取り組む有料老人ホームやグループホームの建設を地元市町村が市長の意見書を出さないという策をとって窓口を閉じているところも出てきた。

施設ラッシュにみられる質の格差
 団塊世代が支える現在の高齢者は年金も豊かにあり、所得の高い人が多い。もっと施設をとのニーズに応えるかのように、ここ3〜4年間は民間による施設建設ラッシュだった。雇用の場を広げたりもした。その傾向は、今でもあるが、運営、経営に関しては、ほんの3年前のようにはいかない。どんな施設でも数が少なかったため入居希望者はあったが、数が増えて来て入居を考える人たちの目が肥え、その質が問われ、ニーズに対して質の向上を求められるようになって来た。
 利用者サイドに立って理想を追求しながら行政と一体となって合法的に運営しているところと、誇大広告と実態が一致しないで利用者から苦情が多く、公正取引委員会が目を凝らしているところとがある。
 施設建設の段階で地域とのコンセンサスを図り、住む者の意見を取り入れながら進めていくところと、儲けを生み出す部屋数にだけ囚われて使い勝手の悪い施設とがある。
 一般的に前者はまちづくりを担っていると考えていることが多い。どのみち、建設段階から運営に至ってまで、多くの人々の関わりがあるところはそうは悪い方向には流れ難いものである。財産を投げ打って劣悪な施設に入居してしまったら取り返しがつかないことになる。

行政指導と監査
 行政指導も追いつかず、金銭面においては利用者とのトラブルを回避するために明文化しておけばよいという程度である。3年に1回の割合で行われる監査において指定を取り消されるところが少なくないが、担当者いかんによって差が生じている。また、厚生労働省のHPによると、関西や九州においての方が、指定取り消し内容など、監査が厳しい模様である。

金の切れ目が介護の切れ目
 今後団塊世代が高齢者になった時に、どの層がどのように支えていくのか問題点が山積みされている。現在、民間会社が自社ビルでなく大家さんから建物を借りている施設経営が傾き始めたら、経営者は入居者を置き去りにし、持つべく物を持って逃げることが犯罪だが可能だ。その尻拭いは行政であろう。
 身寄りがなく孤独な老人が、高齢者の4人に1人が高齢性認知症(痴呆症改め)に、6人のうち1人は必ずアルツハイマー病になるだろうと言われる中で、どのような死の形を作っていくか、誰がどのようなサポートをするのか、財産の絡みも出てくるだろう。
 NPO法人の中には、本来、その子どもたちをはじめとする後継者がやっていたことを肩代わりする事業をしているところがあるが、あくまでもしっかりした思考を持っている段階で本人と契約し、本人の承諾のもとターミナルのプログラムが用意される。
 そういった人たちに財産があれば何らかの手を打つ者が出てくるが、財産がなかったりなくなったりした人たちの行き着くところは生活保護法という結局は行政の財政に飛び込むことになるのだろうか。民間の施設運営も経営者が逃げてしまっても、そこに人が生活している以上は行政の加護に頼ることになる。
 今後は、特別養護老人ホームの施設建設を誰の決定で行われることになるのか。
旧型特養と新型特養の月額利用料は、旧型特養が4〜6人床のお部屋で5〜6万円位、新型特養は、全室個室で9〜10万円位で、生活空間としての質は向上するがそれとともに利用者負担も増える。現行法のように収入に応じて減免処置が図られていた頃とは違って、低所得者が重い介護の必要な高齢者を抱えた場合、入れる施設はない。

既存の建物を改修した類似施設とその問題点
 学生が住み着かなくなった学生寮やバブル崩壊後に企業が退去してしまった社宅の独身寮、閉鎖してしまったホテル、物流倉庫など既存の建物を、老人ホームに対するニーズの多様化や既存の社会資源の活用という観点から、改修して有料老人ホームを運営するというケースが多くある。
 各都道府県の指導指針を遵守した形で進められたものであれば「集合住宅」や「寄宿舎」、「倉庫」という建物用途を「有料老人ホーム」への用途変更が可能であり、特定指定施設となることができる。
 だが、中には有料老人ホームとしての届出をしていないところも多い。また届出をしても福祉施設としての建築、消防等の関係法令に添わなくて、特に介護付高齢者住宅においては特定指定施設になれないところがかなり残っている。
 行政が懸念するのは、有料老人ホームに該当するにも関わらず届出をせず、実態として事業を経営し、「ケア付高齢者住宅」「終身介護施設」「高齢者福祉住宅」等と称して広告、集客するケースに対して、届出を徹底させ指針水準に適合させようというものである。そういった住宅がいわゆる「類似施設」と呼ばれる。ヘルパー対利用者が1対多の施設介護をしながら1対1でなければならない在宅介護の給付限度額(在宅介護の方が施設介護よりも介護度が高くなると高額)を丸取りして運営するという問題が発生している。以下にも補足。

有料老人ホームの設置について(参考資料:千葉県有料老人ホーム設置手引き)
 有料老人ホームについて多少詳しく述べると、有料老人ホームは、10人以上のお年寄りに対して、食事やその他日常生活上で必要なお世話を提供する施設であれば名称、形態を問わずこれに該当する。事業運営は個人でなければ法人格があれば誰でも可能である。ただし、医療法人は不可。また会社を新設する場合は要協議)
 有料老人ホームの事業運営は、まずは地元の市町村に相談することから始める。地域社会や近隣の住民の理解を得ながら進めることが不可欠で、設置予定地についてはどのような法の規制があるか、地元市町村の担当部署には十分確認をとり進めていかなければならない。
 市町村との協議が終了したら、引き続き県との事前協議の申請をする。お年寄りの生活支援施設として適切な機能があるかどうかを県が事前に審査する。お年寄りがホームで生活するためには、建物の構造設備や運営の面で、様々な配慮が必要であるため、県では、利用者保護の観点から、一定水準以上の運営機能を確保してもらうため、有料老人ホームのあるべき形(千葉県有料老人ホーム設置運営指導指針)を示して事業者の方に指導助言を行っている。県は県指針に対する適合性を審査する。
既存の建物については用途変更が必要である。
 建築確認後に設置に関する届出を行う。有料老人ホームの設置については、老人福祉法に基づき、県知事宛に届出が必要で、その時期は、事前協議が終了し、建築確認後速やかに提出する。そして工事完了後、事業開始した場合速やかに県知事宛に事業開始届を提出する。
 有料老人ホームには健康型有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、介護型有料老人ホームの3つの類型があり、入居者が介護を要する状態になった場合でも、施設が介護サービスを提供することにより施設での入居生活を継続できる介護型有料老人ホームは、介護保険適用施設(特定施設入所者生活介護事業)として事業開始前までにあらかじめ介護保険法に基づく指定を受けておく必要がある。必要な様式は県の担当部署に備えられている。
有料老人ホームを開設した後は、設置届において届け出た内容事項の変更が生じたらその都度都道府県知事あてに変更届を提出しなければならない。重要事項説明書においては、毎年県に報告し、また県から定期的あるいは随時立ち入り検査がおこなわれるので、適正な運営、入居者に満足されるサービスの提供を心がける必要がある。

■介護型有料老人ホーム
 要介護認定者に対するサービス提供を有料老人ホーム自体が行うものとして、介護保険上は「指定特定施設入居者生活介護」事業に該当し、当該事業の指定を受けるものである。
従って、その指摘順の遵守は当然のこと、特段の配慮が求められる要介護高齢者に対し、快適な居住空間の提供及び適切な生活支援を十分に果たせるように、その運営及び構造設備等には更なる配慮が求められる。
指針においては、「介護型」有料老人ホームについては、その利用者の特性から特に十分な権利保護を図る必要があると考えるものであり、介護居室の床面積等具体的な水準を得に定めるので、「介護保険適用サービス」としての運営を企画する事業者にあっては、当該水準を満たすべく努めること。

■住宅型有料老人ホーム
 住宅型有料老人ホームについては、訪問介護事業サービス等生活支援サービスを入居者が自由な選択による意思に基づき利用することにより、要介護状態になっても必要な介護保険サービスを受けられるものである。しかし、有料老人ホーム自体は介護サービスの提供を行わないため、その構造設備等は必ずしも要介護者に配慮されたものとはなっていないことが多く、そうした有料老人ホームにあっては、開設当初から入居者における要介護者の割合を高くして運営することは制度上も想定していないものである。
また、介護保険における訪問介護サービスは「1:1」で行うことが原則であるが、近年、訪問介護事業サービスを有料老人ホーム内に併設若しくは外部に設置し、ほとんどその有料老人ホームのみに特化した介護サービスを提供し、上記原則を遵守せず、サービス提供した人数分でケアプラン上必要もなく介護報酬限度額一杯の報酬サービスを行うケースが見受けられる。こうした事業形態は制度上も不適当というべきであり、そうした事業者にあっては、所要の施設設備の改善を行った上で特定施設の指定をうけるように努めなくてはならない。

■健康型有料老人ホーム
 介護を必要としない高齢者のためのシニアハウス。

〔介護型有料老人ホームの配置人員基準〕
 施設長(管理者)1名 介護知識経験を有するもの。専従
 事務員
 生活相談員   常勤換算 入居者100名又は端数を増すごとに1以上
 看護・介護職員 要介護認定度の入居者数3:職員1  端数切り上げ
         2.5:1以上だと介護保険料以外の介護費を取ることができる。
手厚い介護(介護保険給付対象以外のサービス)をするための人件費で算定式を明確にする。
要支援者数10:職員1  端数切り上げ

看護職員の数   30人未満 常勤換算1名
         利用者の数が30を越えて50名、又はその端数を増す毎に1以上
         入居者全員が要支援の場合は1名いれば足りる。
栄養士
調理員
機能訓練指導員  1以上 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、柔道整復師、
あんまマッサージ指圧師
計画作成担当者  1以上(利用者の数が100又はその端数を増す毎に1を標準とする)

介護保険制度が地方分権の確立につなげて施行され、多様な事業主が出現しているが、その実態も多種多様である。様々な介護支援事業所は地域リソースやボランティアなど活用しながら介護保険料という公的資金を利用して事業展開するも、市民事業としての考え方につながるのか、目下検討中である。





            社会的責任投資(SRI)と非営利・協同セクターの役割・課題
                             ――コミュニティ投資を中心として――
                                                                  小関 隆志

はじめに
社会的責任投資(Social Responsible Investment; 以下SRIと略称)は、企業社会責任(Corporate Social Responsibility; 以下CSRと略称)を促進する一手法として日本においても近年注目を集めている。
だが、SRIにおいて、非営利組織や協同組合などの非営利・協同セクターが重要な役割を担っていることは、少なくとも日本においてはあまり意識されてこなかった。
また、SRIのなかで、コミュニティ投資はあまり議論されてこなかったが、特に非営利・協同セクターの役割を考察する上で、コミュニティ投資の分野は見逃せない。
本論文は、特にコミュニティ投資の分野に焦点を当てながら、SRIにおける非営利・協同セクターの役割と課題を明らかにしたい。

1.SRIと非営利組織
(1)SRIの歴史的背景と近年の状況
SRIの歴史的背景をふりかえると、教会や市民運動組織などの非営利組織や、政府による政策・法制度といった市場外部からの圧力がSRIの成長に大きな影響を与えたといえる。
SRIの源流は欧米の宗教者による教会資金の運用として始まり、1970年代以降にベトナム反戦運動や南アフリカのアパルトヘイト反対運動、消費者運動などと結びついた株主行動が盛り上がった。1990年代以降急成長を見せているこんにちのSRIは、年金基金など機関投資家によるスクリーニング が中心で、SRIの源流にあった宗教的・倫理的・社会運動的な色彩が薄れ、より企業的で組織的な色彩が濃くなっている。だが、かつて宗教的・倫理的・社会運動的なSRIの運動で問われた社会問題が現在のSRIの投資基準として一定程度受け継がれ、宗教関係団体や市民運動組織が現在でも大きな影響力を持っていること は、非営利・協同セクターの役割を考察する上で見逃せない。
 
 
注1. SRIにおけるスクリーニング(screening)とは、経済のみならず社会・環境・倫理(SEE)の観点から基準を設けて投資対象を選別すること。ネガティブ・スクリーニングは、特     定の産業や商品の種類を社会的に望ましくないものとして排除する手法で、タバコ、アルコール、ギャンブル、武器などが代表的。アメリカではネガティブ・スクリーニング      が中心である。他方ポジティブ・スクリーニングは、特定の産業や商品を排除することはせず、社会的・環境的・経済的に多様な基準(人権の擁護、環境保護、地域社会      への貢献など)を設け、優れた業績の企業を選ぶ手法で、GRIやSA8000など、CSRの基準やガイドラインが参照されることも多い。日本ではポジティブ・スクリーニングが     行われている。
   2. 社会運動、消費者運動、反戦運動がSRIの歴史的発展に与えた影響については、高田一樹「社会的責任投資の方法論と社会的・歴史的経緯の検討」
     http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~li025960/home/topics/040423report.html に詳しい。

  

(2)SRIにおける非営利組織の役割
Guay, Dohらによれば、SRIにおける非営利組織の役割は近年とみに増大しているというが 、SRIにおける非営利組織の役割を一言でいうならSRIのfacilitator(促進者)であろう。具体的には、SRIの形態によって、非営利組織の役割も多様である。
第一に、スクリーニングに際しては、非営利組織はSRI運用会社と提携して各企業を調査し、スクリーニングの判断基準となる情報提供を行うことが多い(EIRiS、Ethibel Group、パブリックリソースセンターなど)。また、SRIの推進組織である社会投資フォーラム(SIF)も非営利組織である。SRI資産運用は投資信託銀行などが主だが、非営利のPax World FundsやTriodos Bankなどもある。AccountAbilityやSAI、GRIなどのように、CSRのマネジメント規格やガイドラインを作成・推進している非営利組織も、スクリーニングの選定基準を提供している点で重要な役割を果たしている。
第二に、株主行動に関しては、@非営利組織が自ら株主として、株主総会で提案したり、経営者側と交渉したりして、要求を反映させようとする。A企業の株主に対して問題の所在を知らせ、株主行動に協力してくれるよう説得する。B株主の代理として行動する。スクリーニングも株主行動も、企業に対する監視の役割を非営利組織は担っている。
コミュニティ投資については非営利組織が資金を仲介したり、資金提供したりしている。
以下コミュニティ投資に焦点を当てて、アメリカ、イギリス、日本の状況を検討したい。なお、本論文で「コミュニティ投資」という場合、コミュニティへの純粋な寄付活動ではなく、貧しい地域に立地する小規模零細企業に対する融資を主に念頭においている。また、貧しい地域の開発だけでなく、自然エネルギー事業やフェアトレード事業なども含める。

   3. Terrence Guay, Jonathan P. Doh and Graham Sinclair, “Non-governmental Organizations, Shareholder Activism, and Socially Responsible Investments: Ethical,
    Strategic, and Governance Implications,” Journal of Business Ethics, Vol.52, 2004.6.


2.コミュニティ投資
(1)コミュニティ投資の位置
SRIにはスクリーニング、株主行動、コミュニティ投資の3種類が典型的な形態とされるが、これまで日本ではスクリーニングが主な関心の対象であった。歴史的な経緯を考えれば、日本では、スクリーニングは市民運動の系譜と関係の薄いところで、企業主導で始められたのに対し、株主行動やコミュニティ投資が主に小規模な市民運動組織や協同組合金融機関によって、大企業と対抗する形で続いてきた。
コミュニティ投資がSRIの議論から除かれた理由として、次の3点が考えられる。
@スクリーニングや株主行動の投資は金融投資を意味するが、コミュニティ投資の場合は、公共投資、すなわち地域住民の生活に密着した社会資本を整備したり、地域の住民や企業に資金を積極的に融通することを意味することが多い。公共投資の場合は、特定の投資家に収益が帰属するのではなく、現在及び将来の世代に帰属する点で金融投資とは異なる。また、コミュニティ投資の場合は、株式の購入というよりも住民組織や非営利組織への寄付、個人住宅や小規模零細企業への低利融資など、多様な形態をとりうる。
A一般にスクリーニングの対象となるのは株式上場の大企業であり、投資家にとっても、大企業にとっても、SRIはリスク管理に役立つと一般に認識されている。しかし、コミュニティ投資が主にフィールドとしている地域は経済が停滞し、貧困層が多く住んでいるなど、問題を多く抱えている。また主な融資対象は個人や小規模零細企業が主であり、融資のリスクが相対的に高い 。金額的にも大企業への投資に比べればごくわずかなため、スケール・メリットの享受は期待できない。
他方で、年金基金などの機関投資家は、受託者責任を課せられている。スクリーニングが受託者責任との関係で正当性を持ちえたのは、選択可能な他の投資と同等の経済的価値を有する限りにおいてであった 。
Bコミュニティ投資が日本に皆無というわけではないが「コミュニティ投資」として認識されることがあまりなかった。また、コミュニティ投資を促進する政策が存在しないこともあって、日本でコミュニティ投資を論じる意味が見出しにくい、ということが考えられる。
だが、今後コミュニティ投資への関心が高まる可能性は充分あり得る。
第一はスクリーニング判断基準への組み込みである。現時点では、一般的にスクリーニングの要件に組み入れられているのは寄付やボランティア支援であるが、金融投資は含まれていない。しかし、寄付やボランティアなどの社会貢献活動には限界がある。今後、コミュニティ投資への社会の関心が高まれば、世論の後押しを受けて、将来的にコミュニティ投資がスクリーニングの基準に含まれることも充分あり得る。
第二は法制度的環境の整備である。アメリカやイギリスなどにおいてコミュニティ投資が発展を見せている背景には、投資を促進する積極的な政策が政府によって進められ、法律・制度が整備されたことが挙げられる。
第三はコミュニティ投資が単なる社会貢献や慈善事業(コスト要因)ではなく、ビジネスチャンス(収益要因)になりうるとの見方が広がれば、社会的圧力や法制度的な後押しがあまりなくても、企業が自発的にコミュニティ投資に積極的な姿勢を示すことになろう。
加えて、投資対象となる社会的企業(Social Enterprises; SE)や社会的協同組合が経済復興だけでなく雇用拡大や福祉の面からも注目され、ヨーロッパ諸国で成長を続けている。日本においても地域経済の活性化としてコミュニティ・ビジネスが注目を集めているが、他方で社会的企業やコミュニティ・ビジネス、非営利組織にとって、資金調達が事業拡大には不可欠の難題であり、その面からもコミュニティ投資の重要性は大きい。
コミュニティ投資を論じる際に不可欠の存在がコミュニティ開発金融機関(Community Development Financial Institution: CDFIs)である。CDFIは、従来の銀行や金融機関からは充分に融資を受けられないコミュニティを中心に融資する専門の金融機関である。CDFIには、コミュニティ開発銀行やクレジット・ユニオン、貸付基金、ベンチャー・キャピタル、零細企業融資が含まれる。主な融資先は非営利組織、社会的企業、協同組合、コミュニティ・個人などで、既存の金融機関からは融資されない低所得層の住民や零細企業、非営利組織の経済的自立を図り、地域経済全体を活性化することを目的としている。

   
4.cdfaへのインタビュー(2004年9月7日)によると、現在の貸し倒れ率は12%と高く、借り手のキャパシティ・ビルディングなどが必    要とのことであった。
    5.SRI評価・格付機関SERM Rating Companyへのインタビュー(2004年9月2日)。


(2)アメリカのコミュニティ投資
@歴史的発展
アメリカでは1960年代後半以降、CDFIsの設立が本格的に始まった。1973年には初のコミュニティ開発専門の金融機関である南ショア銀行がシカゴ市に設立され、住民の利益を最優先にした経営で荒廃した地域をよみがえらせるとともに銀行自体の経営も業績を伸ばし、見事に成功を収めた。さらに1977年には地域再投資法(CRA)が成立し、地域への責任(低所得地域への融資やマイノリティからの役員登用など)を果たさない金融機関には支店開設、合併、買収などを認めないという規制が課された。
1980年代のコミュニティ金融破綻に対して、1989年にCRAの規制強化が行われ、マイノリティなど中低所得層への融資対応に関する報告書を公開することが義務付けられた。コミュニティ投資は1990年代以降大きな成長を見せた。

A法制度
CDFI法は、低所得層のコミュニティが資本や預金にアクセスする機会を拡充するとともに、CDFIに対して連邦政府が支援することを定めている 。2004年9月末現在で、ファンド創設以来全米176のコミュニティ組織に対して既に57,843,468ドルが供給され、現在68組織に対して約4665万ドルが供給されている。
他方、免税制度(NMTC)は、低所得層の地域における不動産取引やベンチャー・ビジネスへの投資を促進することで、低所得層の地域での資金不足を補うことを目的としている。
NMTCは、7年間のうち前半の3年間は投資総額の5%相当額を、CDEを通じて投資者に毎年還元され、後半の4年間は投資総額の6%相当額を毎年還元される仕組みになっている 。2002年に第1回の募集が行われ、345のコミュニティ開発組織が総額25億ドル分の免税額を割り当てられた。

Bコミュニティ投資の現状
ファンドや免税などの法制度に支えられる形で、CDFI資金が低所得層の地域に供給されるシステムが近年発達・定着してきた。CDFIの数も現在600を超えるまでになった。
CDFI Coalitionが442のCDFIを対象に行った2002年度調査によれば、442組織の総資産は102億ドル、7800の企業に融資し、34000の雇用を支え、経済困窮者の抵当4100件を帳消しにするなど、多くの実績を上げている。
融資先の種別を見ると、金額ベースでは住宅が融資全体の60%と最も多く、企業が18%、個人が12%、コミュニティサービスが6%と、個人向け融資がかなりの割合を占める。
1993年にはCDFI1団体平均180万ドルの融資実績だったのが、10年後の2002年末には平均2800万ドルと、15倍以上に伸びた 。他方、社会投資フォーラム(USA-SIF)が2003年に行った調査によれば、CDFIの総資産は140億ドル。2001年から2年間で資産が84%も増加したという 。

    
6.Holly Sraeel, “CDFIs get signed into law,” Bank Systems & Technology, Vol.31, 1994.11.
     7.CDFI Fund, “New Markets Tax Credits Program”. http://www.cdfifund.gov/programs/programs.asp?programID=5
     8. Claire Rusko-Berger, “CDFIs take a chance on those chancing the community,” Baltimore Business Journal, 21(37), 2004.1.
     9.Social Investment Forum, “2003 Report on Socially Responsible Investing Trends in the United States,” SIF Industry Research Program, 2003.12, pp.23-24.         http://www.socialinvest.org/areas/research/

    

(3)イギリスのコミュニティ投資
@歴史的発展
今日の本格的なCDFIの発展に直接つながる動きはブレア政権の誕生以降で、まだ日が浅い。1980年代以降、イギリス国内での貧富格差は拡大し、貧しい地域は社会福祉や企業の寄付に依存する傾向にあったが、貧しい地域の経済的自立をかえって阻む荒廃の悪循環に陥った。こうした状況に対して貧しい地域に資金を調達し自立的な地域発展を促すために生まれたのがCDFIsであった。
1998年、政府部内の社会的排除局が、社会的排除に関する政策を検討した結果、中小企業局が貧困地域の企業を支援するCDFIsを奨励し、またフェニックス・ファンドを1999年に設立することとなった。さらに2000年10月、政府部内の社会投資タスクフォースが勧告を大蔵大臣に提出した結果、CDFIsの推進組織cdfaが2002年4月に設立された。
CDFIsの法的地位が改善をみたのもこの時期であった。チャリティ委員会は2000年、「コミュニティの力量形成」をチャリティの目的条項として新たに加えることを宣言、2001年末までにチャリティとしてCDFIsを認めるガイドラインを設けることを決めた。

A法制度
フェニックス・ファンドは、貿易産業相によって1999年11月に設立された基金である。この基金は、貧困な地域、少数民族や女性といった、事業への支援や融資を受けにくい人々に対して融資の機会を提供することを目的とし、あわせて社会的企業の創設・発展をも促進する。ただし、社会的企業が直接融資を受けるのではなく、CDFIsなどの専門インターミディアリ を通してということになる。
1999年から2003年までに、40のCDFIsに対し約2000万ポンドの資金を供給した 。現在、CDFIsの収入のなかで、フェニックス・ファンドからの資金が占める割合は30%を占め、CDFIsセクターの急成長を経済的に支えてきた。だが2006年をもって終了の予定であり、CDFIsは将来への危機感を募らせている。
免税制度(CITR) は投資家の納税義務を減免するもので、投資額の5%に相当する額までの減税を、5年間にわたり認める。投資家にとっては減税のメリットを享受し、CDFIsは、5%以上の高率で投資を募ることができるというメリットを享受できる。CITRは、投資家にとって好条件を提示しているため、一般に歓迎されている。またこうした制度の効果もあって、商業銀行に比べてCDFIsは高い成長率を誇っている。

B現状と課題
イギリス国内のCDFIsの数(クレジット・ユニオンを除く)は、正確には把握されていないが、60〜70程度存在していると推計されている。そのうちcdfaに加盟しているCDFIsは51組織にのぼる(2004年9月現在) 。
CDFIsは近年急速にその数を増やしてきた。cdfaの調査によれば、調査に回答した36組織のうち、設立後2年未満の組織が全体の過半数を占める。融資は4,292件、総額約1億ポンド、資産総額は2.2億ポンド、事業向け融資は平均で4,000ポンド程度、CDFIの資産規模では中規模(50〜100万ポンド)が全体の3分の1を占める、などの点が明らかになった。 
イギリスのCDFIsの課題は、まず認知度の低さである。コミュニティ投資の需要は高いが、設立から日が浅い組織が多く、まだ社会の中で市民権を得ているとは言えない 。
次に、リスクの大きさである。貧困地域や少数民族など経済的に不利な人々に対して融資することから、担保価値の確保という点では確かにハイリスクである。その上、アメリカのように再保険制度がまだ整っていない。貸し倒れ率はまだ12%と高く、民間の投資を呼び込むには不十分なので、債務者に対して企業経営や融資に関するアドバイスをするなど、キャパシティ・ビルディングを行う必要があるという。また、CDFIsの融資担当者も専門性を高めることが強く求められている。

CCDFIの事例
CDFIはコミュニティ開発金融機関の総称であって、その実態は極めて多様である。イギリス全土を活動エリアにしている比較的大規模な組織もあれば、一つの地域(たとえばロンドン)だけに限定している組織もある。営利企業もあれば、非営利組織もあり、また政府系に近い組織もある。ここでは2つの事例を挙げるにとどめたい。
oneLondonは、大ロンドン開発公社(Greater London Enterprise: GLE) の一部門として設立されたCDFIで、企業経営支援とコミュニティ形成支援を幅広く手がけている。企業経営支援としては、融資、経営上の助言・指導、黒人・マイノリティの事業支援などを行う。
コミュニティ形成支援としては、若者への教育、学校と企業の連携、職業訓練、CSR活動への支援などを行っている。2002年には6000人以上の事業主を支援し、200の新しく生まれた企業に100万ポンド以上を融資し、不利益をこうむっているロンドン市民300人以上に職を与えた。2002年度の貸付基金は170万ポンドに達し、片親の家庭や難民、女性、黒人・少数民族などによる事業に融資した 。
Co-operative Bankは、融資に際してネガティブ・スクリーニングを行うほか、フェアトレードやチャリティ、社会的企業に対して積極的に融資するSRI銀行である。投資基準(ネガティブスクリーニングを含む)は”Ethical Policy”に8項目にわたり整理されている(基本的人権、武器取引、企業社会責任、遺伝子組み換え、社会的企業、生態系への影響、動物愛護、消費者保護)。また、コミュニティ投資にも熱心で、コミュニティ再生のために取り組むチャリティに対しては手数料を無料にして支援している(“Community Directplus”のFree Bankingサービス) 。

これまでアメリカ、イギリスにおけるコミュニティ投資の歴史的経過と政策・法制度、現状と課題を概観してきた。これらの非営利組織、協同組合金融機関は、政府とコミュニティの住民、非営利組織、企業、投資家など多様な主体間の橋渡しとして中心的な役割を果たしている。また、資金仲介にとどまらず、衰退したコミュニティに密着しながら、住民の要求に応えるかたちでコミュニティ再生を図ってきた点で、商業銀行と決定的に異なっている。住民の生活・事業に密着しながらコミュニティの再生を図り、地域経済の自律的な発展を支えてきたことは、経営ノウハウの提供や、若者に対する職業訓練なども同時に行っている点にも、顕著に現れている。

    
10. インターミディアリ(intermediary)とは、NPOなどに対して主に資金を供給する仲介組織。論者によっては資金だけでなく情報・ノウハウなども幅広く含める場合がある         が、ここでは投資者と起業家(債務者)の橋渡しによって資金供給を促進する組織を指す。CDFIsは貧困な地域の再生を専ら目的としているため専門インターミディア        リという。
     11.Small Business Service, “The Phoenix Fund”, http://www.sbs.gov.uk/phoenix/Phoenix Fund for CDFIs,” http://www.sbs.gov.uk/finance/phoenix_cdfi_r3.php
     12.51組織のうちcdfaの会員(member)が31、準会員(associates)が21(筆者のインタビューによる;2004年9月7日)。
     13. CDFIsの課題は、cdfaへのインタビュー(2004年9月7日)による。
     14.大ロンドン開発公社(GLE)はロンドン市内33自治組織(borough)が共同所有する公共の経済開発機関だが、税金は使わず独立採算で経営している。
       http://www.gle.co.uk/about.htm
     15.oneLondon, “Review 2002,” p.14. なお、oneLondonの活動の具体例はウェブサイトhttp://www.gle.co.uk/onelondon/enterprisedevelopment.htm に詳しく紹介さ       れている。
     16.Co-operative Bankについて詳しくはウェブサイトhttp://www.co-operativebank.co.uk/。

       

(4)日本のコミュニティ投資
@地域開発投資
 アメリカやイギリスでコミュニティ投資を論じる際に、主に念頭にあるのは、黒人や先住民などの少数民族、女性、高齢者で貧しい人々や失業者、ホームレスなどが集住し、そのコミュニティ全体が貧困と荒廃に苦しんでいるというイメージである。
日本においても、貧困にあえぐ地域は決して少なくない。都市部においては、その代表的な地域が山谷・寿町・釜ヶ崎をはじめとする日雇い労働者の集住地区であり、1990年代以降長期不況の影響を受けて日雇い労働者のホームレス化が急速に進んだ。失業率の増加とホームレス化は、地域経済全体の冷え込み、衰退に直結する。他方、農村部に目を転じれば、極端な人口減と高齢化、農業所得の低迷によって、コミュニティそのものが崩壊しかけている農山漁村が目立つ。
コミュニティ・ビジネスへの支援、ボランティア活動やNPOとの協働によって地域の課題に取り組もうという姿勢は、近年自治体の中に少しずつ芽生えてきたが、マイノリティや貧困層、高齢者などを対象としたコミュニティ投資は、日本ではまだほとんどないと言ってよい 。

A社会開発投資
日本ではむしろフェアトレード事業や、自然エネルギーの活用、女性や障害者の起業、NPOなど、社会開発投資の分野に、多くの事例を見ることができる。融資は日本のNPOにとって従来なじみが薄かったが、法人格を獲得し事業規模が拡大するにつれ、融資を受ける必要性・可能性は次第に大きくなってきた。
ここには主に2つの流れがみられるが、一つは協同組合金融機関が社会貢献的な意味合いを込めて、NPO法人や市民事業に対して融資を始めたというものである。たとえば労働金庫によるNPOへの融資(NPO事業サポートローン)を開始し 、また永代信用組合(当時)がプレスオールターナティブと提携して1989年に市民バンクを設けた 。
もう一つは市民組織が特定のテーマに沿った事業に融資するもので、市民金融とも呼ばれる。未来バンク事業組合、北海道NPOバンクなどが近年日本各地に誕生している 。
他方、政府・自治体による政策をみると、NPOへの融資制度を設けた自治体がいくつか生まれてきたことが挙げられる 。
NPO法人は利潤非分配の原則上、配当を原則とする出資にそぐわず、出資による資金調達を許されていないため、事業拡大にあたって資金調達に限界を感じている組織も少なくない。また、金融機関を設立することは難しいため、有限責任中間法人にしたり、私募債という形で調達したり、二重組織を作るなどの例がみられる。
NPOへの融資には、NPOの財政基盤や担保価値が低いこと、信用保証制度の対象外であること、融資案件に相当する事業が絶対的に少ないこと、などの問題点があると指摘されている 。また山口郁子は、NPO法人への融資に際して、NPOそのものに対する認識の低さと事業評価の難しさ、信用力の判定基準のあいまいさ、社会性評価と事業運営のギャップなどを挙げている 。

B地元中小企業への融資
小規模零細企業の多くは、信用金庫や信用組合といった、地域に根ざした協同組合金融機関からの融資にかなりの部分を依存してきた。信用金庫や信用組合、農協などをコミュニティ投資の担い手と位置づけることができよう。
2005年4月のペイオフ完全実施を控えて、多くの信用金庫・信用組合が非常に厳しい経営環境に立たされている。近年は、金融庁が不良債権処理と地域経済の再生を同時に進めるリレーションシップ・バンキングの機能強化策を導入するなど変化の兆しも現れている。
     
17. ただし、一つ例を挙げるとすれば、山谷地域でホームレスの支援を行っているNPO法人自立支援センターふるさとの会は、ホームレスの自立支援を通して山谷           地域の再生を図ろうとしている。ホームレスが職を得て経済的に自立した生活を送れるようになれば、商店街で買い物をするだけの購買力も得られ、地域の産業          ・雇用を新たに生み出すことにもつながるからである。「福祉から雇用へ」の発想といえよう。ふるさとの会は、中央労働金庫や未来バンク事業組合などから融資         を受け、ホームレスのための宿泊施設を増設しているが、この種の融資はアメリカやイギリスなどで行われているコミュニティ投資のイメージにかなり近いと考え           られる。筆者によるインタビュー(2004.4.12、2004.5.26、6.21)。
       18.中央労働金庫の山口郁子によれば、NPOの資金不足に際して、「市民活動の担い手を育成するため」の助成と、「社会的事業体を支援していくため」の融資制度          (「ろうきんNPO事業サポートローン」)の双方を中央労働金庫は行っており、これは、中央労働金庫の社会貢献事業の一環として位置づけられている。労働金庫         は全国に、北海道、東北、中央、新潟、長野、静岡、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄の13組織からなるが、そのうちNPO融資制度を持っているのが           10あるという(融資実績があるのは8)。労働金庫の中でも先がけて融資制度を導入したのが中央、近畿労金で、2004年度末時点での融資残高は、全国計で            100件、6億8285万円(うち近畿労金は37件、3億2450万円、中央労金は37件、2億1080万円)となっている(筆者らのインタビュー2004.6.28による)。全国労働金         庫協会の多賀俊二は論文「NPO施策と労働金庫」(労働金庫研究所『RESEARCH』15号、2004.10)を著し、「地域共生ファイナンス」の一環としてNPOへの融資を         今後発展させるべきだと述べている。市民バンクhttp://www.p-alt.co.jp/bank/ 。
       19.(社)全国信用金庫協会のコミュニティビジネス支援研究会は「市民事業を支える地域金融の可能性を拓く」と題する報告書を発表し(2004.5)、NPOなどが取り組ん          でいる市民事業を支援することは信用金庫の社会的使命であると位置づけている。http://www.shinkin.org
       20.1994年設立の未来バンク事業組合 http://homepage3.nifty.com/miraibank/ 、生活クラブ生協などのメンバーによって1998年に設立された女性・市民信用組合          設立準備会(WCC)http://www.wccsj.com/、西京銀行と市民バンクの提携により2001年に発足したしあわせ市民バンクhttp://www.lets.gr.jp/bank/、全国初の          NPO専門バンクとして2002年に発足した北海道NPOバンクhttp://www.npo-hokkaido.org/bank_hp/top.htm、中央労働金庫と提携して助成と融資を行う、ちば市          民活動・市民事業サポートクラブ(NPOクラブ) http://www2.odn.ne.jp/npo-club/、
         長野県に2003年設立されたNPO夢バンクhttp://www.npo-nagano.org/topics/bank、
         生活クラブ生協などが2003年に設立した東京コミュニティパワーバンクhttp://www.h7.dion.ne.jp/~fund/、
         坂本龍一・櫻井和寿らアーティストが2004年に開始したアーティストパワーバンクhttp://www.apbank.jp/。
       21.秋田県NPO融資http://www.pref.akita.jp/tyosei/sys/hyouka/h14/tousyo/H210404.pdf、
          群馬県のNPO活動支援整備基金http://www.pref.gunma.jp/g/02/g020020.htm、
          長野県のNPO活動振興資金金融http://www.pref.nagano.jp/seikan/seibun/volunteer/yuushi.htm 、
          広島市NPO活動支援融資制度http://www.city.hiroshima.jp/shimin/siminkatsudou-suishin/npoyushi.html、
          京都市助成金等内定者資金融資制度 http://www.kac.or.jp/boshu/yu-si/など。また、NPOや労働金庫などと提携して行う場合もある。北海道NPOバンクには          北海道庁の出資と札幌市の寄付が、NPO夢バンクには長野県庁の無利子融資が大きな役割を果たした。
       22.樽見弘紀(北海学園大学)「市民金融の可能性」(NPO研究フォーラム2004年6月例会における発表)2004.6.による。
       23. 山口郁子「ろうきんはNPOバンクになれるか」アリスセンター『たあとる通信』2号、2001.4、16ページ。


おわりに
コミュニティ投資の意義は第一に、不利な地域の人々に資金を積極的に供給し、地域間の経済格差を緩和することである。税金による所得再分配機能に限界があるなかで、市場の仕組みを活用したコミュニティ投資は、新たな可能性をもっている。
第二に、海外輸出や工場誘致といった外発的な経済発展ではなく、住民自身が身の丈にあった事業で地域の活性化を図るという内発的発展のモデルを示していることである。
第三に、SRIの一角に位置づけられることである。日本ではまだ関心が強いとは言えないが、アメリカではSRI投資家によるコミュニティへの投資が「1%キャンペーン」などで進んでいる。投資家がコミュニティ投資に可能性を見出せば、今後の発展も期待できる。
課題としては、まずコミュニティ投資の脆弱性が挙げられる。情報不足も、関心の低い一因であろう。コミュニティ金融機関の専門性を高め、一般市民や投資家に教育・啓発し、社会的企業の経営の力量を高めるなどして、今後の展望を切り開くことが求められている。特に日本においては、コミュニティ投資をどのように促進するのか、まずは広汎な議論を起こしていくことが重要であろう。




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