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建設政策研究所 編
頒価 1000円(送料別)


目次

はじめに
序章 報告作成の基本的問題意識
第1章 財政危機・構造不況下における建設市場の縮小と建設産業の動向
第2章 建設業における雇用・就労実態とそれへの対応
第3章 働くルールづくりを通じた組織化の戦略
第4章 労働組合組織から見た公共事業、公共調達政策の制度・政策改革
第5章 建設構造不況下における労働者組織化への提言


はじめに

 本報告書は、土木野丁場における労働者の組織化の基本方針を明らかにする目的で、全日本建設交運一般労働組合(建交労)の委託により2003年1月より開始された、「土木野丁場調査」の最終取りまとめである。この調査は、何よりもまず、土木野丁場労働者に多発してきたトンネルじん肺などの労働災害・職業病を生み出す構造的問題を解明すること、そして問題解決のために不可欠な労働者の組織化にむけた基本的な方向性を明らかにすることを主な課題として開始された。そして2年あまりに及ぶ調査期間の中で、その内容は土木分野や特定の要求対象・戦略に制限されない広範囲に渡るものとなった。というのも我々の立地点である現在の日本の経済社会状況、つまり戦後日本の経済政策が維持してきた建設業を経済成長の牽引役あるいは景気調整弁として位置づけるという土木国家戦略が、1990年代後半以降の建設投資の急激な減少とここ数年間の「構造改革」の旗印の下、急激に転換しつつあることによる。我々は、過去の運動の到達点から学びつつ、歴史的転換期という認識に立って建設業全体を見据え、現代日本の経済社会において建設労働が担う役割と直面する問題点を歴史的・構造的・実態的に把握し組織化の方針を導き出す、というより多元的に開かれた視野を必要とした。

 調査の過程を振り返ると、第一段階として予備調査報告書では、建交労の野丁場での運動の成果と教訓の整理分析から、以下の4点を導き出した。一つは、建設業および建設現場の現状を捉え、その中で労働者とその組織が抱える影響を把握し、その二つの関連づけに裏付けられた行動を方針づけるという関係論、一つは、それを主体的に担う人々つまり労働組合リーダーの養成システム、そして一つは、問題発見・問題分析・運動目標・運動形態・運動組織といった体系的構築、である。そして、過去の運動における状況認識と運動は、地域的創造性に基づいた活動家の自立的活動であったという指摘がされている。

 第二段階として中間報告書では、予備調査で実施された現場聞き取り(発注官庁・ゼネコン管理者への聞き取りおよびトンネル調査)等から検討された研究枠組みに沿って、以下の4課題を設定している。第一に、元下関係の下での生産管理および労働条件を「現場類型(工事・規模)」ごとに把握しその規定要因を解明すること、第二に、労働者の出自・就労経路・生活状況等を調査しその経済的・社会的特性を明らかにすること、第三に、労働者の意識や諸要求、労働生活条件改善等に対する諸政策課題を明らかにすること、第四に、以上の解明の上で組織化戦略、政策的要求戦略を明らかにすること、である。ゆえに中間的な取りまとめの中では、それまでの調査を基に、T財政危機・構造不況化における建設産業の動向(統計的把握)、U発注者と業者の施工管理の実態と問題点、V主要職種における専門工事業者、労働者の実態と問題点、W野丁場就労者、事業所の実態と要求(U〜Wは政策分析・現場聞き取り・労働者アンケートから)、そして以上をもとに、X野丁場の政策・組織化・運動、において組織化のスケッチとの関係を整理した。

 これらの段階を経て、最終報告書に向けた課題として以下の4点が挙げられた。一つは、近年の「構造改革」下における建設投資の動向を種類別・地域別・規模別・政府あるいは地方自治体による建設業施策を含め分析すること、一つは、都市部だけでなく地方における建設業・建設労働市場をその社会経済的特性を踏まえて実態的に把握すること、一つは、現場の生産組織における労働者(特に中核となる職長)の役割と元下関係における支配構造の変化を解明すること、そして、もう一つは各主体によってこれまで進められてきた特徴的な運動の到達点を整理することである。これらの調査を継続する過程において、労働組合が他の運動団体、専門職種団体、地方自治体などといった他の主体や大衆社会に、あるいは政策・産業としての新たなルールづくりに、どのように関わっていくべきかという問題が強く意識されるようになった。最終報告書をまとめるに当って、仕事就労確保・現場からの働くルールづくり・制度政策要求・組織的課題という4側面に関わる戦略ごとの章立てとしたのは、これらの調査から導き出された問題設定に基づいたものである。

 本報告書の内容を各章ごとに概説すると、以下の内容となる。

 まず序章「報告作成の基本的問題意識―建設産業縮小時代における労働組合組織化の課題」では、野丁場調査最終報告書作成にあたっての問題意識として、建設業を取り巻くグローバル化した今日の社会経済状況がどのような運動の枠組みに置かれているのかという広範な視角の下で、建設労働組織化に対して以下の提起がなされている。つまり、建設関連分野を含めたより広角的な組織化の対象設定を行うこと、労使関係の個別化を背景とした運動のあり方として人間回復を基本課題に他の市民運動との連携を図ること、これまでのいわゆる周辺労働者をも包括する舞台装置を構築し労働組合の社会的機能・政策立案能力を高めること、労働条件の悪化の歯止めを「労働基準」から問い直すこと、中小企業経営者や“隠れた労働者”などの賃金労務単価についての経営上の明確化を行うこと、「構造改革」を批判的に検討し行政の民主化と国民生活・地域産業発展の具体的代替案を提起すること、等である。

 第1章「財政危機・構造不況下における建設市場の縮小と建設産業の動向」では、特に90年代後半以降の建設市場の縮小下における建設就業者数、業者数の推移の特徴を基礎的統計分析によって明らかにした。また、公共投資・民間投資をめぐる変化を、国、地方自治体の財政動向や地域ごとの建設投資、業者の受注動態の統計的推移に基づき分析した。

 第2章「建設業における雇用・就業実態とそれへの対応」では、雇用・就業問題に焦点をあてて、仕事・就労対策と組織化戦略を掲げた。新自由主義的構造改革下における建設産業の性格を述べ、今後の地域経済・社会にとって望まれる建設産業を展望した。そして、東京や徳島で行った聞き取り調査の結果に基づき、都市部と地方の建設業者、労働者の雇用・就業の実態を明らかにした。それぞれ特有の問題をかかえているが、とくに、地方の建設業者、労働者においては、公共事業の縮小の下で急激な仕事の減少、賃金・単価の低下を経験していることがわかった。そのため、公共事業の内容を生活密着型に転換させた場合の雇用創出効果を試算し、一定の効果があることを示した。最後に、仕事・就労対策と組織化戦略に関する提言を掲げた。

 第3章「働くルールづくりを通じた組織化の戦略」では、現場における監理・管理体制と労働者の就労実態を主に現場の労使関係に焦点を当てて分析し、労働協約確立運動を通じた組織化の道筋を提示した。現在、野丁場の現場では発注者・ゼネコンによる委託化が拡大し、ゼネコン技術者の能力が低下する一方で元下契約関係に変化が見られる。また現場の労務管理機構においては、雇用の外部化・責任施工の徹底・コスト削減圧力の下で、施工監理管理責任や利益創出努力がより一層中核的労働者である職長層へ転嫁されるとともに彼らの労働条件が悪化している。このような現場の支配構造の変化は、既存システムの下での矛盾の拡大という点において、職長などの現場中核的労働者を組織化対象とする条件を提示しているともいえる。それとの関連で、野丁場労働者の賃金・労働条件の実態の特徴を示した。そして、労働組合による産別・業種別・現場別労働協約をめざした今日の取り組みを、いくつかのケースに基づき紹介した。これらの運動の到達点をふまえて、今後の組織化戦略を展望した。

 第4章「公共事業、公共調達への制度・政策要求と組織化戦略」では、公共事業に求められる基本点とそれを実現するにあたって必要な制度・政策を、公正労働条件確保(公契約)運動や国、地方自治体の公共投資および公共事業運営の改革への展望を通して明らかにした。また、これらの制度・政策要求を活用した組織化の可能性も示すことにした。現在、公共事業、公共調達にかかわる制度・政策が建設業者・労働者だけではなく、ひろく国民・住民、地域経済・社会にとっても充分に機能しなくなっているとの立場に立ち、労働組合、国民・住民の側からその改革を目指したものになっている。

 以上の報告を通して、第5章「建設構造不況下における労働者組織化への提言」では、本調査を総括的に振り返り、これまで得られた事実、知見を一定の仮説によって再構成した上で、組織化戦略策定に政策的な含意ないしはヒントとして活用されるよう提言として組み立てた。グローバリゼーション、「構造改革」路線の下、さまざまな場面で進行している諸現実に対して、建設産業、建設労働者に生じている状況を軸にしながら、労働組合による組織化への展望を総合的見地をもって幅広く述べている。

 本報告書の内容は以上の通りである。21世紀の初頭、経済、政治、社会のあらゆる場面で急激な転換を余儀なくされている。労働者、労働組合、国民・住民においても例外ではない。この状況を打破するためにも、本報告書が積極的に活用・応用されることを期待する。