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『首都圏を席捲する建売住販メーカー パワービルダー研究』←好評につき売り切れました。

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神奈川県建設労働組合連合会
建設政策研究所 編

初版 2006年12月 発行
増補版2版 2007年7月 発行
頒価 1500円(送料別)


刊行にあたって

 本書は、「神奈川県パワービルダー調査」(神奈川県建設労働組合連合会と建設政策研究所の共同研究 2006年 実施)の報告書の補論を割愛し、本文のデータ全体を集録したものである。共同研究の経緯等は、本書の「はじめに」で紹介されている。増補版刊行にあたって、巻末に『建設政策』111号(2007年1月)の特集記事を付した。

 本書は、首都圏の住宅市場を席巻している建売住販メーカーであるパワービルダーについて、現場労働者ヒアリング等に基づき、経営と生産の実態を明らかにした。類書は見当たらず、最初の著作である。先行する調査・研究がほとんど無い中で、神奈川県パワービルダー調査は、神奈川県のパワービルダーの生産現場の実態を調査すること、そして、パワービルダーについての基本的な研究を行なうことがその中心となった。

 パワービルダーは、首都圏を中心に、床面積30坪程度の土地付き一戸建住宅を2000万円台から3000万円台を中心に大量供給する住宅メーカーである。パワービルダー各社は、毎年1千から数千棟の住宅を供給している。このような低価格住宅の大量供給を行なうにあたって、パワービルダーは、第一に、土地利用規制・建築規制の緩和の流れに乗り、従来利用できなかった類の用地を大量に開発していった。第二に、用地の取得、部材の生産、施工過程等住宅造りの主要な工程を徹底してアウトソーシングし、低コストで調達してきた。第三に、低価格大量供給により建売住宅市場での独占的な地位を確立すると、それを利用して部材単価、施工単価を切り下げること等により、建売住宅の急速な低 価格化を実現してきた。その実態と現場労働者等への影響が本書で明らかにされている。

 最近、パワービルダー各社の首都圏以外への展開もはじまっており、また、各地方都市においては、ローコストビルダーと言われる中規模の建売住販メーカーの伸長も目立つ。建売住販メーカーによる住宅供給の拡大は、地域住宅市場の大きな攪乱要因となっている。本書におけるパワービルダーの分析は、住宅市場におけるローコストビルダーを含む建売住販メーカーの台頭の意味、その結果生じている住宅づくりのあり方の変質を的確に捉えていく上で重要であろう。

 なお、パワービルダーの住宅供給の急拡大には最近陰りが見られ、パワービルダーの一部には注文住宅生産に乗り出す状況もある。低価格化による販売拡張戦略は限界に到達しつつあるとも考えられる。

 最後に、今回の共同研究は神奈川県連のパワービルダー問題に対するふたつの視角(パワービルダー現場労働者の組織化と労使交渉機構の確立、及び町場住宅生産の再構築)に導かれ、本書に結実した。労働組合の課題を論じた章は問題に直面している各建設労働組合にとっても示唆するところが多いであろう。

目次

はじめに p.1
第1章 神奈川県の住宅市場における戸建住宅部門―統計比較分析から p.5
 第1節 1都3県の住宅市場 p.5
 第2節 1都3県の地価の動向 p.13
 第3節 建設事業所と建設従業者の推移 p.15
 第4節 住宅市場と住宅政策―神奈川県の住宅計画を中心に p.18
 統計資料(1都3県) p.19
第2章 戦後の住宅産業の発展とパワービルダー拡大の背景 p.31
 第1節 戦後の住宅産業の変化 p.31
 第2節 住宅生産インフラストラクチャーの整備 p.34
 第3節 新たな住宅供給業者としてのパワービルダーの登場 p.38
 第4節 土地利用規制・建築規制緩和とパワービルダーの住宅市場への浸透 p.43
第3章 パワービルダーの生産組織 p.48
 第1節 自社組織 p.48
 第2節 土地の仕入れ・販売―不動産業者聞き取りから p.50
 第3節 部材・加工の流れ―材木業者聞き取りから p.53
 第4節 大工の集め方・契約形態 p.56
 第5節 設備メーカー・設備工との関係―バスユニット設備工の事例から p.61
第4章 パワービルダー各社の販売戦略 p.63
 第1節 「飯田グループ」の沿革―一建設の設立、他社の設立・小会社化、資本関係解消 p.63
 第2節 「飯田グループ」の「一貫システム」―基本理念、工法合理化と品質保証 p.65
 第3節 「飯田グループ」以外の企業の特徴―城南建設、アイダ設計、センチュリーホーム p.71
第5章 パワービルダーの経営財務の特徴と動向―上場企業の指標から p.74
 第1節 経営の特徴―ハウスメーカーよりは、ディベロッパーに近い p.74
 第2節 飯田産業からみる最近の動向― 一棟当たり販売額の低下、経営財務状態の悪化等 p.84
 第3節 パワービルダー企業間の比較―新興企業の低価格参入 p.92
 第4節 まとめ―パワービルダーの事業の特徴 p.105
第6章 単価・労働条件、現場の実態、職人意識 p.109
 第1節 パワービルダー現場従事者の賃金・労働条件の特徴―賃金調査結果に基づいて p.109
 第2節 神奈川県における現場従事者調査から p.121
  T 単価・労働条件 p.123
  U 現場の工程管理・品質管理のしくみ、現場の実態 p.134
  V 職人意識、職人同士のつながり p.139
第7章 パワービルダーの住まいをどう評価するか p.146
第8章 パワービルダー調査から見えてくる労働組合の課題 p.146
 第1節 建設労働組合が対峙する2つの課題 p.151
 第2節 急務となる現場労働者の組織化と団体交渉権の確立 p.152
 第3節 パワービルダーの弱点から見えてくる「町場再構築」の展望 p.157
おわりに p.161
巻末資料:「パワービルダー研究―建売市場の拡大と住宅造りの変質」『建設政策』111号
(2007年1月)特集記事抜粋