第35回定期総会 議案書(抜粋版)
日時:2023年12月2日
会場:けんせつプラザ東京(オンライン併用開催)
1.2023年度 活動経過報告
2.2024年度 活動方針
2023年度 活動経過報告
Ⅰ. この1年間の重点活動
この1年間、建設産業・労働・経済の動向を踏まえて活動を進めてきた。以下に今年度の主要な活動について報告する。
1.調査研究活動
〇およそ10年に1度実施している4都県(東京、埼玉、千葉、神奈川)の建設労働組合の基礎調査を開始した。これまでに11回の委員会を開催し、現在、アンケートを実施中である。今後、アンケート調査結果をまとめるほか、ヒアリング調査などを行い、報告書をまとめる予定である。
〇埼玉土建一般労働組合から「賃金討議アンケートの入力」業務を受託した。
〇千葉土建一般労働組合から「どうする週休2日ぶっちゃけアンケート 集計及び分析」業務を受託し、報告書を提出した。
〇東京春闘共闘会議から「新聞折り込み求人紙による全都募集時給調査」の入力業務を受託した。
○全国建設労働組合総連合、全建総連東京都連合会、埼玉土建一般労働組合から賃金アンケート調査の分析を受託した。また4都県の組合員賃金調査を合わせた分析業務も受託した。
〇報酬月額算定基礎届に基づく調査は、東京土建一般労働組合から受託し、報告書を提出した。
2.財政
○財政に関しては、新規委託調査の受託による収入増に加えて、人件費の支出減により、繰越金の取り崩しには至らなかった。しかし、基礎的な収入となる会費収入が継続して減少しており、調査費などの非会費収入も減少傾向にある一方、最低賃金の引き上げに伴う人件費の増加など、支出が微増傾向にあることから、財政改善対策が大きな課題となっている。
Ⅱ.研究・調査活動
1.共同研究会等
1)建設産業労働政策委員会
2023年度は開催しなかった。
2)首都圏建設労働組合基本調査
調査の趣旨
およそ10年に1度実施している首都圏4都県(東京土建一般労働組合、神奈川県建設労働組合連合会、神奈川土建一般労働組合、埼玉土建一般労働組合、千葉土建一般労働組合)の建設労組の基礎調査を開始した。
今後の建設労働組合の運動、取り組みを進めるにあたっての基礎となる組合員の実態を明らかにすることを目的としており、情勢分析に加え、アンケート調査を行っている。
2.受託調査活動等
1)賃金・生活実態アンケート調査の集計と分析
2023年度は、全国建設労働組合総連合傘下の建設労働組合から賃金アンケートの集計・分析業務を受託した。
2)埼玉土建一般労働組合「2023年賃金討議アンケート」入力・集計・分析業務
組合員の要求賃金についての討議を進める上で実施している賃金討議アンケートの入力・集計作業業務を受託した。
3)千葉土建一般労働組合「どうする週休2日ぶっちゃけアンケート 集計及び分析」
千葉土建一般労働組合が、組合員を対象に実施した「どうする週休2日ぶっちゃけアンケート」(2023年)について、集計・分析作業を行なった。
4)東京土建一般労働組合「報酬月額算定基礎届に基づく賃金実態調査」
組合員のより正確な賃金実態を把握するために実施された「報酬月額算定基礎届による賃金調査」の集計、分析を行った。
5)東京春闘共闘会議「新聞折り込み求人紙による全都募集時給調査」
東京春闘共闘会議が、東京都の職種別時給などを集計・分析し、自治体や東京労働局などとの交渉や、地域の地場賃金引き上げの資料とすることを目的として実施されているもの。研究所では、求人紙等を元にした入力・集計業務を受託した。
3.研究委員会
2023年度は、開催に至らず、テーマの選定などに課題が残った。
<開催状況>
第1回:2022年7月29日(金)13:30~
報告者:浅見和彦氏(専修大学名誉教授、建設政策研究所顧問)
テーマ:「アメリカ建設産業の労使関係と労働条件―近年の研究の紹介」
参加者:18名
4.建設政策基本問題研究会
本研究会は、建設産業・労働政策など重要な基本的政策課題について討議し、研究所の基本的な考え方をまとめることを目的に設置されている。必要に応じて開催されることになっており、今年度は、開催しなかった。
5.研究プロジェクト
今年度は新規プロジェクトを設けなかった。次年度は、建設産業について、多様な視点から研究するプロジェクトを立ち上げる予定である。
6.海外建設事情調査研究
2022年度は、諸外国の建設産業の労働や労使関係について、最新の外国語文献などを利用して、研究会を開き、紹介を行うとしていたが、研究会の開催、『建設政策』での紹介には至っていない。
Ⅲ.情報収集・提供活動
1.情報提供活動
団体会員を中心に随時、建設産業の動向に関する情報提供を行った。
2.ウェブサイト
最新の情報を掲載するよう心掛けてトップページの更新(「お知らせ」や「建設政策」最新号の紹介)を適宜行った。ホームページのメンテナンスを課題としていたが、予算の関係などから、更新には至っていない。
Ⅳ.討論会・シンポジウム、セミナー
2023年度は、研究所単独での討論会、シンポジウム、セミナー等を主催しなかったが、後述の通り、他団体と共同でセミナー、集会を共催、協賛した。
Ⅴ.講師活動及び執筆活動、他団体との共同の活動
1.講師活動
会員団体、会員外団体への学習会や講演会などでの講師活動を行った。講師は理事を中心に派遣した。
八戸市、全建総連関東地協の企業交渉団会議、全建総連東京都連合会、東京土建一般労働組合、埼玉土建一般労働組合、神奈川県建設労働組合連合会など、主に全建総連傘下の首都圏の組合での講演会、会議等に講師を派遣した。
2.執筆活動
建設労働組合の機関紙の他、『全国商工新聞』、『日本労働年鑑』、その他雑誌等に執筆を行った。
3.他団体との共同の取り組み
2023年度は、下記のセミナー、集会を共催、協賛した。
<日本住宅会議2023サマーセミナー>
テーマ:「熱海土石流災害の問題性と盛土規制法をめぐって」
日時:2023年9月3日(日)~4日(月)
主催団体:日本住宅会議
協賛:国土問題研究会、建設政策研究所、建設首都圏共闘神奈川ブロック、国民の住まいを守る全国連絡会
<2023年住宅研究・交流集会>
テーマ:「どうする空き家―実態に即した対策と利活用」
日時:2023年10月28日(土)
開催団体:国民の住まいを守る全国連絡会、日本住宅会議・関東会議、住まいの貧困に取り組むネットワーク、建設政策研究所
協賛:東京土建一般労働組合
Ⅵ.第29回全国建設研究・交流集会
第29回全国建設研究・交流集会は、2023年12月10日(日)~11日(月)、「いのちと安全をまもる地域建設産業の持続可能な発展に向けて」をメインテーマに、スパリゾート・ハワイアンズ(福島県いわき市)で開催予定となっている。
研究所は、副実行委員長団体、事務局長団体として参加し、企画立案、準備と当日の運営、会計、関係者への呼びかけなどの役割を担っている。
Ⅶ.出版活動
1.「建設政策」誌
1)各号の企画と誌面
今年度は207号から212号までを発行した。情勢に応じた企画・紙面づくりを目指し、可能な限り現場に近い視点からの記事構成を心掛けた。また、コロナ禍で制限されていた取材記事も掲載することができた。
特集は、207号「第28回全国建設研究・交流集会」、208号「東日本大震災から12年~原発地域における被災者の生活・生業再建の課題は」、209号「中小建設業の抱える賃金問題の解消に向けて」、210号「実態に即した空き家対策を」、211号「『働き方改革』への対応と建設産業の課題」、212号「関東大震災から100年~自然災害への備えを足もとから考える」であった(各号の企画・目次については補足資料参照)。
2)表紙
表紙については、引き続き村上久美子さんに写真をご提供いただいた(183号~)。
3)読者からの意見・歳時記募集
個人読者にアンケートを配布し、意見を寄せた方への粗品進呈をアナウンスして意見募集を行った。
2.「建設政策研究」誌
今年度は発行しなかった。
Ⅷ.組織と財政基盤
1.研究所の組織体制と運営
1)組織運営
2023年度の理事会役員は26名。理事会での審議項目は、①情勢についての議論、②検討事項、③確認事項で構成し、現在取り上げるべき課題や会員団体等の現状などについて討議する時間を確保し、併せて『建設政策』の企画・構成について検討する機会を設けた。
今年度の理事会はオンライン併用で6回開催した。
2)体制(役員、事務局、研究員)
役員は、理事長、副理事長、専務理事、理事、会計監査・監事という体制を基本として運営した。大きな問題は生じなかった。事務局は、5名(専務理事1名、雑誌・調査研究3名、会計・庶務1名、出向研究員1名を含む)。
また、非常勤研究員・調査員に関しては、3名体制で、方針では、若手中堅研究者や現場経験の豊富な人材など幅広く人材の確保に努めるとしていたが、新たな人員獲得にはいたっていない。
3)事業内容等検討委員会
本委員会は、近年、赤字の当初予算編成が続いていることから、現状を確認、精査するとともに、持続可能な運営に向けて検討を行うことを目的として設置している。大口団体会員から委員を派遣いただき、2023年9月4日、委員会を開催した。
委員会では、事業内容、運営状況等について現状、課題を確認した。
4)理事体制検討委員会
2023年9月4日に開催し、次年度の役員体制について検討し、理事会に報告した。
5)事務局員・研究員の待遇改善等についての検討委員会
2023年5月22日、第1回目の委員会を開催し、就業規則の改正について検討した。就業規則は改正案を策定の上、事務局員・研究員に提示し、労働者代表の意見を添えて、2023年8月9日、労働基準監督署に提出した。
また、2023年9月4日、第2回目の委員会を開催し、2023年10月の最低賃金の引き上げに伴う採用時の時給および月給の引き上げについて検討した。検討結果は理事会に報告し、「事務局員の基準賃金に関する細則」を改定し、時給及び月給を引き上げた。
6)専務理事の育児休業取得について
本人の申出により、下記の通り、専務理事が育児休業を取得した。取得にあたっては、理事会で確認するとともに、「育児・介護休業等に関する規程」を整備した。
2.支所の活動
1)関西支所
年間の研究課題として「建設労働政策」の議論を深めることとし、「建設労働政策研究会」を5回開催した。関西支所の総会時にはまとめ報告を行う予定である。
第22回関西建設研究・交流集会については、今年は開催に至らなかった。次年度の開催に向けて、事務局会議を重ね、多くの単組が参加して交流できる集会になるように、議論を続けている。
10月からインボイス制度が導入されたが、制度を知らないという人が多いことから、導入前にプレ学習会を実施した。「近年の災害について」と題して続けてきた、学習・検討会は開催できなかった。また、「防災まちづくり研究会」についても、コロナ禍で活動が休止状態となっており、研究の再開を探っている。
2)北海道センター
2023年11月11日、惠羅さとみさん(法政大学准教授、国土交通省「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」委員)を講師にした学習会を開催したが、センター独自の活動はできず、センターが加盟する団体での活動に貢献するにとどまった。
また、公契約運動に資する調査研究については、札幌を中心に活動を進め、旭川では、2023年7⽉に旭川市契約課からの聞き取り調査を実施した。主な活動は以下の通り。
(1)「札幌市公契約条例の制定を求める会(代表伊藤誠一弁護士)」(2012年2月~)
①求める会に参加し、労働組合や弁護士と連携を図ってきた。
②会議の回数は、2023年10⽉13⽇(金)で166回⽬(次回は12月1日に予定)。
③2023年の統一地方選挙で、札幌市市長・市議会議員の予定候補者に対して公開質問を行い、結果をNAVI(北海道における労働情報の発信・交流サイト。https://roudou-navi.org/)で公開
札幌市公契約条例の制定を求める会「公開質問/札幌市長選挙と札幌市議会議員選挙の立候補予定者からのご回答」『NAVI』2023年3月28日配信
https://roudou-navi.org/2023/03/28/20230328_koukeiyaku/
④議会各会派への陳情を開始(現時点で10月27日民主市民連合1会派のみ)。
⑤札幌市との意見交換を年内ないし年明けに予定
(2)「旭川公契約条例研究会(前身・旭川ワーキングプア研究会、代表小林史人弁護士)」(2014年3・4月~)
①研究会での活動は停滞している
②7月31日、旭川市契約課からヒアリングを行い、後述の結果をまとめた。なお、旭川市では、賃金調査(工事)が2022年度をもって中断することにった。
(3)情報発信
①業界紙(『北海道建設新聞』等)に掲載された重要情報の配信がかつては行われていたが、現在は停滞している。
②『建設政策』2022年3月~2023年11月の執筆は下記の通り。
1)川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(1)」2022年3月号
2)川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(2)」2022年5月号
3)川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(3)」2022年7月号
4)川村雅則「札幌市の公共調達等に関するデータ(4)」2022年9月号
5)鈴木亙「2021年度 函館市・北海道公共工事現場調査」2022年11月号
6)川村雅則「公契約条例の制定で自治体を変える」2023年1月号
7)川村雅則「コロナ下における民間学童保育──札幌市の民間学童保育事業者・指導員調査より」2023年3月号
8)川村雅則「公契約条例に関する公開質問の取り組みと候補者からの回答(統一地方選挙2023)」2023年5月号
9)川村雅則「旭川市及び札幌市における労働者賃金調査(工事)結果の紹介」2023年7月号
10)宮澤毅「「札幌市の施設清掃・警備で働いているみなさんの実態調査アンケート」集計結果概要──2022年度を中心に」2023年9月号
11)川村雅則「旭川市公契約条例に関する聞き取り調査(2023年7月)の結果」2023年11月号
(4)建設政策研究所(東京)での活動参加
とくになし。12月2日(土)の総会前に開催される、公契約条例をテーマとした記念行事に川村が報告することが予定されている。
3)九州支所設立に向けた取り組み
九州支所設立準備会では、引き続いて九州に支所を設立することを目指して、毎月第一金曜日の夜に、福岡県生公連、福岡県労連、福岡県国公、国土交通労組など労組の政策立案メンバーを中心に定期的に幅広く情勢認識の一致を諮り、政策提言に向けた会議を開催し、2023年11月に第90回に及んでいる。
2023年度には準備会としての建設労働者を含む全労働者の底上げを目指した「最低賃金1500円の実現」を福岡県労連とともに進めてきた。このほか設計労務単価が上限となる従来型の「公契約条例案」を脱却して労働者の生計費にもとづく賃金政策としての「公契約条例」を目指して、労組、建設業界、企業経営者、自治体首長や議員等と意見交換を進めてきた。
また、2022年度から継続して大手ゼネコンに有利な「経営審査事項」「総合評価制度」「成績評定」から、実際に建設労働者を雇用している専門工事業者や地場の建設産業が有利となるような制度変更に向けて取り組みを進めている。
取り組みは進展しつつあるが、労組役員が中心であり研究を生業とする学術者・教員などの個人参加には至っておらず、固定化した内部議論にとどまり、シンポジウムの開催や公開の研究報告会、広報、機関紙などの発行もなく今後の課題としたい。
3.会員の状況
1)団体会員
目標とする3団体拡大には至らなかった。
2)個人会員
会員構成の高齢化に伴う退会が続いており、個人会員数確保が喫緊の課題となっている。
3)「建設政策」誌の定期購読部数
第34回総会での拡大目標の合計45部には及ばなかった。
4.財政運営
1)2023年度の収支
収入は3,219万4,104円(22年度3,501万6,662円、282万2,558円減)であった。非会費収入は、前年を大きく下回るものの、調査費収入の増加により予算を上回る収入となった。他方、支出は3,201万8,866円と予算を下回る結果となった。収入増、支出減により、年間収支は約17万円の黒字となった。
2)根本的な財政状況の改善が課題
2023年度は繰越金を取り崩すには至らなかった。とはいえ、基礎的な収入となる会費収入が継続して減少していること、加えて、調査費など非会費収入も減少傾向で推移していることから、新規調査の受託や新規事業の模索などが課題となっている。
他方、支出については、最低賃金の引き上げ、定期昇給により、毎年増加が続いていることから、抜本的な財政改善対策が必要である。
2024年度 活動方針
Ⅰ.中期的な課題と活動方針
設立の趣旨および定款に則って、研究所が中期的に取り組むべき課題は多岐に亘っている。建設産業をめぐる現状を踏まえ、当面、下記の中期的な課題に基づいて、調査・研究活動と体制、財政の強化を進めていく。また、情勢の変化に応じた課題については、随時取り上げることとする。
1.建設労働者の賃金・労働条件の向上に向けて
・建設労働者の賃金形態、働き方に関する諸課題
・建設キャリアアップ・システムの実態・課題の把握
・団体交渉機構づくりと労働協約締結に向けての課題
・公契約条例制定自治体の拡大、公契約法の制定に向けて
・移住労働者の受け入れ拡大と建設労働組合の運動課題
・建設労働者の安全衛生対策
2.地域建設産業振興に向けて
・地方自治体の建設業振興策、建設産業政策策定に向けて
・地域建設業の受注確保・経営安定に向けた仕組み等の検討
・公共事業の入札・契約制度のあり方
・国・地方の財政政策の課題
3.建設市場の中期的動向の把握
・建設市場の動向把握
4.建設産業構造の改善に向けて
・重層下請構造の解消に向けた課題
・産業組織構造の検討
5.安全な国土形成・利用に関する課題
・頻発する自然災害に対する備えと体制強化に向けた課題
・インフラの老朽化、公共施設統廃合等に対する政策課題
・都市形成に関わる課題
6.住宅政策に関する課題
・住宅政策の変化とその課題
7.体制と財政の強化
・事務局員、研究員の確保と待遇の改善
・財政基盤の確立
Ⅱ.2024年度活動の重点方針
2024年度の活動は、建設産業と政治・経済をめぐる情勢を踏まえ、下記の点に重点を置いて取り組む。
○調査・研究の重点
・およそ10年に1度実施している首都圏建設労働組合基本調査の報告書作成に向けて、アンケート調査、ヒアリング調査等を進めていく。
・全建総連、首都圏4組合の賃金アンケート調査について、調査票、分析項目の改善等を通じて調査のさらなる充実を図る。
・新規調査の受託による収入増を図ることが大きな課題となっていることから、会員団体の課題等に対応した企画提案力の強化を図り、課題の解決、改善に向けた調査等の実施に向けて取り組む。
・建設産業をめぐる情勢が変化する中で、今後の建設産業についての研究を行う「建設産業研究会」(仮)を設置し、建設産業に関わる諸課題について、様々な視点からの研究を進める。
○財政状況がひっ迫していることから、新規受託事業の確保などの収入増を目指すとともに、経費等の削減に努める。また、事業継続に向けて、会費の引き上げや合理化など、今後の研究所の安定的な運営に向けての対策を検討する。
Ⅲ.研究・調査活動
1.共同研究会
1)建設産業労働政策委員会
「建設産業労働政策2020」の改正など、必要に応じて開催を検討する。
2)首都圏建設労働組合基本調査
(1)調査の趣旨
本調査の趣旨は、今後、建設労働組合がどのような運動、取り組みを進めて行くかを検討するための出発点となる組合員の実態をより的確に把握することであり、およそ10年に1度の頻度で実施しているものである。
(2)調査の内容
首都圏の建設労働組合に組織された組合員の就労・生活実態や抱えている課題、建設労働組合に対する意識や期待などについてアンケート調査を行い、アンケートから得られた調査結果から、①約10年前に実施された第3回調査と比較しつつ、組合員の現状の変化を捉え、②これを基礎資料として、今後求められる運動や取り組みに向けての検討を行う予定である。
2.受託調査活動
1)賃金アンケート調査の集計と分析
これまでの賃金・生活実態アンケートの集計と分析の成果をふまえ、建設労働者の賃金政策により資するように集計と分析を行っていく。
2)報酬月額算定基礎届に基づく賃金実態調査
2024年度も継続して調査についての受託を働きかける。
3)「2024年賃金討議アンケートの分析業務」
毎年行っている標準賃金の設定に向けた「賃金・仕事生活をめぐる討議」において実施されているアンケートの入力・集計・分析業務について受託に向けて働きかけを進める。
4)新規の受託調査
会員団体を中心として、まず調査ニーズを把握した上で、企画案を提示し受託事業の確保をめざす。特に、調査研究費の収入確保が喫緊の課題となっていることから、現状の諸課題や時勢に見合った具体的な調査企画を提案し、受託に向けた取り組みを進める。
3.研究委員会
研究委員会は研究所の調査・研究活動の要であり、研究会や研究プロジェクト等と連動した研究所の考え方、政策提言を最終的に確認する場として位置づいている。
前年度は開催に至らず、テーマの選定、企画の提案などに課題を残した。2024年度は、産業動向を踏まえたテーマや海外情勢などを対象とするほか、研究所で実施した調査結果報告なども併せて検討する。また、テーマに よっては専門家をお招きするなど、多様な企画を検討するとともに、テーマによっては広く参加者を募り、公開研究会とすることも検討する。
研究所の認識を深め、会員、建設産業関係者・団体等に発信していくために下記のように進めていく。
1)研究テーマは、重点方針に示したテーマの他、研究所で行った調査結果、建設産業・労働、公共事業を取り巻く情勢や政策動向など、幅広く取り上げる。
2)研究所の研究活動を会員とともに進めていくために、幅広く会員(個人、団体)にも参加してもらえるよう、公開研究会の開催を検討する。テーマに応じてそれぞれから取り組みや課題などを報告いただき、会員とともに多面的な検討と討論を行うにする。
3)研究委員会で議論を深めた成果を、政策提言の発表や出版物の発行に結び付けるように努める。また、それらの成果を、公開討論会やシンポジウムの開催、建設産業に関わる各種団体(業界、労働組合、行政等)に広く発信していく。
4.建設政策基本問題研究会
引き続き建設政策基本問題研究会を設置する。本研究会は、定款上定めのある組織ではないことから、メンバーや開催回数等を固定せず、情勢に応じて議論が必要なテーマなどが生じた際に集中的に討議する場として活用する。
5.研究プロジェクト
建設投資が減少から増加に転じて推移する中で、中期的にみて、建設産業には様々な変化が現れている。建設産業政策は淘汰策から担い手確保策へと変わり、公共工事は依然として新規事業が多いものの、維持・補修事業の重要性が説かれるようになってきている。
建設労働をめぐっても、国、業界を挙げて担い手確保に向けた処遇改善の取り組みが行われるようになり、実際、賃金水準も少しずつ上昇傾向で推移してきている。こうした様々な変化に伴い、建設産業は、今後、どのような産業となっていくべきか、改めて検討することが求められている。
そこで、学術的な視点から今後の建設産業についての研究を行う「建設産業研究会」(仮)を設置したい。研究会には、理事や研究委員、調査に参加いただいている研究者などにご協力いただき、建設産業に関わる諸課題について、様々な視点から研究を行うこととし、将来的には研究成果をまとめた書籍の出版も検討する。
6.海外建設事情調査研究
諸外国の建設産業や建設労働に関わる諸課題の動向については、文献紹介や研究会の開催など、随時、取り上げることを検討する。また、第33回定期総会で提案されていた、建設労働や労使関係を研究している諸外国の研究所等と国際的な連絡を取ることや相互交流については、世界の建設労働の実態や潮流を把握することを目的として、諸外国の建設労働組合との連携を図る取り組みを進める。
Ⅳ.情報収集・提供
1.情報収集
建設産業に関わる情報を収集する。
2.情報提供活動
収集した情報については、適宜、会員団体等に提供していく。
3.ウェブサイト
研究所からの行事のお知らせや調査研究活動の成果など最新の情報の掲載、更新を怠らずに行う。また、ホームページ作成から一定期間が経過していることから、ホームページのメンテナンスについても検討する。
Ⅴ.討論会・シンポジウム、セミナー
研究所が政策提起を行った際、また、建設行政や建設産業、建設労働にかかわる重要な課題が生じた場合は公開討論会等を開き、テーマに対する研究所の考えを広め、意見交換を通じて認識を深める。
その他、情勢に応じて理事会で検討する。
Ⅵ.講師活動及び執筆活動、他団体との共同の活動
1.講師活動
研究所の研究・調査活動の成果や問題意識等を広げ、多くの団体で討論してもらうため、講師活動を重視していく。相手からの依頼にとどまらず、研究・調査等の内容は積極的に報告の機会を作るように働きかけていく。
2.執筆活動
諸団体の機関誌や月刊誌などに積極的に執筆活動を行い、研究所の研究・調査活動の成果を広げていくことに努める。
3.他団体との共同の取り組み
共通するテーマにもとづく他団体との共同研究をはじめ、シンポジウム、学習会等に企画、提案も含めて参加していく。
Ⅶ.第30回全国建設研究・交流集会
第29回全国建設研究・交流集会の総括を踏まえて、第30回集会の方向性に沿って関わっていく。
Ⅷ.出版活動
1.「建設政策」誌
情勢を的確に反映した記事を読者に提供できるよう、下記のように取り組む。
1)編集会議
引き続き「建設政策」誌の編集方針の基本に沿って、誌面の改善、内容の充実に取り組んでいく。また、発行時期に照らして編集委員会を開き、特集企画、その他のテーマ、内容等に関して検討を進めるようにする。
2)編集委員会
2024年度は、研究者に参加してもらうなど、適宜、編集委員会の体制の強化、充実に向けて検討を進める。
3)企画・内容
情勢に合致した特集を組むように努め、研究所の調査・研究成果も適宜発表していく。また、実態や現場の声などを伝えるため、取材やインタビューを積極的に取り入れていく。同時に、求められる政策や運動を支える理論的な側面も重視し、研究者等の執筆記事を掲載するように努める。
企画については、より直近の問題や重要なテーマを取り上げ、実態や研究の現状を伝えられるよう、書き手の発掘や柔軟な取材活動で対応していく。また、重要なテーマについては、多面的に捉えられるよう、特集・小特集などで対応していくほか、テーマによっては継続的に取り上げることも検討する。
4)書き手の発掘
研究所が調査・研究対象としている分野は幅広く、十分に対応できていない分野も少なくないこと、また、研究所の調査・研究等に協力いただける研究者の開拓、新規会員獲得に向けて、近年、必ずしも十分に取り上げられていないテーマについても取り上げていく。
併せて、ご執筆、記事掲載にご協力いただける研究者等に対しての謝礼についての規定整備を検討する。
5)表紙
183号以降、村上久美子氏のご協力により、建築・土木に関連する写真をその視点とともに掲載している。好評を得ていることから、当面、継続して掲載する。
6)誌面レイアウト
誌面レイアウトについては、図表や写真などを本文に合わせて挿入し、小見出しを設けるなど、引き続き読みやすい誌面を作るための工夫に努める。特に、取材記事やインタビュー記事については、大きめの写真や図表などを掲載するようにする。
また、より見やすい誌面の作成に向けて、目次のレイアウトなどについても検討を進める。
7)読者からのご意見・歳時記募集
引き続き個人読者にアンケートを配布し意見募集を行う。より多くのご意見、歳時記を募集するため、ご意見・投句をお寄せいただいた会員への粗品進呈を継続する。
2.「建設政策研究」誌
第7号の発行については、研究所の財政状況等を踏まえて検討する。
Ⅹ.組織と財政基盤の確立
1.組織体制と運営
1)組織運営
調査研究面では研究委員会を研究所の政策提言等を確認する場とし、共同研究会、受託事業等で個別の課題を取り上げる。また、運営面では理事会がその責務を担う。
各組織の構成と機能、責任者とスタッフの役割(責務と権限)を明確にし、効率的な運営を図る。
2)体制(役員、事務局、研究員)
役員体制(理事長、副理事長、専務理事、理事、監事)は、現行を基本とする。
非常勤研究員・調査員に関しては、現行3名体制だが、若手中堅研究者や現場経験の豊富な人材など幅広く人材の確保に努める。
事務局員・研究員の確保については、理事会と「事務局員・研究員の待遇改善等についての検討委員会」を中心に進める。
3)事業内容等検討委員会
本委員会は、団体会員に委員を派遣頂き、現状を確認、精査し、持続可能な運営に向けて検討を行うことを目的として、22年度から設置している。
会費、調査受託など、収入が減少傾向にある一方で、最低賃金の引き上げに伴う人件費の増加など基礎的支出が増加傾向で推移しており、抜本的な対応策を検討することが必要となっている。
そこで、本委員会では、2025年度以降の会費の値上げや、調査受託に向けた対策強化など、収支の改善、今後の安定的な研究所運営に向けた対策を検討する。
4)理事体制検討委員会
本委員会は、次年度の理事体制を検討し、理事会に提案することを目的として、本年も継続して設置する。
5)事務局員・研究員の待遇改善等についての検討委員会
本委員会は、事務局員・研究員の処遇等についての課題を確認するとともに、処遇改善に向けた就業規則等の改正について検討することを目的としている。本年も継続して設置し、処遇改善等について検討する。
2.研究所支所
1)関西支所
2024年度は、関西支所の運営体制・研究体制の充実を図ることを第1に、研究課題や企画行事等において建設政策研究所関西支所の特徴(「建設」という専門性)を活かした内容とすることを重視して、「建設労働政策」の研究会を継続して開催する。
11月に開催した第22回関西建設研究・交流集会は盛況であったため、次の交流集会の開催に向けて事務局会議・実行委員会を実施していく。
「近年の災害について」と題した学習・検討会を引き続き行い、学習会やシンポジウムなどの開催を検討していく。
2)北海道センター
北海道センターの設立(1998年12月)から四半世紀となる。研究者や労働組合等で構成されているのが建政研のユニークなところであり、なおかつ強みではあるが、この強みは十分に活かしきれておらず、近年は、独自の調査・研究活動に着手できずにいる。20周年企画として予定され(25周年=2023年の企画に延期され)ていた『建設労働白書』の発行も、現時点では困難な状況となっている。
当面は、札幌(「求める会」)と旭川(「研究会」)における公契約運動に活動を集中することを継続する。札幌では条例の制定を、旭川では理念型条例から賃金保障型条例への発展を、目指す。
(1)札幌・求める会では、秋元市政3期目内での条例制定を目指すことが確認されている。これまでに実施してきた指定管理等を対象にした調査のほか、建設現場での賃金調査の実現など、センターの調査・研究活動を進める。
(2)旭川では活動が停止しているが、旭川市の公契約条例は活動の足がかりになると考えられることから、体制を整えて改めて活動を盛り上げていく。
(3)公契約条例の調査・研究活動に取り組む中で、公共工事の担い手である建設労働の問題だけでなく、公共サービスの担い手(非正規公務員を含む)の問題も視野に入れて、調査・研究活動に取り組むことの必要性、さらには地方政府(行政、議会)のあり方が問われていることを痛感している。研究所の性格上、「建設」を軸とすることは今後も変わりないが、これらの隣接領域問題にもより積極的に取り組んでいく。
自治体の発注する建設工事・委託業務・指定管理・物品調達や補助金事業(学童保育等)で働く労働者・労働組合で、組織化も視野に入れた調査・研究プロジェクトを立ち上げ、取り組むことを提案する。
(4)野田市で公契約条例が制定されてから15年近くが経過しようとしており、公契約条例の「効果」に関する調査・研究を進める時期ではないかと考えている。可能な範囲で着手していく。
(5)上記の取り組みや調査・研究成果を『建設政策』にまとめて発信していく。また、『建設政策』以外での発信(短信)を心がける(NAVI上での公開質問・結果の公開等はこれに該当)。『北海道建設新聞』の講読を研究所で始め、NAVIに短文の執筆が定期的にできないかを試みたい。
(6)他の研究機関、労働団体や業界団体、議員との交流・連携を積極的に追求する。
(7)「求める会」や「研究会」と連携して、情報提供や学習会の企画を検討する。
なお、以上の取り組みは札幌と旭川での実施を念頭においているが、他の地域から要請があがればすみやかに対応する。
3)九州支所設立にむけて
九州地方では、毎年、自然災害に見舞われ甚大な損害が発生している。自然災害から国民のいのちを守るための社会資本の維持管理、防災に強い国土づくり、それらを賄う適切な予算規模に関する提言や建設産業を支え適切な国土防災を実現する行政機関のあり方について、現場で働く建設労働者の労働条件改善に向けた運動の取り組み方など、提言の策定に向けて意見交換や学習会等を進めていく。
2024年は首長や地方議会議員、地方自治体の行政関係者や社会的責任を果たす気持ちを持つ地域の建設企業経営者などともさらに意見交換を進めて、連携を深め、研究を支援していただくことを目指す。
3.会員拡大
1)団体会員の拡大
今年度は3団体の拡大に取り組む。
2)個人会員の拡大
近年、数名の入会者がいるものの、入会者より退会者が多い傾向が続いている。個人会員の高齢化が進んでおり、今後も一定の退会者が継続する見込みであることから、新規入会者確保が重要な課題である。
今年度は5名の入会者確保を目指す。個人会員の拡大に向けては、団体会員等にも協力を要請し、各種会合等で研究所の案内と入会申込書を配布するなどの取り組みを行う。
3)「建設政策」誌の定期購読者の拡大
個人会員の拡大と併せて部数の増加に取り組む。
4.財政運営
収入の増加を目指し、会員拡大の他、調査等の受託に向けて積極的に取り組む。特に、調査の受託に向けては、団体会員の諸課題などを把握し、時勢に見合った企画を提案し、調査の実施に向けた働きかけを強めていく。また、その際、所員の処遇改善や近年の物価上昇に対応する適正な単価を設定するよう努めるとともに、理解を求めていく。
併せて、行政機関や民間機関等の委託調査研究や助成など、内容を把握し、可能な限り応募等を進めていく。
また、会計・税務処理は、引き続き公認会計士事務所の協力をあおぎ、建設政策研究所、同関西支所、同北海道センターそれぞれの適切な処理を通して研究所全体で適正な処理を行っていく。